【熱いプレゼント 前編】

【熱いプレゼント 前編】

「ねぇ亮太、これ、俺からのクリスマスプレゼント。素敵な物がいっぱいあったから、全部買っちゃってさ。でも、絶対どれもこれも亮太に似合うと思って。ねぇ、着てくれるよね?」
 にこりと、満面の笑顔を浮かべて話しかけてくる高藤春樹(たかとうはるき)を真木亮太(まきりょうた)は大好きだ。そんな春樹の願いを厭う理由など無くて、亮太はうっとりと微笑んで、こくりと頷いた。
 春樹は優しい。
 亮太が一番だと、いつも一緒にいたいと言ってくれる。
 それがとっても嬉しくて、自分もずっと春樹といたくて堪らなくなる。
 本当に、春樹は優しい──のだ、けれど……。
「コートも、服も、格好良いのがあってさ」
 亮太が気に入るから──と、春樹は亮太の事を一番に考えてくれる。それが気に入らないなんて言ったり、態度に示したらたいそう悲しむから、亮太はどんなことだって春樹が言うことは喜んで受け入れるようにしてきた。
 もともとイヤな事があっても我慢するのが普通だったから、春樹に言われるままに対応してきて。 そうするととっても春樹が喜んでくれると判ってから、ますます春樹の言うことは全て聞くようになった。なにしろ、そうしないと春樹までもがいなくなってしまいそうだったのだ。
 早くに母親が亡くなって、忙しい父親は不在がち、そして優しかった兄までもが結婚して帰ってくることはなくなってしまって、もう亮太はひとりぼっちになってしまっていた。
 だから、春樹がいなくなると、またたった一人残されてしまう。
 寂しくて堪らなくて、激しい焦燥感に襲われて、泣きたくなる。
 甘えん坊で泣き虫、なんて、幼い頃に封印したはずなのに、春樹と暮らすようになってから、それがものすごく表に出やすくなってしまった。
 もう独り立ちできるほどに大きくなったのに、焦燥感に苛まれると混乱してどうして良いか判らなくなる。
 感情に振り回されて冷静な対処ができなくなる亮太を、それで良いと言ってくれるのも春樹だけだった。
 だから、春樹に嫌われたくなくて、逆らうことなんか考えない。
「ねっ、亮太が好きな物ばかりだろ?」
 満面の笑顔で差し出されたそれを受け取る手が小刻みに震えていても。
「あ、りが……と」
 口の端がひきつって、応える言葉も震えていたとしても。
 悲鳴を上げる理性を押さえつけて、亮太は震える口元を押し隠して──笑う。
「嬉しいよ、春樹」
 豊満な肢体をあらわにした金髪女性の裸体が描かれたパッケージを破きながら、その写真が誇張された物であることを願うだけだ。
「これ、亮太なら似合うと思ったんだよなあ。亮太の肌って白いだろ、だから黒が良いって思って」
 春樹の趣味は、おかしい。
 性的嗜好もおかしい。
 何度も思うけれど、決して口には出さない。
 まだ最初の頃にいきなり押し倒されて、思わず口に出した時に春樹はたいそう怒ったのだ。
『亮太は自分の事を知らないんだっ』
 そう言われて、そのまま縛り付けられて。
 何時間何時間も徹底的に体を弄くられて、アナルにパールローターも挿れられて、ただひたすら嬲られた。
 それは全て快感になって亮太を襲い、何度も射精して、精液が無くなれば空達きを繰り返して、『亮太はすっごい淫乱なんだよ。だからそんなに感じるんだよ』と言われた言葉を肯定せざるを得なかった。
 こんな亮太の姿を見たら、友達はもちろん誰も彼もが亮太を蔑み、離れていくだろう。
 そう言う春樹だったけれど、「俺だけは、そんな亮太でも離したりしないからね」と言ってくれる。
