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谷の奥底から急に引きずりあげられるような急上昇に胸焼けを伴う不快感に襲われる中、闇に刺す光が眩しくて、固く目を瞑り。
腕をかざそうとして、違和感に気がついた。
腕が……動かねぇ?
なんか……。
「う……うっ……」
重苦しい違和感に呻き、薄く目を開ければ、違和感が増していく。
頭が、まぶたが重い。ぼんやりとした意識の中、それでも疑問を回収したいと口が動いた。
「あ……な、に……?」
覗き込んでいる人達、たぶん……中年の……親父……達。
覗き込んで……、嗤ってる?
「ようこそ、我々のパーティー会場へ」
理解できぬ言葉に不審さが増して左右を見渡してみれば、見えるのは親父達の足に床を埋め尽くすシート。その向こうにあるのは豪華な暖炉をもしたストーブ……。
床に寝っ転がってると知覚するより早く、天井へと目を向けて、ずいぶんと高い位置にあるそこに鎖と滑車、たくさんのレールがあって。
腕を動かそうとしたら、チャラチャラと金属音を立てて、その鎖が揺らいだ。
「な……に、これ……?」
仰け反るようにして頭上を見やれば、手首が両方ともに黒の艶光りしているものに覆われた上に、互いが短い鎖で繋がれていて、そこから伸びた鎖が滑車へと伸びていた。その上にある複数の滑車からは鎖が下に伸びていて、その先は親父達の手の中だ。
なんか……。
はっきりしてきた意識が、底知れぬ恐怖をも呼び起こした。
目覚めの不快さなどもう消えていて、悪寒とともに冷や汗が流れる。
ニヤけている親父達も気持ち悪い。
「なんで……こんな……」
口元が戦慄き、言葉が震える。
「君が良い子でいるならば外しても良いけどね」
スーツが弾けそうなほどにぶよぶよと太った男がその手の中にある鎖の端を見せながら話しかけてきた。
「だが、その格好も似合うよ」
そいつと、眼鏡と、口ひげのみんな40から50位の親父達。
なんだか、イヤだ。
恐怖に生理的嫌悪感も加わって、小刻みに震えながら少しでも離れようと足を動かして、不意に気がついた。
「な、んで……俺、裸……」
見えた異常に気を取られて、別の異常に気がつかなかった。
触れる背中が直接とらえた感覚は、床に敷かれたブルーシートのものだった。
それに、足にも手首と同じような革枷があって、鎖が天井に伸びていた。足を動かせば、頭上と同じように音が響く。
ああ……ソファの上で丸まっているのは、あの人が用意してくれた俺のスーツだ。
そうだ、俺はあのスーツを着て、あの人の別荘に行って。
そこで、お客様を迎える準備をするはずで……。
「どう、して……、ここはどこだよっ?」
ただ、途中ですごく眠くなって、疲れたからかなと思って一眠りしようと……したはずだったけど。
絨毯みたいに重そうなカーテンの間から垣間見えた窓の外はもう真っ暗のようで、少なくとも別荘についていてもおかしくない時間だ。
だったら、車は?
運転手は?
「ここ? この場所、聞いていないかい?」
肥満親父が嗤う。
馬鹿にしたように、文字通り上から見下して、嗤ってる。
「君を運んだ運転手は、ちゃんと君が知っている通りの目的地に届けてくれている。そう、君は私たちの相手をするためにここに派遣されてきたはずだよ」
「だっ……そんな……ちが……」
「違わない。ここが君の目的地の別荘で、君が会う客は私たちだからね」
「う、そだ……だったら、なんで……こんな……」
全裸で、拘束されてるこんな状態にならなければならいなんだ?
どうして……。
こんな……唯一、ペニスバンドだけが残っているような。
こいつらが何をしたいか、なんて……バカでも想像できることで……。
「ああ、嫌がるのを脱がせるのも一興かと思ったんだけどね、繋ぐと脱がせないし、結局邪魔になるからもう脱がしたのさ」
「だからって……お客様の対応、するって……それだけを聞いて……」
彼は、そう言っていた。そのために、俺は急いでここに送られてきただけで、こんなことすることなんて聞いていない。
なのに、肥満親父は楽しそうに言い放った。
「うんうん、正しいな。君は私達が望むままに、私たちの望みを叶えるんだよ。その淫乱な身体でね」
楽しそうに、イヤらしく顔を歪めて嗤いながら。
視線が肌を這い、沸き起こる恐怖と悪寒に、全身が総毛立つ。
「う、そ……嘘だっ、あの人がそんなこと俺にさせる訳無いっ! こんなの嘘だっ!!」
信じられなくて、枷から逃れようと闇雲に身体を捻り、暴れる。
「嘘、嘘だっ、ちくしょう、離せっ、離せよっ!!」
ガチャガチャと激しい金属の擦過音が激しく鳴り響き、三本の鎖が揺れていたけれど、滑車から外れる気配はなく、鎖が緩むことも無かった。
「やっぱり繋いで正解だったな」
「暴れん坊は好きだな。喚きながら突っ込まれてヒイヒイ懇願するのが良いんだ」
「可愛いペニスが暴れる様子もじっくりと堪能できるし」
けれど、三人は俺のあがきなど無視して、口々に好き勝手に言う。
「こんなの……あの人が知ったら……、くそっ……絶対にあの人が気付いて、助けに来てくれるっ!!」
こんな馬鹿なこと、ある訳が無い。あの人が許すわけ無い。
けれど、必死になる俺に、眼鏡親父が耳元に口を寄せてとんでもないことを言い出した。
「ああ……君の言うあの人って……彼のことだと思うけど……。でも、彼は君を捜さないよ。なぜなら、君は逃げたしたことになっているからね」
本当に良く知っていると、デブ親父が言った。
「私達もあの人にはお世話になっていてね。ああ、君は知らないこともたくさん知っているほどに、深いつきあいだから、彼のことは良く知ってるよ。君を可愛がっていたこともね」
「何、を……」
「あのね、彼の秘書を知っているだろう。その秘書君がね、私たちに君を売ったんだ」
「え、あ? あいつが……?」
とたん、脳裏にここへ行くように言った彼の姿が浮かんだ。
何であいつが?
