※別荘、拘束、精神調教、薬、命令、犬扱い、高藤家の支配※
この別荘で、亮太が一番好きな場所は一回の大広間にある暖炉前だった。
壁にある煉瓦造りの大きな暖炉の中で薪が鮮やかな朱を瞬かせ、踊るように火の粉が薪の周辺を舞い、舐めるように伸びた炎がふわりと消えてはまた伸びている。
実際にはファンヒーターなのだが、ガラスの向こうにある細工の様は本物と見紛うばかりだ。さらに床下暖房やエアコンも含めて設計され尽くした暖房効果は、広い部屋のどこにいてもほんわりと心地よい暖かさだ。
暖炉の前に据えられた革張りの大きなソファの一角を除いても、その区画と同等以上の広さを持つ側には瀟洒なペルシャ絨毯が敷かれた場所で座り込んだり、寝転がって談笑できる場所もあり、さらにウッドデッキに出ることも可能な壁いっぱいの窓際ではフローリングに人一人より大きなクッションがいくつも転がっている。
こちらは持ち主である高藤春樹の気に入りの場所だ。
ここはこの別荘で一番広い部屋だが、ゲストルームも備えるここは、通常の一軒家の倍以上あって、どれもこれもが豪勢な造りとなっていた。
そんな広い部屋を持つここは高藤家の別荘として、所有する広大な森の一角を切り開いて作られた場所だった。
この別荘のためだけの専用の道路が唯一の道で、歩いては街中には出られない。
冬は、山間を走る専用のスキーコースがあり、夏はテニスコートにプールもある。さらに敷地の一角では天然温泉がいつでもこんこんと湧きだしていて、そこから引いた湯は露天風呂へと注がれていた。
車が無ければ外界から完全に閉ざされるここへお客様を招待してくつろぐ時には多数の使用人も連れてくるが、普段は通いの使用人が管理しているだけだ。
その別荘に、今回は亮太と春樹だけで訪れた。
通常なら高藤家のパーティや挨拶回りなど、年末年始は非常に忙しいのだけど、春樹が手がけた取引で好成績をおさめたことの褒美としてたっぷりの休暇付きで贈与されたこの別荘を、当主自らが提案してくれて。それを、春樹は悦んで受け取ったのだ。
大学が休みには行ってすぐに二人で多量の好みの食料を買い込んできて訪れて。
そのまま雪に覆われたこの空間で、もう三日ほど滞在しているけれど、退屈などしている暇は無かった。
春樹はスキーもスノーボードもうまく、そういう冬のレジャーとは縁が無かった亮太も彼にいろいろと習ったおかげでなんとか付いて滑れるようになっていた。
食事も頼めば配達してくれるが、時折二人でわいわい言いながら作ることもあって。
自宅と同じではあったけれど、それでも場所が違うせいか、それとも愉しく遊ぼうとするせいか、そんな些細なことでも賑やかになってしまう。
二人だけのクリスマス、大晦日、正月と過ごす予定は、家と同じに見えて、けれど場所が違うと言うだけで愉しい期待に充ち満ちたものだった。
けれど。
亮太にとって仲の良い友達、家族と過ごすようなそんな日々は、愉しみだして三日後の春樹のたった一言で変わっていった。
「亮太は良い子だけど、男好きなところが玉に瑕だよね」
出し抜けにかけられた言葉に、その意図が判らないままに春樹を見返した亮太だったけれど。
「さっきランチ持ってきた奴に色目つかっていたよね」
その言葉に含まれる揶揄の色に、ぎくりと身体が強張って。一瞬遅れて、激しく頭を横に振る。
「色目なんて、使ってない」
それよりも、配達してきた男達から荷物を受け取った時に向けられた、あの意味ありげな──明らかに欲の篭もった視線に悪寒すら走っていたというのに。
高藤の専属の使用人、しかもこういう秘密にされている場所に来る者達となれば、それは、高藤の持つ闇の性格を知っている者達だ。つまりは、春樹と亮太がどういう関係なのかも知っているということで。
「そう? でも、あの後、あっつい溜息を零したけどね」
「あれは……朝の……その……」
あの時、朝の行為の余韻がまだ残っていたせいで、彼らが去ったことに安堵したのもあったのだけど。
春樹の手がどんなふうに自分を可愛がってくれたかを思い出していたなんて、とても言えなくて口ごもる。
「朝の?」
けれど、小さな呟きは紛うこと無く春樹の耳に届いてしまったようで、「ああ」としたり顔で頷かれた。
「昨夜できなかったからって、朝から欲しがった亮太を愛してあげたのを思い出したんだ、あんな玄関先で?」
くすりと喉の奥を鳴らした春樹の瞳は笑っていない。
「あんな溜息を零すから、あいつら可哀想に前屈みになって出て行ったんだよ。まあ、恋人もいなさそうな連中だから、自分で扱くしかないんだろうけど……けど、そのズリネタが亮太だなんて、許せないよね」
「俺を……って……そんな」
