【ECLOSE -羽化-】 4

「いつからだ?」  きつい声音にびくりと体が震える。  裕太が差し出す物を智史は見ていたくなくて、顔を背けていた。視界には入るのは、少し汚れた裕太の白い上履き。そして、智史と裕太の鞄。  その中から出した智史の教科書には …

【ECLOSE -羽化-】 3

 ──男には見えないくらいに可愛いね。  子供の頃から言われ続けた言葉は、さすがに最近では言われなくなっていたし、智史自身そんなことはどうでもいい、と……思っていた。  弟の誠二は、そう言われることをはっきりと拒絶してす …

【ECLOSE -羽化-】 2

「だから」  爆弾発言をした楠瀬が笑いを苦労して収めて、かがめていた腰を伸ばしながら智史を見遣る。 「俺ももっと親密な友達になりたいってこと」  くすりと笑ったその顔、だが目が真剣で思わず返す言葉を失う。 「滝本君にそれ …

【ECLOSE -羽化-】 1

 開いたのは高校の卒業記念アルバムだった。  同じクラスの最前列左端に滝本智史、その後方後ろから2列目に深山裕太。  二人の距離は、指一本分の長さよりも短い。  だが、二人は卒業と同時に別れた。  写真を撮った時は、そん …

 古い年代物の木造建築物が、この町の役場だった。 所狭しと並べられた事務机の間をコード類が走る。  つまずかないようにテープ等で止められているが、数ヶ月に一回は誰かがひっかかって派手な音を立ててこける。こけるついでに最悪 …