【海音 絡みあうもの】

【海音 絡みあうもの】

  海音がいる古城は、かなり広い敷地を有している。
 特に裏手は森になっていて、建設当時は王族専用の木洩れ日が心地よい遊歩道があった。だが、新しい城が建設されると同時に放置され、今や際限なく伸びた木々が陽光を遮っていて昼でも薄暗く、立ち入るものはいない。
 その昼なお暗い森で、ザクッ、ザクッと規則正しく下生えの草木を踏みつける音が響いていた。
 獣道と化したその道を、惑うこと無く音が進む。
 使い古した毛皮の膝下まで覆うゆったりとした外套を身に纏い、背には大きな荷物を背負った男だ。
 太めの胴体を持つ割には、うっそうと茂った下生えの雑木を難なく飛び越える。
 その視線の先がきらりと光ったのを見て取って、男の口元が僅かに綻んだ。
 視界を遮っていた蔓を払えば、明るい陽光がさあっと眩しく照らしてきた。その陽光が、水面に映えてよけいに眩しい。
 まるで違う世界に来たような、少しばかり呆けた表情を見せた男だったが、数度瞬きした後に辺りを見渡す頃には、再び元の無表情に戻っていた。
 その視線が、彼をここに呼び寄せた男を捕らえる。、
「お待たせ致しました」
 掠れた聞き取りにくい声音で挨拶をし、最敬礼を持って頭を下げた相手が威風堂々と立ち上がった。
「ご苦労」
 鷹揚なねぎらいの言葉は威厳に満ち、この国の王にふさわしいものだ。
 対する調教師リモンにしてみれば、常ならば言葉を交わすことはもちろんのこと、相対することすら叶わぬ相手だ。
 だが、今日はリモンの方が王に招聘されたのだ。
 『調教の技を見せて欲しい』
 という大金付きの書状が使いの者から渡された時には、偽物かと疑ったくらいだ。
 調教希望日と場所の知らせ、そして準備するもの、しておくべき問い合わせに、一通り書き記した書状を使いの者に手渡したのは一ヶ月ほど前。
 リモンは不躾にならない程度に辺りを見渡し、僅かに首を傾げて見せた。
 あの書状に記した通りに準備ができているとすれば、それはどこにあるのだろうか?
 その無言の問いかけを察したのであろうカルキスが、顎をしゃくった。
「向こうだ」
 視線を追えば、泉の傍らに数メートルはある苔むした大理石の台座が見えた。半ば崩れてかけているその一角に何やら白く蠢くモノが見える。
「そなたが申して追ったとおり縛り付けておいた。これで良いか?」
 カルキスの嘲笑含みの声音に、リモンは僅かに頷いた。
「完璧でございます」
 頭を下げたリモンのフードが膨らんで、その拍子に陽光に煌めく銀の髪が風に舞った。僅かに覗いた風貌は、若く整っている。
 はみ出た髪を鬱陶しくフードにしまい込んで、リモンは括り付けられたモノの傍らに足を進めた。
 間近にその姿を捕らえた拍子に、口の端がにやりと上がる。堪えきれない嘲笑が、リモンの喉からこぼれ落ちた。
 その得体の知れなさに、それが大きく身動ぐ。
「白い……薫製肉のようですね」
 苔むして艶を失った大理石の皿に転がされた、未だ紐で結わえられたままの肉の塊。
 肉に深く食い込む細い革紐が、白い肌に色をつけていた。
「まだ乾ききっておらぬ故、緩いような気がしたが」
「何、すぐに乾きます」
 すでに十分きつく締め付けられている紐をカルキスが強く引っ張れば、それが滴を振りまきながら唸り声を上げた。
 顔から、身体から、そしてそそり立つペニスから。
 銀の髪を振り乱し、透き通る空色の瞳に透明な滴をいっぱいに溜めた、白き民。
「それに、締め付けられてたいそう悦んでおられる。失われし国の王はたいそう淫乱と聞き及んでおりましたが、誠であったようで」
