ぴゅっ。
いきなり生暖かい滴がムルナの口元にかかった。
甘ったるい匂いが辺りに漂っている。
「おや、熱くなって……柔らかくなってきたかも?」
「へへ、乳首なんてもうぬるぬるですぜ。ほら、こうしたら噴き出すんです」
そういって、乳房の根元から乳首に向かって搾り出す。その拍子に、ぴゅっぴゅっと乳が噴き出してきた。
「はは、たっぷり出そうだな、この乳は」
「良かったな、雌牛としての役目を果たせるぜ」
二人の揶揄に、カザナが泣き濡れた瞳を細めて、睨みつけてきた。
「誰が、雌牛になぞっ」
その気の強さは尊敬する。
そうやって、強く胸を揉まれてだらだらと乳を流している姿で虚勢を張れることに。
けれど、性奴である以上、その虚勢は自分を追い落とすことにしかならないというのに。
「いいでしょう。自分で搾乳するのが嫌なら、我々の手で出すようにしましょう」
「え……」
「毎回空っぽになるまで搾りだしますからね」
「あっ、嫌だっ」
強ばった顔が、二人から伸びてきた手に一気に青くなる。
「腕、いつまでも持っているのは面倒でしょうから、これで固定してしまいなさい」
引っ張り出してきた手枷付きの鎖に、ますますカザナの表情が強張る。
「安心してください。雌豚のお前では満足に手も使えないだろうからね。私達が全てを搾って上げますよ」
浴びせた嘲笑に、カザナの表情が歪む。
冷たい金属の音が四回響き、手首から伸びた鎖の端が金属の柵に繋がれた。
カザナの力ではびくりともしないそれは、大広間に面している。
括りつけているヤナ以外が、大広間に出てカザナの様子を眺めていた。
広間の奥を利用して作られた、檻としか言えない空間。
人が通り抜けられない幅の床から天井までの棒以外に、複雑な組み合わせで横棒が走っていた。
細いが丈夫な金属のそれは、人の力では曲げることすら叶わない。奥行きは三メートル程度、幅は五メートル程ある。
もともと広間の壁であったところと天井には、今では簡単には割れないよう保護された鏡があって、正面からもカザナの姿が見えるようになっている。天井は奥に行くほど斜めに下がっているので、苦もせずに部屋の中の様子を知ることができた。
床も磨かれた金属の一枚板。
鏡よりは劣るが、しっかりと股間の陰具まで映し出していた。
しかも特殊な表面処理で、汚れは簡単に洗い流せ、なおかつ奥に向かってわずかな傾斜もついている。
寝具も洗えることを前提としていた。
それに加えて暖をとるための何枚かの毛布。
餌を入れる皿と水入れ。そして、排泄用の汚物入れ。
奥の棚にはぎっしりと陰具が並んでいる。
それがこの部屋の調度品の全てだ。
それらを背にして大の字で繋がれたカザナは、呆然とした表情で外に出ている3人を見つめていた。
柵はカザナの身体に合わせて、空間が設けられていた。
腹や腰は檻に押し付けられ、顔と豊かな乳房、そしてペニスと陰嚢だけが外に出るようになっていた。その陰嚢に専用の枷をつけ、引っ張って固定する。
余裕の無い鎖に、縊り出された陰嚢。
カザナの動き代など無い。
「たっぷりと出してやりなさい」
「い、いたぁぁぁぁ──っ」
警備兵の遠慮も仮借もない力が、飛び出ている乳房をへし曲げる。
高らかな悲鳴に、がしゃがしゃと鎖の音が混じった。
無理に引っ張れば、固定された陰嚢が身体から引っ張られ、激しい痛みをもたらす。
「あ…、いっ、痛っ! やあぁぁ──っ、離せっ、いやだぁ……」
少しずつ噴き出す乳が、全て出し尽くすのはいつになるだろう。
まだ固い乳房。
できたての乳首はまだ完全に開通していないから、乳がなかなか出ない。
たっぷりと生成されている女性ホルモンの影響で、乳房の中の乳腺はたくさんの乳を作り上げているというのにだ。
たらたらとしか出ない乳を力任せに絞り取る。
「いやぁぁ──っ」
痛みに泣き叫ぶカザナを見つめながら、ムルナは舌をのばして、ぺろり垂れた乳を舐め取った。
甘い。
栄養豊富な乳。
それでなくても毎晩遅くまで働く大切な王子の、大事な栄養源とするためにも、このカザナには途切れる事なく乳を出してもらうつもりだった。
