【皇太子殿下の優雅な休憩】2

【皇太子殿下の優雅な休憩】2

※躾
 
 少し疲れたと動きを止めれば、ぐたりと私の腕の中で力を無くす。見下ろせば、なんと呆けた顔で失神しているではないか。
「主を差し置いて寝るとは何事かっ」
 まだ私は遊び足りないというのに、と毒づき、増してくる苛つきに舌打ちをするが。
 いや、待て、まだこれは躾がなってないだけと、込み上げる嗜虐心を寸前で押さえつけた。
 最近は少し自分のかんしゃくを抑えるだけ成長していると自負しているが、それでもこれは確かに罰を与えるべき状況ではないか。
 厳しくあろうと思ったばかりでもあるし。
 かんしゃくは抑えたものの不機嫌さは拭えないままの私は、奴隷を腕に抱えて庭の真ん中まで出ていった。
 我が国の後宮は、それぞれの小さな家が広大な土地に点在している様式で、共有の庭園部が間にある。その中心の円形の花壇の中にある大きな石版へとその身体を下ろした。
「ひゃぁっ!」
 冷たい石に触れて、奴隷が目覚める。慌てて立ち上がろうとする身体を捕らえて、手早くその腕を広げた形で石版に固定し、足を掲げてそれぞれの足首から肩を越えた先へと身体を折り曲げてつないだ。
 この石版は、こうした細工が随所にあって、遊び場の一つでもあるのだ。
 柔らかい身体を丸く曲げ、尻を上に向く形――どういう意味だか、まんぐり返しと言うらしいが、そんな姿で固定された奴隷は怯えの色を見せながら私を見上げた。
 砂色の髪が灰色の石畳に広がり、明るい日射しに煉瓦色のまなざしが眩しげに眇められているが、そこにあるのは確かな怯え。
「勝手に寝るような奴隷への躾だ」
「あ、あっ……お許し、を……、皇太子殿下、お願いしますっ、……っ」
「奴隷風情が、私を呼ぶことなど許されぬ」
 いまだに人であったときが抜けないのか、奴隷のことわりは徹底して教えてやったというのに。
「も、申し訳ございませんっ」
 震える身体は、先ほどまで上気しきっていたはずだが、今は青白く血の気を失っている。そんな中、朱色に染まった奴隷印がよく目立つ。
「奴隷印がそこまで染まったということは、自身の快楽にかまけていたということだろう。奴隷は主を喜ばすことがその責務、その本分を忘れた愚かな奴隷には罰はあたり前」
 私は、そんな奴隷を軸にして木組みの道具を組み上げていった。
 差し込むだけで組み上がっていくもので、瞬く間に奴隷を中心にして台座ができ、その上に大きな風見鶏を設置する。
「ひ、何……ゆるし……て……、厭だ、ああ」
 周りの花壇に咲く薔薇と同様に美しくも可愛い顔立ちが恐怖に歪む。笑顔も可愛いが、この奴隷は意外にもこういうときでもなかなかに良い顔をするようだ。
「まずは潤滑剤だな」
 懐より取り出した、硝子瓶に入っている薄紫の香油を取り出せば、頭を振って悲鳴が響く。
「ひ、い、いやあ、それ、いやっ、やだぁぁ、助けれぇ、やめてぇっ!」
 動かぬ身体を揺すり上げ、無駄な努力をするこの奴隷に、この香油を使ったのは二度目のときか。あのときは、自分で尻穴を解すということを覚えず、抗うばかりの奴隷に業を煮やした私に、侍従が渡してきたもの。たっぷりと注ぎ、十分放置。そうすれば、狂ったように自らの尻穴に指を突っ込み、自慰をしまくって自ら解してくれるという便利な代物だった。
 それを、今ではいつでも緩んでいる尻穴を指でぱくっと開いて、中へとドボドボと注ぎ込む。
「いやぁぁっ! やめてぇぇっ!」
 蒼い空に響く可愛らしい啼き声。
 近くにいた従兄弟が楽しげにこちらを見ていることに気が付いた。彼の足元には、首輪をした奴隷がうずくまっているから散歩中だったのか。
 昼間から存分に遊んでいるらしい従兄弟は、一応要職には就いているのだが、今日は休みなのか、私服でゆったり過ごしているもよう。
 なんともうらやましいことだ。
 そんなことを考えていると、持っていた瓶が空になっており、しょうがないと振って雫一滴まで振りかければ、陰茎や乳首にもボタポタと降りかかった。
 その瓶を放り投げ、今度は台座の上の風見鶏を所定の位置に引き下ろす。
「ひうっ、くぎゅぅぅっ!」
 太い軸が香油でいっぱいの尻穴に沈み込む。中から押し出されて溢れた香油と、先ほど私が注いでやった精液が混じり合い、泡立ちながら腹やら尻に流れていって、全身香油まみれになった。中には口まで入り込んでいる。
 その身体から外れぬようにしっかりと軸を固定する。
 この風見鶏はかなり大きいが、わずかな風でも動く代物だ。
 しかも風見鶏の下には横回転する風車がついており、その回転は下の軸にまで伝わるよう設計されている。
 だからこうして固定具を外せば。
「ひぃあっ、ああっ、ひゅぐぅ――っ」
 程よい風が常に吹くこの季節、風見鶏は南を向き、風車は風を受けて回り軸を回転させていく。
