快楽マンション4号室 アサミとタモツ

快楽マンション4号室 アサミとタモツ

某所のある殺風景なビルは、限りない深い愛ある生活を送りたい5組の恋人達が集まったマンションだった。

 野菜 肛虐 屋外(屋上、バルコニー)




「ただいま。そこで隣のケンジくん達に会ってね。サトシくんもずいぶんとここに馴染んできたね」
 玄関ドアを通り過ぎてまっすぐ向かったリビングで、俺は可愛い恋人に声をかけた。
 広々としたリビングには俺の趣味で揃えた、革張りのソファセットを置いていて、壁面には大型のテレビを筆頭に最新のオーディオ設備を設置している。
 そのソファに座って、大好きな映像に視線を向けていた恋人のタモツが、俺の声にぴくりと反応して。
「も……ゆる、して……」
 向けた泣き濡れた瞳とともに零れた懇願に、俺はくすりと笑い返した。
「ほんとうに反省しているのかい?」
 とてもそうは見えないと、じとりとタモツを見返すと、「ごめん、なさい」と小さな声が喉を鳴らす音に重なった。
 去年くらいまでは、叱っている時でも俺の目を見て、謝ってくれたのに。
 最近は、あまり見てくれない。
「とても反省していると思えないねぇ」
 相変わらずだとがっくりして、なんだかムシャクシャしてしまう。
 せっかく暇つぶし用にとタモツの大好きな、タモツによく似た可愛い青年がむくつけき男のぶっとい腕を銜えて悦んでいる映像を、ずっと見させてあげていたというのに。
 悦びに泣き喚いたその青年は、最終的にその男の腕なしでは射精できない淫乱な身体になってしまうのだけど。
 タモツが俺でないと駄目って言ってくれるようなったら嬉しいと思って、この映像は、俺もけっこう好きな奴なのだ。
 なのに、淫乱なタモツは何にだって悦んで、達きまくるので困ってしまう。
 ぶすっと唇を無意識のうちに尖らして、下降した機嫌のままにタモツの前へと回って、M字開脚している彼の股間を見下ろした。
 こちら側に向かって浅く腰掛け、背もたれに身を預けていたタモツの股間には、反り返るほどに勃起したペニスがっぷりと涎を垂らしながらぴくぴくと震えていて。その奥のなんでも食べるのが大好きなおちょぼ口が、昨夜屋上ガーデンで収穫したばかりのヘチマをぱっくりと銜えてひくついてた。
 そのヘチマは俺の手首ほどもあって、ちょっと太すぎるかも思ったけれど、それでも淫乱なタモツのお仕置きも兼ねていたからしょうがない。そのまま、俺が帰るまでにちゃんと我慢ができたら、反省したのだ甘い夜を過ごそうね、と言っておいたのだが。
 下腹を流れたであろう精液が、良質な革に点々と白い汚れが付着していることに嘆息する。
 その音に、タモツがガクガクと痙攣するように震える姿は、可愛いといえば可愛いかもしれないけど。それは俺が望む姿じゃない。
 それでも、前のように俺を見つめてくれるなら、こんなことくらい許してやろうかと思ったけれど。
 零れて広がるそれを指で掬い上げ、親指と人差し指で挟み広げると、まだ粘つくほどに新しい。体内から押し出されたばかりと見えるそれを、タモツの頬になすりつけて、顔を歪ませる彼の耳元で囁いた。
「ちゃんとその格好で出迎えたことは褒めてあげるけどね」
 こんな植物でも勃起し、達きまくるのはいただけない。
「ご、ごめ……なさい、ゆるして……じっと……してた、けどっ、あっ、ひぐっ」
 ヒクヒクと嗚咽を零しながら震えるまぶたに口づけを落とし、俺の手でも掴みにくいヘチマをぎゅっと押し込めば。
「ぎっ、あっ!」
 びくっと震えた身体から、びゅっびゅっと精液が噴き出した。
 このヘチマは長さは30cm近くで中間部は両端より少し細い。それだけなら普通のヘチマと変わらないけれど、成長期に傷でもついたのか今は見えない一部が、ぼこりと大きく膨れているのだ。
「反省していたら、いくら刺激されても出さないよな」