 一目で判った正体を示唆すれば、カルキスが嘲笑を浮かべた。
 偉大なラカンの英雄が自分用に手に入れた白き民は、ただ一人だ。その高貴なる出自の性奴隷が、今これから自分の手で調教される。リモンの手によって、これから狂うのだ。
 ただ。
「私の調教は、時に奴隷の心を壊します。それをご承知の上で、海音様を調教せよという命令と了解しておりますが?」
 その言葉にカルキスはただ嗤った。
 嗤って、目線で好きにしろ、と言う。
 その声なき言葉に、正確に海音の名を発音したリモンの喉から熱い吐息が溢れる。過去幾度と無く繰り返してきたショーではあるが、ここまで自身が興奮しているのは初めてだった。
 何しろ相手は、あの海音なのだ。リジンの民の中でも至高の存在として、崇め奉られていた第一王子。
 昔は、その姿を視界に入れることすら許されなかった。貧しさ故に、奴隷に落ちた自分達家族には。
 だが、今その海音はリモンの眼下にいる。
 あの頃の高貴さなど今は無い。
 涙に濡れた空色の瞳は相変わらず美しいが、濃い桜色の唇から黒々とした大きな張り型が生えていた。
 ふぁぐふぁぐと息苦しそうに呼吸する度に、その張り型がぴくぴくと動いて、まるで口からペニスが生えているようだ。
 それに苦しいのは、その張り型のせいだけではない。海音の身体には、亀甲模様に革紐が食い込んでいた。両手足は肘や膝で曲げた状態でぐるぐる巻きにされ、台座の四方から伸びた革紐で固定されていた。首の回りも動けば喉を圧迫するようになっている。
 ぎりぎりと肌に食い込む革紐は、しっとりと濡れている。
 乳首など、二本の革紐で挟まれてきつく括り出され、色を変えていた。
 陰嚢とペニスの根元にも紐はぎりぎりと巻き付けられていて、歪に歪んでいる。さらに鈴口には細い棒が刺さっていて、ペニス全体はぷるぷると揺れていた。
 ぬらぬらと粘液で濡れたその出ている先端の穴に、二本の紐が括り付けられていて。
 一本は乳首を挟んだ二本の紐に結ばれ、海音が蠢くたびに棒を引き寄せようとする。もう一本は割り広げられた股間を通って池の中へと向かっていた。大きく開かれた股間には、口と同じ太さの杭が穿たれているのが見える。
 それもひくひくと震えているけれど、天をつくペニスが揺れているのはそれとは別のようだ。
「あぁぁっ、あっはぁ──」
 苦しそうに喘ぐ中に混じる甘い声音と、泉に向かう紐の揺れる拍子が同じだ。その紐の先に興味をひかれて池のほとりに寄ったリモンの目に入ったのは。
 透明度の高い泉の中で、紐が括り付けられた大きな岩がゆらりゆらりと揺れていた。ちょうど泉の底から湧き水が吹き上がる場所のようで、重い石が僅かに浮かび上がってはまた沈んでいくのを繰り返す。そのたびに、紐がぎりぎりと引っ張られて、ペニスの棒を動かしているのだ。
「これはこれは……」
 微笑み、指先でその紐を弾いた。
「ふぁぁ──おあ──っ」
 きつく張った紐は楽器のように、鋭い音を立てる。
「尿道の開発も終わっておられますようで」
 ぴんびんと指先で弾くたびに、身体が跳ねている。
「何、たいしたことはしていない。だが」
 ひゅん
 風を切る音に、弾けるような音。
「痛ぁぁっ、ゃあああぁぁぁ──、ぁぁぁんんんっ」
 白い肌に鮮やかに浮かび上がった朱の線が、ぴくぴくとのたうつ。
 なのに、海音の表情が苦痛を帯びたのは一瞬だった。声が途切れ、一瞬後に続いたそれは、嬌声でしかない。
 ぶるぶるとペニスが踊り、ぬぷりと棒との隙間から粘液が膨れあがった。
 ペニスが揺れたことで、乳首を挟んだ革紐も引っ張られる。細く長く伸びた乳首は今にも千切れそうだ。
