【風南の幸せ】

【風南の幸せ】

風南のエピローグ編

「奥方様、旦那様がお戻りになられました」
 忠実なるマサラの執事ムルナの言葉に、風南は「はい」と小さく頷いて返した。
 その身を纏う長いドレープのある薄い白の衣は、ゆったりと覆ってはいるけれど、その薄く透ける生地は身体の線を隠さない。細身の肢体とは裏腹の豊満な胸を強調し、見かけた者の視線を引きつけてしまうだろう。
 下着を身に着けぬ風南の素肌の線を灯りに透かせながら、足早にマサラがいるであろう玄関に向かう扉へと向かった。
 その扉は、この屋敷の表と裏を隔てるものだ。
 一般の客や召使いが立ち入ることができる表と限られた者しか入ることのできない裏側と、この屋敷は二つに分かれている。
 それは、類い希な境遇の奥方を守るために決められたことで、その決まりが守れないものはこの屋敷に立ち入ることすら許されない。
 また奥方である風南自身も、表には出ない。
 重要な客の場合は、表に隣接する、裏といってもそれ以上は入る許可のいるごく限られたエリアに招き入れて相手をする決まりなのだ。
 そのため風南は、マサラが帰ってきたとしても、表のエリアから彼が入ってくるこの扉の前で待つことになる。
 たとえ、マサラが用事ですぐにこちら側に戻ってこないとしても、その時にはもう知らせは無いのだから、風南はここで待つしがない。
 幸い今宵はすぐに訪れの気配があって。
「マサラ様、おかえりなさいませ」
 深々と頭を下げて迎えることができた。
 

 王城から北に抜けた、王族専用の避暑地でもある土地の一角にマサラは婚姻後の居を構えた。
 広い敷地を持つその屋敷の中でも一番奥まった部屋は、マサラ達の寝室だ。
 その部屋から今夜は、もう長い間、びちゃ、ぐちゃっとひどく濡れ弾く音と、啜り泣きのような、けれどひどく甘さを孕んだ声が漏れ続けていた。
 女にしては心持ち低い、けれど確かに責められる快感に咽び泣く受け身の喘ぎ声が途絶えることはない。
 その部屋は、主人たるマサラの好みで飾られていた。
 目立つのは、部屋の大半を占めるベッドだろう。丈夫な柱とそれを繋ぐ梁のあるベッドは大人二人がどんなに動き回っても落ちることなど無い。梁から幾重にもドレープを作り下がっている布は、工芸品と言っていいほどの透けた生地に織りによる模様が入っていた。
 普段は王城や城下の病院に詰めているマサラが戻ってくるのは、週に一度か二週間に一度。
 今日は二週間ぶりの帰宅で、夜の闇が深くなるころに風南の前に現れたマサラは、美しい妻の出迎えに満足げに頷くと、すぐさまに寝室へと引き連れていった。
 二人が動くだけで舞い上がる薄い絹は、広げ立った大きな窓から入ってきた僅かな夜風に二人の道をつくり、綺麗に整えられた寝具へと誘う。
 ここは夫婦の寝室だけれども、風南一人の時は別の寝室で休むから、ここに来るのはマサラが風南と戯れるときだけで、だからこそ、この部屋に入っただけで、風南の身体の奥で生まれた熱がどんどん大きくなっていく。
 元リジンの王族であり、中性的な体型と美しさを持っていた風南は男とはいえ、女性でも通じる美貌と姿形を持っていた。さらに、国一番の再生医療と移植治療の権威であるマサラ自身が手をかけた身体は、今や誰が見ても美しいという言葉しか返ってこない。
 そんな妻を、基本的に女性のみを性対象としているマサラはたいそう気に入っていて、帰宅すれば必ず思うが様にその身体を堪能するのが常だから、屋敷の使用人達もそして風南自身も準備は万端だ。
 そのままベッドに押し倒され、爪の先まで磨かれた身体からすぐさまにすべての布きれが剥ぎ取られて。