 顎を掬い上げて無理矢理視線を合わせて。
 それでも、瞳は揺らして俺を外してしまうタモツに、怒りがこみ上げる。
「ちゃんと反省できるようにしてやるよ」
 その言葉に、自分が悪いと自覚しているタモツは、震えて大粒の涙をぽろぽろと零すだけだった。


 レトロ、というよりは古ぼけたビルと言った方がふさわしい外観を持つこのマンションに引っ越してきたのは、ここが建ってから数ヶ月後の1年前。
 一昔前のビジネスビルに見える外観とは裏腹に、各部屋はそれぞれに趣向を凝らしていて、防音も完璧だ。
 うるさい大通りに面しては居るけれど、壁面に四角い横長の穴が空いたような壁の中にあるバルコニーは内外の音を多少なりとも遮るし、二重サッシの窓も完全に音を塞いでくれる。
 ここの入居には大家の試験をパスする必要があったけれど、1年前ここに来た俺はあっけなく通って入居した。
 その試験は俺にとってはたいそう簡単だった。
 恋人であるタモツがいかにイヤらしい身体を持っているか、俺に貫かれてどんなふうに喘ぐか、どんなふうに可愛く悶えるか、それを蕩々と語っただけなのだから。
 俺と同時期に越してきたケンジくんは、一目惚れした相手をどんなふうに落として、どんなふうに自分だけのものにするか、どんなふうに暮らしたいか、そのためにここに引っ越したいのだと、これまた蕩々と語ったらしい。
 実際入居してみれば、住民はみな良い奴らばかりだし、設備も整っていてとても住みやすかった。
 自然が好きな俺は、水道もある広いバルコニーにはたくさんの植木をおけるのも嬉しかったし、近くの木々に囲まれたテニスコートの周りの散歩も気に入ったし、屋上にあるガーデン風の菜園も大のお気に入りで。
 草花や野菜の世話は大家がしているのだけど、俺とタモツもしょっちゅう手伝っている。
 昨夜は、その手伝いに屋上に行って世話をしていたのだけど。
 淫乱なタモツはその最中でも発情しまくるから、ほんと困ったモノで。
 ダブダブのTシャツに、ハーフパンツの姿のタモツだったが、昼の熱気が残っているせいで汗をだらだら流していたから、「脱げば?」と言ったらそれを全部脱いでしまった。
 暑ければ全裸で過ごす露出狂のタモツにとって「脱ぐ」=「全裸」という感覚なんでしょうがない。
 そんな格好のタモツをつれて、大家が運び損ねたと聞いていたナスがある場所に移動すると、そこには確かに、艶やかな濃紫色のナスがザルに入れて置いてあった。
 それは本当に美味しそうで。
 タモツもそう思ったのか、そのナスを手にとってじっと見ていたまでは良かったのだけど。
 まあ、淫乱なタモツがそれで遊び出すのは、当然のことだった。

 反省は同じ状況が良いかも、と思って連れて出したバルコニーで、その時の事をうっとりと思い出しているのか、タモツの表情はどこか虚ろで甘い。
「僕は、収穫したばかりのナスがあまりに美味しそうで……勝手に……た、食べてしまいました。……ちょっと収穫が、遅れてて……まるまると太ってた米ナスの、つるんとした表面は舌触りが良くて、お、美味しくてぇ……あぅっ……。ん、その……気がついたら銜え込んでいたんです」
 外側の壁際で反省文を読み上げさせている通り、昨夜タモツの下の口は収穫したばかりの米ナスを喰らったのだ。
 タモツはもともと太い物や長い物が大好きだったけれど、俺に反抗し始めてから特に、一度食べ始めると止まらなくなる傾向があったのだ。
 昨夜も、あの大きな米ナスが、その丸々とした形状とつるつるの表面とも相まって、つるりと口の中に入っていったのだ。
 きっかけは俺が美味しそうだろってそれで口をつんつん突いたのが悪いのかも知れないが。
 だかそれを、笑えるくらい簡単に食べ始めたこいつの口がもっと悪いのは当然だ。
 だいたい、誰がタモツのおちょぽ口が、あんなでかい米ナスを銜えられるって思うだろうか?
