【皇王陛下の優雅な企み】

【皇王陛下の優雅な企み】

 

 椅子に腰掛けグラスを傾けていると、くんくんと鳴いていた余の可愛いクォードが長く吠えた後に崩れ落ちた。
 頬を床につけ、舌を出し、震える身体は汗まみれだ。その肌に手を当てれば、びくりと震え、崩れた身体が起き上がる。
 再び傍らで犬のように座るクォードの瞳は虚ろで、涙すら流した頬も肌も赤み帯び、発情の臭いをそこら中にまき散らしていた。自慢の尻尾も今はくたりと床をはい、腹を汚す白濁や粘液にまみれている。
「またイッたか。我慢しろと言っておろう」
 呆れ果てたとばかりに呟けば、くうーんと弱々しく鳴いて許しを乞う。
「まあ良い。腹の淫具がことのほか善いのであろう。たっぷりと味わうがよいぞ」
 腹に収めさせた淫具はゼンマイ細工が施され、終始これの敏感な身体を刺激し続ける代物だ。いつしか悪魔が作る自動で動く淫具を手に入れたいと思うのだが、なかなかに高価なそれらは取り扱う悪魔を見つけるだけでも一苦労で、いまだに手に入れられない。
 もっとも宝物庫を探れば一つや二つあるのは知っているが、他人の使った中古品などクォードに使わせてなるものか。
 余は荒い吐息を吐きながら、小刻みに振るえる腕を突っ張って崩れそうな身体を支えているクォードの煉瓦色の瞳に微笑みかけ、短い砂色の髪をかき乱す。
 今や「犬でいろ」と言えば、ずっと犬でいるほど従順なクォード。
 もっともここまで来るには半年以上かかったが、その手間もすべて余には懐かしくも楽しい思い出だ。
 あのころは、毎日のように全身を白濁と粘液に染め上げさせ、消えてもすぐに増えるうっ血痕で彩られた身体を、さらに数多の淫具で飾り立てさせた。煉瓦色の瞳から強い拒絶が徐々に消え失せ、戸惑いの色から強欲の色へと変化し、余を求めて潤むようなるまで、絶え間ない調教の繰り返した日々。
 衣など許さず、いつでも余の命ずるままに余のモノを銜えるか自慰を晒すことが、クォードの務めであった。
 元来、奴隷は躾が終わってから主たる我らに提供されるのだが、余はせっかく手に入れたこれを他者に渡すどころか、誰かに調教させることも考えられなかった。
 だが忙しい余が四六時中クォードに付いていることはできぬ故に、特に優れた調教技術を持つ者をクォードの専用従者とし、余ができぬ間は余の言いつけ通りの教育を施させたのだ。
 余は、執務のわずかな間を縫うようにして館に戻っては、クォードの身体に快楽を与え続けた。
 幸いに皇太子の教育は万全で、次第にまとまった午睡の時間が取れるようになり、その分夜中一晩中クォードの理性を奪い尽くし、嬌声を上げ続けるほどの快楽を終始与えることができるようになってきた。何、徹夜など余の体力を持ってすればなんのことはない。
 快楽も痛みも苦しみも愉悦も、すべてを教え、すべてを与えた。
 中でも余の男として自慢すべき寸法の逸物をこれの尻に銜えさせ、動かぬ余の上で腰を揺すらせる行為は余の一番気に入っている行為である。
 当初は固いばかりの肉が、今や余が服の下からそのモノを見せるだけで――否、衣服の下にそれがあるのだとクォードが気付くだけで、淫猥な肉壺は柔らかく蕩け、卑猥な匂いを放って男を誘う。
 すっかり余のモノに慣れた体に面倒な手加減など不要で、一気に奥深くまで貫けば、耳に心地よい嬌声に包まれて、五感すべてを震わせるなんとも至極の時を過ごせるのだ。
「おいで、余の上で戯れることを許そう」
 くいっと引き綱を引けば、びくりと震えたクォードがその瞳を揺らせた。一瞬垣間見えた強い拒絶。だが従順な奴隷であるクォードは、震える膝に力を込めるように立ち上がり、余にその身体を寄り添わせた。先より少し色味を失った身体は少々冷たいか。だが、すぐにこの肌は余に心地良い熱を孕むことを知っている。
 椅子に浅く腰掛ける余の上に、クォードがよじ登る。
 ふさっと可愛く揺れる尾が余の膝に触れるのは楽しいが、いかんせんクォードの肉を埋め尽くす張り型があっては、さすがのクォードも入れることなどできぬだろう。
 余は手を伸ばし、直後、一気に尻から尾を引き抜いた。
「ひぎぃぃぃぃっ!!」
 指が余の肩に乗り、膝は余裕ある座面についた状態で、クォードの身体が強くのけ反った。余の顔の対面にある赤く色づいた可憐な乳首の金色の飾りが目の前で激しく動く。