何でそんなことを?
あまりのことに動きが止まった俺に、眼鏡が言葉を継いだ。
「浅ましい淫乱になった君は、彼にふさわしくない、と。だからここに来た後、君は書き置きを残して失踪したことになっててね。さっき彼に直接聞いてみたけどねぇ、自分の意思で逃げたのなら放っておきなさいって言ったらしいから、捜すってことはないと思うがね」
「そ、そんな……ばかなっ、そんなこと、あの人が言うわけ無いっ」
「おやおや。でも、私たちも彼のことはよく知っているけど。そう、彼は優しい人だったろう? 君を救いあげ、優しく慈しんでくれただろう? そういう人だから、君が丁寧なお礼とともに、自分のできることを探すから捜さないで欲しい、成長できたら戻ってきます、と言われたら捜さない人だよ」
そんな……。
そんなこと信じたくないけど。だけど、あの人がそういう優しさを持っているっていうことも知っていて。
見開いた瞳が、眼鏡親父から外せない。
「まあ、あの秘書君が用意周到にいろいろ下準備していたから、疑いはしないだろう、誰も」
あの……秘書が、こんなことを企てたなんて……。
俺を嵌めて……逃げたしたように思わせるなんて……。
親父達の言葉が、ぐるぐると頭の中に広がり、支配していく。
「だから、君は私たちのモノって訳」
「さ、触んなっ!」
胸を、乳首を避けるように撫でる指の温さに怖気が走った。
なんだろう……こいつらのやることなすこと悪寒が走って、気持ち悪くて堪らない。あの人なら、天国に駆け上がれるくらいにハッピーな気分なのに。
「ああ、これは噂に違わず感度の良さそうな身体だねぇ、楽しみだ」
なのに、逃れようと身を捩っても、イヤらしい動きをする手に、ジワリと良く知った疼きが生まれ出る。
「ま、逃げられるもんなら逃げて、彼の元に戻ってみれば良いよ。ま、逃げられるならね」
「ひっ!」
滑車が音を立てて回転し、鎖に右足が引きずりあげられ高く掲げられてしまう。その足を、ひげ親父が掴んでべろりと舐めてきて。
「いあっぁぁっ!、ひいぃぃ」
ナメクジが這っているような感触に嫌悪感が増し暴れたけれど、今度は左足まで上げられ、さらに左右に大きく割り開かれる。
どんなに堪えようとしても、滑車を動かすモーターは強く、天井のレールを動くそれを止められない。
「いやって言っても、ずいぶんと感じているじゃないか」
そいつが指さしたのは、晒しものになった俺のチンポだった。
唯一身につけたままのペニスバンドに締め付けられているというのに、それがボンレスハムのように太っていく。
分厚い舌が、涎でべたべたにしながら、足先まで舐め上げていくのは、たいそう気持ち悪くて悪寒しか沸いていないはずなのに。
自分のチンポを目にして、自分の中に確かに衝動があるのを自覚して頭を振る。悪寒は確かにあるのに、舌が肌を這う度に、ぞくりと背筋が震えた。なのに。
「ちがう、これ──っ、見るなっ! くそっ」
手枷の向こうで強く手を握り締め、悪寒も、中にある快感も、全てに堪える。
何も見せたくなかった。
何も、こんな奴らに晒して、喜ばせたくなかった。
それもこれもっ!
「っくしょっ!!、ああっ、逃げる、逃げてやるっ、あんた達からもっ、絶対にあの人の元に戻るんだっ、んで、あのくそ野郎をぶっ飛ばして追い出してやるっ!!」
あんな腹黒い野郎なんて許さない。あの人の傍にいることだって許さないっ!!