 現れたのは、奥の奥まで洗浄の済んだ、すべてが用意された身体だった。
 柔らかな布の上に裸体を押しつけられた身体は、余すこと無くマサラの目に入ってきた。
 清楚な白の肌を欲情の薄朱色に染め、空色の瞳を潤ませる妻の姿を満足げに見やって。
 肌が触れるだけですぐに熱くなる、淫らな吐息を寝具に落とす身体にのしかかる。
 巨大なだけで無くゴツゴツとした瘤のような盛り上がりを見せるペニスが、風南の股間に触れただけですでに濡れそぼっていた淫液で十分すぎるほどに濡れた。そのままたっぷりと滴る風南の女陰にぐちゅりと入っていく。
 風南相手に前戯などは必要ない。
 長年の性奴隷生活で、男に触れられるだけでも濡れる淫蕩な身体だ。まして、快楽のツボを征服する存在を感じれば、その身体は全身を小刻みに痙攣させ、忘我に浸って快楽を味わうのだ。
 その身体は、マサラが、極上品のできばえだ、と自画自賛してしまうほどに、具合が良い。
歓喜に喘ぐ声が、ベッドを覆う布を超えて、辺りに響く。
 もっとも、非常に薄い透けたそれは、その中で蠢く二人の様子を隠す物では無い。
 始まってからずっと、何度も何度も貫かれて浅ましく乱れる姿を、はっきりと見えない分、よりいやらしく映す。
 銀の髪が灯りに照らされ舞う様子までくっきりと見て取ることができていた。
「あ、ぁぅっ……あ、まっ……イ、イきた……ぁぁぁっ、やあっ、ああっ」
 背後から貫かれ、腰を揺らす風南からは、時折低く、けれど、ほとんどが甲高い悲鳴のような嬌声が上がっていて。
 両手を後ろから引っ張られて逸らし気味の身体の下で、豊満な二つの乳房を揺らし続けている。
 ぐちゃ、ぶちゅっ——と、背後から風南の腕を引っ張りながらマサラが前後する度に、水の中で暴れているかのような音が激しく響き渡っていた。
 太ももを伝う愛液だけでなく、触れられてもいないアナルもひくつき腸液を淫液として溢れさせているのだ。
 風南には潤滑剤など必要ない。
 その身体が熱くなるだけで、喘ぎ求めるだけで、風南の身体は十分すぎるほどに濡れるのだから。
 それに加えて、ペニスからの先走りに、潮吹きまで加わって、寝具はすぐに水を撒いたかのようにグチャグチャだ。
「マ、マサ、ラさまぁぁっ、あひっぃっ、もっ、だしたっ、あぁぁつ」
 縋るように背後のマサラの方に身体を向けようとするけれど、絶え間ない刺激にそれ以上身体を起こすどころか力が抜けて崩れ落ちそうになる。
 突き上げ奥を抉られて、豊かな乳房を嬲られて、その性別が男なのだと判る唯一の存在であるペニス全体を戒める金具を寝具に擦りつけられて。
 激しい抽挿に、全身への絶え間ない愛撫。そして、たっぷりと精液を注いでもなお続くそれは、マサラ自身の欲が解消されるまで、決して終わらないのが常だ。
 マサラの性欲は、兄王ほどでは無いが、並の人よりははるかに旺盛だ。
 昔は、数人の女性を立て続けに相手をしても、まだ足りないのだと言っていたほどで、一度にできるだけ快楽を得られるようにと自らの身体を改造してしまったほどだった。
 だが、そのせいで、並の女性には受け入れがたいと言われるほどに改造してしまったペニスは、すでに凶器でしかないほどに大きく、長く、そしてグロテスクだ。
 もともと大きかったそれを興味の赴くままに変えていたマサラだったが、風南の身体を改造する度に、自身にも手を加えていった結果、もうそれは、並の女性では受け入れられない代物となっていた。
 相手を壊すために作られた、としか言いようのないグロテスクさに、さすがの風南も最初は怯え、痛がり、逃げようとする。
 けれど、結局はそれが与える快楽に溺れ、自ら貪るようになるのだ。
