【どしゃぶり注意報】  3

【どしゃぶり注意報】  3


「葉崎さん、大丈夫?」
 宮城は目前で突っ伏していた葉崎を揺すった。
 だが、ダウンしてしまった葉崎はちょっとやそっとでは目覚めそうになかった。
「3杯で駄目になるとはねえ……」
 どうしよう。
 ため息をつく。
 店に入る前に見かけた様子から、こういう場に馴れていなさそうに見えた。
 まして、緊張もしていたのだろう。宮城を見る目がひどく警戒していたし。
 ちょっとした悪戯心だった。
 財布を拾ったとき、時間がなかったのも事実だったが、その次の日の内に届けることも出来たのだ。だが、初めてあった時の慌てぶりが面白くて、もう一度逢いたいと思った。
 転んで立ち上がりながら照れ笑いしつつ、しかし自分を見た途端に走った怯えにも似たあの表情に魅入られた。
 自分が可笑しいと思ったけれど……。
 本当に……どうしてなんだろう……。
 確かに出かけたのは間違いなかったのだが……。帰ったのは昨日の事だった。
 だが、できれば金曜の夜に逢いたかった。金曜ならゆっくりできるのではないかとの打算。
 名刺に刷られた会社は知っていた。自分の会社がそこと取り引きしている。だから土曜が休みだと言うことも知っている。
 しかし、ここまで酒に弱いとは……。
 その肩をつんつんとつつく。
 一向に目覚めそうにない葉崎にため息が漏れる。
 もう少し、いろんな話をして、楽しもうと思ったのに……。
 どこか頼りなげな様子を見せる葉崎に興味をそそられた。もう少し、その中身を知りたいと思った。
 しかし、どうしよう。
 首を傾げ逡巡する。
 彼の住所を知らないし、このままタクシーに乗っけたとしても帰り着けるかどうか……。
「しようがないか……」
 ため息混じりの言葉を漏らし、宮城は葉崎をおんぶした。
 ぐったりとした彼の躰は力が入っていないのにも関わらず、意外に軽い。
 だが、その温もりを背に感じた途端、心臓が早鳴った。
 気のせいだと思いつつもその不快でない感覚に宮城は肩を竦める。
 ほんと……オレ、変なのかなあ……。
 店を出てからタクシーに乗る前までに通りすがりの人が笑うのが結構恥ずかしくて、何度か揺すってみるが一向に目覚めそうにない。
 ため息をつきながらも、それでも宮城の口元に笑みが浮かんでいた。 


 僅かな振動が伝わる。
 不規則に躰がもっていかれそうになって、慌てて傍らの物に縋り付いた。
 柔らかく暖かい感触が心地よい。布地らしい物をしっかりと掴んで葉崎は不安定な躰を支えていた。と、その躰にしっかりと力強い力が加わる。
 途端に不安定さがなくなり、ほっとする。
 気持ちいいや……。
 頭を撫でられる感触が伝わってきた。
「大丈夫?」
 誰かの声。
 知ってるのに思い出せない。
「うん……」
 思わず頷いていた。
 大丈夫だから……でも離さないで……。
 途端に込められた力に葉崎は強く抱き締めらたように感じた。
 それが心地良くて……すうっと深い眠りに落ちた。
 しばらくして、ふうっと意識が戻ってきた。
 ふんわりとした浮遊感。
 暖かい感触。
「よっと」
 誰かの声。
 途端に温かな温もりが消え、掴む物が無くなった。
「やだっ」
 手を差し伸べる間もなく、すとんと落下する。
 慌てて触れた物に縋りつく。
「おいっ」
 慌てるような声を無視して、葉崎はそれに縋り付いていた。落下の感覚はもう無くて、どこかに寝かされていると判る。
「おい……」
 呼びかけられて、うまく動かない瞼をこじ開ける。
 すぐ目前に知っている顔がある。
「み、やぎ…さん?」
「ああ、しっかりしろよ、この酔っぱらい」
 呆れたような声だけが耳に入る。
「ん……眠い……」
 襲ってくる睡魔に再び閉じようとした瞼。
「おいっ、寝る前にいい加減離せ」
「やだね……」
 躰の上で温もりが暴れる。それを離したくなくてぐっと手に力を込めた。
「お、おまえ……」
 狼狽えた声が面白くて、くすくすと笑う。
 何だろう、離したくない。
 この温もりを、離したくない。
「酔っぱらい……いい加減にしろ……」
 どこか力のない声が聞こえる。
「何でさ……」
 気持ちいいよなあ、これって……。
 暖かくて、ああ、心臓の音。
 すごく早いや。
 どくどくって、安心できる……。
「宮城さん……気持ちいい……」
「葉崎……」
 どこか辛そうな声が聞こえてきた。
「なんだよ……」
 閉じかけた瞼をなんとか持ち上げる。
「あんたさ、煽ってんの?」
「何?」
 きょとんと宮城を見上げる。
「あのさあ、こんな風に抱き付かれたら変な気分になるってこと」
「え?どうして……気持ちいいじゃん」
「だから!」
 切羽詰まった声が面白い。
「もっと……」
 途端にちっと宮城が舌打ちしたのが聞こえた。きつくしかめられた顔が剣呑さを増す。
「あんたが、煽ったんだからな……」
 え?
