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「やぁぁぁぁぁぁ、あぁぁぁぁっ、ああ──っ」
閉じられない喉から、ひっきりなしに悲鳴が迸る。
今、海音の身体は蛇に覆われていた。
長さは30センチほど。2?3センチほどの太さの蛇が、30匹以上はいる。
それらが身体の上でのたうち暴れ、大きく開けた顎から覗く白い牙が、肌に食い込んでいた。
「牙は丸めてあるので、傷つくことはありません」
リモンの言葉を聞き取ったのか、海音の身体がびくりと震える。だが、正気はすでに失せていて、どこまで理解しているか判らない。
海音は蛇が大嫌いなのだ。
それをカルキスは知っている。知っているからこそ、次の調教手段として取り入れようと考えた。
このリモンは、蛇や四肢の無い生き物を使って調教することで、闇の世界では有名なのだ。
嫌悪する生き物に嬲られて、けれど快楽の中でよがり狂い、奴隷の刻印で制御されているにもかかわらず精神までもが狂う奴隷も少なからずいると言う。
海音がそうならないという保証は無い。
始まる前も確認されたが、あえて始めさせたのは、その程度で壊れることはないだろう、と踏んだからだ。
快楽に貪欲で、飲まれてしまえば、きっとよがり来るってあられもない痴態をみせつけて。
現に今も、嫌だ、嫌だと言いながら、ペニス突き上げるように腰が激しく動いている。
カルキスは酒のグラスを片手に祭壇に座して、そんな海音を酒の肴にしていた。
明るかった空は、今はもう黄昏を迎えている。黄金色の光の中、海音の全身はぬらぬらと滑り光っていた。
あれは、虫蜜だという。
今海音の身体を嬲っている蛇の大好物の餌。ある種の蔓に付くこぶし大ほどの実に棲まう虫の幼虫が作り上げる蜜だ。その虫ごとあの蛇は、あの蜜を食らう。
木の実を牙で割り開き、虫を探し出して、溢れる蜜ごと飲み込むのだ。その虫を探すのに蛇は、あの蜜を辿る。木の実から流れ落ちた僅かな蜜を辿って、虫が寄生した実を見つける。
今も蛇は蜜が多い箇所を見つけては、牙を食い込ませて、虫を探しているのだ。
括り出された二つの乳首、口からはみ出た舌、そそり立つペニス、柔らかな腰のくぼみに、大腿の内側。
垂れないように加工された蜜がたっぷりと塗られた箇所は、すでに朱い噛み痕がたくさんできあがっていた。
「ほら、ご褒美だよ」
頑張って虫を探す蛇に、リモンが親指大の芋虫を海音の身体の上に蒔く。
「あ、ぁぁぁぁっ、ひゃあっ、うよぉっ、うよかぁっなあぁぁんんんっ、ぁぁ」
一斉に虫に向かう蛇の鱗に、肌を嬲られ、海音が嬌声を上げた。
アナルの中にさえ入れられた芋虫をめがけて、蛇が殺到する。幾本もの蛇に犯されて、海音の卑猥な絶叫が、闇に沈もうとする森に響く。
そんな海音を戒める革紐は完全に乾き、際限まで海音の身体を締め付けていた。陰嚢は射精の衝動にひくひくと震えているが、戒めによって動きを封じられ、さらに射精管を塞がれている。
出せない精液は、今あの中で煮えたぎっている。
さっきから何度も絶頂を迎えている海音だが、射精できないせいでいつまでたっても身体は満足しない。いや、絶頂を迎えるたびに、身体はさらに解放できない欲に苦しめられている。、
カルキスは、海音のあられもなく身悶える姿に、しばらく感じていなかった欲を感じて舌なめずりをした。
紅潮した肌に走る茶褐色の革紐。その下は、締め付けられ擦れて赤黒くなっている。
さらにその上に絡まるたくさんの銀の蛇。
ちろちろと見える赤い舌、肌に食い込む白い牙。
その色合いに目眩がしそうな程に興奮する。
今カルキスはゆったりと座しているが、その股間は完全にいきり立っていた。
できるならばいますぐにでもあの貪欲で卑猥な穴に突っ込みたいとすら思う。
だが。
リモンの技はまだ終わっていない。
数多の蛇を扱うリモンが取り出した、指よりも細い白い蛇が、棒を抜かれた鈴口の中に押し込められていく。
「痛ぁぃ──っ、嫌だぁ──っ、ああゃぁぁっ、あぁぁぁっ」
海音の尿道はかなり拡張はしているが、それでもあれは太い。
なのに、リモンはその抵抗を無視して、どんどんと押し込んでいくのだ。
蛇も自らのたうち、奥へと進入していく。
リモンの調教は、蛇にも及ぶ。あれは、特殊な薬品と環境で、精液を与えられながら育てられた蛇だという。
精液を自らの餌としている蛇にとって、そこの奥には濃い精液がたっぷりと詰まった場所。その源に貪欲に進んでいく。
タイミングを見計らったリモンの手が、ペニスと陰嚢を戒めていた革紐を引き千切った。
「ひっ、ぎゃあっ!」
引っ張られた拍子に激しく締まったペニスが、次の瞬間一気に解放された。
鬱血してどす黒く変色していたペニスは、激しい血流に歪なまま膨れあがる。
「あ、ぁぁぁっ、あぁぁっっ」
どくんっ、と海音の身体が激しく仰け反った。
