贈られた言葉 後編

贈られた言葉 後編

「亮太、どうした?」
 窓の上部両側から延びた金属の棒と結わえた背後の腕の拘束だけで立たされたまま、窓に身体を預けて、ぐったりとしている亮太を抱き起こす。
「ん、う……」
 小さな呻き声だけが零れるが、それでも亮太の意識は戻らない。
「あ?あ、あれだけ我慢しろって言ったのに……いっぱい出しているし、やらしい汁があっちこっち飛び散っているじゃないか」
 顔の辺りには涎が垂れた痕、汗と脂の混じったような汚れは特に胸や腰の辺りに多い。乳首が擦れたような引っ掻き痕は、八の字にも似ている。
 さらに股間近くには透明だけで無くて、白い液だれができていて、それがあちらこちらに飛び散っていた。
 あまりに強烈な衝動は、アナルの刺激無くしても射精を促したのだろう。
「もう……勝手にオナったらダメだって約束忘れてるし」
 射精しても少し芯を持つペニスを脇から回した手で掴み、ペタペタと汚れた痕にひっつける。
 乾いたそれは、はらはらと砕け、白い粉となって床にまで落ちていった。
 その床に足を進めた春樹がぴちゃっと踏んだのは、大きな液溜まりで、その拍子にアンモニアの臭いが鼻まで立ち上ってきた。
「やれやれ、亮太ってばお漏らしまでしちゃってさ。もう、掃除してくれる人にどう説明するつもりなんだよ。亮太にしてもらうからね」
 嫌そうに顔を顰めて聞いていない亮太に言い放つ。
 毎日一度やってくる使用人に、掃除は任せているのだ。
 けれど、そんなふうに言い放つ春樹の窓に映った顔は、はっきりと笑みが浮かんでいた。
 亮太を放っていた間、春樹はたっぷりと睡眠を取っていたのだけど、その間の亮太の様子は部屋のあちこちにあるカメラで余すこと無く撮っていたので、亮太がずっと春樹を呼んでいたのを知っている。 
 だからこそ、言葉尻とは裏腹に、そっと背後から包み込むその手は優しい。
「勝手にオナったのも、お漏らししたのも、チンポで達ったのも、厳罰ものだけどさ……。でも、ずっと俺を呼んでたことだけは誉めてやる。だから、まずは先にご褒美だな」
 にこりと上機嫌に笑みを浮かべる春樹が、軽く亮太の頬を叩いた。
「起きて、亮太……、ねぇ起きてよ」
 優しく、何度も何度も、亮太を揺り起こす。
 不自然な姿勢では眠りも浅かったのか、すぐに亮太がうっすらと瞼を開けて、とろんとした目つきで窓に映った亮太を見つけてきた。
「はる、き?」
 亮太の身体を抱きしめた春樹が、んっ、と肩筋にその顔を埋めて頷く。
「良い子、亮太。褒美をやるよ」
 耳朶に直接囁いて、まだ夢見心地なのか、薬に浸かったままなのか、不思議そうに首を傾げる亮太にそっと笑いかけて。


「あ、ぁぁぁぁっ!」
 ぐぐぐっと押し込まれた激しい異物感に亮太の目が見開かれ、その喉から部屋中に響く悲鳴が迸った。
「う、わぁ、あっつっ……亮太の中、すっごく熱くて、うねってる」
「あ、ああ、ひぁぁぁ! あ、は、るきぃっっ」
 慣れたアナルは急な突き上げでも難なく受け入れるけれど、予期せぬ行為に腫れたように潤んでいたアナルへの衝撃は凄まじい。しかも、それは痛みでは無く絶頂を伴う快感で押し寄せたのだ。
 吸収はされてしまったけれど、媚薬の効果はまだこれからだ。そのせいで、いつもより鋭敏に刺激に反応している。
「そんなに締め付けるなよ」
 きつく脈動する肉の動きが、春樹の陰茎を覆い尽くし、絶大な快感を与えてくれる。
 ほおっと甘い吐息を吐き、妙なる快感に流されないようにと意識を保ち。
 亮太のアナルをさらに奥まで穿とうと、ぐりぐりと腰を押しつける。ガタガタと軋む窓枠に身体を押しつけられた亮太は、奥の奥まで犯される衝撃から逃げる術も無く、春樹に抉られて、尻に腰を叩きつけられて、甘い悲鳴を上げ続ける。
「あ、うあっ、ま、またぁ、達くぅぅっ、やあっ」
「ダメだ、一緒に達きたいから、さ、待てよ」
 その言葉に、亮太が涙を振りまきながら首を横に激しく振った。
「や、あぁぁ、だめぇぇ、あぅぅ!!」
「ダメ、だって言ってんのに……もう……」