 と、柔らかなもので口を塞がれた。
 目の前にある宮城の顔。
 うっすらと開けられた目と合う。
 どきんと心臓が跳ねた。
 あ、ああ……何?
 ぬるっと口内に入ってきた感触が舌だと判る。
 頭の中にかかっていた霞が一気に吹き飛び、すっと意識が覚醒した。
 な、何でっ!
「んっ!んんっ!」
 慌てて跳ね避けようとしたが、がっしりとした体格の宮城に上から覆い被されて、葉崎は身動きすらできなかった。
 押しのけようとした舌が絡まり、暴れるせいで歯が当たりかちかちと音を立てる。
 がっしりと抱え込まれるように掴まれた頭に、深く合わされた口を外すこともできず、ただなすがままに受け入れるしかできなかった。
「ううっ……」
 喉から漏れる唸り声を宮城は完全に無視していた。
 ただ、貪るように葉崎の唇を味わっていた。
 どうして……。
 苦しさからその目元に涙が浮かぶ。
 どうして男に……。
 濃厚なまでのキスなのに、嫌悪感しかない。
 嫌で嫌で堪らない……それなのに……。
「んっ!」
 宮城の舌が上顎を擦り口の中を蹂躙する頃、下半身にずくんと痺れが伝わった。それに目を見張る。自らのモノを服の上から撫でられたのに気付いた葉崎は身震いをした。
 嫌で堪らないのに、下半身は明らかに反応している。
 何、これ……。
 下半身に煽られるように、今度は口内からも甘い疼きがじわじわと広がるのを自覚した。
 何で!
 混乱して、逆らおうとはするのだが、完璧に力負けしている。
 しかも、下半身に感じた頃から確実に薄れていく嫌悪感。
 ずきんと再度響いて膝から力が抜ける。
「……んふっ」
 思わず漏れた声の甘さが信じられない。だが、その声に宮城の動きがさらに激しくなった。
 頭にあった手が、葉崎の頬を辿り、首筋に下ろされる。
 指の腹でやんわりと辿られた途端、ぞわぞわと疼きが全身に飛散した。
「んあっ」
 思わず開かれた口の隙間から、どちらのともつかない唾液が溢れる。
 突っ張った躰が強く宮城に抱き締められた。
 腰の辺りに触れる硬い物。はっきりと判る性欲の塊を押しつけられて、葉崎の頭が混乱する。
 こいつは……。
 どうして……。
 宮城が唇を離し、そのまま葉崎の喉元に顔を埋めた。
 手はシャツの中に侵入し、肌を直接まさぐっている。
「あっ、やだっ!」
 上げた声は本能的なモノ。
 触れられた部分がひどく熱かった。感じたことのないその柔らかな刺激にきつく目を瞑り堪える。
 理性が止めろっと叫んでいるのに、声が出ない。いや出るのだが、その声は跳ねるように甘い喘ぎでしかなかった。息がとぎれとぎれになる。
 触れられる度に、躰が強ばり思うように動かない。
 宮城の絶え間ない愛撫が葉崎から逆らう気力を無くしていった。それほど宮城の愛撫は葉崎の感じるところを狙って責め立てていた。
 ああっ……。
 躰を襲う快感が脳髄まで痺れさせる。
「んあ……やあっ……」
 葉崎は他人に触れられることは初めてだった。女とも寝たことが無い。
 初めて他人に触れられているということが、より敏感に感じさせられる。触れられるだけで昂ぶる躰が信じられなく、そして翻弄させられた。
「な、んで……あっ……」
 だから、葉崎が漏らす喘ぎ声が、相手を煽るなんて事にも気付かない。我慢することなく漏れる声を押し殺すこともできない。
 その素直な反応に宮城は着実に葉崎のいい所を見つけては執拗にそこを嬲る。
「んあっ!いやあっ……」
 下半身にまともに響いた疼きにそれは嬌声となって喉から漏れた。
「嫌なのか?ここは嫌だとは言っていないのに」
 揶揄を含んだ声と共に触れられたそこは、スラックスの中で苦しい位に張りつめていた。
「んんっ…あぁ!」
 布地の上からそこをやんわりと揉まれ、無意識の内に首を振る。
「ふ〜ん、嫌なんだ」
 言葉と共に離された手が、今度は太股の内側を撫で上げた。
 いつの間にか開かれたシャツの下の肌着を捲り上げられ、胸の突起を舌で舐めあげられた。
「んくっ……」
 絶え間ない快感にその手がきつくシーツを握りしめる。
 どうして……。
 何度も頭の中に浮かぶ疑問。
 何故こうなったのか?