 リモンですら顔をしかめてしまうほどにその痛みを想像できたのに。
 鞭を握ったカルキスが、ふん、と鼻を鳴らした。
「何をしても快感を感じる身体だ。思う存分いたぶるが良い」
 侮蔑でしかない言葉ととともに与えられたのは許諾だ。
 カルキスによって与えられた鞭打ちに、海音ははあはあと快感に喘いでいる。その表情は虚ろで、腰の動きが少しずつ大きくなっていた。
 全身を戒める革紐、口の中の張り型、尿道を犯す棒から来る刺激。
 そして、アナルを穿つ太い張り型とペニスの与えられる白い肌を情欲に紅潮されている海音。
「では、新しい快楽を御身に差し上げましょう。最後まで狂わずに愉しんで頂ければ幸いです」
 リモンの言葉に、海音の目元から新しい滴が流れ落ちていった。


 口内の張り型を取り去ると、呼吸が楽になったのかほっとしたような表情を見せた。
 それでも、はあはあと喘ぐ吐息が、ひどく熱い。
 全身を戒める紐は、きつく食い込んでいてずいぶんと痛そうなのに、その表情が快感にとろけている。
 鈴口に突き刺さった棒を嬲ってやると、面白いように身体が跳ねた。少し取り出してみると、ぶつぶつとした突起が複雑に連なっていて、想像以上に太い。これだけ太いモノが入るなら、あれも入るだろう。
 軽く抜き差しするたびに、無意識のうちに腰が揺れていた。
 もっと、もっと──と、ぱくぱくと喘ぐ口が言っているようにしか見えない。
「ひっ、あぁぁ」
 邪魔なアナルの張り型をゆっくりと引っ張れば、内壁を道連れに抜けていく。こちらも女性の手首くらいはある太さに、大きな突起がたくさんついていた。それがひっかかって真っ赤に充血した肉壁がめくれ上がる。
 ぐりっと捻ってやれば、あんあん鳴いて暴れて悦んでいた。
「い、いやぁ、やだぁ、それぇ……」
 引き出そうとする張り型がひっかかる。突起のせいだけでなく、海音が力をいれているようだ。
「抜かれるのが嫌ですか?」
 問えば、虚ろな視線がリモンを追う。何かを言いたげに唇が戦慄き、けれど言葉は出ない。
 ぐっと堪えるように視線を外し、誤魔化すようにはあはあと喘ぐ。
 抜かないで。
 言葉にならない言葉は、見ているだけでわかる。
「素直ではないのですね。身体はこんなに悦んでいるのに」
「ひ、ひゃぁぁぁっ、やぁ、ちがっ、ああっくっ」
 ぐいっと奥深くまで一気に突き刺すと、歓喜の嬌声が響いた。
 陰嚢がびくびくと震えて、今にも達きそうになっている。だが、鈴口から出てきたのは、ぬとりとした粘液の滴一滴だけだ。
「でも邪魔なんですよ」
 今度は一気に引き抜く。
「ぎゃああぁぁぁっ」
 肉壁が完全にめくれ上がった。
 一瞬浮かんだ苦痛の表情は、けれど甘くとろけていく。
 ぽかりと開いたアナルは、奥の方まで良く見えた。
 引っ張り出して判ったが、この張り型はずいぶんと長い。直腸どころかその奥まで突き上げていたようだ。
 ほこほこと湯気を立てる張り型を、さてどうしようかと、考えたその時、その張り型をカルキスが奪い取った。
「こいつの置き場所はここだ」
「ふぁぐっ」
 有無を言わさず咽喉奥深くまで張り型を突き立てる。
「綺麗にしておけ」
 不快げに顔が歪んだ海音だったが、苦しそうに嗚咽を繰り返すうちに張り型がひくひくと震え始めた。
 あうあうと喉が波打ち、張り型が揺れる。
「おやおや、美味しそうにしゃぶっておられる」
「淫液が付いているものが大好きだからな。濃い子種も好きだが、尻穴から出る淫液も好きで、必ずこうやって舐めて綺麗にしている」
「なるほど」
 想像以上の淫乱ぷりに、容赦する必要など何もないようだ、と、リモンは準備の手を早めた。