【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟-5

【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟-5


 その向こう、カストは相変わらず媚薬に濡れた穂先で足に模様を描いているようだ。足の裏だけでなく、今は膝の内側から裏へ。折り畳まれて重なった両脚の間に身体を入れて、内股を撫でていた。
 たっぷりと液を含んだ穂先が膝関節の内側へと下りる。押しつけられた筆から幾重にも滴が流れ落ちていき、それは股関節で液だまりを作った。
 液体系の媚薬は皮膚からも吸収されるというぐらいの知識が嶺炎にもあった。
 暴れればその液だまりから会陰部にも液が流れる。そこから到る先にあるのは、その辺りで唯一粘膜がある場所だ。
「嶺炎殿下、よろしければ道具入れの中、一番上の棚にある口枷をご利用ください」
 なるほど、垂れる滴もまた刺激になるのかと滴の動きに見入っていた嶺炎に、カストが扉が開いたままのキャビネットを指差してきた。
「いたずらな口にはちょうど良いかと考えます」
 嶺炎には使い道がわからないものばかりの道具だが、カストは的確にその用途がわかるようだ。
 のそりと寝台から下りて勧められた道具を取り上げる。細身の革ベルトの一部に子どもの拳より小さい丸い円環が付いているものだ。
「これか?」
「はい、その円環の出ているほうを口内に」
 言われるままに口に入れようとするが息苦しそうに喘いでいたシュリオが今度は歯を食い縛って開けようとしない。
「入らぬぞ?」
「お待ちください、すぐに開けさせますので」
 ユーリアが動く。さっきまで指で嬲っていた乳首へと彼の顔が近づいて、存外に長い舌がべろりとそこを舐めた。
「ぐっ」
 跳ねるように上がった頭が、押し殺した悲鳴を上げる。それでもまだ口は開きはしなかったが。
「こちらも粗相をしないようにしましょうか」
 ユーリアの動きに気を取られているうちに、カストもまた新たな道具を手に、股間へとにじり寄っている。
「それは?」
「こうやってこのかわいいおちんちんに」
 幼子のような呼称をしたのはわざとだろう。口角が上がってずいぶんと楽しげなカストは、わずかに芯を持ち始めたシュリオの魔羅へと小さな革帯を巻き付けた。魔羅の茎の部分に三つ、陰嚢の根元に一つ。魔羅を戒める革帯は四本の金属の棒状のものでつながっており、足の方へと亀頭を向けるようになっていた。
「それは?」
「勃起や射精を禁じる道具です。この下向きの金属の板が陰茎が勃ち上がることを禁じ、ベルトが勃起を制限します。さらにこちらの根元も締め付けることで、射精時の動きを制限しますし、射精のための管はベルトで締め付けられることで塞がったままです」
 ずいぶんとすらすらとした説明は的確で、嶺炎も頭の中で想像ができた。とたんに自身の顔をしかめてしまうほどには、痛みの程度も思いつく。
「行儀の悪い子には躾が必要ですから」
 にっこりとそれはいい笑顔で教えてくれたカストは、意外にいい性格をしているようだった。何より嶺炎には意味不明の道具に彼は詳しすぎる。
「う、うぅ、この、変態、あぁっ!」
 嶺炎たちの会話に反応しようとしたシュリオだが、ユーリアがぎりっと歯を噛み締めた同時に、シュリオが悲鳴を上げて全身を跳ねさせた。逃れようと身体を捩るが、乳輪まで拭くんだ口は歯を食い込ませているのか外れはしない。ヒイヒイと泣き喚くシュリオの口は大きく開き、その隙にと嶺炎は口枷の円環を口内へと滑り込まれた。それはちょうどシュリオが口を開けた寸法にぴたりと収まり、革ベルトで頭の後ろで固定すればもう口を閉じることはできないようだった。
 赤い口の中で苦しげに舌が泳ぎ、唾液がだらだらと外へと流れ出していく。
「あ、ぁぁぁっ、あうっ、う゛う゛う゛う゛」
 もう悪態も吐けない中で、外そうとでもしているように頭を振り乱す。
「なるほど、これならば」
 嶺炎は顔を近づけ、無機質な道具越しに口づけた。唇の柔らかさは張り詰めて感じられぬが、差し込む舌は何にも遮られずに暴れる舌に絡みつく。左右に振れる頭を両腕で掴み、至近距離で焦点が合いにくい顔をじっくりと眺めた。
 きれいな顔立ちは数年前に会ったときと変わらない。だが今その顔は溢れる涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃで、髪まで濡れて肌に貼り付いている。
「あぐっ、ううっ、いああっ、ぎゃっ!」
 必死になって顔を逸らそうと頑張るが、良いタイミングでユーリアが乳首を苛んでいる。嶺炎はなんなく舌を絡めて引きずり出し、歯先で甘噛みした。
 びくびくと震える身体は前より熱い。しっとりと汗ばみ、照れた掌が吸い付くようだ。心なしか触れる吐息も熱くなっているようだった。