 強い口調で言い放っても、遅かった。
 春樹の手が亮太のペニスを握ろうとした寸前、それは暴発してしまって、窓に新たな汚れを塗ったのだ。
「亮太、亮太はいつからそんなに悪い子になったんだよ、俺が待ってって言ってんのに」
「や、あぁ、待ってえぇ、ああっ、また、またぁぁぁっ」
 拗ねた春樹の言葉に、亮太は聞いているのかどうか、ガクガクと全身を痙攣させて、押し寄せる脳まで貫く快感に悲鳴を上げる。その間も春樹が動きを止めないせいで、亮太はますます絶頂感に身を焦がし、堪えきれないままに次の白濁を窓に放った。
 ぐちゅ、ぶちゅ、とアナルが泡立ち、溢れた粘液が互いの足を汚す。性器でしか無い亮太のアナルは、性的刺激で腸液を溢れさせ、男の性器を受け容れると女並みに濡れるようになっていた。その液が流れ出て、さらに抽挿が楽になっても絶頂の度に繰り返される締め付けは堪らなく気持ちよいままだ。
 カリッと肩口に犬歯を立てて、立ち上る淫靡な匂いを堪能する。その匂いは、高藤家の強力媚薬よりも春樹には効果的で、こうやって嗅ぐ度に、もっと亮太を味わいたくて仕方が無くなるのだ。
「あ、うっ……やあ、そこっ、あひっぃぃぃ」
 伸ばした指先で乳首を爪弾くと、それに合わせて亮太が心地よい声で鳴いてくれる。
 ぶくりと膨れた乳首は、毎日刺激を与えているせいで男にしては大きい。嬲り嬲ってきて、ピアスで飾ろうと思ったと時もあったけれど。
 ピアスをするとしばらく遊べなくなるから、結局は止めて。
 代わりに留め金方式の飾りをたくさん用意した。
「ねぇ」
「ひ、ぎぃぃぃっ」 
 ぎゅっと指先で挟んで潰すと、痛みに全身が小刻みに震えると同時に、ペニスがむにゅむにゅと締め付けられる。その程よい刺激がもっと欲しくて、さらに緩急付けて潰していると、ビクッと硬直して。
「あらら、また達ったのかよ、ほんと、亮太ってばいくらご褒美上げている最中だからって、そんなに勝手に達くなよなぁ、後のお仕置きに追加するからな」
 気持ち良いけど、あんまり聞き分けの無い子は嫌い。
 春樹は、はあっと溜息を吐くと、ガツガツと貪りながら、さっき言いかけた言葉を囁いた。
「ねぇ、亮太。考えたんだけど、んっ、俺たちって結婚指輪はできない、だろ。なんだかんだ言っても、俺って高藤家の人間だし、亮太は義理の兄弟だし……変な勘ぐり受けて、逢えなくなったら、困るし、なっ。だから代わりにここに……、刻んでも良いよな、俺の言葉とお前の言葉を並べてリングのように、ね」
 小さな小さな乳首の周りに。
「あ、はっ、ぁぁ、やぁ、そんな、奥までぇ──、うぅっ」
 完全に快楽の渦に巻き込まれて、射精衝動を我慢もできなくなった亮太は嬌声以外には何の反応も返さないけれど。
「この真っ赤になった乳首の周りに……左の乳首の周りに、俺の、言葉」
「あ、うっ、そこぉぉぉ、あひっ」
「俺のは決めているんだ、『Haruki hold on to Ryota.(春樹は亮太を離さない)』……どんな時でも離れない。亮太が重いっていっても離れない。
「亮太、好きだよ。こんな俺に合う奴って他にはいないだろうし、今更っ、絶対に離さない」
「あうっ……うっ……あ、ぬ、抜かないでぇ、はるきぃぃ、やあ、チンポ、ちょーだぁぁ、ああ、あぁぁぁぁぁっ」
 ガクガクと激しい痙攣を始めた亮太を押さえるように抱きしめる。それでも腰の動きは止めなくて、さらに狙いを定めて亮太を気持ち良くさせていく。
「ねえ、亮太はどんな言葉をくれる?」
 達きすぎて力を無くしてきたペニスを捕まえて、柔らかな鈴口にぐりっと指先を押しつけて。
 ちょっと考えるように小首を傾げて。
 おもむろに自分のペニスをズポッと引き出した。
「ぐふ、ひぃ……あひっ、い、やあぁぁっ、抜かないでぇ、もっと、もっと入れてえ、チンポぉ……ひぐっ、う、抜か、ないでぇ!! もっと、達かせてぇっ、ひぃぁっ」
 乞われるままに媚薬に腫れたアナルに突っ込んで、そのまま前立腺に叩きつければ、一段と激しい嬌声が零れて。
「……そう」
 その時、春樹が口角を上げて、うれしそうに笑ったのを亮太は知らない。