 なんで、こんなに気持ちいいのか?
 何で……逆らえないのか……。
 宮城のたくましい躰に包み込まれ、触れられることに嫌悪がまったくなくなっていた。
 オレ……酔ってるせいだよな……。
「んあぁ……はあっ……」
 だが、与えられる快楽の波に考えようとする思考はあっという間に消し飛んでいった。
 触れられないまどろっこしさに腰が勝手に動く。
 突き上げるようなその仕草に宮城がくつくつと喉を鳴らした。
「触って欲しい?」
 その言葉に葉崎は無意識の内に頷いていた。
「いいね、葉崎さんって素直で可愛い……」
 胸の上で囁かれ、その吐息がくすぐったく、そしてそれがさらに快感を煽る。
 スラックスのファスナーが下ろされ、中にするっと入ってきた手が葉崎のモノを掴む。
「んんっ!」
 さんざん煽られたそこは、限界まで昂ぶっていた。それは僅かな刺激ですら射精してしまいそうな程で、葉崎は必死になって堪えていた。
「達っていいよ」
 ずり上がってきた宮城が耳元で甘く囁く。
「んやっ……ああ……ダメっ……」
 しとどに濡れた先端を爪で弾かれた途端、限界を超えた快感が襲った。
「ああぁぁっ!!」
 喉からあられもない嬌声が漏れ、全身がびくびくと痙攣する。
 躰全体を襲う浮遊感にも似た気怠げな感覚に意識すら飲まれそうになる。
「溜まってたんだ……」
 宮城の揶揄する声もどこか遠くに聞こえる。
「……な、に……」
 虚ろな視線を宮城に向けると、噛みつくような口付けを返された。
 激しく蠢く舌を逆らう気力もなく受け入れる。
「んっ!」
 激しい愛撫に朦朧としていた葉崎。しかし、いきなりの異物感にびくんと躰を震わした。
「何!」
 見開いた視界の先にいる宮城が悪戯っぽく笑う。
「あんただけ、いい気持ちになるのってずるいだろ……欲しいんだ、だからさ」
 ぐぐっと奥まで抉られるその感覚にきつく仰け反る。突き出された胸を宮城がその舌で嬲った。
「やだ……やめろ……」
 ひどい違和感にきつく力を入れるが、そのせいで余計に異物感を感じてしまう。
「ねえ、知ってる?この辺にある前立腺っての……刺激するとさ」
 途端にずきんっとひどく激しい疼きが葉崎を襲った。
「はあっ!」
 仰け反った躰に口付けながら、葉崎の手がそこをさらにつつく。
 一度出して萎えかけていた葉崎のモノが一気に硬く起立する。
「な、何……あんっ……み…やぎ、さん……あ、オレ……」
 自分の躰の反応が信じられなくて、怯えた目を宮城に向ける葉崎。それがどんなに宮城を煽ることか。
「ここ、入れさせて貰うから」
 ねじ込まれた指でぐいっと広げられ、鋭い痛みが走る。
「痛っ!やだっ!」
 宮城の意図に気付いた葉崎は慌てて逃げようとするが、それを許す宮城ではなかった。その体格のよい躰でがっしりと葉崎を組み伏せると、その両足の間に躰をねじ込んだ。
「や、やめてっ……」
 葉崎の目尻から涙がこぼれ落ちる。それに気付いた宮城がぺろりとそれを舐め取った。
「いいなあ…その顔、オレ、我慢できないんだ……ごめんな」
 高く掲げられた足が痛くて身を捩ろうとした瞬間、指が抜けたそこに太く熱いモノがあてられた。
「ダメっ!」
 それが何か気付いた葉崎が必死で押しのけようとする、が。
「ああっ!」
 引き裂かれる痛みが全身を襲った。
