【淫魔 憂 新作撮影】後編

【淫魔 憂 新作撮影】後編

 新しいシリーズのタイトルは、「奴隷生活30日」。
 ごく普通の一軒家を舞台に、家族が長期不在の間に侵入してきた男に居座られ、30日間毎日陵辱の限りを尽くされるというシナリオだ。
 このDVDのために見つけ出した巨躯とそれに見合うスタミナと巨根を持つ黒人は、最初の撮影が終わる頃にはすっかり鬼の傀儡となっていた。鬼が与えた精力増強剤と精神高揚剤、そして憂が出す媚薬とその体の妙なる快感に当てられて、脳の中の理性というものを破壊されてしまっていた。
 そうなってしまえば、男が考えることは憂をいかに犯し尽くすかということだけだ。
 もちろんこれは想定内のことで、最初の撮影は陵辱役の男を作り上げるためのものでもあった。
 その結果、ごく普通の侵入による強姦風景でしかなくなった映像を、憂のマネージャー兼監督でもある関根は、売り物にしようとは考えていなかった。正常位のセックスでしかないこんな代物では、客が満足しないからだ。
 だからと言って無駄にはしない。「奴隷生活30日」シリーズ 全10巻(予定)の予約特典特別ムービーとして、予約者に配布する旨広告を打ち、ダイジェスト版をネットで公開したら、あっという間に予約数が過去最高になっていた。
 この先を想像させる映像は、よほど客達の想像力をかき立てたのだろう。
 本格的な撮影は、今行っているところで、仕上がるのは1ヶ月以上先になるというのにだ。
 だが、期待する客達をがっかりさせるつもりは毛頭なかった。10巻分全てで客を飽きさせないよう、男には日替わりになるよう30種類の強姦風景を作り出すように命令していた。そのために、撮影が始まって以来、男と憂はずっとこの家にいさせている。
 必要があれば夜間でも撮影ができるよう、家のいたるところに高性能の監視カメラもおいてあって、傀儡のスタッフも常駐していた。なにしろ、陵辱の開始は男の気分次第で突然始まるのが常なのだ。
 強姦内容が思いつかなければ、憂のサイトに集まっている要望の中から似合うのを探して教えれば良いだけのことで、凶暴性も増した男が喜んで使うようなシチュエーションはたっぷりとあった。
 そう思っていた関根に、男は予想外の才を見せてくれたのだ。 
 こちらから何も言わなくても、DVDのネタにするのにふさわしい陵辱風景を見せてくれて、関根も大満足だった。
 この日の撮影も深夜近くなって終わり、さすがの男も今はぐうぐうと鼾をかいて寝ている。
 もっとも、捕らえられたという名目の憂は、男が与えた命令通り素っ裸で、首輪に鎖をつけられていた。鎖は今は階段の手すりに結わえられ、簡単には外れないようになっている。あれから憂は、まともにベッドに寝かされたことはなかった。ソファなら良い方で、トイレや玄関先に放置されたこともある。
 今も、どろどろに汚れたその姿のままで階段の手すりにもたれるように蹲る憂は、もうろうとした瞳で床を見つめていた。
 撮影前に髪から爪先に至るまで美しく整えた体は、今や鬱血や傷、緊縛された縄の痕、そして多量の体液に彩られて、無残な有様だった。
 けれど、その肌はかなり血色が良い。
 たくましい男の精をその身にたっぷり受けているのだから、淫魔が疲れ果てる訳はないのだ。
 ただ、何日も続く陵辱に精神はかなり参っているようだった。身体は淫魔だが、精神はあくまで人間のそれを保つ憂にとって、何百本というペニスをその身に受けたとしても、陵辱というものに慣れることはない。
 淫魔としてそう創られているのだ。何よりも、鬼を楽しませる道具である、ただそれだけのために。
 もっとも、そんな憂の苦しみは人間も楽しませ、鬼たちを儲けさせてくれる。だからこそ、関根にとって腕の張り合いがある撮影は、今日も今日とてたいそう順調に終了した。
 満足げに今日の仕上がり具合を確認している関根だったが、けほっ、と小さな嘔吐きに気がついて視線を落とした。
 嘔吐いた拍子に、精液が乾いてこわばった髪からハラハラと粉が落ち、口の端から白濁した涎が流れ落ちている。
 そんな憂の前に膝をつき、視線の定まらぬ瞳をのぞき込んだ。
「新しいマスターのチンポはうまいか?」
 陵辱者は自分をマスターと呼ばせている。その言葉に、憂の眦から涙があふれ、流れ出した。
「……せ、きね……様……たす……けて……」
 縋るように拘束されたままの手を伸ばしてくる。