あんな溜息をついただけで、男達のネタになるなんて思えないと、否定したいのに。
けれど、春樹が怒っている原因も同時に判ってしまって、反論なんてできなくなった。
亮太は春樹のモノで、春樹の意図せぬことで亮太を使われるのに我慢ならないのだ。
「……ごめんなさい」
「ほんとうに、亮太は無防備で困る。自分がどんなに色気を垂れ流してるか自覚しろよな。前から言っているだろ、男を誘ったら承知しないって」
「ん……」
さんざん言われ続けた言葉は、亮太の本能にまでしっかり染みついている。
けれど、亮太だってもちろんそんなつもりは毛頭無く、できるだけイヤらしく浅ましい姿など晒さないようにしているのだ。
「まあ、亮太は見られるのが大好きだし、人前で達くのも大好きだし?」
「そんなこと、ないよ。ちゃんと気をつけているんだけど……でも……」
でも……、と続く言葉は決して口に出せるものではなくて、飲み込むしかなかった。
自分では決して晒したくない姿を晒す羽目になるのは、いつだって春樹に言われたことを守るからだと。
見られるのも嫌い、ましては人前で達くなんてことは絶対にしたくないのに。
「なあ、俺だけでは亮太を満足させられないのか?」
不安げに目を眇めて、一転して弱々しい声音で訪ねられて。
大きく頭を横に何度も振った亮太の態度を見ても、春樹は態度を変えなくて。
「まあ、亮太ほどの淫乱な身体を持っていると、どうしようもないのかも知れないけれど……」
こればっかりは、どんなに反論しても決して聞き入れて貰えない。
まして、実際に快感を覚え出すと淫らに悶えて、尻を振って強請ることも確かにあって、さんざん春樹に淫乱だと言われ続けたせいもあって完全に否定できないのだ。
だから。
「亮太、亮太は自分の事、淫乱じゃ無いと思う?」
そんな風に質問されると、答えられない。
「それは……」
戸惑う亮太に、春樹はなおも言葉を紡ぐ。
「そうだよな、亮太は淫乱で、しかも、チンポが好きで……犯されるのが大好き……だから……男が」
春樹の手が頬に触れて亮太の顔を覗き込む。顎を指先で掬われて、形良い唇が近づいて。
それがぼやけるほどに近づいて、うっとりと見つめられて。大好きなそんな春樹に見入ってしまった亮太に、遅れて言葉が届く。
「亮太は、好きだよな?」
「あ……好き」
覚えず答えて。
濡れた吐息を零した直後に質問の意味に気が付いても、もう遅かった。
二人だけでは広すぎる空間の大きな窓の半分を遮る影が、室内を暗くしていた。さらに灯りも消されていて、冬の晴れ間の明るい日差しが、その邪魔な影の通りに、床にも色濃く影をつくっていた。
その影は大の字になった人の形をしていて、時折左右に揺れて、前後にも揺れているのか、僅かに形が変わっている。
その度に、丈夫なはずの二枚サッシの窓がガタガタと揺れていて、ペタン、ペタンと何かを打ち付ける音が響いた。
「あ、やあ……春樹ぃ……ごめんな、さ…………あぁ……春樹ぃ……」
その度に、悲痛な、けれどどこか熱の籠もった濡れた呼び声が響く。
怒っている春樹はあれからすぐに二階の部屋にいってしまって、ここには亮太しかいない。できれば、すぐにでも追いかけたかったけれど、今の亮太は窓際に立ち尽くしたままそこから動けないままだ。
両足は窓の幅に大きく割り広げた状態で窓枠にあった飾りに短く固定されていた。
両手は後ろ手に高い位置で、互いの手首から肘までを一緒に縛られていて、窓枠上両側から伸びた金属の丸棒と繋がっていた。
そのせいで腰を下ろすことも移動することもできない。
亮太は知らなかったが、この別荘は外の敷地含めて至る所に奴隷やペット、玩具、人によっては恋人と遊ぶための道具が設置されていて、ある意味、そのためだけに作られた場所と言えた。
だから、一度固定されたそれは、亮太が少々暴れたくらいで壊れるものではなかった。
しかも、身に纏うモノなど一切無く、身体の前面をすっかり窓に晒しているのだ。
その身体は、毎日のように愛撫され続けた名残をあちらこちらに残していて、特に乳首はぷっくりと膨れあがったままだ。さらに朝方も濃厚なセックスをした身体は、病気にごとく濃い朱色の斑点をいくつもつけていた。
さらに今は、込み上げる激情に全身が熱を持ち、噴き出した汗で濡れている。日頃から肌の手入れに惜しみなく使われているローションは、そんな亮太の肌をきめ細かく、男にしては美しくしていて、その仄かな色に染まった身体は、匂い立つ桃の花弁のように艶やかだ。
その身体を、亮太はひっきりなしに冷たいガラス窓に押しつけていた。特に、獰猛なほどにいきり立っている陰茎を潰れそうなほどにぐいぐいと押しつけてしまう動きが止まらない。
「あっ……うっ……ふぁっ…………あぁ」
