【Sweet Valentine】

【Sweet Valentine】

 甘ったるい匂いが充満していた。
 常ならば嫌いではない匂いだ。けれど、今、そのチョコレートの香りは、むせ返るほどに強い。
 しかも室温で固体になってしまうそれが固まり過ぎないようにと、この部屋は温度を高めに設定してある。
 それこそ、さっきから流れる汗が止まらないほどだ。
 その汗だくの震える手がねっとりとした液体に浸り、固くなり始めた表面を崩す。薄く開けた瞳の先にあるのは、室温のせいだけでなく、上がった体温にとろけたチョコレートの海だ。
「うっ、やぁぁっ……」
「ふふ、美味しい」
 うなじに濡れた生暖かな舌の刺激に、欲情した体がびくびくと震えた。
 暑さに茹だったように頭がもうろうとしている。そこに与えられる際限のない快楽に、体はすで陥落していて、精神ももう限界を訴えていた。
 フリーのジャーナリストである彼は特ダネを取ろうと、裏の世界でも名のある組織の一つであるこの屋敷に侵入した。けれど、寝室と思われるこの屋敷の一番奥の部屋に辿り着いた途端、屈強な男達に囲まれて呆気なく捕まえられてしまったのだ。
 その時に現れたのが、この屋敷の主人だというこの男で。
 年の頃は、彼より一回りは上だろうか。
 殴られ、押さえつけられた彼を見下ろした男は、彼の口に無理矢理薬を入れて嚥下させた。
 極上の媚薬なのだ、と嗤いながら。
 非合法の麻薬すら入っているそれは処女をも狂わせるほどの効果があるのだが、体も心も狂わせるくせに、激しい痛みを与えるとすぐに理性を取り戻すのだという。その効果故に拷問用に使われることもある薬なのだと。
 そんな事を教えられて、耳朶に吐息を吹きかけられて。それだけで脱力した彼は、服を脱がされる刺激だけで一度射精をしてしまっていた。
 それから、ずっとこの部屋で嬲られている。 
「お前の味がするよ」
「ひっ、いやぁぁっ!」
 汗と体液とチョコレートに彩られた肌を、男の手が撫で下ろした。それだけで、嬌声を上げながらぴくびくと震える体は、もう限界だ。
 だが、一度達した後は、頑丈なコックリングが幾重にも取り付けられていて、欲を吐き出すことは許されていない。
 先走りがかろうじて滲む程度に締め付けられて、さらにぱくばくと喘ぐ鈴口は、その口が歪むほどに歪な円盤形の先端を持つ長さが30mmほどの楔が埋め込まれている。その円盤からは細い鎖が四方に伸びて、コックリングへと繋がっていた。その短い鎖を断ち切らない限り、楔は決して抜けない。
 そんな状態で、男は彼の全身を舐め上げて、チョコレートの味を堪能していた。
「ひっ、もっ、イくっ……、やあ、イキた……ああ、チンポ、許してくれっ……ひぐぅっ、うぅっ」
 薬のせいで、僅かな刺激も射精に結びつくほどの快感となる。
 ガクガクと腰を揺らして、男の腕に擦りつけるようにして射精を強請った。
 何のためにここに来たのか、男がいったい誰なのか、なんてすでに意識になかった。ただ、達きたくて、射精したくて堪らなかった。
 けれど、男は彼の願いなど無視して、目についたところを弄ぶ。
「ここ、いいねぇ、舌にこりこりっと当たる刺激が、なんとまあ味わい深い」
「いっ! やめっ──あっ、あひゃぁっ!!」
 筋肉質の胸板に顔を寄せられ、乳首を前歯で括り出されて、彼は全身を痙攣させて泡を吹いた。
 小さかったそれは、何度も何度も舐められ、囓られて、血に濡れたように真っ赤に腫れ上がっている。
 そこを噛まれた痛みに、一瞬理性を取り戻した体に、脳髄を貫かれたような激しいほどの快感が走ったのだ。
 衝撃が強すぎて白目を剥いた彼の腰は、無意識のうちにかくんかくんと前後に揺れていた。
「おやおや、また達ったのかい? 射精もせずに達くとは、やはり君はメスなんだね」
 重く張り詰めた陰嚢を手のひらで弄び、勃起しきって赤黒く変色したペニスに新しいチョコレートを垂らす。
 もう何度も繰り返された痛みによる覚醒直後の快感は、どんどん間隔が短く、激しくなっていく。
 どんなに達っても、意識を失っても萎えることのないペニスは、男の手でさらにチョコレートをかけられた。
「メス犬にはおっきすぎるチンポだから、飾ってあげよう。ほら、綺麗に美味しく、ね」
 くすくすと嗤いながらペニスを全てチョコレートで覆い尽くし、銀色のアザランで飾り付けていく。
「あっ、ひぐっ……」
「ほら、見てごらん、可愛いだろう?」
 髪を引っ張られた痛みで意識を取り戻し、うながされるがままに自分の下肢を見て。
 ぽろりと眦から流れた涙が、無残な形に飾られたペニスの上に落ちた。
「ひぐっ、も……ゆる……て……、助け、て……」
 侵入していた時にはあった強い意志を持つ表情は、今はもう弱々しい敗者のそれだ。
 自分が何をされて空達きを繰り返しているか、全てが意識に残っている。忘我の果てに達かせされるならまだしも、男は必ず彼を理性が残る中で空達きせているからだ。
 苦しげに呻き、泣きながら許しを請うて、それでも体は堪えきれない快感に上気して、チョコレートを溶かして流す彼を、男は残酷にも言い放つ。
「まだまだ、もっと美味しくなるように飾ってあげるから」
 その手にあるのは、長い30cmはありそうな三角錐状のチョコレートで。手に持っているところは、直径が5cm以上はありそうだ。
 呆然とそれを見つめていた彼が、男にとんと背中を押されて、力の入らない体が前屈みになった、途端。
「ひっがぁぁぁ──っ」
 背後から襲った激しい痛みに、目玉がこぼれ落ちそうな程に見開いた。
「ちょうど良い大きさだったね、ぴったりだ」
 嬉々とした男の声もどこか遠い。
「あっ、はが……あっ」
 痛い、と叫びたいのに、開いた口からだらりと涎が流れ出した。
「ほおら、奥まで入って。でも、君の中はよっぽど熱いみたいだ。もう溶け始めて……」
 肉を割ったそれが、ぐりぐりと奥まで押し込められているが、大きく口を開けた肉壁が、どんどんチョコレートを溶かしながら食い込んでいく。穿たれたそれの穴から出ている部分はすぐにでも落ちそうな程にぐらぐらとしていた。
「美味しく食べてくれて良かったよ。このチョコレートはベルギー産の最高級品だからね。それに、最初に君にあげたお薬をたっぷりとブレンドしていてね。チョコレートだけは今宵の私の愛しのペット達へのプレゼントにするつもりだったんだけど、玩具の方はどうしようかと思っていたんだ」
 熱い体に入り込んだチョコレートは、その直腸の中でどろどろに溶けていく。
 吸収性の良い薬は、ねとりとしたチョコレートとともにまんべんなく粘膜に貼り付き、その全てがゆっくりと吸収されていくだろう。
 もうすでに薬で犯された体に追加された薬効成分は、すぐに効果を増して、彼を襲う。
「ひぐぅ、あぅっ……ひあ……ああ……」
 尻からはみ出た残りの部分が、揺れる腰をあわせてぶらぶらと揺れていた。
 よく見れば、そのくびれた部分の隙間から、鈍く光る金具が見える。
 それは、金属の芯を持っていて、ちょうど折れ曲がるように取り付けられた金具の部分にアナル壁が当たるようになっていたのだ。そのせいで、ぶら下がっても落ちはしない。
「可愛い尻尾だ。みんなも悦ぶだろうね」
 男が手に持った見るからに頑丈そうな大型犬用の首輪を彼の首に嵌めて、リードのフックをかけた後に、いかつい南京錠をかけた。
 鍵がかかる鈍い音がした後、部屋の片隅でピチャン、カキンッと、何かがチョコレートの海に沈む音がする。それが何か、どろどろとにとろけた海のどこに沈んだかは、もう見いだせない。
「さあ、パーティの時間だ。思わぬ素晴らしい贈り物ができて、ペットたちも悦ぶよ」
「はっ、あっ、……はあっ……あっ……」
 込み上げる激情に腰が揺れると、尻の尻尾上のチョコレートが揺れる。そのたびに、肉の中の棒がチョコレートを掻き混ぜて、さらに肉壁を押し上げる。
 鎖が天井からぶら下がったフックに取り付けられて、短い距離しか移動できなくなったことにも気づかないで、彼はひたすら腰を揺らし、快楽を貪った。新しく覚えた快楽の源は、僅かに揺らすだけで堪らなく気持ち良くて。
 そんな淫らな踊りを甘受している間に、閉ざされていた隣室との扉が開放された。


