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避けようと首をひねった海音の顎を、カルキスの手が捕らえて固定する。
何度も何度も執拗に海音の性感帯を舌で嬲るカルキスの口元には、笑みが浮かんでいた。
顎を捕らえていた指が、海音の口の中に入る。
逃げまどう気力すら無い舌を強く下あごに押さえつけ、口の中を嬲る。
「口が寂しそうだ。何が欲しい?」
嘲笑まじりの声音に、海音が力無く否定の言葉を口にしようとしたけれど。
「あ──、あぁ……ひぁぁっ」
舌を摘まれ引き出してやれば、意味のない音にしかならなかった。
そんな他愛のない刺激にすら感じるように躾けられた海音は、瞳に零れそうなほどの滴を湛えていた。
その潤んだ瞳がカルキスを捕らえる。
その瞳が歪む。
まだ理性が残っている証であるその動きに、カルキスは嗤う。
誇り高き一族は、未だ屈服などしていない。
それが面白くて、愉しくて、カルキスは執拗なまでに海音をいたぶるのだ。
いたぶればいたぶるほど、海音は苦しむ。
己の淫猥な性に気づき、その性を呪うのだ。
だが、カルキスにしてみれば、まだ足りない。
もっと、もっと、気づかせてやろう。何もかもが、性欲に結びつく血脈の性だということを。
次は、と首を傾げたその視界の片隅に、途中で邪魔になって放り投げた道具が入ったのは、そのときだ。
「ああ、これが良い」
手を伸ばして取り上げ、海音の目の前に掲げたそれが、何かと認識される前に口の中に入れる。
同時に、四肢を片腕と両足で挟み込んだ。
「んああぁぁっ、あぁっ」
口の中に広がった味と、鼻につく臭いに、海音の目が見開かれる。
揺らいだ視界が、口の中に入れられた物の正体を知ろうと、必死になっていた。
視界の片隅にぼやけてうつる棒。
それが、さっきまで海音のアナルに埋め込まれていた淫具だということは、すぐに気がついた。
だがこれは、汚れていたはずなのだ。長い間体内にあったせいで、からかわれるほどの汚さを持っていたのを、海音はその目で見て知っていた。
「んぐぅぅっ」
吐き気が激しく込み上げ、慌てて淫具を吐き出そうと舌を動かす。
だが、カルキスは指一本でそれを抑え、吐き出させない。
「ん?、んっ、うっ、ううっ」
「そうだ、お前の舌で綺麗にしろ。お前を愉しませていた道具だからな。片づけもお前自身でしろ」
「う──ぅぅっ」
「判らないのか? 舐めて綺麗にしろと言っているんだ。汚れを全てお前の舌で落とせ」
嫌だ。
そう叫びたいのに、口の中を塞がされて、言葉にならない。
「ほら、早くしないと」
「ふぁっ! ああっ」
いきなり下肢の付け根から、激しい快感が遡ってきた。
がくがくと上半身が震える。
膝で折り曲げていた足先が、ぴんと突っ張った。
天を仰いだ瞳が大きく見開かれ、浮かんでいた涙がたらりと頬を流れた。
「ほお、僅かに触れただけで達ったか?」
くつくつと嗤う吐息が、首筋に触れる。
硬直した身体は、未だにびくびくと震えていた。
だが、絶妙な力加減で陰嚢ごと根元から戒められたペニスからは、滲むような粘液が出てきただけだ。
カルキスは海音を達かせるが、最初の射精まではそう簡単に許しはしない。
それを許して貰うには、カルキスの言葉全てに従う必要があるのだ。
「四つん這いになって、舌先だけで舐めて綺麗にしろ」
とんと背を押されベッドに沈み込んだ海音の視界の端に、ぬらぬらと濡れたたくましいペニスが入ってきた。
とたんに、ぞくりと悪寒にも似た快感が背筋を走る。
ごくりと喉が鳴った。海音の身体は、それが与える快感を良く知っている。
「カイネ」
カルキスが呼ぶ。
のろのろと頭を上げた海音の視線の先に落とされた淫具。
うっすらと茶色く汚れたそれは、さっき口の中にいれたところだけ綺麗になっている。
「うぅっ」
思い出して込み上げる吐き気を慌てて飲み込んだ。
前に寝具の上で吐いた時には、「興が冷めた」とカルキスは帰って行ってしまったのだ。
そして、二週間以上訪れなかった。
その前の解放されなかった時から数えれば、三週間弱。
気が狂うような調教の日々の中、海音の頭の中にはカルキスのペニスばかりが頭の中に浮かぶようになっていた。
それこそ先のパンに欲情してしまったように。
そして……。
あのときの屈辱を思い出して、海音は必死になって吐き気を堪えた。
思い出したくもないのに、理性を保っていたあの時の記憶は、はっきりと残っていた。
顔を歪ませた海音の頬を指の腹で撫で上げたカルキスが、耳元で囁く。
「また触れずに射精するか? 今度は何メートル飛ぶかな?」
「ひぃっ……い、いあぁ」
その言葉の意味するところを、海音には判りたくなくても判っていた。