1時間後、出が悪くなったカザナの腕に点滴が付けられた。
栄養をたっぷり含んだ水分が、多量に供給される。
「あ、い、いやぁ……痛ぃ……、もあ、全部……でぇたぁ……やぁ……」
乳房も乳首も、何度も揉まれつぶされて、真っ赤に腫れ上がっていた。
白い肌にミミズ腫れが幾重にも走り、ところどころ指の跡の青アザもある。
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら痛みを訴えるカザナに、ムルナは首を振った。
「まだ出ています。完全に止まるまで出し切ると言ったでしょう」
「い、いや……もう……ひぃ!」
腕から入った水分は、すぐに乳となっているようだ。無骨な男の手にひしゃげた乳首から、さらに乳が溢れてきた。
ネリとヤナが疲れた後、今度は召使いで手が空いた男を来させた。
ぐいぐいと力強く乳房を揉み、きつく乳首を摘んではごりごりと指先ですりつぶす。
こっちは暇だからと膝でペニスをグリグリと押し上げ、檻に押し付けた。
「た、助けてぇ……もう良いから……、乳、出す……搾、るぅ……もう、いたぁ……」
泣き喚いて掠れた声音での嘆願に、返すのは嘲笑だけ。
「お、おね、が……ぁ──、あっ、自分、でぇ」
腫れて熱を持った乳房は、最初よりかなり柔らかくなっている。もうかなり空になっているだろう。
だが。
「後、1時間は搾りましょうね」
「えっ、あ……ひぃ──っ!」
ぺろりと舐めながら、けれど加減無く摘みひねり上げた。
甲高い悲鳴に、舌なめずりしながら男の手が伸びる。
「まだまだ搾れば良いんですよね」
「ああ、頼む」
その言葉は忠実に実行された。
搾乳は1時間決して休む事なく搾られ続け、どうやっても滲みもしなくなったところで、ようやく止められた。
その日夜遅く帰ってきたマサラを、ムルナは労りの言葉を持って出迎えた。
「お帰りなさいませ、お疲れさまです」
「ただいま」
敬愛する主の少し疲れた声音。
食事は仕事場でしてきただろうから、入浴していただき、ゆっくりと睡眠をとって貰わねば。
と。
「ああ、そういえば」
足を進めようとしたムルナが珍しくたたらを踏んで立ち止まった。
「どうした?」
「カザナの初乳の搾乳が済んでおります。お味見されますか?」
冷蔵庫にて保管している乳を、傍らにいた召使いに持ってくるように合図する。
「ふふ、そうか。それは味あわねば。それで、カザナは素直に搾ったか?」
「いいえ……」
ことの顛末を掻い摘んで伝えると、マサラがくつくつと肩を振るわせた。
「では、今も縛り付けたままか?」
「はい」
あの後カザナを寝具に寝かした状態で四肢を広げて縛り付けておいた。
自分で乳を搾らせないようにするために。
「それだけ搾ったのだからもう道はついているだろうが、まだ乳腺は細かろう。搾らねばなかなか出てこないなあ」
一度生産を始めた乳房は、いくらでも乳を作り溜めていく。
良質な乳を多量に生産すると言われる乳牛の優良種から取り出した遺伝子で作り上げた乳腺だ。
後から後から湧くように生産される乳に慎ましやかな乳房はすぐに大きくなるだろう。
その上で出さないとなると、今度はカチカチに張りつめて、熱を持ってくるのだ。乳の熱が近くの大きな血管を熱し、熱くなった血液が全身を駆けめぐる。全身状態を悪化させる熱だが、熱い身体は生産を止めることは無い。
「明日が楽しみだ。さて、お前の言葉に逆らった罰、どうしようか」
くつくつと愉しげに笑うマサラの元に、カザナの初めての乳が差し出された。
ほどよく温められたそれを、一気に飲み干し満足げに頷く。
「これは美味い」
ほのかな甘みと濃さ。
飲みやすさも今まで飲んでいた牛乳よりなじみやすい。
「明日から、これがたっぷりと飲めるのか。これは良い、毎朝飲めば疲れなど吹っ飛ぶな」
「かしこまりました」
主の希望を叶えるのがムルナの努め。
畏まって頭を下げたムルナの口元には、満足げな笑みが浮かんでいた。