「ひっ、ぁぁぁっ!」
 激痛が背に走り、一気に意識が覚醒する。
 自分が何をしていたか気づく前に、目の前の光景に、体が硬直した。
「私のペット達だ。今日はバレンタインデーだからね、チョコレートをどんな風にプレゼントすれば良いか迷っていたんだけど。君のおかげで、素敵なプレゼントにできあがったよ」
 男の得意げな言葉が、鼓膜を通り抜けていく。
 鞭を持った男の足元に、嬉しげに擦り寄る屈強な体格の男が二人。全裸で四つん這いの二人は、首に犬のような首輪を嵌めていた。
 その二人が、どちらもぎらぎらとした欲に満ちた瞳を、彼に向けている。
「一週間ほど前にこの子達に与えていたメス犬が壊れてしまってねぇ。その代わりにもちょうど良かったよ」
 目を凝らさなくても見える二人の勃起しきったペニスは、だらだらと粘液を垂らしていた。しかも、彼のモノよりはるかに太くて、たいそう歪にぼこぼことしていて。
「リキとネイだ。彼らはもともとこの屋敷に潜り込んできた暗殺者だったんだが、この子達のりっぱなペニスが気に入って飼うことにした訳さ。君も気に入るだろう」
「い、いや……」
 嫌々と首を横に振って、じりじりと後ずさる。
 けれど、首につけられたリードが突っ張って、大きくは下がれない。
 さすがに薬の効果も飛んでしまったほどに怯えて首を振る彼に、男は嗤いかけた。
「君にも名前をつけてあげるよ。スイート、どこもかしこも甘いメス犬ちゃん、さあ、まずは女にしてもらいなさい。それから腹一杯になるほど種付けしてもらって。その後は仔犬をたくさん孕むまで飼ってあげよう」
 あり得ない未来を口にした男の手が上がり、鞭が大きく床を跳ねる。
「ヨシっ」
 犬たちに下された命令は、絶対だ。
「いやっ、ぎぃ、ぎゃああぁっ!──ひあぁぁぁっ!」
 刺さっていただけの玩具はすぐに抜かれ、代わりに熱い太いペニスが深々と突き刺さる。痛みは理性をつなぎ止め、けれど媚薬に爛れた粘膜は、全てに快楽をもたらした。
 ざわめく肌が痺れたように震え、筋肉が硬直して快感にとけろていく。
 自分が何に犯されているのか、全てをはっきりと自覚しながら、快楽の渦に飲み込まれていた。
「ああ、いやっ、ひあぁんくぅぅ──っ、ひぎぃ!!」
 甘い嬌声と激しい悲鳴が繰り返し繰り返し続く。
「定期的にこの鞭をあげようね。その方がスイートはもっと甘くなるから」
 時折鳴る鞭音の時には特に激しい悲鳴だったけれど、鞭音が止んだ後は先よりももっと狂ったような嬌声が屋敷中に響き渡っていた。