絶対にあの人の元に戻ってやるっ!あの人の傍にいるのは、俺なんだからっ!!
「元気だね」
「その元気がいつまで続くか、こうご期待つてところかな」
「ああ、楽しみ」
親父達が舌なめずりしながら、俺を見下ろしているのをきつく見返して、俺はなんとか枷から抜け出そうと再び暴れ出した。
「くっ、くそっ!!」
けど、腹立つくらい革の枷はしっかりとしたもので、俺が少々暴れたくらいじゃビクリともしない。それどころか。
「や、やめっ! わぁっ!」
今度は手首を引っ張られて、肩が浮く寸前で止まる。
足もより拡げられ、身体へと引き寄せられて。
勃起したチンポどころか穴まで丸見えで、その浅ましい姿に羞恥のあまりに泣きたくなる。
「っくしょう……」
剥き出しの股間が大きく割り広げられて、すべてが晒され、背中の辺りだけが床に付いているような態勢では力がまともに入らなくて、よけいに逃れる術など無くて。
「可愛いハムがある」
先を弾かれ、浅ましく喘ぎそうになって歯を食い縛る。
どうして、こんなに感じてしまうのか。
いくらあの人に可愛がって貰っていた身体だからって、なんでこんな親父にまで感じなきゃいけないのか……。
自分が情けなくて、目尻が濡れてくる。
しかも、しつこく足先を舐めるひげ親父のそれからの快感が消せないのもイヤだった。
「こいつは外すのに鍵がいるが、鍵は?」
眼鏡がまじまじと至近距離でそのペニスのロック部を見てて、ふと気がついたように言う。それに、デブ親父が肩をすくめて。
「さあね」
と言い放ったその言葉に、俺はあることに気がついて、さあっと血の気が失せた。
「ああ……そういうことか」
同じことにこいつらも気がついたようで。
「これは楽しめるな」
喉を鳴らす音に、なけなしの反抗心が消えていく。
鍵は……ない。
あいつから、受け取っていなかった。あいつが、鞄か服に入れていなかったら……いや……絶対に無い。
だったら切れば良いのだけど、でも、こいつらがそんなことをする訳が無くて。
「おや、おとなしくなった。ダメだよ、もっと張り切って逆らってくれないと」
残念そうなつぶやきの割に満面の笑みが視界に入り、蒼白になった唇が震えた。
どんなに嫌でも、弱点を知られた相手の行為に、俺の反抗心を潰すことなど、たいそう簡単なことだった。
俺は、痛みよりも快感に弱い。
あの人もずっとそう言っていた。
我慢がきかなくなるのがすごく早いって言っていた。
だから、俺の躾はもっぱら快感地獄だ。
あの人を怒らせたときは、拘束された状態でバイブを付けられて、射精できぬようにされて放置された。
勃起したチンポをたっぷりと銜えられた後にオナホールに突っ込まれて、アナルには前立腺をヒットするようにずっとバイブが押し当てられ、乳首に巻かれたテグスは強く張られた状態で足先に付けられて、絶えず刺激した状態で何時間も、だ。
その頃には、バイブを挿れられただけでも簡単に達けるほどに敏感になっていた身体は、達きたいのに達けない状態で。
そんな状態で数時間放置されれば、途中から頭の中を何度も真っ白に弾けさせ、達きたいと大声で喚きながら腰を突き上げてしまっていた。
結局、終わらない快感はたいそう苦しくて、俺は泣き喚きながら這い蹲り謝罪した。
だって、こんなの堪えられない。
こんなに、何時間も……時間の感覚すら分からなくなるほどに、ずっと快感ばかりを与えられて。
歯を食いしばっても、敏感な脇腹や首筋を舌で嬲られて、零れる嬌声に勝手に口が緩む。
神経を逆なでするがごとく、前立腺をバイブが揺らして、腹の奥に堪ったマグマを狂わせる。
乳首に吸い付かれては、噛みつかれ、疼きはますます増して、下腹の快感と入り交じる。
「ひぃ、あっぁぁ、やぁ……、あぁ」
親父達は俺を追い詰めるのが巧かった。
敏感な肌も、乳首もチンポも、こいつらにとっては楽しい遊び道具のようで、壊れた玩具のように痙攣する俺を、追い詰めて嗤っている。
「形の良い足だねぇ。オーガズムの度に爪先までピンと伸びて、綺麗に震えている。まるで断末魔のダンスのようだ」
「真っ赤で大きな乳首がイイね。もうちょっと育ったら、おっぱいが出るかもな。それまで、ずっと吸い付いていてあげよう」
「この可愛いハムももっと熟成してあげようね。ほら、ぴくぴく震えて可愛いもんだ」
勝手なことを言い続け、痙攣して止まらぬ俺のアナルのバイブをぐりぐり動かし続ける。
もう何度ドライオーガズムを迎えたことだろう?
