【ECLOSE -羽化-】 4
「いつからだ?」 きつい声音にびくりと体が震える。 裕太が差し出す物を智史は見ていたくなくて、顔を背けていた。視界には入るのは、少し汚れた裕太の白い上履き。そして、智史と裕太の鞄。 その中から出した智史の教科書には …
「いつからだ?」 きつい声音にびくりと体が震える。 裕太が差し出す物を智史は見ていたくなくて、顔を背けていた。視界には入るのは、少し汚れた裕太の白い上履き。そして、智史と裕太の鞄。 その中から出した智史の教科書には …
──男には見えないくらいに可愛いね。 子供の頃から言われ続けた言葉は、さすがに最近では言われなくなっていたし、智史自身そんなことはどうでもいい、と……思っていた。 弟の誠二は、そう言われることをはっきりと拒絶してす …
「だから」 爆弾発言をした楠瀬が笑いを苦労して収めて、かがめていた腰を伸ばしながら智史を見遣る。 「俺ももっと親密な友達になりたいってこと」 くすりと笑ったその顔、だが目が真剣で思わず返す言葉を失う。 「滝本君にそれ …
開いたのは高校の卒業記念アルバムだった。 同じクラスの最前列左端に滝本智史、その後方後ろから2列目に深山裕太。 二人の距離は、指一本分の長さよりも短い。 だが、二人は卒業と同時に別れた。 写真を撮った時は、そん …
「寂しくないのか?」 深山裕太は滝本智史と始めて話をした時の事はよく覚えている。 高校一年生。 入学してから2ヶ月ほど経とうとしていた。 教室の窓際、中程の席で彼、滝本智史はいつも座って外を眺めていた。時折室内を …
古い年代物の木造建築物が、この町の役場だった。 所狭しと並べられた事務机の間をコード類が走る。 つまずかないようにテープ等で止められているが、数ヶ月に一回は誰かがひっかかって派手な音を立ててこける。こけるついでに最悪 …