【バレンタイン】 2
10時よりも30分も早く、来訪を告げるチャイムが鳴った。 こんな時間に来るのは、ただ一人。 悠人は、ドアが見える場所に陣取って玄関が開く様をじっと窺っていた。 壁に背を預け、気怠げに見据えている。 「お迎えはない …
10時よりも30分も早く、来訪を告げるチャイムが鳴った。 こんな時間に来るのは、ただ一人。 悠人は、ドアが見える場所に陣取って玄関が開く様をじっと窺っていた。 壁に背を預け、気怠げに見据えている。 「お迎えはない …
誕生日、クリスマスはまだいい。 いや、良くはないが、まだしようがないかという気になる。 だが……。 土曜の昼に出かけたスーパーで、明石悠人はげんなりと肩を落とした。 2月に入る前から目立ち始めたそのコーナーは、 …
どうしてこの世にはバレンタインなんてものがあるんだ? 明石悠人がちらりと窺う先で、雑誌の特集記事が『VALENTINE DAY特集』といういかにもというようなピンクでポップな文字を躍らせていた。 悠人の部下達が、お …
ふと左手首の時計に視線をやる。 明石悠人の、男にしては幾分細い腕に巻かれた時計が、あと5分で就業時間が終わることを示していた。。 別に時計を見なくても、課の女性達がそわそわと落ち着かなくなるからおおよその時刻の見当 …
不機嫌きわまりない兄の悠人がやって来た時、明石雅人はまだ夢の中だった。 ホストの仕事で明け方にようやく帰ってきて、一番気持ちよく眠っている最中にたたき起こされた。雅人は苦虫を噛み潰したような顔で、リビングにでんと座っ …
増山健一郎、33歳。 千代田不動産株式会社、営業1課 係長。 三ヶ月前に抜群の営業成績を収めて、本社に栄転になった。 そして、始めてその男に逢った。 移動の手続きの書類を持って庶務課の部屋を覗いた時、こちらを …