滾りきった体内の解放されないそれが、その度に渦巻いて、意識も、理性も奪っていく。
「ふるふる震えて、可愛いここから、なんか粘っこいのが出てるけど?」
「ああ、おしっこじゃないねぇ、なんだろうねぇ、これは?」
「い、やぁぁ、触んなぁ、……あぁぁっ」
亀頭を手のひらで激しく擦られて、目の奥で星が瞬く。
背筋を駆け上がる衝撃に激しく仰け反り、つられた手足の鎖を揺らしながら悶えた。
親父達は、徹底的だった。
俺を達かせてることに熱心だった。
俺の身体の弱いところはすぐに暴かれて、そこばかりを刺激されてしまって。
ひいひいと喘ぎ、全身で悶える俺を見下ろして、嗤いながらもその手を止めない。
「も、やだぁ、もうっ、ああっ、またぁぁっ! 達き……やぁぁっ」
続け様の衝動に息が切れる。
全身は汗で濡れそぼり、溢れた体液がシートに落ちて背中を濡らした。
苦しかった。
呼吸も、心臓も、食い込むペニスも、吸われ続けて赤く腫れた乳首も、どこもかしこも。
なのに、快感は止まらない。
「や……たすけ……て……、おねが……も、無理……」
吊られ続けた手足が痺れたように感覚が無く、けれど付け根辺りがズキズキと痛んでいた。
濡れて揺らぐ視界に入る指先が、白い。
「手、外し……て……いた……」
血の気が通っていないそれに、反抗心も消え失せて、泣きながら訴える。
「だめ、にな……手……足……逃げないから……」
何度も何度も、嬌声で掠れた声で訴えて。
「ん……ああ、ほんとだ。手足が冷たくて……血が通ってないみたいだね」
「ああ、そうか。そろそろ外さないと壊死してしまうかもなぁ」
口ひげ親父の言葉に、デブ親父が頷いて。
「だったら、自分から挿れてくださいってお願いしてごらん」
その指先が触れたのは、バイブを銜えているアナルの縁で。
「この貪欲で淫乱なお口に、太くて硬いおチンポ様をください……って」
「そ、れ……は……あっ、ひぃぃっ!」
そんな言葉が言えるわけも無いと口を噤むけれど。
滑車が回って、さらに手足が引っ張られて。
「い、痛っ、千切れるって、あぁぁっ」
背中の一部だけが付くほどに手足が引き寄せられて高く掲げられて、痛みに呻く。
「言わないなら、もっと上げようか。そしたら、きっと関節が外れてしまうけどねぇ。君の体重で。どうする?」
「あ、あっ……」
ぎりぎりと肩と股関節がきしむ。互いが無理に引き寄せられて、もはや手足が前後に交差していた。
そんなに身体が柔らかくないせいで、もう腰も背中も痛い。
「やあ……ゆるして……ぇ……あぁ」
「ほら早く。どう言ったらいいんだっけ?」
残酷な言葉を、親父達は終始嗤って促していた。
吊された俺は親父達のただの獲物だと、反抗も拒絶も許されるはずもないモノなのだと、その目が言っている。
だけど……。
「だ、だって……俺……知らない……、そんなの、入らない……、そんな……」
親父達のそれは、皆俺なんかよりどれも太くて大きくて。
歪に瘤が出ているのもあって。
「ああ、そうか。君は処女だったねぇ。お尻に突っ込まれて簡単に達っちゃう淫乱な雌ブタのくせして、ここはまだ綺麗なままなんだっけ」
何もかも伝わっているのだろう。
デブ親父の言葉を、残り二人も驚きもせずに受け入れていた。
そう、俺はまだそこで生のペニスを受け入れたことは無い。
あの人に愛撫されている時も、ずっと俺のモノより細みのバイブが入っていただけなのだ。
あの人は、俺がもっと良い子になったら、抱いてくれるって言ってたから。
そこが太いものでも受け入れられるようになったら、って言っていたから。
だから、俺はまだ知らないのだ。
なのに。
「大丈夫、挿るよ。けどねぇ、君があんまり焦らすと、私たちも我慢できなくなって、三人でいっぺんに挿れてしまうかもねぇ」
「え……」
三人でいっぺん……?