 本当に春樹は優しくて、亮太にとって大切な人だったけれど、困ったことに春樹は亮太の淫乱さを隠そうとしない。他人に知られたくないと我慢する亮太の体を、いつでもどんな時でも可愛がろうとするのだ。
 それもこれも亮太が可愛すぎるのが原因で、亮太の好きなようにさせたいから、と言う。
 今だって。
「春樹……もうすぐ出かけるんだよね」
 今日はパーティがある。
 嫌いな店の行きたくないパーティだけど、春樹が行きたいというから行くその出かける時間が近づいている。
 けれど、目の前の春樹は、店でも開くのかと言うほどに広げたプレゼントをどんどんと開けていっている。
「ん、だから早く亮太も着替えなよ。着飾った亮太の姿を見たら、みんな驚くと思うよ。亮太も見せびらかしたいんだろ──あっ、これ亮太にジャストサイズだと思ってさ。早く全部つけてみてよ」
 嬉々として差し出されたのは、飴の棒が三本ねじれて絡みあったようなもの。意外に太く、ずしりとした重さがある。
「全部……って……。もしかして」
 ずいぶんと愉しそうな時の春樹が何を望んでいるか、亮太はもう簡単に想像できてしまう。
「春樹……これ、全部……って」
 震える指先から、ごとりと太い棒が落ちる。
 細い革のベルトが絡みあったような物が、床に黒々と伸びていた。
 小さなカウベルの根元には、尖ったピン。南京錠が付いているのは筒状の何連もあるベルトで、
その隣にはあるのは、電源ボックスからコードが伸びた五連の白い玉。
 他にも小さな玉がいくつも入った箱に、長い鎖が床を這う。
 小さな泡が見えるピンクの透明な液体が入ったボトルが、蛍光灯の灯りにきらきらと光った。
「俺も手伝うからさ、着替えようぜ」
 指が伸びてくる。
 春樹の綺麗な指がシャツのボタンにかかるのを、ごくりと息を飲んで顔を顰めただけで、黙って受け入れる。
 頭の中で数多の言葉が駆け巡り、けれど、ボタンが一つ外れる度に、それらが脳の奥底にと沈み込み消え去った。決して口から出ることのない言葉は、もとよりその役目を果たすことが許されていない。
「まずは、これだね」
 嗅ぎ慣れたバラの甘い香りは、亮太の体を熱くする。冷たくて、けれどすぐに熱を持つ薬液に浸された球体は直径が2cmほど。それを持った春樹が何も言う前に、亮太は全裸の体で四つん這いになっていた。
 まだ何もされていないのに、体が勝手に反応する。
 近づく春樹の気配に、きゅっと尻タブに力が入った。アナルがひくひくと震えて、じわりと熱くなる。
 そんな亮太の様子に春樹がくつくつと喉を鳴らすから、込み上げる羞恥心がよけいに体を熱くして、神経を高ぶらせた。
「ほんと好きなんだよね、これが」
 『淫乱なんだから』と容赦なくふりかかる嘲笑は、けれど真実に違いなくて、唇を噛み締めて受け入れるしかない。
 そう、自分はこんなにも淫乱だ。
 だって、もうペニスが硬くなり始めている。
「そんな亮太も好きだけど、けど、慎みってのも必要だからね」
「ん、ご、ごめ……あっ」
 淫乱な反応を隠したくて、恥ずかしげに身を捩る体を押さえつけられて、次々と春樹からのプレゼントが体の中に入っていった。
 ぷつり、ぷつりと、押し込まれていくたびに体が熱くなり、勃起し始めたペニスがひくひくと震える。
 じわりと唾液が溢れ出し、刺激に喘ぐ口元からたらりと顎を伝い流れ落ちた。
 括約筋の開閉する振動が肉壁を伝わり、体内奥深くを揺さぶっていて、快楽の源から飛沫が迸るのを、固く目を瞑って首を振り、弾ける刺激にびくびくと震える。
「亮太みたいな超弩級の淫乱って、俺初めて見たよ。こんなの挿れられただけで噴き出しそうなほど勃起してる。他人が見たらなんて言うだろう?」