とろんとした瞳に写るのは、どこもかしこも雪と氷に覆われた風景で、庭の向こうの森の木々までが白く凍り付いている。
この熱い身体を今すぐにでもあの雪の中に投じたい。
はあはあと喘ぎ続けて乾いた喉に、あの雪を飲み込みたい。
何より、たっぷりと尻穴に注がれた濃度の高い媚薬を流し出したい。
ああ、それよりも……屋根からぶら下がるあの太いつららで疼く穴を掻き回したくて仕方がなくて。
熟れきった身体に募る欲がますます激しくなる。
亮太の身体と相性の良い媚薬は、直腸からすぐさま吸収されて、血流に乗って全身に運ばれ、脳の中枢まで冒していた。
アナルで快楽を貪ることを教え込まれた身体は、何よりもそこを弄り倒して欲しくて堪らない。
太い張り型、小刻みに震えるバイブ、何より大好きな生身の春樹が一番欲しい。
尻タブがキュッと引き締まり、割広げられた狭間を締め付けようとする。だがそれでも動かないはずのアナルがばくばくと喘いで、その僅かな刺激を甘受するしかなかった。だが、そんなもので足りるはずが無くて、もっと欲しくて腰を揺らめかせるのだ。
けれど、腕を縛られ、足を閉じることのできない今の状況で、それ以上アナルに刺激を与えることはできなかった。
ならば代わりに、と、いきり立ったペニスを窓に押しつけて、ぐりぐりと扱くように動かし続ける。
だが、無機質なガラスが愛撫してくれる訳で無く、思うような刺激が得られない。まして、ペニスへの刺激での射精など、前立腺での絶頂を味わってからはほとんどしたことがなくて。
「は、るきぃ──っ、やあ、春樹っ、ぃぃ、熱いっ、あついよおっ!」
疼く身体が押さえられなくて、泣いて強請る亮太に返事はなくて、ただガラス窓だけがガタガタと震える。
薬の吸収量が増える度に、篭もる熱は高くなり、理性は吹き飛び、何故こんなことになったのかも判らなくなる。
『淫乱な身体に我慢を覚えさせるためだよ』
との言葉などもうすでに記憶から消え失せて、ただ、卑猥にアナルを蠢かし、腰を振りたくって刺激を得ようと淫らな踊りに熱中するのだ。
たらりと鈴口から溢れ零れた透明な粘液が窓に淫らな模様を描いていく。
はあはあと舌を出して獣のように喘ぐせいで窓が曇り、触れた唇がべとりとキスマークを残していた。
使用人によって曇り一つ無く磨かれたガラス窓に残った模様は、それでも外から亮太を隠すほどでは無い。それどころか、悶える動きは、二重サッシでも取り切れなかった温度差で濡れていた場所の水滴を拭い去って、よけいに露わにしてしまうのだ。
媚薬に蕩けた亮太の視野に入っている外の世界には、動物一匹見いだせない。
けれど。
『迷い込む人もいないわけじゃないしね。山スキーでこっちの側に降りてしまうとか、車で迷い込んでしまって、庭へ抜けてしまうとか、ね』
実際、昨日の昼間、そういう人達が訪れてきて。
驚く亮太に、春樹がそう教えてくれた。
だからこそ、外から何かの音が響く度にびくりと震えて、怯えた視線のままに辺りを窺ってしまう。
すくなくともその瞬間だけは、悶えるのを止めてずっと辺りを窺うのだけど。
すぐに込み上げる熱が抗いきれなくなって、また淫らな踊りを繰り返してしまう。
ガタ
バタン
ぐちゃ、ぬちゃ……。
硬い音だけでなくて、溢れる粘液が伸びて貼り付く音までし始めて。
「あ、あぅ、ふうっ、うっ……春樹……、は、るき……ぃ……きてぇ……あ、あぁ……何でもして……い、から……」
高藤家特製の媚薬は、強烈だ。
長い時間をかけて慣らされた亮太達は、この薬を与えられても過激とも言える性衝動に煽られ、悶えて、欲しがりまくるだけだけど。
初めてなのに、今回のように多量に投与された人は、間違いなく精神に変調を来し、色狂魔と化して、何を見ても即性欲に結びついて、日常生活など送れなくなる程なのだ。
亮太の兄などは、時折この媚薬をたっぷりアナルに注がれて、高藤家に徒なす者に与えられることがあった。
欲に溺れて堪えきれないままに純一が目の前の男に跨がり、ペニスを喰らう様を見て愉しみ、ペニスから吸収した媚薬に狂って衝動のままに純一を犯しながら狂っていく敵の憐れな様を嗤うのだ。
それでも純一だけは狂わずにいて、正気に戻った彼は、主である啓治によって男を誘った罰を受けさせられる。
そんなふうに使うほどに強力な媚薬を、高藤家の者は自分には使わないように注意している。それが完全に吸収されるには量にも寄るけれど2?3時間はかかるのを知っていて、その時間が過ぎてから、とろとろに蕩けた肉を使うのだ。
今回、亮太はその媚薬を14時頃に溢れるほどに注入されていて。
春樹が固定されたままの亮太の背後に近づいたのは。
満月が雪を白々と反射させた明るい夜景となった頃だった。
続く