食い込んだ革紐が激しく擦れて、白い肌に無数の傷が付く。その痛みすらも甘美な快感を呼び寄せ、全身が激しく痙攣した。
陰嚢が身体に引き寄せられ、引き締まっている。
射精しているのだ。激しく、何度も繰り返し。
だが、精液は出てこない。
ペニスの先から出ている尻尾が踊り狂っている。
多量の精液は蛇の口に入り、けれど細い蛇ではその全てを飲み込むことは叶わずに、逆流した。
「ひぎぃっ、あぅぅぅっ、はうぅぅ──っ」
気が狂わんばかりの快感と逆流の痛みに、海音の身体が痙攣し続ける。
引き絞られた陰嚢が、痛みでまた膨らみ垂れ下がったのを見計らって、リモンが蛇を引き抜いた。
「────っ!!」
大きく見開かれた瞳から、涙が飛び散る。
暗闇を映した瞳の焦点があっていなかった。
再び襲った絶頂に、海音の意識は完全に飛んでいた。
意識を失った海音は、泉の冷たい水を浴びせられ何度でも目覚めさせられた。
すっかり闇に覆われた夜の森で、灯りはかがり火だけだ。
その赤い炎に照らされた海音の宴はまだ終わらない。
身体を拘束していた革紐は、今は全て外されていた。その代わりのように、蛇が海音の身体を覆っている。
乳首に食らいついた蛇が、腕に絡まり動きを抑制していた。ペニスには小さな白い蛇が入れ替わり立ち替わり入り込み、溢れ出る精液を吸い取っていた。
そして。
力の抜けた身体に、腕より太い蛇が絡みついていた。胴体で海音の足を割り、一部を尻の狭間にきつく押しつけている。
「い、あやぁぁぁっ、やあっ! へぇびぃぃ、やぁだぁぁぁぁっ!」
呂律の回らない舌で、嫌だと呟く海音を助けるモノは誰もいない。
「この蛇の交尾は、1日続きますよ」
「構わぬ。勝手にやらせればよい」
準備していた寝椅子に横たわり、軽くあくびをするカルキスのペニスをリモンが奉仕していた。
絶妙な口技には、カルキスはすでに数度放っている。
だが、まだまだペニスはいきり立ち、放出の時を今か今かと待っていた。
本来なら海音の腹の中に出したかったが、蛇と遊んでいる邪魔をする気はなかった。
もっとも蛇の性器を埋め込まれたアナルは、今ではあの程度の太さではもの足りない。いくら太い蛇とはいえ、腕の太さの張り型でも涎を垂らして食らいつく海音を達かせることはない。だが、緩い刺激はいつまでも続き、全身の蛇からの刺激と相まって、海音を苦しめた。
滾った熱が下腹部から溢れ出し、全身を支配し、脳すら犯していた。
熱くて狂おしいほどの餓えに、解放、という事柄だけを欲する。
そして、それを与えてくれるのは、ただ一人。
「あ、かぁ……スぅ……、かるぅ……」
とぎれとぎれに聞こえる単語に、カルキスは嘲笑いながら視線を向けてやった。
朦朧とした瞳が、カルキスをまっすぐ捕らえている。
リモンの口から覗くカルキスの雄々しいペニスを物欲しそうに見つめて、だらだらと涎を溢していた。
「どうした?」
問えば、ぱくぱくと口が動く。
蛇に戒められ、アナルを犯されながら、込み上げる欲情に潤んだ瞳を向けてくる。
「欲しいのか、これが?」
リモンを押しのけ、ぬらぬらと抜けるペニスを向けてやれば、表情に歓喜が浮かぶ。こくこくと、玩具のように頭が動いていた。
「そうか、ならば早く蛇を満足させろ。蛇が満足せねば、我のモノを挿れる隙間がないからな、我は蛇と一緒に挿れる趣味は無い」
「あぁ……」
「うまそうに尻で頬張っているペニスが抜けたら、来ればよい。いくらでもやろう」
「か、るぅ……す……、かる……うぅ……」
手が伸びてくる。
カルキスの元に近づこうとしているのだろうけれど。
「ひぃぃっ」
大蛇が、ぎりぎりと海音を締め付けた。
離れようとした性器を、奥深くに進入させようと擦りつけていく。
「あの蛇が交尾相手の雌を逃すことはありません」
戻ってきたカルキスのペニスを、リモンがうっとりと頬ずりし、舌で迎える。
ちらりと海音に視線を送った横顔に浮かぶのは優越感だ。
「どうやらたいそう気に入った様子。しばらくあの蛇に、貸してやってくださいませ」
「もちろんだ、あれもよく気に入っている。たっぷりと交わせるが良い」
「ありがとうございます」
「あ、あぁ……」
欲しいものが他者に与えられている光景に、海音は啜り泣いた。
あれが欲しいのは自分なのに。
ひくひくと全身を痙攣させ、手を伸ばす。だが、その手はどんなに伸ばしても届きはしなかった。
「あ、はあっ……ぁぁ、かぁ……きすぅ……、あぁぁきすぅ……」
闇の中に繰り返し、名を呼ぶ声が響く。
その鳴き声が、カルキスを心地よい眠りに誘う。
王としての激務に疲弊した精神が、ひどく安らいでいく。
「たぁす……てぇ……、カルキ……すぅ……」
甘い声音が、さらに睡魔を呼び寄せて。
その夜。
カルキスの眠りは、朝になるまで誰にも邪魔をされることはなかった。
【了】
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