 耳元で、感心したとばかりに囁かれて嗤われる言葉に、亮太は肌を紅潮させて反応した。
 ひくりとペニスが震えて、尿道を粘液が通り過ぎるのが判る。
 ほんとうになんて浅ましい体なんだろう、この体は。
 言葉だけでも反応する己に、嫌悪も露わに身を固くするけれど。
「もう少し入るかな?」
 そんな春樹の問いかけに、亮太は即座に頷いていた。
 拒絶の言葉は決して出ない。
「あ、ぁぁ、は、るきぃ……」
 ぷるりと震えて、快感を逃して。
「んっんくっ……、あっはぁぁ」
「イヤらしい……いっぱい入っているのに、まだ欲しいんだ。じゃあ、今度はこっちだね」
「え……あぁっ!」
 先ほどまでの物とは違う。
 みしみしと括約筋を押し広げられる感覚に、四つん這いの四肢を硬直させた。
 中に入った玉を押し退けるように突き進むそれは、一瞬も休むことなく一気に押し入っていく。
「凄いなあ、こんな太いの。普通の人は入らないよな」
「は、ああ……ぁぁ、ふと……、すご……」
 ごりっと肉壁が擦られて振動する。
 喘いだ上の口の端からたらたらと涎が流れ落ち、股間の鈴口からもたらぁりと糸を引く粘液が床を汚した。
 さっきまでの刺激など序の口だったのだと思うほどに、アナルからの快感は激しく爆発を繰り返して、亮太を翻弄するのだった。



 周りが良く見えない。
 いつもの道を歩いているのは判る。けれど、体の奥が熱せられたように熱くて、大きく息を吐き出す度に喉が焼けそうにひりつく。
 あの甘い香りが亮太の体から立ち上っていて、粘液からの吸収だけでなく呼気からも体内に入り、血液に入って全身を駆け巡っていた。
 一嗅ぎで体を熱くする薬は敏感な肌をさらに敏感にして、布地が擦れる感触にすら疼くような快感を覚えるようになる。
 それがたっぷりと浸された球体は、何個も体内の中で暴れていて、ごりごりと性器とかした肉壁を抉りまくっていた。
 たくさんの玉のせいで腸が圧迫され、込み上げる排泄感に堪らずに息んでも、今度はそれらを深いところまで押し込める棒が決して排泄を許さない。
 括約筋のところだけが細いその棒は、少々息んだところで出て行くことはないし、抜けないように体を締め付ける拘束衣で固定されていた。
 なのに、歩く度に外に出ている部分が大腿に巻かれたベルトに引っ張られて、前後に動く。
 ずるっ、ずるっと肉壁と括約筋を擦りながら、ゴツゴツとした棒が前後する。
 その度に、中のいくつもの玉も暴れ回って肉壁を嬲り続けていた。
「あっ、はあっ、はあぁぁ……」
 ふらふらと歩く亮太の斜め後ろを春樹は付いていた。
 亮太の一歩はたいそう短く、春樹は何度も立ち止まらなくてはならなかったが、それに亮太は気づかない。
 喉の奥でくつくつと嗤う声すら、届いていない。
 招待されているクリスマスパーティの会場近くまでタクシーで来て、その間の振動にすら感じまくっていた亮太は、路地裏の残り五分の道のりを歩いているところだった。
 春樹から贈られた黒革のコートに同質のブーツと手袋、それにカシミアの黒いマフラーと、何かも黒ずくめで全身を覆っているせいで、闇に沈み込んでいるように見える。
 だが、艶のある黒は、路地の僅かな灯りも反射して、明らかなシルエットを闇の中に浮かび上がらせていた。
 普段はあまり目立たずにいておとなしく見られる亮太だが、実際はその見た目は群衆に埋没するタイプではなかった。特に今は、コートやブーツ、それに手袋は小さなベルトがふんだんに使われている硬質なデザインの服を身につけているのに、どこか似合わない憂いを帯びたため息を繰り返す亮太は、若々しさの中に人目を惹くような色気がその身から滲み出ている。