 よく濡れる風南の性器は、その巨大なペニス相手のいきなりの行為でも滑らかにそれを受け入れ、その抽挿を妨げることなど無い。そんな性器の中に注がれた精液が泡立ち、溢れて流れてもまだマサラは満足などしない。
 けれど、風南の身体はひどく敏感だ。
 その性感帯は全身のあちらこちらに有り、どこを触られても空達きできるほどに淫乱な身体を持っていた。
 まして凶器のようなペニスで中をごりごりと擦られて、膣の前部にある人工的に付与された女性としての性感帯を意激され続けて、すでに何度も絶調にイキ狂っているのだ。
「あっ、んっ、くっ……やぁ、イクゥ、ああっ、またぁぁぁっっっ!」
 意識が飛びそうになるほどの絶頂を繰り返し、何度も何度も潮を吹き、無意識のうちに暴れる身体はすでに制御できない。
 味わいすぎた快感にどんよりと瞳が濁り意識が朦朧としていく。けれど、そのまま意識を失うことなく許されるはずもなく、崩れ落ちそうな身体を支えられ、さらに突き上げらる。
「んっ、ひっ、いっ、ん——っ」
 不意に、マサラの大きな手が風南のふくよかな乳房をぎりぎりとわし掴む。
「ひっ、いっ!!」
 艶めかしく泳いでいた身体がびくりと硬直し、振り上げられた頭が何度も揺れて、閉ざされたまぶたの下から涙が周囲に飛び散った。
 奥歯を噛みしめ堪える風南に、容赦なくマサラが奥を抉る。
「——ひっ、あぁぁっ」
 乳をたっぷりと孕みガチガチに硬くなった乳房は、僅かな力でも激痛を与えた。それを判ってなお、休むこと無く乳房を揉みしだけば。
 最初はじわりと滲み出た。
 それが滴になって、ぽたりと落ちて。
「あぁ——んんっ、お乳、ああっ、ひぃぃ、やあっ、でるぅぅぅっ」
 悲鳴に甘さが混じりだした頃、限界まで溜まり熱を持ちだしたそれが、ぴゅーっと水鉄砲のように噴き出し始めたのだ。
 揉まれる痛みは強い。けれど、ようやく解放された張り詰めた乳房が、歓喜に戦慄いている。
 ひいひいと声なき悲鳴を繰り返し、淫らに身悶えて。張り詰めた痛みから解放される快感に、風南が甘い嬌声を上げ続ける。
 親指の先ほどもある乳首は、昔に比べればかなり小さいけれど、やはりどこか卑猥だ。
 だが敏感さは、前の比では無い。
 乳を出すだけで疼くような快感が内部を走り、脳髄を冒す。
 最近では、普通に乳を搾るだけで、股間が濡れて腰が揺らぐほどになっていた。
 そんな乳房を、マサラの力強い指が揉みしだくのだから、堪えられない。
 全身を激しく痙攣させながら、絶頂の快感に奥まで入ったマサラのペニスを肉壁全体で締め付けて。
 それだけで、「はああぁ」と他人の脳を冒すほどに淫らな喘ぎを振りまくのだ。
 そんな風南に、マサラは呆れたように言い放った。
「浅ましい、何度勝手にイッたら気が済むのだ」
 耳朶に吹き込む揶揄に、それが事実だけに頬を伝い涙が落ちていった。
「も、しわけ……ません……」
 応える声音は力無く、その薄く開いた瞳は焦点が合っていない。
 首筋から耳朶に、全身の肌に、陰核から女陰に、その中をめいっぱい拡げられて、張り詰めた乳房に、乳首まで。
 最初から容赦なく責め立てられ、すでに数時間は経っている。
 触れられていないのはペニスだけだが、今はもうそれより強い快感を味わう場所はいくらでもあった。
 達くたびに気力が潰えていく風南は、もう限界だ。
 怒りを買えば、これ以上に責め立てられるから。
 虚ろに媚びるように笑い、マサラに強請る。
「かざな……の、いんらん……な…、からだ……に……おしおき……さい」
 虚ろに呟くその台詞は、無意識のうちだった。