 もっともタモツの口は太い物が好きだからと上げていたら、今では拳すら銜えるようになってしまっていたけれど。それでも、米ナスは大きかった。
「僕は、とっても貪欲で、銜えたらもう放したくなるから……だから……」
 そうなのだ、タモツの口から、慌てて取り出そうとしたけれど、一度銜え込んだものを出すわけがない。
「し、しかも……みなさんっ、と、分け合……うっ、つもりだったのに……んくっ、はあ、あっ、ミニトマトもいっぱい食べてしまいました…」
 ずいぶんと美味しかったのか、結局タモツはミニトマトも入りきらないほどに喰らってしまったのだ。
 気がついたときには遅くて、慌てて取り出そうとしたけれど、強情なタモツは決して出そうとしなかった。
 それで。
 そういえば、タモツは屋上に来るときはいつだって丸い玩具をあめ玉のように二つか三つしゃぶっているはずだから、それで刺激したら出てくるんじゃないかって思ったから。
「…あひっ、あ、なっか、気持ち、ヒィって……出せ、なくっ、あ……くっ、うっ」
 こうやって、手元のリモコンをMAXにしてみたのだ。
「っ!!!!、あっ、あっ、あっ」
 いきなり嬌声を上げて、ずるりと崩れ落ちたタモツが、昨日と同じようにごろりと蹲り、忘我の表情でヘコヘコと腰を動かし出した。
 ここは何もないコンクリだから良いけど、昨日は柔らかい土の畦のすぐそばで、そんなことをしたら畦が崩れるって止めたのに。
 俺を無視するタモツは、結局植わったばかりの苗木まで倒してしまったのだ。
「何やってんだ、反省文を読み上げろっ」
 昨日と同じように、俺の言うことを聞きやしないタモツの身体を引きずり起こして。
 落ちていた反省文を突きつけて。
「あ、あ、ごめ……さい……っ、タモツが、悪い、ですぅ、だから……反省…て、昨日と同じ格好で、美味しく食べていてもじっとしていられるように練習してる、あっ、ひあぁぁ——やめっ、やあ、だめぇぇっ」
 また崩れ落ちながら、その勃起チンポからビュッビュッとすごい勢いで、ザーメンをまき散らす。
「……ったく」
 倒れて一人悶えるタモツを、足の爪先でつんつんと突いても、反応がない。
 どうやら今日銜えてる長ナス二本が相当美味いらしい。
 俺を無視するくせに、うまいモノには目がないなんて……なんか悔しい。
「これでは反省にはならないな、ほんと、淫乱の変態なんだから」
 それでも、悶えるタモツを見つめていると、知らず顔が綻んできてしまった。
 なんだかんだ言って、こうやって美味しそうに喰らうタモツも、実は可愛かったりして。
 時々俺を見つめて、手を差し出したりして。
 その縋るような瞳を見るだけで、背筋がぞくぞくとして、たまらなく興奮してしまう。
「でも、そんな変態でも……。俺は、そんなタモツでも好きなんだ」
 どうしたら、もっと可愛いタモツになるだろうか?