 その指先すべてにまだ乾いてもいない粘液が絡まっていた。何しろ、今日はボトル1ダース分の潤滑剤が家の、この階段の手すりにばらまかれたのだ。
 そして憂は、アナルに500ccのペットボトルを半ばに突っ込まれたまま、足は膝から先と大腿とあわせるように固定され、腕は背後で拘束された。乳首を繰り出すように上体を幾重に荒縄で縛られ、その縄の先は踊り場の手すりの飾りに引っかけられ、一階へと戻された。
 その先を持つ男の鍛えられた腕は、その縄を巧みに操った。手すりの上に俯せに二階に向けて乗せた憂を、荷物のように軽々と踊り場まで引っ張り上げたのだ。
 下手に暴れれば階下の廊下に落下するしかない状況で、憂はじっとしていた。自重で荒縄が締め付けられ、絡められた乳首がひどく痛んでも、動けば落ちると思えば動けなかった。
 その憂を固定する縄を、男はいきなり離したのだ。
 手すりは荷物を滑らすレールとなっていた。
 自由にならない身体では滑る身体を止める術など無い。そのまま勢いよく滑り落ちた身体は、手すりの一番下に立ちあがる飾りへとぶつかって止まったけれど。
 パァーンと弾むような音と絶叫と。
 先より深く食い込むペットボトルと真っ赤に腫れ上がった会陰部に、憂が泣きながら痙攣を繰り返す。
 その身体が再び引っ張り上げられて、また滑らされて。
 愉しい滑り台ごっこは、何回も繰り返された。
 階段を使った遊技はそれだけではない。
「助けて……くだ……い……おねが……」
 悲壮感漂う憂の願いは、けれど、関根の身に抑えきれない興奮を呼び起こす。
 いくら治りが早いといえ、連日の陵辱に憂のアナルが腫れ上がっているのは知っている。会陰への衝撃は、体内の快感のるつぼをも刺激して、さらに敏感に仕上げているだろう。それは、最後の陵辱時の、憂の悦び具合から容易に想像がついた。
 そんな素晴らしく仕上がった肉筒のもたらす妙なる快感は、やみつきになるほど素晴らしいのだということを、関根は良く知っている。なのに、ここで我慢しなければならないことは、苦行の何ものでもない。
 だからといって憂をここで使う訳にも行かなかった。この撮影期間の間、憂の相手は男ただ一人と決めたのは、他ならぬ関根自身なのだから。
 たった一人の精をこうも連続で吐き出し続ければ、いくら淫魔の媚薬に冒されているとしても薄くなる。
 まして鬼と淫魔に囚われた傀儡は、ろくに食事も取らないで、憂を犯し続けていた。食欲より性欲の方が最優先なのだ。
 だから最終章は、その薄い精に飢えて飢えて、色欲に狂った憂を撮るつもりなのだ。
 巨躯の男を犯り殺す憂の姿は客のさらなる欲情を誘い、きっと憂の虜になる客が増えるだろう。
 前に一部の客限定で配布したその手のDVDは、実は関根に問い合わせをして許可した相手ならば、1回限りコピーを配布可能にしておいたのだ。
 特別なセキュリティコードを入れれば、一度だけコピーできたそれは、最初の配布枚数の倍近くの客の手元にあり、手に入れられない客からの要求も多かった。
 鬼に接触した人はその嗜虐性がひどく強くなっていく。中には、鬼の血が騒ぎ出して本性を見せるものだって出てくる。関根自身いくらか鬼の血を引いてはいるものの、それでも鋼紀と接することがなければここまで本性があらわになることはなかっただろう。
 憂のDVDは、関根のように鬼の性を隠し持つモノを見つける役目も担っているのだ。
「マスターのペニスごときでは物足りないらしいな」
 関根のペニスもたいそう立派だが、さすがにあれには負ける。若干の屈辱すら感じて、その分を憂への酷薄な笑みに乗せてやる。そのまま立ち上がる関根を、怯えた憂の視線が追った。
「そんな薄汚れた身体で、俺に縋るんじゃないよ。おまえが許しを請うべき相手は、マスターただ一人だ」
 その言葉に、逃れられないことを悟ったのか、がくりとその頭が落ちた。
「すべての撮影が終わったときには、あれよりもっと立派なペニスをその身体に突っ込んでやろう。まったく、贅沢なやつだな」
 あんな巨根は、張り型でもそうそう無い。
「ひっ、……ちが……います……、満足してます……から」
 満足しないはずが無い憂の言葉は真実だが、関根の耳に入ってしまえば、すべてが嘘だ。淫魔は、どんなペニスでも満足しない。
 それが、鬼達の通説となっている。
「そうか? では嘘を言ったのだな、俺に」
 嘘は、拒絶と同じく、厳罰の対象。