 何度も何度も、叱られる度に繰り返し言わされた言葉がもたらす行為を忘れたわけでは無いけれど、それを考える余裕すらもう風南にはなかった。
「ふん、仕置きなどで、私の貴重な休みを潰すわけなどなかろう」
 多忙なマサラは、明日の夜には王城に戻る必要があるのだ。
「休みの間はたっぷりとお前で愉しませて貰うつもりだ。仕置きは、私がおらぬ間にムルナに任せよう」
 使用人を統率するマサラ気に入りの執事の名に、ひくりと風南の瞳が恐怖に揺れた。
 泳ぐように辺りを窺うのは、その名の持ち主を探したからか。
 そんな風南を嗤い、マサラは、もっと愉しもうと視線を巡らせて。
「今宵は月がたいそう美しいな」
 開いた窓から降り注ぐ月光をみやり、マサラが口角を上げて微笑んだ。
「我が自慢の植物達を見たくなったな」
「え……あうっ!」
 身体がいきなり持ち上げられた。
 女陰に深く刺さったペニスを支えに、上体を腕の力だけで持ち上げられる。
 その拍子に、風南の勃起しきったペニスが力無く揺れた。
 軽いとはいえ、それでも濡れた身体に腕が滑り。
「ひっ!」
 自重でよりいっそう深くペニスを銜え込んでしまって。
「案内しろ」
 その状態で庭へと向かう間ずっと、電撃のような快感が全身を走り回り、目の前が何度も白く弾け続けていた。

  
 透き通った月光が、揺れて踊る銀糸に反射して、美しく煌めいていた。
 広い敷地の半分を占める裏側からのみ入れる薬草園は、さまざまな薬効のある植物や、研究途中の生物を育ている場所だ。
 その中の、マサラの研究の一環で育てられているある植物群の世話をするのが、風南がここで行う仕事となっていた。
 その植物群の生えている場所に連れてこられた風南は、そのうちの一つの成長を見せるように言われて。
「んっぐぅ、あっ……おっ、き……ぁぁぁ」
「確かにたいそう太く成長しているな、先月植えたときは指ほどの太さだったというのに」
 地を這う蔓性の植物は、麻薬のような成分を樹液に持っていて、今はその成分が採取できるようになるまで成長を待っているところだ。
 直径が6cmはあろうかという蔓の先端に丸い拳のような塊がついている植物で、そのサイズを測るためだとずぷりと風南のアナルに埋め込まれていた。しかも、その蔓は植物ではあったが、僅かに蠢くことができた。
 それは水分を吸った繊毛が蠢くように収縮を繰り返すためだと言われている。
 その自在に動き回れるほどではないが、表面に細かく生えた繊毛によって、蔓がアナルの中へじわりじわりと入っていく。
「あ、な……がぁ……っ、あはぁっ」
 椅子に座りその説明を受けるマサラは、優雅に足を組み、蔓に犯され身悶える風南に、足に付着した別の植物の樹液を舐めさせていた。
 たっぷりと付いたその液は甘い芳香を辺りに漂わせているもので、性欲を高める効果が高いものだ。
「そっちの樹液は快楽中枢を刺激して興奮させるから、こっちの樹液と混ぜれば、媚薬として効果があるだろう。どうだ、成長するにつれて効きが良くなっているか?」
 植物の中にはトゲがあるものもいる。
 樹液だけで無く、匂いにも効能があるものもある。
 花が振りまく花粉が肌に張り付き、吸引で身体に薬効をあたえるものもある。
 素足と太股までしか無い丈の短い肩紐の細いチュニックだけで庭園の世話をさせられる風南は、いつもその薬効を身をもって体験していた。
「…は、い……あっ……ぅっ」
 かろうじて頷いていたが、それ以上はもう言葉が続かない。
 マサラとて風南の答えを期待しているわけではない。
 風南の様子は、いつもムルナから報告があって、世話の後は欲情して浅ましく悶えて男を強請るのだと聞き知っていた。