 今のタモツも良いと言えば良いんだけど、けれど、昔の素直に甘えてきたタモツの頃も捨てがたいのだ。
 それもこれも、タモツが友人とか言う奴と話をしてからだった。。
 同窓会か何かのハガキが届いたと、いつの間にかタモツが相手に連絡を取っていて。
 数少ない仲の良い友達なんだ、とタモツは言っていたけれど、そいつがさんざん今の相手とのことを惚気たらしい。その課程で、タモツによからぬことを吹き込んだようなのだ。その頃から、タモツが変わっていったのだ。
 だから、携帯を取り上げた。電話もメールも監視して、一日何をしたかすべて言わせて。
 だってタモツが離れるなんて考えられない。
「タモツ、……昔のタモツに戻ってよ。それができないなら……もっと俺に溺れるようにしてあげる。俺だけがタモツの好きなモノをいっぱい上げられるよ。だから、俺だけを見て」
 狂気を孕んでいると自分でも判っているけれど、俺はタモツが離れたら生きていけない。
「もっとタモツを愛して可愛がってあげるから。そしたら、俺だけのタモツでいてくれるよね。大好きだよ、タモツ」
 俺の言葉がタモツの脳に刻めるように、俺は何度も何度も声をかけ続けた。



 俺——保がアサミに出会ったのは、大卒新入社員で入った会社でだった。
 俺の成績でよく入れたな、というくらい有名なところで、入社当時は有頂天になっていたけれど。頭が良くて要領の良い、機転が利いた他の同僚達から、俺はすぐに差がついた。
 何よりも、社交性という社会人にとって重要なそれが欠けていたのだ。
 面接や新人研修まではなんとかごまかせたそれも、日々の業務の中ではすぐにボロが出た。内勤でも社交性は大切で、社内の人間関係の構築にも失敗して。
 半年も経たないうちに、駄目新人とレッテルを貼られた俺は、研修という名目で、いろいろな部署をたらい回しにされて。
 そんな中で出会ったのが3年先輩のアサミだったのだ。
 彼は本来なら企画室に所属する人だったけれど、新しい企画の実行を後押しするための、このチームに来ているのだと言っていた。
 それだけ優秀で実効力ある彼は、俺にはけっこう優しくて。仕事が早く終わると食事に誘ってくれたり、仕事もこっそりフォローしてくれたりしてくれて。
 尊敬できる先輩と言うだけでも惹かれるものがあったというのに、まるで恋人のように優しくされてしまうと、勘違いだと判っていても好きになった。
 けれど、好きだなんていえるわけも無く、言って今の関係を壊すのもイヤで。
 俺はただひたすらそっと伺うだけで、せめて少しでも褒められるようにと仕事をがんばっていたのだけど。
 ある日、向こうから付き合って欲しいと言われたのだ。
 嘘だって思ったけれど。
 遊びだって思ったけれど。
 けれども、優しく俺を包み込んで、切なく語る先輩の言葉が嘘だとは思えなくて、俺は結局彼を受け入れたのだ。
 本当に嬉しくて、幸せで堪らなかった。
 先輩——アサミは優しくて、引きこもりがちな俺を外に連れ出し、デートだといろいろな世界を見せてくれた。
 だから俺も、アサミが願うことならなんだってしようって思っていたから、なんでもしてきた。
 この身体が欲しいと言われた時も、貫かれる痛みは酷かったけれど、中に感じるアサミの熱にたまらなく幸せだった。
 可愛いと言われるのが嬉しくて言われるがままに、この身体に飾りをつけた。
 指輪なんて貰ったときには歓喜のあまり、気が遠くなったほど。
 ピアスだって嬉しかった。それがボディピアスであっても、気にならなかった。チンポにだって、嬉々として取り付けたくらいだ。
 だって、この身体はアサミのための身体だから、チンポに飾りを付けて自分だけの俺の姿を堪能したいって言われたら、嬉しいだけだ。
 会社を辞めて、一緒に暮らして欲しいと言われたから、すぐに辞めてアサミのもとに引っ越した。