驚愕に見開いた俺の視界に、三本が近づく。
移動して、俺の股間の方へと、それが寄ってきて。
「ちょっと裂けるかもしれないけど、でも君が焦らすからさあ」
三本合わさると俺の腕よりはるかに太くなるそれに、俺は息を飲み──そして。
「あ、い、挿れてぇぇっ、一つずつでっ、お、俺の淫乱な口に、あ、挿れて、くださいっ、太くて、硬いっ……ああ、でも、一本ずつで、お願い、お願いしますっ!!」
最後は絶叫のように俺は懇願していた。
一本でも太いのに、あんなのが三本も。だったら、一本の方が良いって、だから。
「そんなに欲しい」
「欲しっ、ああ、挿れて、あ、硬いの、太いチンポ、ああ、挿れてくださいっ」
狂ったように、言いつのった俺のアナルから、バイブが抜ける。
「そんなにいうなら上げようかなあ、ふふ」
デブ親父のでっぷりとした腹が近づいてきて。
「ほら、いただきますって。美味しく食べるための最初の挨拶だよ、ほら」
もう俺の理性なんてどこかに吹っ飛んでいる状態だった。
「い、いただき、ます……。ああ、ください……それ……」
早く、早くしないと……。
そればっかりが頭にあった。
「ん、そんなに強請られたら、私も我慢できないねえ」
「う、あ、ぁぁっ、あっ、あっ、ぁぁっ」
ぐいぐいと狭い肉穴を、それが入っていく。
のけぞり、痛みと中をごりごりとすられる快感に、悲鳴が喉を裂いて。
見開いた視界の中で、手足が下ろされていくのだけは確認したけれど。
「あ、あぁぁ、あぁっ!、そこぉ、やっっぁ! 達くぅぅっ!」
すぐに始まった激しい抽挿に、もう視界は真っ白に弾け、何も入ってこない。
全身が膨れ上がった快感に爆発していた。
痛みは消え、全てが快楽の中に引きずり込まれている。
「んあぁ、ひぃぃっ、すごぉぉっ、ああっ、やぁぁ!」
どうして?
なんで、こんなに良いんだ?
訳も判らぬうちに奔流に飲み込まれ、与えられる衝撃は果てが無い。
立て続けの絶頂に茹だり、脳細胞が蕩けきった頭では、もうもたらされる快感以外を受け入れない。そのせいで、親父達の言葉ももう耳に入っていなくて。
「ほぉら追加のお薬だよ。もっともっと気持ちよくなって、美味しいモノ欲しくて堪らなくなって……このお薬が無いとダメになるくらいにね」
「おや、それは最近出た例のドラッグですか? 飲んで犯られると瞬く間に達き続けるという」
「ええ、最高の快楽が得られるセックスドラッグには間違いありませんな。ただ、使いすぎるとこの薬を飲まないと達けない身体になるという噂もありますな。どんなに快感を得ても、絶頂にまで至らなくなって、いつまでも満足できない身体になるとか。まあ、それが本当かどうか……あくまで噂ですが」
「だったら、この子で試してみましょうよ」
そんな会話など、理解できるはずもなく。
とろりと口の中に入ってきた甘い液体を、何の躊躇いもなく飲み込んだ。
「ん、んんっ、ああっ、イイぃよおっ、あぁはっ、ああ、もっとお、もっとお!」
「ひぃぃぃっ、やあっ! 弾けるっ、ひぃぃっ、ああぁっっ!」
「ああ、もっと……、もっとください……ああっ……イぃっ、もっとおっっ!!」
「ああ、これは確かに良い締め付けだ。こりゃ、絶品だよ」
「そりゃ、剣持氏がぜひ味わってくれっていったくらいだ。最高のメス奴隷で当たり前だ」
「こりゃ、当分楽しめそうだな、ん、君の館の地下で飼おうよ」
「お、イいのかい。私のとこで?」
「勝手知ったるってね。あそこはココ以上にいろいろ揃ってし、気兼ねなく楽しめるし」
「同感だ。剣持氏のあの地下の奴隷小屋を置けば、君のあそこは設備では最高級じゃないか」
「ひっ、あっ……ぁぁっ、また、ぁぁ、イク、イクうぅ、ああっ、ひぃぃぃ」
「私はこの子が君のセックス狂の奴隷に何日も遊ばれるのが見てみたいよ。あれは元気かい?」
「ああ、元気さ。穴さえあれば突っ込んで腰振ってるよ。犬でも豚でもねぇ。この前、あのデカマラをまた太らせたから今や私の腕並さ。で、なかなか良い穴が無くてね。この子のは良さそうだ」
眼鏡の男は人体改造が趣味で薬にも造形が深かった。
彼の手にかかり、要望通りにカスタマイズされた身体で、海外の好事家達に売られた奴隷も多い。
「だったら、その間に私はこのきれいな背中に私たちの所有物の証を入れよう」
美術家で、入れ墨やタトゥーデザインに長けている口ひげの男が言って、うっとりと滑らかな双丘に舌を這わせる。
犯されている奴隷にも、素早くタトゥをいれる手腕は見事なモノで、それをショーにすることも多い。
「では、私はこの子のために素敵なアクセサリーをたくさん準備しよう。この熟したチェリーのようなここには、繊細なシルバーピアスでたっぷりと飾り付けると良いと思うんだ」