 淫乱な風南は、僅かな刺激で淫蕩に悶えるが、この屋敷は前の屋敷ほど客が来ない。
 結婚前の屋敷では奥まで詰めて相手をしていた警備兵達もこちらには連れてきていないし、今の警備兵は外壁から表までしか入れない。
 あの逞しいペニスを恋い焦がれていることは知っているが、アナルとは言えガバガバに広がってしまうのも興ざめなので、今は近づけさせるつもりは無いのだ。
 それも含めて、引っ越してきて以来、風南の身体を使う男の数は激減していると行っても過言では無いだろう。
 毎日毎日、片手で足りぬほどの男と肌を合わせ、アナルが腫れ上がるほどにペニスを飲み込み、浴びるほどの精液を喰らうことは、もうほとんど無い。
 たまに、招いた客の接待をさせることはあるけれど、それも月に一度あるかないか、だ。
「こい」
 マサラの呼びかけに顔を上げた風南が、ふぅわりと笑った。
 すでにその理性は完全に飛んでいて、ただ、もらえる快楽のみに囚われている。
 ここにいるのは、リジンの王子ではなく、そしてマサラの妻でもなく、ただの淫欲に狂った悪魔の血の末裔だ。
 『こうやってこの屋敷に閉じ込めておかないと、淫らに男を誘い、相手を廃人へと追いやるでしょう』
 そう言ったのは、ムルナだったか。
 身体を起こした拍子に、ずるっと——驚くほどに中に潜り込んでいた蔓が少し飛び出してくるけれど、大半は中に残ったままに風南はマサラに近づいた。
 純血でも最たる血統の持つ、染み一つ無い白い肌が月に照らされて、淫らに輝いていた。
 ぽたりぽたりと足の間から落ちるのは、ペニスから流れ落ちる期待の滴だ。
 小ぶりの形の良いペニスは、金の輪が何重にも連なった金具で、陰嚢の根元まで戒められている。
 その根元に生えているのは、頭髪と同じ銀の毛で、細く薄いせいで無毛にすら見えた。
 その腰は、確かに男の形をしているだろう。
 だが、胸を見やれば、あまたの女性陣が悔し涙を見せるほどに形良く膨らんだ大きな乳房がたらりたらりと乳白色の乳を流していた。
 欲に溺れた淫らな空色の瞳に赤が混じり、不思議な色合いになっている。結い上げていた銀の髪は今は淫蕩に乱れ、さらさらと夜風に揺れていた。
「ま、さら……様」
 神の前で、すべてに従う、と、誓った己の主人の前に進み、その膝の上に乗り上げて、逞しい巨根に己の華奢な腰をゆっくりと下ろしていく。
「あ、ぁぁぁぁっ」
 つぷりと入った亀頭が大きく女陰を割り開き、蔓を銜えたアナルよりさらに大きく口を拡げた。
「やっ、あぅっ! ひぃぃっ」
 風南の直腸と膣の間には、マサラの手により移動された前立腺がある。
 それが熱い肉棒と冷たい蔓に挟まれ、潰されて。ゴリゴリと擦られていって。
「ひぃ————っ!」
 静かな夜空に、細く長く淫らな悲鳴が響き渡った。
 ぴんと硬直した身体を、マサラが支えて、腰を揺する。そのたびに嬌声が上がり、ひくんと硬直して、また声を上げて。
 繰り返されるそれにあわせて、穴をかき混ぜる音と、風南の嬌声が響く。
 時折、何かを強請るような掠れた声も聞こえるけれど、それもすぐに意味のなさぬ音にかき消えた。
 繰り返し、繰り返し。
 その音は、夜明けに空が白くなり始める頃まで続くのが、この屋敷での常であった。




「奥様、旦那様より、誓約に従わず、淫らな姿を晒されます奥様に罰を与えるように言われております」
 マサラが城へと戻った翌日の夕方、動き回れるほどになった身体の風南の前に現れたムルナの言葉に、蒼白となった。
 呆然と立ち尽くし、けれど。
「かしこまりました。よろしくお願いいたします」
 すべてを諦めたように息を吐き出し、深く頭を下げる。