 快楽に溺れた亮太が知らなくても、けれど、この光景を撮っているカメラにはしっかりとその言葉が残っている。
 だから、覚えていないと知っても、教えてあげられる。
 春樹の望みと亮太の望みの二つを合わせて、この身体に忘れないように刻んであげるから。
 だから。
「亮太は一生俺のものだから、ね」
 新たなザーメンで濡れた手で亮太の顎を捉え、誓いのキスを施して。
 喘いで離れようとする唇を辿って、さらに深く口付ける。
「ん、くっ……ん、はあっ……」
 息苦しげに喘いでいる亮太の虚ろな瞳を覗きこんで。
「こんなにも愛おしく思うようになるなんて、出会ったときは思いもしなかったよ」
 最初は、面白そうな奴、と思った。
 もとよりこいつらの父親は、親父逹の奴隷で、純一が次兄のペットになるのなら、それなら、こいつは俺のモノにしようと思った。
 春樹にとって、それだけの始まりだったけど。
 支配するのも、調教するのも面白かったけれど、何より、こんなふうに扱っても離れない亮太自身が面白くて堪らない。一体どこまで堪えるのだろうか、どこまで春樹を受け容れるだろうか、と遊んでいるうちに、この身体に溺れたの事実なら、その懐き方に絆されてしまったのも事実で。
 もとより、こんな性癖の亮太が遊ぶ相手として誰かを側に置くにはいろいろなしがらみがある。けれど、亮太なら家族も同然だから、一緒にいてもおかしくない。だからこそ、兄は純一を姉の婿として身内に引き入れたのだ。
 実際、今回別荘を貰うときに、父には亮太を今後どうするか聞かれていた。今回の別荘滞在はそのための確認と下準備だったのだ。
 亮太はまだ知らないが、亮太の父親は、クリスマスの夜に死亡届が出されていて、世間一般には亡くなったものとされていた。
 この先、生きている死人は高藤家当主と長兄のものとして、あの家から己の意志では出る事は叶わないのだ。もとより人権など喪失していたモノであって、当主が飽きるのと寿命が尽きるのとどちらが長いかと賭をされている始末だ。
 亮太の兄の純一は、姉の婿として高藤家の戸籍にすでに入っている。自由を愛する姉にとって、それが自由を得る代わりなのだから、離婚などするはずもない。
 もとより兄、啓治のペットとして見込まれた以上、啓治が飽きない限りはその立場は変わらない。が、今の執着状況からして、飽きることなんて無いだろう。
 そして。
 一人「真木」として残ってしまう亮太をどうするか。そのままにしても良いが、離したくないというのであれば、いっそ「高藤」として囲い込む方が良いのではないか。
 父の打診は、春樹に改めて亮太との関係を考えさせるきっかけになって。
 いま考えても、否──考える間も無く、春樹には、亮太を手放すことなど考えられなかった。



 高藤家の邸宅には、当主の啓一郎と次期当主である隆正とその妻、次兄啓二と長女の婿として高藤家に加わった純一が住んでいる。
 ここではよくパーティーが開かれていて、特に、純一が加わってから、それに参加できるのを愉しみにしている客も多いという。
 啓一郎は昨年末で前線から身を引き、隆正と啓二に全てを委ねている。今は邸宅の広い庭を、お気に入りの世話役の男と一緒に散歩するのが日課だが、その体調はすこぶる良く、衰えを知らぬほどに闊達だと評判だ。
 隆正は当主から受け継いだ重責をモノともせずに、着実に会社の業績を上げている。
 時折父と共に夜を徹して語り合い、些細な賭事を互いにして楽しむのが、良い気分転換になるのだという。
 隆正の妻は実は後妻でまだかなり若いが、病弱で、邸宅の中も含めて人前に出る事はほとんど無い。彼らには死んだ前妻が産んだ年の近い子供二人がいるが、今現在は高校の寮に入っていて、たまにしか戻ってこなかった。けれど、この二人が戻ってくると母親を連れて四人で散歩をしている姿を見かけることが増える。そんな時、彼女はいつも赤い顔をして、蕩けた表情で三人に手を引かれているのだけど。