 リンリンとなる小さな鈴の音が、余の耳に優しく届いていた。
 肩を掴む指がくい込み、余の腹辺りの衣服がじわりと熱い液で濡れていくが、今はこの程度は許してやろう。
 どろりと粘性の高い精液は、我慢の期間を教えてくれるほどに濃い。濡れた張り型は、余のモノと寸分違わぬ形状ではあるが、余よりは細いし短い。これではずっと物足りなくて、射精するほどではなかっただろう。
 強張った腕の筋肉が、視界の片端に見えていた。硬直しきった身体は、それ以上は動かない。
 余は掴んでいた尾を床に放り投げ、クォードを見上げた。
「どうした? おまえは一気に加えるのが好きだろう?」
 お気に入りの行為を許可してやれば、びくりと止まった身体が急いたように動く。ちらりと見上げた先には余には見えておらぬと思ったのか、歯を食い縛り、強張った顔を隠そうともしていない。
 余が知らぬと思っておるのか、淫魔の血を継ぐ砂色の髪と煉瓦色の瞳の性として、快楽にはたいそう弱いが、快楽を味わうほどのその芯では理性を失うことはないとのことだ。それは文献にもしっかりと記載されていた。そうでなければ、妖鬼王の相手を最後までその意に沿ってこなすことなどできぬからだという。
 今も快楽に浸りながらも、消えぬ理性を必死で隠そうとするその姿も愛おしい。
 これもそれも、当初にしっかりと余への服従を教え込んだかいがあったというもの。
 クォードの下りてきた身体が余が支えてやった逸物の先端に触れた。
 余はこの体躯のとおり、手も大きく、指も長いが、それでも勃起した陰茎の太さには足りない。それこそクォードの腕なみに太い陰茎ではあるが、まことにうまそうに喰らうてくるのだ。
「ぐっ、あぁぁっ」
 クォードの淫猥にぬかるむ肉壺が、速く速くと急くように余のモノを飲み込み、咥え込んでいく。
「おおっ、おおっ、もっとだ、もっと早く」
 久方ぶりに味わう肉の感触に、余もたまらず声を上げた。
 包み込む熱と引き絞るような圧迫感。ざわざわと肉が蠢き、奥へと招き入れられる感触。
「や、ぁぁっ、太っ、ひぃぃぃっ」
 余のモノを味わい喜ぶクォードも、変わらず声を上げ、全身を痙攣させてその歓喜を露わにした。
 ずるずると飲み込まれていく余の黒光りするほどに使い込んだ逸物が華奢な身体に消えていく。
「ぐっ、ひゃぁぁぁぁ――っ!」
 逸物が一際狭い空洞に到着し、直後ずぽっと通過した。不意にクォードが叫び、全身が激しく痙攣する。余の腹の上で別の生き物のようにクォードの可愛い陰茎が跳ね、精液でない透明な液を間歇泉のように噴きだし、きゅうきゅうと余のモノをその肉で引き絞った。
「好きだな、おまえはこれが」
 ぐっと腰を上げれば、ぐるりと白目を剥いた。倒れそうになる身体を腰に手を添えて支えてやり、ぐりぐりとクォードの奥深くを抉ってやれば、何度も何度も噴き上げながら、ひいひい痙攣しながら悦んでいる。
 まだ少し覗いていた余の陰茎が、薄く伸びた皮膚をくいませつつすべて納まっていった。そのままぺたりと尻の皮膚が余の腹に着く。
 ほかの奴隷であれば、その寸前で止めさせるが、クォードにはたとえ余に体重をかけることになろうとも、すべて飲み込むことを許可している。そうすればクォードの最奥まで味わうことができるからだ。
 奥深く閉ざされているそこを貫くとき、クォードは歓喜のあまり潮を吹きあげながらイキ狂う。それはメスとして最高の快感だと調教師は言い、一度味わえば他の刺激では満足しない身体になっていくだろう、とも。
 だから余は必ず奥深くでクォードを刺激し、その力尽き果てるまで絶頂させ続けている。
「あっ、ひぐっ、がぁぁぁぁぁっ!」
 絶頂から少し下りたのか、わずかに弛緩した身体が少し揺れる。途端に再び絶頂に至る身体は、余が動く必要もない。
 だがそれでは余も退屈故に、クォードの腰に手をかけて、少々手助けをすることにした。
 何しろ今宵はまだまだ宵の口に入ったばかり。余が遊ぶ時間はまだ長く、来られない間に考えた淫技はまだ何一つしていないのだから。
 精液を一滴残らず出し尽くさせ、嬌声の一つすら出ないほどに喉をからさせ、途切れぬ理性すら消え失せさせること、余が望むのはそこまで満足しきったクォードを愛でることなのだから。