「服を脱いで付いてきなさい。また、これから良いと言うまで、誓約の内容を復唱しなさい」
 マサラの命を受けたムルナには、マサラと同等の対応をしなければならないのはこの身に染みている。
 部屋着はガウンのような一枚物で、脱ぐことはたいそう容易い代物だ。
 外に出かけることのない風南の服装は、このガウン風の代物か、薬草園の作業用のチュニックか、マサラがいる時用のドレスしかない。
 あの寝室よりも狭い風南専用の部屋は質素で、必要最低限の物しか無い。
 それでも、あの前の屋敷の檻のような部屋よりはマシだと、風南はこれで満足していた。
 その部屋の床に服を一枚落としてしまえば、もうペニスを飾るものしかその身には付いていない。
「はい……風南は、マサラ様に絶対服従して奉仕いたします。また、自ら淫欲を貪らず、命令に従わない時はどんな罰でも受けます……」
「判っているではありませんか。それなのに守ることができないとは言語道断ですね。さあ、続けない」
 冷たい言葉がトゲとなって突き刺さる。
 羞恥と屈辱に頬を染め、俯いたまま誓約を繰り返しながら、前を歩くムルナに付き従う風南の身体には、至る所にマサラによる痕跡が残っている。
 結局、最後に一度だけ射精させてもらったペニスが、歩く度にブラブラと歩く姿はたいそう滑稽だ。
 明るい日差しの下にそんな身体を晒した風南の横を召し使い達が通ることもあるけれど、彼らはそんな風南をきれいに無視していた。
 この屋敷で、ムルナに連れられている風南に声をかけるものはいない。
 それ以外の時であれば雑談程度はするけれど、こんな時の彼らは見ざる言わざる聞かざるを徹底する。それができるからこそ、屋敷のこの裏の部分を担当しているのだ。
 そんな中で、ムルナが風南を連れて行ったのはある狭い部屋だった。
「こちらに」
 言われるがままにそこに置かれたクッションのきいた椅子に腰を下ろす。
「足を上げて、肘掛けにかけなさい」
「はい」
「手は後ろに」
「はい」
 それにより、どんな卑猥な姿を晒すことになろうとも、風南は堪えて従った。
 最終的に腰を前に出し、股間すべてを晒した姿で、手足を椅子に縛られる。
 さらに、女陰側にはいつものように張り型が埋め込まれた。これは、マサラ以外がここを使うことを彼が嫌うからだ。
 その行動に、風南が怯えたように喉の奥で悲鳴を上げた。
 それが示すことはただ一つだから。
 そして。
 ムルナが壁にあったレバーを引き下ろしたとたん。
「ひっ!!」
 2メートル四方の壁が左右に分かれて、隣の部屋が現れた。そこは、裏の客を迎え入れる客間で、今現在も数人の客が談笑していたのだ。
「お客様、お待たして申し訳ありません。当屋敷の性奴隷の準備が整いましたので、どうぞこちらにいらしてくださいませ」
 いつもは奥方と呼ぶ口で、性奴隷と呼んだムルナの意図など明白だ。
「おう、ようやくか」
「まあ酒は美味かったがな」
 赤ら顔になるほどに飲んだくれた酔っ払い達が5人。
「へぇ……すげぇ、きれいだ」
「マサラ様が飼っている両性具有の性奴隷なんかで遊ばせてもらえるなんて、こりゃ、光栄だぜ」
「さすがだ、こりゃ、遊びがいがありそうだ」
 口々に好き勝手に言いながら、酒臭い吐息が触れるほどに近づいてきて。
「最近マサラ様が甘いことを良いことに、生意気にも逆らうようになってきたのです」
 その言葉に咄嗟に首を振ったけれど。
 酔っ払い達の瞳に宿る嗜虐心はとうてい消せないどころか強くなる。
 それは、稀になった客相手よりも強くて。
 酒で箍が外れている様子と、その粗暴な態度に、この先に待っている地獄が垣間見えた。