 それを忘れたわけでない憂が蒼白になっていく様は、愛らしいとすらいえる。このまま愛でに愛でて、もっと絶望の淵に落としたいほどだ。
 そんな事を考えたせいか、こらえ切れぬ欲情のままに喉がなった。
「あ……」
 それがどんな意味を示すのか、よく知っている憂の瞳が絶望に閉じられる。そんな姿に気分はさらに高揚して。
「お仕置きは全部終わった後だよ。楽しみに待っておくが良い」
 言わずもがな、の事をついつい宣告してしまった。だが、それはもう決定事項だ。
「あ、ぁ……違います……、許してください、ごめんなさ、い……。お願いしますっ」
 不自由な身体をよじり縋るように懇願されても、淫乱な憂のお仕置き編は、サイト来訪者の特別ムービーとして必要だからいくらでも必要なのだ。
 その憂が足を動かしたせいか、憂の股間から白い液体がたらたらと流れ落ちた。
 吸収の良い淫魔の身体から溢れるほどに出てくるのだから、あの男の精液量はたいしたものだ。
 と、いらぬところで感心して。
「ああ、それと。ずっと先延ばしにしていた、お客様への感謝祭をこのDVDを発売した後すぐに予定することにしたからね」
 直に憂と遊ばせると、品物への客の食いつきが良くなるのだから。何より、DVDで煽られた客達はどんなに大金を払ってでも参加したいと思うだろう。
「この家にみなさんをご招待して、遊んでもらおう。第二話で撮った射的もどきが面白かったから、客達に遊ばせるのも良いかもね。幸い、的になる写真はいっぱいあるからねえ。そっちで転がっている写真を大きく引き伸ばして、尻に突っ込んでもらって、精液を噴き出して。無事顔に顔射できたら、サービスで好きなように抱いていただくってのはどうかな?」
 ちょっと人数的に無理かと思いつつ口にした言葉にこぼれた音のない悲鳴は、たいそう耳障りが良かった。
 憂の切ないすすり泣きをBGMに、何とかして実現できないかと、いろいろと考えながら辺りを見渡す。
 この古い建て売り住宅は、使い込まれている分たいそう生活感があって、今回の撮影にはぴったりだった。荷物もすべてそろっているから、小道具をそろえる必要はもなかった。
 玄関を開ければ吹き抜けのU字階段という配置も良い。
 玄関の三和土で拘束されて怯えていた様は、きっと客を喜ばせるだろう。
 何しろ、外は小さな庭を隔ててすぐに道路なのだから、人通りもある。鬼の力で外界と遮断されているとはいえ、憂はそんなことは知らないから、緊張は相当なモノだったようだ。その分、力が入って巨根に感じまくっていた。
 二階の手すりから吊された今日の憂は、滑り台ごっこの後は一階に置かれた衣服や鞄をかける使い古された子供用のポールハンガーの上に垂直に何度も何度も落とされた。先端が丸いボール状のそれが食い込む会陰部やたまたまヒットして飲み込むアナルの様子がおもしろいと、男はずいぶんと楽しんでいたようだ。
 最初に犯されたリビングは、ソファからラグにまで体液がべっとりと染みこんでいる。
 写真アルバムが入っていた棚は、拘束のためにひっくり返され、転がり開いたアルバムの幼い子供達と母親の色の変わった写真の上で、尻を犯されながら何度も何度も射精させられていた。
 女の顔に当たれば、今日は終わりと言われながら、けれど尻を突き上げられながらの射精で狙える訳もなく。憂自身、かけたくないジレンマに襲われて、その遊戯はたいそう長く続いていた。
 一階を一通り使えば、二階での撮影も行った。そこにはもう成人している子供のための部屋が二つ。
 ベッドの上でがんじがらめに拘束された上にフェラチオさせられて、尻に入れられた卵を産み落としたのは昨日のことだったか。
 兄の部屋では、後背位に騎乗位──いわゆる四十八手すべてを強要されて、こなしていた。
「まったく素晴らしい家だ。こんなに撮影にふさわしい家はそうそう無い」
 狭い庭も適度な樹木があるから、そのうち男は外でもやるだろう。
 人の目を極端に怯える憂は、最初の電車での陵辱がトラウマになっているようだから、たいそう効くだろうし。


 鋼紀から紹介されたこの家を、関根が初めて確認に訪れたとき、妙な懐かしさがあった。それでこの家の素性を確認してしまえば、それも道理だと納得した。
 何しろこの家は、憂を初めて知った、憂に虜になったあのDVDに出てきた家だったのだから。
「さすが、淫魔が育った家は、淫魔にふさわしい」
 それだけは本心からだと憂に微笑みかければ、その肩がひくりと震えて新たな涙が床を塗らした。
 
【了】