 だって、俺が会社で他の同僚と仲良く話しているのを見るのがイヤだから——と、口惜しそうに嫉妬を垣間見せてくれたから。
 毎日抱いても足りないなんて言われて、舞い上がった。
 アサミを喜ばせたいから、喉の奥まで彼を銜え込んで、たくさんたくさん飲み干してあげた。
 アサミがしたいっていうから、彼の拳を受け入れた。
 奥の奥まで割り開かれる苦しさよりも、可愛い、すてきだって言ってくれるるだけで、全部快感になって。どんなことも我慢できたんだ。
 俺はアサミがいれば良いから。
 だから。
 アサミのためなら、俺は何でも受け入れた。


 けれど。
「ひ、いやぁ、はいんっ、な——っ、そんな、二つ目はぁぁ、ひぃぃ」
「嘘つくなよ。旨そうに銜えて、ほんとうに美味しそうに食べてるし」
 土の上に全裸で四つん這いで押しつけられて、溢れた涙で泥まみれになった顔で振り返って制止するけれど、嘲笑を浮かべたアサミは止めてくれない。
 大きな米ナスはアサミの拳より大きくて、それでなくてもローターが三つも入った体内に入れられて圧迫感が酷い。
 アサミが入れろって言ったら、入れない限り納得してくれない。
 このローターもそう。
 脱げと言ったら、全部脱ぐこともそう。
 機嫌が悪いアサミが決めたルールは、最近ではどんな時でも守れ、と強要されて。そのルールを守らないと、尻を叩かれ、鞭打たれ。
 折檻としか言いようが無い状況が待っている。
 今も、ギラギラとした肉食獣の目で俺を見据え、地面にカラダを押し付ける。
 怪我をするほどじゃなくても、その動きは乱暴で、恐怖を煽った。
 いつからか、アサミがし出した鋭い目つきに、俺は怯えてしまう。
 それは、俺が何かが変だと気づき始めたすぐ後頃からだった。
 ある日唐突に、アサミは少し変かも——って思ったのは、昔の友人と話したときのことだ。
 相手が男だとは言わなかったけれど、ちょっとぼかして今の相手のことを教えたら。
「それっ、ぜってぇ、変。すっげえ、束縛するタイプじゃない? タモツ、言いたいことも我慢するから、言いように扱われてんだよ」
 その時は、そんなことないよって、言えたのに。
 やっぱりおかしいかも——何かが変じゃないか、と気づいたときには遅かった。
「タモツの穴って本当に太いモノが好きだよね。ほら、こうやったら吸い付くように口を開けるじゃないか」
「や、やだ、挿れないでぇ」
 大きな物をいれるのが慣れた俺の身体は、もう無理だと思っても拒絶できない。
 身体が勝手に力を抜くほどに、力を入れたままでの挿入が与える痛みを知っているからだ。
「あ、あっ、ぐっ」
 だから、押し込められれば入っていってしまう。
 苦しさに、鼻水と涙、涎まで垂らして、尻だけを高く掲げた格好で地面に縋り付く。
「ひぐっ、やっ、もっ、無理っ、あぐ」
 体内を、みちみちと押し広げられる苦しみから逃れようと、手が土を掻く。
 けれど、柔らかなそれは崩れるだけで、俺の身体はいっこうに前には行かなくて。
 爪が黒くなるほどに掻いてた目の前に、緑の葉が落ちてくる。
「ほぉら、入ったよ。タモツの穴はほんとうに貪欲だよね。こんなにも、何でも銜え込むんだから」
「ひ、ぐっ、うっ……うっ」
 ぺしぺしと尻を叩かれて、俺は地面に縋り付いて嗚咽を繰り返した。
 アサミが優しいだけではないのだと、気がついたのがいつ頃だったかもう覚えていない。
 実際は、最初からだったのだろうと今なら思う。
 アサミは、俺が抜け出せないように雁字搦めに俺を囲い、俺の身体を、俺自身がまるで望んでいるかのように調教していたのだ。
 俺がイヤだといっても聞き入れてはもらえなくなったのはいつからだったろう。
「イヤだって言ったのに」
 なんて言っても。
「タモツは好きなことほど、ごまかすから。俺はタモツがやって欲しいことをしているだけだよ」
 のほほんと言い切るアサミの瞳が怖く感じて、それからは目を合わせるのが怖くなった。