「どうした、痛いと喚いていたくせに、こっちは良い反応をしているようだが」
 歯の痕にくぼんだ胸から顔を上げたユーリアがシュリオの下半身へと視線を向けてせせら笑った。
「さっきからずいぶんと元気ですよ。もうベルトなんてパンパンで食い込んでいます。こちらも、ほら」
 カストが震える淫具の形のままに下へと向いた先端を指で嬲る。ねっとりとした粘液を指先に取って、二本の指を離せば細い糸が互いを結んでいた。
 ねちゃぁと音が聞こえたような気がした。
 あれだけ暴れていたのに、すでにシュリオは青息吐息で身体の力は入っていない。ただ闇雲に動かすだけで、その動きもとろかった。
 はあはあと荒い吐息を零し、身体のあちこちから体液を零すシュリオは、気がつけば全身の肌が赤らみ、瞳は潤み、赤い舌先が力なく枷に引っかかっている。
「どうした? こんなことでもう音を上げるのか?」
 ユーリアの手によってぎりりと音がしそうなほどにねじり上げられた乳首は、ところどころ赤い血が滲み出ていた。もっとも傷と呼べるほどひどくはなく、滲んだ血はもう止まっている。
 だが赤黒くついた痕は、内出血はしているようだ。
「ずいぶんと強く噛むのだな」
 思わず吐露した感想は、鼻先で笑われた。
「魔王などを解放した輩に遠慮など無用ではございませんか。この者がいるために私どもはここに集められたのですから」
 憤りのままにシュリオを責めさいなむユーリアは、その態度こそが彼の本心なのだろうか。嶺炎にしてみれば、騎士然とした彼の態度を知っているだけに違和感があるとしか言いようがない。
 カストにしてもそうだ。魔王の前で終始おどおど怯えていたはずなのに、さっきからキャビネットに視線をやっては、あれが、これがとずいぶんと楽しそうに手順を考えているようだ。
 そんな二人に、嶺炎はついて行けていない。
 いまだ口内を貪り、首筋や肩、鎖骨を手でまさぐり、舌で刺激を与えるぐらいで、さて、俺はこれで本当にいいのだろうか、と内心の疑念は強くなっていた。
 実際、嶺炎が知っている性交は、男相手とはいえまあ普通に正常位と後背位、騎乗位ぐらい。相手が戦士故に少々乱暴にすることはあるが、基本的に一人を相手にするだけで複数で責め立てることも、道具を使うこともあまりなかったのだ。
 どちらにせよ、自身の大きさだけで相手は十分狂うので、何か手を考える必要もなかったというか。
 さて、どうしたものかと嶺炎は真面目に考えるが、考えてどうにかなるものではない。早々に降参して、ならばと嶺炎は目の前の男に声をかけた。
「ユーリア殿」
 俯いて再び乳首を口に含んでいたユーリアが、なんだとばかりに視線だけを向けてきた。
 その唇は知っている彼のものより赤く、向けてきた冷たいまなざしもぞくりと背が震えた。
 短い金髪が縁取る面立ちは、こうしてみれば美しいと言える類いだ。強いまなざしは男らしく、すらりと伸びた鼻筋も顔かたちも決して弱々しいものではない。だが赤みを帯びた金の瞳が、妖しく何かを誘ってくる。
 そんなユーリアが傍から見ても発情しているのは明らかだ。
 欲に染まった瞳に熱のこもった視線。冷たいまなざしですら、見る者を情欲に染めてくる妖艶さがあった。
 騎士、とは言っていたが、彼の今の姿こそが美しい魔族のように見えたのは気のせいだろうか。
 嶺炎はごくりと音を立て口内に溢れた唾液を飲み込んだ。
 食らいついていた胸から顔を離し、落ちた前髪を掻き上げる仕草も魅入られる。
 シュリオ相手では今一つ乗り切れなかったはずの身体が不思議なほどに欲情した。
 実のところ、嶺炎の好みはシュリオよりはユーリアのほうなのだ。こういう屈強な筋肉質の男を組み伏せて背後から貫くのが一番楽しいと、今更ながら気が付いた。
「なんでしょうか?」
 手の甲で口元を拭うユーリアに問いかけられて、我に返った。
「ああ、何分複数でどうこうというこういう状況に慣れておらぬ故に、どうしたらいいのか教授願えたらと思ってな」
「はあ」
 思わずとばかりに声を発したユーリアは、続けて「慣れてない?」と眉根を寄せて言葉を継いだ。
 嶺炎とユーリアが離れたことでシュリオの顔が休憩かとわずかに緩んだ。だが、すぐに「集中できないならば、これで」とカストの声が楽しげに響く。
「あぐっ!」
 カストの手で細くしなやかな銀の棒がするすると入り込むのは魔羅の先端の穴。
 悲鳴につられて視線をやったまま凝視しし続ける嶺炎は、なんでそんなことを、という疑問も浮かんでいる。
 するりするりと前後するその棒の太さは一ミリかそこらだが、そんなものが入るのかと目が離せない。
「失礼ながら、このように道具を使ったご経験はおありですか?」
 そのせいでユーリアの言葉にすぐに応えられなかった。
「嶺炎殿下」
 だが催促されるように声をかけられて、慌てて意識を自分に戻す。