多数の会社を持ち、裏社会とも繋がりのある、たいそうな資産家であるデブの館の地下には、家畜のように飼われている奴隷達が多くいた。
「いまのうちに、もっとピアス穴を開けておこうか」
その言葉に、さっそく、前準備の穴を開けようと、ニードルが準備された。
山奥深くにあるその別荘からの泣き喚く悲鳴が聞こえたのは、それからすぐのことで。
それから一週間、ずっと灯りが絶えることが無かった別荘からは、同じく淫靡で聞く者を欲情させるような嬌声がずっと続いていた。
そんな別荘がようやく静まりかえった一時間後、別の車がその庭に入っていった。
その車の、運転席から降り立ったのは、みなに”あの人”と呼ばれていた男、剣持孝夫だ。
その手が、後部座席に結わえていた赤と黒の組紐でできた大型犬用のリードを解き、引っ張った。
「くぅっ」
と、毛布を被っていた塊が、蠢き、小さく鳴いて、這いだしてきた。
ヨロヨロとふらつきながらステップを這い降りて、古い落ち葉が敷き詰められたら地面に降りると、それは剣持の足元にうずくまった。
甘えるように寄り添い、けれど良く躾られた通りに、その頬がスラックスの布に触れる程度までだ。
「先ほど、とても気に入った、というメールが入っていたからね。ずいぶんと遊んでくれたようだが、中の様子はどうかな?」
一人呟き、剣持は足を動かした。知らず引っ張るリードに、うずくまっていたそれも身体を起こして、ふらふらと覚束ない足取りで歩を進める。
ブルリとその身体が震えたのは、車内と外気の温度差を味わったせいか、どこか元気のない黒いフサフサの尻尾が足の間で揺れている。
広い前庭は、駐車用スペース以外は木立をそのまま残したもので、奥にある別荘を隠している。
少し迂回して辺りの様子を確認してから、剣持は玄関前のステップを上がった。
その拍子に、グイッと上へと引っ張られて、遅れ気味だった身体が引き上げられる。
「早くおいで」
その声音に苛つきを感じ取ったのか、慌てて足元に駆け寄って。
ドアが開くのを緊張したように見つめている。
促されるままに足を進めて入った途端、ゴクリと喉が鳴った。
「ほ、お……」
剣持も目を見開き、呆れたように唸る。
「ずいぶんと、楽しんでくれたようだ」
帰るときは放っといてくれればよいといつも言っているが、ここまで痕跡が激しいのは初めてだ。
ホールにあちこちに残された粘液の痕に、引きずられたようなそれは土汚れがあるから、外から戻ってきたものだろう。
階段の柵から垂れ下がる綱に、金属環の下の液溜まりは大きい。
吹き抜けの高い天井に届きそうなほどの高い位置まで伸びた脚立のてっぺんに立った床固定式の太い張形は、凶悪的なサイズだ。
ぐらつくそれの上で咥えたのか、明るい照明に汚れが反射していた。
リビングルームに入ればそれはさらに酷くて。
その場の惨状に、剣持は呆れていたけれど、足元でガクガクと身体が震えているのが見なくても伝わった。
「思い出さないか、あの素晴らしい日々を? ここに運び込んだ物の中には、あそこで使った物がたくさんあるからね。セイジも使った物がたくさんあるはずだよ」
言葉とともにグイッとリードを引っ張れば、ガクガクと震えながらも頷き返してくる。だが、微妙に視線をずらしているのが気に入らず、足を上げて尻尾の横を蹴り上げた。
「ぐ、ひぃっ!」
出発直前に出したものらしい乾ききらぬ粘液の中に顔を突っ込んで崩れたその白い尻の靴先の痕が赤い。
フラリと尻尾が揺れて剥き出しの肌を嬲り、赤いミミズ腫れの残る背がピクリと震え、振り返って怯えた瞳が剣持を見やる。
その面立ちは、彼の秘書であるあの青年、杉埜誠二だった。
普段からスーツを着込んでいた彼が、今や全裸に首輪、そしてアナルを深く穿つバイブ付きの尻尾という姿で、剣持に従っていたのだ。
俯せから身体を起こそうとする彼の尾てい骨の上辺りに、デザインされたタトゥーが刻み込まれていた。
剣持はその傍らに跪き、そのタトゥーの上へと指先を滑らせる。
それは、部分的にまだ入れられたばかりのようで、腫れが残っているため、誠二の顔に怯えが走った。
「だいぶ落ち着いてきたようだね、よく似合うよ」
剣持の奴隷である証に追加して加えられたのは、一つのオスのマークに絡む複数のオスのマークだ。
それは剣持が参加しているグループで使用されているマークで、浮気をした奴隷につけられる物だ。
それはまた、主人の怒りを表すものの一つでもあった。
いくつかあるそれらのマークをつけられた奴隷は、レベルが下がる。
レベルが低くなるほど、主人のその奴隷への扱いが酷くなるのが普通だ。それを他に知らしめるためのマークでもあり、そのように扱うべき奴隷と周知させる目的もあった。それに主人が飽きた後の売値は下がり、買われた先では消耗品のように扱われて壊されてしまうのだ。