 きっと慣れない運動と義理とはいえ友達のように仲の良い息子達との散歩、そして優しい夫と一緒なのがたいそう嬉しいのだろう、と言われている。
 啓二はというと、会社を辞めて専属個人秘書となった純一のおかげで順調に仕事が回っているようだ。先日は中東の某国を訪れて、大きな商談をまとめている。そんな彼を支える純一の力は大きく、過度にストレスを蓄えることが無くなったらしい。
 その純一は、一部の顧客にはたいそう人気者で、彼のためならと高藤家のビジネスにメリットができることもあるとのことだ。
 また、この春、純一の弟である亮太が、高藤家の養子として迎えられた。
 これは、彼の父親が亡くなったこと、その父親が高藤家に与えた利益を鑑みて、一人残された亮太を哀れんで当主自らが望んだことで、誰も反対するものはいなかった。
 その亮太は同じく高藤家の息子である春樹と同じマンションに住んでいて、今は大学で勉強中だ。いずれ兄純一と同様に春樹の良きサポート役になるだろうと言われている。




「亮太、俺たちはいつでも一緒だって言ったね。俺から離れようとするんだったら、亮太は高藤の家に住むようになるからね。それが親父との約束だから」
 その言葉に、ソファにゆったりと座った春樹の足下で、全裸で四つん這いになった亮太がイヤイヤと頭を振って、春樹の足に擦り寄った。
 その白い首には太い大型犬用の首輪があって南京錠で鍵をかけられて自分では外せないようになっていた。その首輪から伸びる組紐のリードは闘犬用のもので太くて重い。中央にワイヤーの芯が入ったそれは刃物など役に立たず、さらにその重さがいつでも亮太を苛んだ。
「だったら、離れようなんて思わないことだよ」
 リードを引かれ、引き上げられるようにして泣き濡れた瞳が春樹に向けられる。
「ごめんなさい、春樹、もうしない……絶対に……」
 別荘での快楽漬けの日々を過ぎて、またマンションの生活をしていたが、春休みの間、薬を使って亮太が眠っている間に、あの言葉をそれぞれ乳首の周りに入れた。
 けれど、目が覚めた亮太に、その意味を教えてあげた直後、ちょっと目を離した途端に亮太は行方を眩ませたのだ。
 もっとも、春樹が亮太を探し出すなんてあっという間で、すぐに捕まえることができた。だが、逃げるなんてもってのほかだと言うことを教えるために、別荘に閉じこめて一週間、ずっと犬として過ごさせている。
 外で散歩をし、排泄をさせ、床に作り付けの餌皿で食べさせ、夜は犬小屋だ。
 ウッドデッキでボール遊びをさせ、露天風呂の湯で内部に至るまで洗いつくし。
 何でも舌で舐めさせた。
 それは逃げた罰でもあったけれど、啓一郎の意向でもあったのだ。
 もし春樹の手に合わないとなれば、亮太は啓一郎が引き取ることになっていて。
 啓一郎が、亮太を犬として飼いたいと望んでいることを知っているから、その練習をさせているのだ。
 父である啓一郎は春樹の目から見ても、苛烈だ。
 だから、あらかじめ彼の意に添うような躾をしていないと、亮太はすぐに壊れてしまうから。いくら逃げるような悪い子であっても、春樹にとって亮太はお気に入りなのは変わらない。亮太をそんな目に合わせたくないから……これはせめてもの餞別にするから。
 滔々とそんなことを話して聞かせて、ずっと、どんなことをすべきか教え続けて。
 そのせいですっかり怯えきった亮太は、今はひどく春樹に従順で、許してもらいたいと、これ以上春樹の機嫌を損ねることを怯えている。
「だから……ずっと、ずっと春樹の傍に、いさせて……」
「良い子でないと、いくら俺でもいらなくなるかもしれないし……。俺だってヤダよ。親父のところにやるために躾けるなんてさ。もう……。だいたい、亮太がその言葉にしてって言ったんだよ。それなのに、怒って出て行くなんて、酷いよな」
 嫌な事だと首を振る春樹に、こくこくと亮太は頷いて。
「ごめん、俺が悪かったんだ……そうだよね、俺は春樹のモノだから。春樹がしたいことして良いんだ……だから、……捨てないで……お願い、だから……」