「あ、それは実はあまりないな。それに夕月殿が言われた快楽漬けにするとなるとどうしたら良いかなど知らぬし。それに相手は一人だけだったからな。だがどう見てもユーリア殿とカスト殿はそういうことにずいぶんと慣れているようだ」
「慣れて……。まあ思うままに行動しているだけですので。ただ言えることは、こういうことは頭で考えてはダメですね。ただしたいことをする。少なくとも私はこの男が許せませんし、それこそ憎いとすら思う。この男が夕月閣下を解放しなければ、王城内には愚劣な輩ばかりと知ってはいても仲間と共に騎士としていられたでしょうし、城下でごく普通の日常を送れていたでしょうから」
「お、う……」
 ユーリアの剣幕に、勇猛果敢な戦士として名をはせているはずの嶺炎もたじろいだ。
 怒らせてはならない存在は嶺炎にもいて、ユーリアの剣幕は次兄のそれに近い。
 だが言いたいことはわかった。
 思うがままに行動すれば、するべきことがわかるという意味。
「わたくしもユーリアさまの考え方に賛成です」
 カストもまたユーリアに賛同の意を返してきた。
「わたくしたちは一ヶ月以内にこの者を快楽漬けにする必要があります。それがどんな状態かは確かに不透明。ならばできることをすべて行うしかありません。幸いに、私はこちらにある道具を使うことに適性があるようで、使っていると楽しくて仕方がありません」
 どこか昂揚感満載のカストの言葉を、嶺炎は否定できない。
 ただ嶺炎は、ユーリアのようにそこまで怒りが湧いているわけではないし、カストのように道具を使っても楽しくない。
 それではどうしたらいいのか。
 結局、参考になることなく、そこに戻ってくる。
 戸惑いも露わに止まってしまった嶺炎に、ユーリアは「ならば」と思案げに嶺炎を見た。
「そうですね、嶺炎殿下はこれに優しくしてください、何せ、これは処女だということ。確かに神子であれば若いうちは異性からも遠ざけられるはず。つまり抱いたことも抱かれたことなどないのも道理でございます故に。いつもどおりに。それでも十分効果があるかと」
 それならできるととっさに考え、だがと思い直す。
「〝北の国〟では戦士に相手をしてもらっていたが、何分シュリオ殿より相当頑丈ではあった。いつものとおりと言っても、男相手に優しくというとどうしたらいいものか」
「男ではなく女のように、か弱い処女の少女のような扱いではどうですか? 私たちは三人いますから、一人ぐらいそういう役割でも。それぞれに役割を分けてほうが効率が良いというのもあります」
「そうか? まあこの華奢な体格は、〝北の国〟の女よりはよほど女々しく見えるが」
 女のような顔だが身体はやはり男だし、骨組みはしっかりしているし筋肉もある。ただ細いだけだ。もっとも、やはり嶺炎が知る女達よりは華奢な印象は拭えない。
「ええ、まずは今宵の遊戯をこなしてみましょう。問題があるようならば、明日変えればいいのです。一つのやり方に固執するのではなく、臨機応変が必要でしょう」
「……そうだな」
 言われてみればそうだと思った。
「それに、その嶺炎殿のそれは服の上からもかなりの大きさだとわかります。きっとそれにも意味があります故に」
 ちらりとユーリアが向けた視線に、嶺炎は知らず口元をゆがめていた。
 それだけは自慢の一品だと自負しているのもあるが、なるほど、凶器と言われるこれで責め立てることは嶺炎にもできることだ。一度タガが外れれば犯りつぶしたことも一度や二度ではない。もっともさすがに壊すところまではいかなかったが。
 わからぬからと立ち止まっていては、何もできない。それこそなんの解決にもならない。
 納得してしまえば、嶺炎の動きは速かった。
「ならば、俺は普通にいつものとおり、だが初めての女のように優しくしよう」
 そう言ってシュリオの身体を背後から抱きかかえた。足を折り畳んで固定されているために尻を起点に安定感が悪い。そのためシュリオの身体の重さがすべて嶺炎にかかる。だが筋肉質でもなく脂肪も少ない細身のシュリオは軽く、嶺炎はその体勢で後ろからシュリオの胸を揉みしだいた。
「なっ、やっ」
 膨れてはいないが、筋肉質でない薄い胸が指の力で膨らみを作る。集めた肉の頂からぷつっと飛び出た乳首は、さっき噛まれていたせいか赤く色づきなかなかにそそる。
「薄い胸だが感度は良さそうだ」
 優しく触れれば細い身体が何度も跳ねた。特に傷痕の残る乳首に優しく触れば小刻みに震え、声が上がる。
「あ、あぁぁ」
 唾液に濡れた先端を指先で擦り、歯形の残る乳輪を残りの指で撫で上げた。目の前のうなじに唇で触れて、汗の匂いのする肌を味わう。甘く優しく官能を高めるように、嶺炎はシュリオを愛撫した。
「なるほど、いい傾向です」
 横に腰を下ろしたユーリアは、四つん這いのように身体を倒し、シュリオの腹へと口づけた。