それを付けられると知った誠二は泣いて、頭を擦り付けて懇願したが、聞き入れるつもりなどない剣持は、冷酷にそのマークを刻ませた。
「二度と逆らわないよね、セイジ」
「は、はい、絶対に」
四つん這いで剣持の足元に擦りより、自分を蹴った靴先に口付ける。
「そう、じゃあ、そうだね。あそこに転がってる容器をあっちの隅に積み上げて。このままだとうっかり踏みそうだ」
「は、い」
示された容器に視線をやって、誠二は顔色を変えてはいたものの、おとなしく頷いた。
すぐに踵を返して這いながらそれに近づいて、口で咥える。
手を使うことを一切禁止された誠二にできることはそうやって咥えることだけだ。
容器はすべて空だから、咥えることに苦労はない。
だが、零れた中の液体が表面にも付いていて、咥えた拍子にそれが口内に入ってしまう。
「ダラダラ涎を垂らすんじゃない」
涎で口内のそれを流し出そうという姑息な手段を取る誠二を叱咤して、剣持はしばらくその様子を眺めていた。
と同時にポケットから手のひらサイズのリモコンを取り出して。
誠二の身体がよろよろよろめきかがんだとき、カチリとスイッチを入れた途端、その尻から生えている黒いふさふさの尾がふるふるっと震え出す。
「あっ、うっ……」
くわえていた容器がカラカラと転がっていき、誠二がその場に蹲った。
その間も、尾はふるりふるりと揺れ動き、その度に誠二の身体はびくびくと大きく痙攣した。
「ほら、はやくしないさい」
剣持が手の中のリードとリモコンを弄びながら、退屈げに促す。
「は、はい……」
促されるままによろよろと起ちあがった誠二の尾はまだ揺れていた。
それが、リモコンをカチカチと動かす度に、左右、上下と揺れており、そのたびに誠二が悩ましげに眉根を寄せ、熱い吐息を零した。
特注の尻尾付バイブは抜けないように中でバルーンで膨らんでいるから、誠二がどんな動きをしてもずれること無く、もっとも敏感なところを突き上げていた。
さらに、女の乳首並みに膨らんだそれには、銀色に光るピアスが何連もほどこされており、ペニスにも先端にリングピアスが覗いていた。
そのピアスからたらりと粘液が零れているほどに、誠二のペニスは勃起して快感に震えているのだ。
そんな誠二は、手を使わずに口でくわえて物を運んでいるから、一つのことに時間がかかっていた。
「まあ、だいたいで良いだろう。そろそろ、業者も来るだろうし……」
ふむ、と邪魔な容器だけを避けさせた剣持は、誠二のリードをぐいっと引っ張った。
「んあっ……」
「よし、業者が来る間は、散歩に行こう」
「あ……」
引っ張られて、よろよろと付いていく誠二の視線はもはや定まっていなかった。
すでに自宅からここまでずっとバイブで微弱に煽られ続けた身体はもう限界だ。しかも、長時間保つ媚薬も使われていて、身体が熱く疼きっぱなし、その上、さっきの容器に付着していた媚薬まで飲んでしまっていた。
その熟れた裸のままで外に連れ出され、裸足で森の中へと連れ込まれる。
遠く、車の音がするのがこの手のための専用の清掃業者の車だろう。
ぎりぎり人目にさらされなかったのだと気付く猶予も無く、歩かされて。
「あ、んっ……あ、はぁ……」
疼く身体を堪えるように歩くせいで尻尾が右へ左へと揺れる。
陽光に照らされたピアスが妖しい輝きを放ち、白い肌に淫らな影を作っていた。
「あの子は、ずいぶんと気に入ってもらえたようだ」
ふと呟いた剣持の言葉に、誠二がびくりと震えた。
一瞬正気に戻ったかのように怯えた様子を見せて、けれど、何も言わずに目を伏せる。
「ふふ、気にならないのかい? あの子の毎日の食事に麻薬入りの薬を混ぜ、常に部屋にも特製の香を炊き込めて、薬漬けにした君なのに。それが切れたらどうなるか、君が一番よく知っているだろう?」
ぐいっとリードを引っ張られ、がくがくと震える誠二を、剣持が腕の中に抱き込んだ。
「こんなふうに、触れられただけで達きそうになるほどの身体になって、男無しではいられなくなるんだよね。まあ、身を持って体験してる君なら言われるまでもないか」
「あひっ、んぁ」
乳首のピアスを弾かれ、喉を晒して身悶える。
「あの子は4ヶ月ほどだったけれど、君は一年間ずっとあの薬を服用したから、薬を絶ってももう戻らないものね。と言っても、あの子ももう元の暮らしは無理だろうねえ、あの三人の手にかかって、色狂いに落ちなかったのはいないから。あの部屋の様子だと、徹底的に快楽を与えられたようだし……。ああ、そうだ。あのペニスバンドの鍵は持っていないと伝えておいたからね。ふふ、あれ、間に鋼のバネ板が入っているからハサミなんかじゃきれないし、勃起してたら工具が入らないからねぇ。でも、勃起して無いときってあるのかね」
耳朶に囁きかけて、喉を乳首を、そして服越しに腰を押しつてやれば、誠二の喉から甘い嬌声が漏れた。