欲求不満、と嗤われた。
召使い達の歓声が沸き起こっていた。たくさんの嘲笑と、罵声が浴びせられる。
三週間ぶりの解放は、カルキスによって与えられたのだけど。
何もされていないのに、戒めが解放されととたん弾けるように多量の精液を放出した海音に、数多の視線が突き刺さっていた。
目の前にあるのは、大きなカメラ。
その背後にある大きなスクリーンには、さっきまで身体を覆っていたマントを大きく広げた海音の姿が映し出されていた。
目を射るほどに白い肌。
ぷくりと熟れた二粒の乳首の周りと股間の淡い銀の茂みがきらきらと輝いていた。
だが、カメラが追ったのはカイネのその姿より、放物線を描いて床に落ちた精液だった。
海音の前方、いろいろな場所に白くぷるぷると震える多量の滴が飛び散っていた。
それは震える腰によって揺れたペニスから噴き出したせいだ。
「振りまくのが好きか?」
その言葉にはっと我に返った。
尻の穴に刺さった自らの指が、潤滑剤の油を滴らせながら力無く抜けていった。
「ずいぶんと飛び散ったものよ」
そう言われるほどに、精液が四方に散らばっていた。
「違う……」
震える唇がなんとか紡いだけれど、それでもどこか呆けた顔がスクリーンにアップになる。
だらしなく緩んだ顔だった。
「性奴カイネのお披露目映像は、大成功だな」
そのときは、何のことか判らなかったけれど。
僅か数分のその映像が、ラカンの民に配布されたのだと知った。
ずっと閉じこめられていた海音が性奴として扱われていることを知らしめるために、たった一度だけという触れ込みのそれは、数も少ないことがあって、複製品が闇のオークションで高値で売買されているらしいことも。
信じられないその話はカルキスによって伝えられ、粗相をすればまた行うとすら言われていた。
舌先で何度も何度も舐めた淫具は、もうどこにも汚れは無い。
何度もえづき、吐きかけた胃液混じりの汚濁を再び飲み込んで、ぜいぜいと喘ぎながらようやく終わった時には、海音の顔は鼻水と涙と唾液でぐちゃぐちゃに汚れていた。
「毎回そうやって綺麗にしろ。自分で使ったモノは、全て己の手で綺麗にして片づけるのは常識だからな」
現実を拒否している頭に、明朗な声が割り込んでくる。
のろのろと動かす視線の先で、カルキスのたくましいペニスが腹を打つほどに反り返っていた。
とたんに、びくりと身体が震える。
嘔吐感に萎えていたペニスに一気に血が集まっていくのが、判る。
ああ──。
と悲鳴にも似た嬌声が喉から零れ落ちた。
この身体は、解放されない限り、欲情し続ける。
その解放は、海音自身が動かないと貰えないもの。
「ほお、元気だな」
揶揄と、つま弾かれた衝撃に、顔が歪んだ。
屈辱だった。だがそれを上回る快感に、強張っていた身体から力が抜ける。
──これ以上何を我慢することがあるだろうか?
逆らえば、今以上の屈辱しか与えられない。
「あぁ……」
堪えきれない嗚咽とため息が、シワだらけの寝具に落ちた。
「そうだ、ようやく覚えたか?」
カルキスの満足げな声音に、きつく下唇を噛み締める。
覚えたくはなかった。
けれど、もう身体が覚えてしまっている。
肘と膝が寝具に触れる。高く腰を掲げて、尻をカルキスに向けたその姿勢は、屈辱でしかないものだけど。
「お、おね……がっ……ますっ、挿れ……ろっ、挿れ……て」
誘うように腰を揺らす。
大きく割り開いた股間の間で、いきり立ったペニスがぶらぶらと揺れる。日がな一日淫具で犯されたアナルは赤く綻び、ひくひくと蠢いていた。それら全てをカルキスに晒し、海音は涙を零しながら懇願した。
「わ、私の……きた……ない、尻に……。王の、あなたの、ください……。お、お……お……」
嗚咽が邪魔をする。
それ以上に、矜持が邪魔をする言葉。
けれど。
「どうした?」
冷ややかな声音は、海音にさらなる屈服を促す。
その冷たさが焦りを生み、僅かな矜持を吹き飛ばした。
「お、お情けをっ」
悲鳴のような、懇願だった。
「くださいっ、私の汚い穴に、へ、陛下の御身をっ! 貫いて……っ、種を、神聖なる陛下の子種を──犯してぇっ!!」
肺の中の空気を全て吐き出すような勢いで言い切った海音の頬に、新たな涙が幾筋も流れ落ちた。
「ふふっ、自ら我より劣ると認めるか、カイネよ」
神に近い原初の民。
全てを見下していた男の哀れな訴えに、カルキスは嗤う。
「欲しければくれてやろう。そうやって、我に従っている限りはな」
貶める言葉が海音の胸中を暗く焦がす。
けれど。
「あっ、ああああっ!!」
一気に貫かれた衝撃に上がった悲鳴は、誰が聞いても嬌声でしかなかった。
【了】
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