 長い夜が明け、余の傍らでは全身を小刻みに痙攣させ、ぱかっと開けた口からは唾液と息も絶え絶えの呼吸音、虚ろに開いた煉瓦色の瞳は白くかすみがかかったように焦点があっておらず、満足したのだろう後孔は余の吐き出したものを垂れ流しながら喘いでいた。
 くたりと垂れたクォードの可愛らしい逸物は、少々弄りすぎたせいで先端の薄い皮がむけてしまったようだ。触れるだけでびくりと跳ねるその小さな口に、後孔から溢れた粘液を塗ってやる。
 余は、痙攣を治めるようにクォードの身体を抱きしめて、薄い唇に口付ける。
 口内で力なく横たわる舌を絡め、互いの熱を移し合った。
 これだけで、再び余のモノが兆し、太く硬くなった陰茎が疼き出す。
 まこと、クォードの身体は媚薬の効果でもあるのではないか。
 これから余は執務に出ねばならぬというのに、余を解放せぬとは、なんとも不届き者ではないか。
 だが、ここまで弛緩した身体を出してもしようがないし、と考えていると、ふと皇太子と宰相の元にようやく届いた奴隷たちのことを思い出した。
「そういえば皇太子が新しい奴隷をたいそう気に入っているが、可愛がる時間が取れないと余に文句を言ってきたな」
 ようやく手に入れた奴隷をもっと構いたいと文句を言われ、ならばもっと執務に励めと返した上で、宰相に少し皇太子の仕事を減らすことはできないかと提言はしてやったのだが。「まあ、あやつも一筋縄ではいかぬものよのお」
 宰相自身も手に入れたばかりの奴隷で遊びたいからか、ならば余の仕事を増やそうかと言い出す始末。
 その宰相なのだが、一度我らの奴隷を会わせてみたいと言っていたのだ。
 それに侍従から使い続けると締まりが悪くなるから、適度に別の運動をさせるほうが良いとも言われている。
 宰相が奴隷を飼っている屋敷は馬車か馬で向かわねばならぬが。
「ふむ、たまには出かけるのも気分展開になるだろうよ」
 本来なら後宮に留め置く奴隷ではあるが、余の意向に異議を唱えられるモノはいない。
 余は起き上がると、早速そのための準備をするようにと侍従へと伝えた。