 リードを引かれるままに膝立ちをした亮太の両方の乳首の周りには、くっきりと文字が刻まれていた。まだ色の馴染みが今一だが、そのうちにもっとしっくりと馴染むそこを、春樹の指先が触れる。
「んっ……」
 墨を入れられて前より敏感になったのか、びくりと震えた亮太が堪えきれないように震えて、甘い吐息を零した。


 何度も文字の上を指先でなぞられて、ぞわぞわとした快感が背筋を駆け抜ける。
 甘い吐息が零れて、床に付いた膝ががくがくと揺れる。
「俺からの言葉は、こっちだよね。ねぇ、読んで」
 左の乳首の周りをなぞって強請られと、震える声音で、何度も言わせて諳んじた言葉を紡ぐ。
「Haruki hold on to Ryota.」
「そう、俺は亮太を離さない。じゃあ、こっち。亮太の言葉だよ」
「……」
 僅かに躊躇い、けれど、諦めたように口を開く。
「Give me the big cock!! (おっきなチンポ いれて!)」
 互いの名も無い、短い言葉。恥ずかしくて口にするのも嫌だった。それでも、春樹に言われたら喋るしか無い。
 この言葉で強請ることは多けれど、それをこんなふうに刻まれたと判った途端に頭の中が真っ白になって、訳も判らずに飛び出してしまったのだ。
 春樹にむけたい言葉は他にもっといっぱいあったのに。
 ほろりと眦から滴が溢れて流れて落ちていく。
 それを春樹が指先で拭い、ぺろりと舌を出して舐め取った。
「可愛いね、亮太は。泣くほど欲しいんなら、いくらでも上げるよ。まあ……bigかどうかは、微妙かもしれないけどね、ああ、代わりにこの玩具でも良いけど」
 そう言って笑う春樹の手の中にある、手首ほどもある太い張り型にぞくりと総毛だって顔から血の気が失せていく。
 最近春樹のペニスしか、その程度のサイズの張り型ぐらいしか受け容れていないから、あんな巨大なものを入れたら壊れてしまいそうで。
 ブルブルと頭を激しく振って、座ったままの春樹の腰に縋り付く。
「こ、これで、これが良いよ……、春樹のが良いんだっ」
 縋り付き、震える手でファスナーを降ろして。
 飛び出たそれにしゃぶりつく。
 途端に、慣れた存在にじわりと唾液が溢れてきた。
 身体が覚えているのだ、それが与えてくれる意識を飛ばすほどの快感を。
 雄の匂いを充満させているそれを味わうと、それだけで下腹部の奥が熱くなって。
 腰が揺れるのは無意識だ。
 そんなふうに何度も教え込まれた身体は、きっと春樹に捨てられる以上の不幸は無い。
 春樹がいて、春樹が構ってくれて。
 だからこそ亮太は、自分としていられるのだから。
「は、うき……あうき……」
 ピチャピチャとしゃぶりながら名前を呼んでいると、むくりと、また一回り大きくなったようで。
 その存在感に、頭の中に霞がかかったようになってしまう。
 もっと、欲しくて……。
 堪らない。
「亮太、亮太はやっぱりチンポが大好きなんだね……」
 取り憑かれたように一生懸命しゃぶる亮太の舌の動きをうっとりと味わう春樹は、クツクツと喉の奥で笑っていた。
「いいよ、あげる。でもね、今度逃げ出しら、良い子になるまで親父に預けようかな?、それはそれで、亮太は悦びそうだけど、俺は嫌だからねぇ……だから、ちゃんと良い子でいてよ」
 そんな事を宣う春樹は、懸命にしゃぶり続ける亮太の髪を愉しそうに弄ぶ。
「今日は腹一杯大好きなザーメン食べさせてやるから、しっかり元気にさせてよ。で、その後で散歩だな。今日も奥の木で出そうな。亮太、あの場所が大好きだもんな」
 敷地の端の方にある巨木の下は、ここ数日の亮太の精液の排出場所だ。
 そこでだけださせていたら、あの木を見るだけで勃起するようになったことに、亮太は恥じらい、いやがるけれど。
「そんな亮太が可愛いんだよなあ」
 この別荘にはまだまだ亮太の知らない仕掛けがいっぱいで。
「次は何をしようかなぁ? ふふ、今度はどこまでやったら逃げたいって思うかな?」
 全て予定通りに進む満足感を与えてくれる亮太は楽しいと、たいそう嬉しげな春樹の様子など気付かずに、亮太は一心に春樹のそれをしゃぶっていた。
   

【了】