 ぶちゅ、ぐちゅと香油がかき混ぜられる音が、離れたところまで響いてきた。
 尻が跳ねるが、しっかりと固定されているため、軸が外れるなどの心配はない。
「あれは初めて見ましたけど、ただの風見鶏とは違うのですか」
 興味津々に近づいてきた従兄弟の言葉に、私は頷く。
「作り上げたからくり師は、自動調教風見鶏、と言っていたが」
「ああ、あの軸が淫具なのですね。でも回転するだけでしょう?」
「淫具には無数の大小のこぶがあり、しかも微妙な角度で曲がっているから、風が吹くとその回転によりごりごりと中を搔き回すらしい」
「あぁーっ、イクっ、らめぇ、まりゃ、まりゃ、イりゅうっ、やあっ」
 私の説明に被さるように、奴隷の嬌声がそれを裏付ける。香油に含有する薬がよく効いてきたのだろうが、元は淫乱な質だからあんなものでもたいそう喜び、悲鳴じみた嬌声を甘く響かせる。
「しかも、あれは風向きが変わったときには軸の形が変化するようにできているらしいぞ。五度も向きが変われば、曲がっている場所の角度が変わったり、突起の数や形状が変わったりと、なかなかに変化に富んでいるということだ。だからいつまでも新鮮な快感を味わうことができるらしい」
 不意に風が変わり、一際高い嬌声を上げた奴隷を見つめ、口角を上げた。
「なるほど。この場所は、近くの小山や木々によって風が渦を巻くこともありますから、これは楽しいからくりですね」
「ああ、あのような無機物で長時間責めさいなんで反省させるつもりだったが、ここまで喜ぶとは……だがまあいいだろう」
 初めての機材は実際に使ってみないと分からないし、ちょうど良かったといえば良かったか。
「おや、皇太子殿にしてはかなり甘いですな。以前はあのように喜ばせるようなことなどありませんでしたのに」
「ふむ、私も成長したということよ。何しろ、国を動かすには寛容さも重要と説かれておる故に」
「さすが皇太子殿。確かに、為政者が厳しいだけでは民は付いてこないと、私も父から言い含められております」
 従兄弟も肯定し、しばし内外の情勢について意見を交わす。
「ひぐぅっ、出したっ、せーえきぃ、出しゃしゃれーっ、ひぐっ、ひゃがっあっ、やだっ、また、またっイくぅぅっっ、ああぁ――っ」
 そんな中、奴隷の何度目かの絶頂が聞こえてきたころだったか。
「おや、どうしたのかな」
 従兄弟が足元の奴隷に視線を走らせた。その奴隷は大きな身体を縮こまらせて、恐怖のまなざしで私の奴隷を見つめている。
「怖いのか。いや、ほら、あんなにいい声で啼いて喜んでいるじゃないか」
 苦笑を浮かべる従兄弟だが、奴隷はますます身を縮こまらせるばかり。
「まあ味わったこともなければよく分からないかもね。ああ、そうだ。せっかくだから、皇太子殿下の奴隷の可愛らしい声を愛でながら、茶でも飲ませてもらいたいと思うのですが、よろしいですか」
「もちろん、私も喉が乾いたと思っていたし、ここにはもともと休憩で来たのであったしな」
「では、すぐ用意させましょう」
 従兄弟が手を振れば、近くに控えていた侍従がすぐに机と椅子を持ってきた。
 腰を下ろせば、風見鶏がとてもよく見える。
 風を浴びてりんと立つ風見鶏がまた向きを変えた。
「ああっまたぁ、いきゅうっ、あん、すぎょいぃぃっ、あ、ふぅっ、ううっ、あん、あん、らめぇっ、イくぅっ、でりゅうっ!」
 その下で喘ぐ声と、可愛い奴隷の尻の動きもまた見ていて楽しい。
 小ぶりの陰茎はひっきりなしに暴れ、その陰茎も乳首も、身体のあちこちも、あの香油でかぶれたのか、赤く腫れている。
 あれは本当に肌からでもよく浸透して、効率よく効果を発揮してくれる優れものだ。なんでも遠い別大陸からの輸入品らしく、高価なのもあって在庫が少ないのが口惜しい。今度公爵にでも頼んで、仕入れてもらおうか。
 そんなことをつらつらと考えていると、カラカラと回る風車に甘い嬌声が被さって、心地よさが倍増してきた。
 こんな日々が続くのであれば、時に荒ぶる私の感情も落ち着くのではないか。
「ああ、気持ちいい風だ。ここのところ忙しかったせいか、このゆったりとした時間が心地良いな」
「ならば午睡でも取られたら? あれはあのままで大丈夫でしょう」
 その言葉が終わってすぐに、日射し除けの屋根と寝台が設置されていくる。
「そうだな、少し寝て。目が覚めたらもう一度遊んで……仕事に戻るか……」
 大きなあくびが出、私は寝台へと転がった。
 休憩は二時間までと言い切っていた有能な部下の顔がちらりと浮かんだが、奴隷の愛らしい姿を見ているとどうにも離れがたいのも確か。
 柔らかで寝心地の良い寝台は、もうその感触だけでも抗いがたい睡魔が襲ってくるし。
 どうやら存外に私は疲れていたようだ。
 そんな私の耳に届く声はまるで子守歌のようにすら聞こえて、従兄弟が一礼をして下がるのを手を振って応え、私は重いまぶたを下ろしたのだった。

【了】