「どうか、街で評判のみなさまの調教の術で、こらしめてやってくださいませ」
 深々と礼を尽くし、男達の自尊心を擽ったムルナの本心は明白だ。
 マサラの奥方になったとしても、ムルナの憎しみは消せていないのだから。
「それでは、時間が来るまでどうぞご自由に」
「や、ぁぁっ!! 待ってっ、許してえっっ」
 踵を返したムルナに慌てて縋ろうとするけれど、椅子に固定された戒めは強く、それより先に男達に捕らわれる。
「良い子になれば迎えに来てくれるさ、なあ」
「リジンの性奴隷なんて、王のお達しがあったからもうこの手で遊べねぇと思ったけどよぉ、ラッキーだったな」
「壊さなかったら良いんだろ、じゃ」
 卑猥な嗤い声が風南を包む。
「や、やぁぁぁっ、ぁぁぁっ!!」
 咄嗟に上げた恐怖のこもった悲鳴が更に男を煽っていた。



「か、ざな……マサラ、さま……絶対、服従……奉仕して…い…欲…を…らず、命れーに、……時は、どんな罰でも……受けます……」
 ぼろぼろの身体で、ぺたりぺたりと歩きながら、風南は、虚ろに同じ言葉を繰り返していた。
 豊満な乳房は空になるまで搾り取られ、随所にミミズ腫れが走り、座れて噛まれた乳首は真っ赤に腫れ上がっていた。
 下半身を濡らす白濁した液体は、決して風南のものではない。
 零れるからとアナルには腕ほどもあろうかというバイブが刺さっているにも関わらず、流れるほどにあるそれから卑猥な臭いが周囲に漂っていた。
 口の端に垂れる涎の後も白く、ペニスの先端にはガラス製のマドラーが突き刺さっている。
 髪は乱れて絡まり、そこから覗く背中には鞭痕すら残っていた。
 三時間の間、五人の酔っぱらい達に嬲られた身体は、余すところなくその陵辱の証拠を残していた。
 そんな身体で、風南は、ムルナが命ずるままに別室に移動しているのだ。
 ぺたり、ぺたり。
 廊下に、濡れた足跡が残る。
 アナルには張り型があったけれど、女陰の張り型はムルナの手により外されていた。
 そこから、溢れた愛液が足を伝い零れているのだ。
「たかだか三時間程度。マサラ様と何時間も睦み合うあなたなら平気でしょう」
 そんな揶揄など、歩くことに精一杯の風南の耳には届かない。
 歩けと言われれば歩く。
 強請れと言われたら強請る。
 あの誓約は、そういう意味なのだから。
「今宵はその姿で、こちらの倉庫でお休みくださいませ」
 招き入れられたのは、薬草園の一角に建つ犬小屋のような小さな小屋で、立つことすら許されない。
 温暖な気候とはいえ、裸体では辛い夜のためにと、お情けのように固い床にボロボロの毛布がいれられた。
「よそ者に犯されるような者は、マサラ様の奥方には相応しくありません」
 それを指示したムルナが言う。
「マサラ様は6日後にお戻りになられるそうですので、その間ここで、たっぷりと反省してください」
 それこそが罰なのだと嗤うムルナに、風南は何も言えなかった。
 ムルナは怖い。
 怖いけれど、マサラを怒らせなければ、ムルナは手を出せない。
 それはたいそう難しいことだけど。
「反省できないようでしたら、前の屋敷に戻して一から躾け直しを行います」
「ひっ」
 その言葉に、びくりと硬直し、怯えた悲鳴を上げた風南に、ムルナの視線はきつい。
 それが冗談でも無いのだと信じるに足る視線だったのだ。
「では、明日また来ます」
 アナルのバイブはまだ振動していて、淫らな疼きに身悶える。
 外して欲しいと、視線を向けて無視された。
 許可がなければ外せないから、そのままにして風南は疲れ切った身体を横たえると、それだけでずいぶんと身体が楽になり、誰の目も無いことに風南の心も少しは楽になった。