 ずるずると押し込まれる巨大な異物。目の前で火花がスパークする。
「あっ……あぁぁっ……」
 悲鳴と共に吐き出された息が途切れることなく肺からほぼ全ての空気を吐き出してしまう。それでも新たな空気を取り入れることが出来なかった。
 躰の内側からのひどい圧迫感が葉崎の理性を飛ばす。
 閉じることの出来ない口から唾液が流れ落ちた。
「きつい……」
 宮城の方も予想以上のきつさに痛みを覚えて顔をしかめていた。
「葉崎さん……力、抜いてよ」
 呼びかけるが、葉崎の耳には届いていないようだ。宮城は仕方なく動きを止める、完全に萎えていた葉崎のモノをゆっくりと揉みほぐした。
「葉崎さん……葉崎さんってば……ここ、イイだろ。あんたのここ、いいって言ってるよ」
 苦痛に歪んでいる葉崎の顔を覗き込みながら、宮城は優しく語りかけた。
「ね、力抜いて……気持ちよくしてあげるよ……だから、ほら」
 徐々に葉崎のモノがいきり立ってくるに連れ、葉崎の表情が変化してきた。
 はふっと最後の息が漏れ、そして荒々しい呼吸が始まる。
 虚ろだった視線が、僅かに焦点を合わせた。
「みやぎ……さん……」
「ごめん、いきなり過ぎた?でも我慢できなかった……ほんと、あんたって可愛いから……」
 葉崎の手が目前の宮城に伸ばされる。
「んっ…み……やぎ…さん……はあっ……ああ」
 力無く掴まれた肩。宮城はその手を首に回させた。
「オレを抱き締めてて、大丈夫だから」
 その声に、葉崎は闇雲に手を伸ばし葉崎に縋った。
 異物感は激しかった。吐き出したい位の圧迫感もある。
 だが、宮城の言葉が葉崎を安心させる。
 回した手から伝わる体温が心地よいと思う。
 ぐぐっと躰に響くように入り込んでくる宮城のモノ。
「んくっ!」
 鋭い痛みが走った。
 きつく顔をしかめた葉崎に、宮城が優しくキスを落とすと、再度「ごめん」と呟いた。
 ここまで来て何が「ごめん」だろう……。可笑しくってくくと喉で嗤う。
 そんな葉崎に宮城が訝しげな視線を落とす。
「もう……いい……だから、…はやく…してくれ」
 同じ男だから判る……宮城が張りつめているのが判るから……。
 ここまで来て、こいつはきっと止めない。
 引き裂くような痛みを堪えるために、意識を無理に他に飛ばしている自分がいた。
 宮城を見、そして固く目を瞑る。
 もう、早く終わって欲しい……。
 葉崎の言葉に宮城が動き出した。
 その度に引き吊れるように痛むのを必死で堪える。
 だが、躰の奥にじわじわと疼く所がある。
 時折そこを突かれると、全身にひどく甘い疼きが飛散する。
「あっ……はあ……」
 気が付けば堪えようもない嬌声が口から漏れていた。
「…ああっ……ああっ……みや…ぎ……はあっ」
 ここにいるのは男だ……オレは男に抱かれている……。
 そんな事がふと脳裏に浮かんだ。
 だが、それがどうした……と、何かがその考えを蹴飛ばしてしまう。
「葉崎さん……あんた……いい……」
 宮城の上擦った声が聞こえる。
 その声に躰が熱く反応した。
 思わず力の入った躰にあの部分が締め付けられた宮城がびくんと大きく体を震わした。
「くっ!」
 びくびくと小刻みに躰を震わす宮城に、彼が達ったのだと気付く。
 途端に中から受けた刺激に絶えきれなくて、葉崎も自らを解放した。