「それにしても、私の言いつけを守ってうまくあの子を送り出したのは良かったけど、もう少しでばらしそうになったって聞いた時には、ほんとうに腹が立ったからね」
誠二の行動は、部屋にいる時は監視カメラで、外に出かけていても服に隠された首輪についている盗聴器で監視されていたのだ。
それもこれも剣持が、今もっとも大切にしている奴隷の誠二が、他の男に目を付けられないようにだ。
だから、あれの世話をさせるときも、必要不可欠なとき以外は会話させないようにしたし、触れることも最小限にさせた。
剣持の嫉妬深さは、知る人ぞ知るだ。
今のそれはすべて誠二に向いている。
誰よりも大切にしている誠二だからこその対応だったが、その盗聴器が拾ったかすかな言葉に、剣持は激怒した。
可愛い大切な誠二だからこそ、許せないものだったのだ。
これで本当にせっかく調教したあれが逃げていたならば、今頃誠二の手足は切り落とされ、別宅の地下室に監禁してしまっていたことだろう。
ただ、誠二が思いとどまったことも判っているから、この程度の仕置きで済んでいる。
あの日からずっと、誠二をこの格好のまま犬として飼っていた。
二足歩行は許可したが、それ以外は犬のように這いつくばって餌を喰わせ、ベランダに置いたペットシーツでのみ排泄をさせた。それもすべて申告させ、許可したときだった。
散歩の時も例外なく裸で、車で少し離れたところで外に出て、四つん這いで一周し、排泄をさせている。
言葉は最低限の返事を残して封じ、気まぐれにいろいろなアクセサリーで身体を飾られ、良い子であったときだけ褒美に犯してやった。
「可愛いよ、誠二。ほら、きゃんきゃん鳴いてごらん。上手に鳴けたら、おいしいおやつをあげるよ」
その言葉に、誠二はその場に蹲り、尻を高く掲げて顔を上げながら鳴く。
「きゃん、きゃんっ、きゃん、きゃんっ」
「ああ、良い子だ」
すっかり柔順になった子に、剣持はその頭を撫でてやって。
おもむろにスラックスのファスナーを下ろした。
「さあ、おやつのミルクだ。飲みなさい」
近づく誠二の躊躇いの無い動きに、剣持も少しは満足したようだった。
汗で蒸れた男のそれに、誠二は言われるがままに、けれど必死の形相で吸い付いて、唇で扱き、舐め回す。
今はもう、誠二の頭の中は、剣持の言葉に従うことだけしかないのだ。
あの子のように剣持に捕らわれて、けれど、どこか気に入られる要素があったのだろう。数ヶ月もかからずに終わるはずの調教は、1年もかけられて、そのまま奴隷として3年間ほど飼われて、その間、太陽を見たことはなかった。
服を着たことも、排泄を自由にしたこともなかった。
その後外に出ることを許されたときにはもう、剣持の恐ろしさが身に染みついていたから、絶対に逃げたり、逆らわないと誓っていた。もう自分はまともな生活は無理なのだと諦めすらしていた。
なのに、失敗してしまった。
浮気のマークを付けられてレベルの落とされた奴隷は、あの三年間より悲惨な事になるのはよく知っていて。
もし剣持の庇護が無くなれば、すぐに他の人たちに捕まり飼われてしまうだろう。
それは、あの三年間の比ではなくて。
この前売られたあの子のように、犯されることしか考えられなくなって、いつか人のように暮らすことなどできなくなるのだ。
それに比べれば、今の状態などまだマシだ。少なくとも剣持が飼ってくれている今は。
もう自分で考えることなどせずに、周りの誰かを気にすることなどなくただの奴隷として従えばよいのだ。
今のように、言われるがままに、慣れたそれを喉奥深くまで吸い付いて、その迸りをとらえて飲み下す。
それはとても美味しいのだ、と、思いこまなければならなかった日々を過ごすうちに、本当に美味しいと感じるようになったそれを味わいながら、誠二は媚びるように剣持に尻を向けて尻尾を振った。
フリフリフリと踊るように、跳ねるように。
剣持が犬でいろと言ったから、誠二は犬でいる。
あの子の行く末を同情して失敗したけれど、二度とそんなことはしないと固く誓いながら。
いつまでもいつまでも、ひいひい喘ぎながら、誠二は尻を振っていた。
「あのマンションの直しの間、別宅で過ごそうかと思ったけれど、久しぶりにこの別荘で遊ぼうか。たっぷり躾なおしたいしな」
首筋に降りる優しい手とその言葉が嬉しい。
「また一からだが、それでもよい子になったら、また外で働かせてあげよう。本当によい子になったらね」
前回は四年だったそれが、今度はいつになるのか。
ゴールは剣持しか知らないけれど、それでも誠二は頷いた。
嬉しいと尻を振りたくって、泣き笑いながら、吠えていた。
【了】
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