 ぼんやりとガラス窓も無い窓の向こうに見える夜空を見上げて、うつらうつらと考え込む。
「すべてマサラ様の言うとおりに……」
 それさえできれば良いのだということは知っていた。
 マサラの言葉は絶対。
 マサラがしたいことに応えて、マサラが望むことをして。
 それができなかい時は、誓約のままに罰を受けてしまう。しかも、これ以上守れなかったら、今度は前の屋敷に戻されてしまうかもしれない。
 そのことに思い至ったとたん、風南は激しい恐怖に全身を総毛立たせて、小刻みに震えた。
 あの地獄のような日々は絶対厭だった。
 あの頃に比べれば、今はなんて幸せなんだろうといつも思っているのだ。
 マサラとのセックスは激しいけれど、無茶なことはされない。あの性欲を満たすのは大変だけど、それでも、あの屋敷や外でいろいろな人たちを相手にしていた時に比べれば、なんと楽なことだろう。
 あそこでは、風南は玩具で、すべてが見世物だった。
 浅ましい獣のように男を銜え、乳を搾られ、卵を産んだ。
 数え切れないほどの男達がこの身を使い、汚濁を注ぎ込み、死にも勝る苦痛を与えていったのだ。
 それに比べれば、この屋敷では基本的に相手はマサラだけで、時折行う接待も少人数で、時間も短くて。
 それに、ここでは薬草園の世話という仕事もあった。
 男の相手をすること以外の仕事ができて、風南の精神は前より格段に救われているのだ。
 奇妙で危ない効能を持つ植物が多いけれど、それでも何かを世話できるのも嬉しいし、何よりここでは他人の視線も少なくて。
「……前の、屋敷……やだ……あれは……地獄……」
 ここにいる方が前よりずっと楽。あっちが地獄なら、こっちは天国にすら思える。
 マサラ様にちゃんと仕えていれば、ここにいられるはずで。
 だから。
「ずっと、ずっと……」
 疲れてはいても、風南は正気だった。
 けれど、三年前の風南であれば、絶対に思わなかったことを、口にしていた。
「マサラさま……風南は、マサラ様の、もの、です」
 脳裏に浮かんでいるのは、結婚式の時、正装に身を包んだ見目麗しい容姿のマサラだ。
 その姿が後光をさしているかのように素晴らしくすてきに見えた。その昔、優しく手をさしのべてくれた兄達のようにすら見えたのだ。
「かざな、は、マサラさま……に、絶対に、服従して……なんでも……奉仕、します」
 あの方のために……。
「風南……は、全部、マサラ、さまのもの、だから……。だから」
 この身のすべてはマサラ様のものだから。
「風南が悪い……から、風南は……なんでも……お気が済むまで……罰を受けます……」
 だから……。
「捨てないで……」
 ごく稀に見かけたことのある笑みを思い出して、とたんに、全身が甘い余韻に包まれたる
 もっと微笑んで欲しい。もっと優しい笑顔がみたい。
 それは、あまりにも恥知らずな希望かもしれないと判っていても、それでも、もし叶うならばきっとひどく幸せだろうな、と思ってしまう。
 思わずそんなことを考えて、風南は知らず笑みをはいた。
 それは、昔、リジンの城で暮らしていた頃の、幸せだった頃の風南の笑みと同じものだ。
 比べるべくも無い、小さな小さな、幸せだと思えるそれに縋り付くしか今の風南にはできなくて。
「ここは、幸せな、ところだから」
 小さくても幸せは幸せ。
 今はもう、マサラだけが、風南を救ってくれる人。
 マサラが風南を使ってくれる限り、この幸せはきっと続くだろうから。
「マサラ様……。風南はマサラ様のものです」
 その夜、風南は何度も何度も、その身に焼き付けるように祈るように本心からの誓約を口にし続けていた
 
 
 【了】