 その屋敷の犬小屋は一番奥まったところにある。
 餌は日に二回。
 栄養満点のその餌は、床に作り付けの低い台の餌皿に入れられる。水はその隣の容器だ。
 犬は現在三匹飼われていた。
 そのうちのメス犬はなかなか自分では食べようとしないから、オス犬達がいつも食べさせている。
「ひ、ひぐっ、むぐっ」
 頭を押さえつけられ、餌皿に顔を突っ込まれて。
 媚薬がたっぷり混ざったそれを、完食するまでオス犬は許してくれない。
 ぶらぶらと垂れ下がる棒でできた尻尾の前には、ベルトで幾重にも拘束されたモノがぶら下がっていて、先端は栓がされている。
「あ、おしっこ……おしっこしたい……させて、ください」
 朝から許されていないせいで膀胱は破裂寸前だ。けれど、栓をされているせいで、自力ではきちんと出ないのだ。
 四肢を折り曲げて仰向けになって、胸から腹から股間まで、全てを見せて服従のポーズを取って強請らないと、栓は取って貰えない。
「小便か、もっと可愛く強請りなよ、スイートちゃん」
 ひくひくと震える鈴口を塞ぐ栓を外す鍵はリキが持っている。
「スイートちゃん、そろそろ糞もしたいんじゃないか?」
 ネイが、尻の尻尾を固定するベルトの鍵で、つんつんと剥き出しの腹を突いた。
 実際、ぽこりと膨らんだ腹は、さっきからきりきりとした腹痛を訴えている。
「し、したい、です、うんち、したい……」
 リキとネイに全てを管理されたスイートは、腰を振り、舌をのばして目の前のグロテスクなペニスを舐める。二人を一度は満足させないと、決して許してくれないのはもう骨身に染みて判っていた。
 あの時は、あの男が怖いと思ったけれど。今はあの男が何でも買い与えるほど気に入っているこの二人の方が怖い。
「おいおい、また欲しいのか、しょうがねえなぁ」
「淫乱だからな、はは、欲しいんなら、その気にさせろよ」
 言いながらも、その目はぎらつき、ペニスが固くなっていく。
 小屋の片隅には、大きな玩具箱があって、そこにはスイート専用の淫具がいっぱい入っている。
 薬のせいで日がな一日発情できる犬達は、気が済むまで交尾をして、飽きれば玩具で遊んでばかりで、一日が過ぎていく。
「ひあぁぁ──っ、いぃっ、いくぅっ、ひぃぃっ」
 拘束されたペニスは、決して解放されることなく、メス犬スイートはオス犬達を満足させるまで休むことはできない。
 慎ましやかなはずのアナルは、日が暮れる頃にはひどく赤く腫れて疼いているけれど。
 痛みを与えるために全身あちこちを噛まれているせいで、肌には歯の痕がくっきり残っていたりもするのだけど。
「もっとぉ、もっと、激しくぅぅぅっ、ついて、抉ってぇ、いっぱいしてくれて良いから……イイ、からっ、達かせてぇっ、ああっ! やあ、ま、また、イヤ、達きたいっのにっ、やああ──っ、イイ、イ、イクぅぅっ!!」
 決して許されぬ解放を強請る声は、名前のごとくひどく甘いモノだった。



【了】