 そのうちに、俺の行動はすべてアサミの許可が必要になった。
 何より、このマンションでは、アサミは自分の性的嗜好を隠さない。俺を使って遊び、そんな俺を嬉々として晒し者にする。そのたびに、アサミの瞳の威圧感が強くなる。
 これこそがアサミの本性なんだと気付いた時にはもう遅かった。
「これはタモツが悪いからだよ」
 会社を辞めてからほとんど他の人と話をしてこなかった俺は、言葉では決してアサミには勝てない。
 苦しくて蹲ったままの身体を抱き起こされて、泣き濡れてぼやける視界の中で、アサミが嗤っていた。
「イヤらしいね、タモツは。そんなもの銜えて、ひいひい喜んで、勃起して。淫乱な変態だよな」
「あ、やだぁ、もう、ゆる、して……。出して……おねが……」
 見たくもない事実から目をそらして、俺の身体を背後から支えるアサミにすがりつく。
 どんなに悲しくても、悔しくても、怖くても、俺が縋る相手はアサミしかいないのだ。
 アサミに取り上げられた携帯。監視されている固定電話にパソコンのメール。
 勝手に他人と電話したら、その後手ひどい折檻を喰らう。
 一度絶対に無理だと逆らった日、切れたアサミが俺にフィストサイズのバイブを仕込んだ後に、抜けないようにステンレス製の後ろだけ隠すTバックを履かせて。
 それだけならまだしも、よりによってコートだけを着せてマンションの近くのテニスコート脇の樹木の影に連れ出した後、そのコートを剥がされたのだ。
 イヤらしく突き出たペニスがやたらに目立つ姿で放置されたあの羞恥と恐怖の一時間は忘れられない。
 明るい歓声が届く場所で、マックスで蠢くバイブに身もだえながら、周辺に多量の精液をまき散らして過ごした時間。
 なんら拘束されていなくても、マンションに戻るには人目があって無理で。
 油断すれば、理性を捨てて叫びまわってしまいそうになるのを、ただ必死で堪え続けた。
 もう二度とアサミには逆らわない、アサミがしたいことだけをする、と、一時間後にやってきたアサミに縋って、何度も何度も謝って、ようやく許して貰ったとたんに意識を失ったほどの心身ともに激しい苦痛は二度と経験したくなかった。
「そんなに出したい?」 
「だ、した、おねがっ、くるし、いの……あ、ださせ、て」
 アサミが許さない限り、俺は何もできない。
「でも奥の奥まで入っているし……ああ、そうだ、こうすれば」
 明るい声で、アサミが言ったその瞬間。
「ひあぁぁ——っ!!」
 全身に電流が走ったように思った。
 前にペニスに使われたスタンガンのような、あんな激しい衝撃が、体内でわき起こった。
 アサミの手の中にあるあれ。
 原因が判っても、何もできない。
「あ、あっ、はっ、がっ」
 びくんびくんと腰が震える。
 噴き出す精液が辺り一面降り注いで、俺の身体も近くの苗木も汚していく。
「とめ、てぇ——っ、あっ、ぐっ、ひぐぅ」
 爆発は止まらない。
 激しい快感は、痛みにも、苦しみにも近くて、少しでも楽になろうと身体が勝手に左右に転がり、地面を掻く。
「すごいなあ、そんなにイイの? 達きまくりだよなあ」
 嗤うアサミの声が遠い。
 腹を満たしたローターとナスが暴れて、堪らなく腹が苦しいのに、俺のチンポは精液を拭き続け。
 潮すら噴いて、そのすさまじい快楽に翻弄されるだけ。
「ひっ、いっ、あっ、がっ」
 身体が痙攣して止まらない。
「すごいね、タモツは。ほんとに何でも銜えて、悦んで。俺としてもそんなタモツを愉しませて上げるのはけっこう大変だけど、俺は絶対に離したりしないよ」
「も、もう、止めて、あ、壊れっ、身体……あぁっ」
「いいじゃない。壊れても、壊れた分だけ俺は可愛がってあげるつもりだから。タモツが好いこと、いっぱいしてあげるから」
 うっとりと囁くアサミの言葉に、溢れた涙が地面に吸い込まれて。
「愛しているよ、タモツ」
 いつもの言葉だけが強く頭に響いていた。


【了】