 一週間後、余のみならず皇太子まで訪れた宰相の屋敷で、三人の砂色の髪と煉瓦色の瞳の奴隷が一堂に会した。
 途端、三者三様の悲鳴と慟哭が響き渡り、暴れ出した奴隷達。
 その身体を押さえつけ、余を含めたそれぞれの飼い主は各々の楔でその身体を貫いた。すっかり慣れた身体はそれだけで嬌声を放ち、拒絶の言葉は小さく、淫らな匂いが入り交じる。
 暴れた罰だと一気に貫き余の膝の上に置いたクォードは、踊り狂いながらむせび泣き、その口は喘ぐように赦しを請う。
 快感に狂いながらもこぼす言葉は子どもの助命嘆願であったが、余はその言葉に笑うしかない。
「貴重な色を持つそなたらを得ることができた僥倖に悦ぶ我らが、何故その命を奪おうよ。余はそなたら子々孫々に至るまで、生涯皇家に仕えることを許すぞ」
 貴族も民も、皇国の創始者であり支配者である皇家の一族に仕える権利を希うものだ。
 その栄誉を、子々孫々に至るまで得られるというのに。
 余がその言葉を、耳朶を舐めながら吹き込めば、さらなる慟哭が響く。少々耳障りだったために強く突き上げてやれば、続けようとした言葉は消えて、余の好きな嬌声へと変わった。細い奥は変わらずに、太い余のモノで貫かれて押し広げられて、絶頂の痙攣がなんとも心地良い。
 その右隣では、少年のような華奢な身体が皇太子の逞しい身体に組み伏せられ、激しくその尻を穿たれていた。か細い嬌声は甘く切なく響き、涙が頬に鮮やかに浮き出た奴隷紋を濡らしていた。乳首と陰茎は細い鎖で繋がれて、さっきからその音がしゃらしゃらと響いていた。皇太子が身体を浮かせば、その背にはどうやら刺し色をしているのか、鮮やかな花弁が花開いていた。あれは皇太子の花印の元になった花だろう。
 さらに奥、余にしてみれば正面では、宰相たる公爵が、やはりまだ若い青年を跪かせ、その口を太く逞しい陰茎で犯していた。
 その一対の乳首は、男にしては驚くほどに大きく、そこだけまるで女のようだ。しかも、宰相が戯れのように触るだけで、全身を震わせるほどに感じている。白い尻の狭間にあるのは極太の張り型の底。それが腰にきついほどにくい込んだ革紐で固定されていた。
 聞くところによればすでに一週間の禁欲生活を強いており、戒めておかねばすぐにでも射精してしまうのだと。その陰茎は幾重にも革のベルトで締め付けられているのも見えた。
 そう言って微笑んだ宰相の笑みは、その後無理難題が降ってくることで有名で、余でもあまり見たいものではない。
 実際その煉瓦色の瞳に浮かぶ絶望の色は、三人の中で一番濃いように見える。
 なるほどどうやら懐き具合は三者三様で、それぞれに反応が違い、それぞれに感じ方も違うようだ。こうしてみれば一年の差がるせいて、余のモノが一番従順のように見えた。
 まあ――少なくも表面上はだが。
 わかっていてもなかなかに楽しいと好きにさせてはいるが、たまにこうして壊してやるのもおもしろい。
「そういえば皇王陛下」
 ふと宰相が余に話しかけてきた。
「皇家のさらなる発展のために、このような貴色を持つ者を見つけ、絶えることなく育て上げねばならないでしょう」
 その言葉に、余もふむと頷いた。
 今回は僥倖の末に、このように素晴らしい者達を3人も手にすることができたが、すでに男爵家は途絶え、これらに女をあてがう予定もない。というよりそんなことを考えるだけで、ひどく不快な感情が湧き起こり、手の中のクォードを思わず激しく強く穿ってしまった。
 だが宰相の言葉も正しい。
「見つけられるか、新しい者を」
「捜せば見つかるかもしれませんが確率として低いでしょう。ただ系譜を調べましたところ、どうやらこの色は男に受け継がれる模様でございます」
 なれば、これの妻であった者に子を産ませても貴色は生まれぬということか。だがしかし、これを女と……。
「ですので、これらの無駄に吐き出す精を集め、女の腹に注ぎましょう」
 不快な感情が、宰相の言葉で一気に消し飛んだ。
 なるほど、女の腹に子種を仕込んで孕ませればいいのか。
「見目麗しい女を探し、その腹だけを借りれば良いのですよ」
 生まれる子が確実に貴色を持つかはわからぬが、クォードの子が二人ともに貴色なので、確率は高いという。母親にもまだ生ませても良いかもしれないという話だ。
 そういえば男爵夫人はどうしたのかも思ったら、なんか余がこれにクォードに付けている専属侍従が娶ってるとのこと。
 これはまた奇縁だと、余は早速命令を下すことにした。
 あの嗜虐趣味の侍従であれば、喜々として行いそうだ。
 そんな話をしていれば、クォードがさめざめと泣き始めた。だが、ちょっと最奥を突いてやれば、また快楽に囚われる。
 嬌声を上げるクォードを抱きしめて、その首筋にきつく印を付けながら、乳首の飾りを引っ張ってやれば、なんともいい声で啼いて締め付けてくれる。
「それゃいい、どうせこれの子種はいくらでも出せるしな」
 小さな身体を人形のように取り回し、奴隷の穴を上から深く抉る皇太子の喜々とした言葉に、余も頷いた。
 その奴隷の陰茎からはひっきりなしにその子種が零れ落ち、下になった顔に降りかかっていた。それを自身で指で集め舐めさせて全部舐めさせているのだと言う皇太子の言葉通り、栓の外れた瓶のようにだらだらと溢れさせているものすべてが口の中に消えていく。
 クォードもそうだが、過去の奴隷に比べて、この者たちの精液量はかなり多い。どうやらそれがこの色を持つ者の特色なのかもしれなかった。
 余としては、この妙なる身体を持つ子を増やすのが、この皇家に生まれる先祖返りを持つ者たちのためのためとなる。
「これも人よりは多いほうですからね、子種はいくらでも採取できます故に、失敗しても何度でも行えます」
 宰相のその言葉でその話題は締めくくり、各々自分の奴隷を可愛がることにした。



 皇国の歴代皇王には数代途絶えた時期はあるが、それでもほとんどの代で貴色と呼ばれる男が側室として召し抱えられている。だがその姿を見る者は少なく、記録上にしかその存在は残っていない。
 記録にはその存在と、召し抱えられた後は一生涯大事にされ、決して後宮から出てくることはなかっただけ記されていた。

【了】