 路地裏と言っても、それでもスナックやら居酒屋がある近くだ。
 時折通る人たちが、誘われるように亮太に視線を向けている。
 そんな人の気配に気がつく度に、亮太の体は硬直して、そのせいで体の中の異物をよけいに締め付けて、溢れる悲鳴を飲み込むこと繰り返していた。


 あと少し。
 けれど、残りの道がひどく遠く感じる。
 その顔は耳まで朱に染まっていて、ふわふわとした足取りでなんとか前に進んでいる状況だった。
 たかだか5分ほどの道に、もう10分以上はかかっていた。
 早く行かないと。
 さっきから春樹が時計をちらちらと気にしている。
 パーティの始まりまでには到着する予定で家を出たというのに、これでは間に合わなくなる。
 それが判っていて、けれど、体が思うように動かない。
 熱くて、足を動かすと体の奥がごりごりと擦られて、堪えようのない快感が電撃のように脊髄を貫いた。
 ぎりっと奥歯を噛み締めて、その嫌な音に縋る。
「ん……くっ」
 気ばかり急いて足を動かすと、力の入らない体がふらりとバランスを崩す。慌てて、半歩足を踏み出したとたんに、体が大きく痙攣した。
 あちこちが、爆発している。
「あ、んあぁぁ」
 堪らずに這った嬌声がひどく大きく響いて、慌てて口を噤んだけれど。
 大きく仰け反った体が元に戻らない。
 ひくひくと震える亮太は今にも倒れそうな状態で──否、もう何もかも諦めて倒れてしまおうとすら思ったのだけど。
「どうした、亮太?」
 背後から春樹の声が響いて、その声に感じるほんの少しの棘にびくりと硬直した。
「だ、だい……じょーぶ……っ!」
 平気な振りをしたが、僅かな身動ぎでも快感が跳ね上がり、とろりとした液体が体内から流れ落ちる刺激にすら、ぞわぞわと肌が粟立った。
「だったら早く行こうぜ。遅れてしまう」
「ん……ふぐっ……ご、ごめ……」
 春樹を怒らせた……。
 亮太にとって何よりも恐ろしいそのことに、もうろうとしていた意識が一気にクリアになる。
 春樹の不機嫌を、亮太は何よりも厭う。
「ご、めんな、さい……春樹」
「亮太だってパーティ間に合わないのイヤだろう?」
 けれど、思ったより怒っていない感じで振り返られて、ホッとする。だが、これ以上待たせたらきっともっと怒り出す。
「っんふ……あ、そ……だね。すぐ、行く……」
 怒らないで、急ぐから。
 それだけを願って、くずくずととろけきって思うように動かない両足を必死で動かした。
「ああ、やっと着いた。ほら、入って」
「……んくっ、ん……」
 こくりと頷いて、目の前のドアを見つめる。
 どこか澱んで見えるそのドアは、毎週一回通い続けて見慣れている物だ。何度もこの店に行き、いろいろな玩具を買って帰った。けれど買おうと思うと、この店は品物を試さないと売ってくれないことが多くて、亮太はいつも恥ずかしいことをいっぱいさせられていたのだ。
 それがどんなに凶悪な淫具であっても、じっとしていられないほどの痒みを肉壁にもたらす薬でも、幻覚すら起こさせる薬であっても、使わずに買えたことなど一度も無い。
 そんな店で開かれるパーティがどんなものか、想像に難くないけれど。
 それでも。
「良かった、間に合った」
 ほっとしたように時計を見つめて春樹が微笑んだから、亮太もほっとしたように微笑んだ。
 けれど、その瞳は熱くとろけていて、隠しきれない熱が浮かんでいる。
「可愛いよ、亮太。今日は、とっても愉しいパーティになりそうだね」
 カランカラン
 警告音でしかないベルの音は、亮太の鼓膜を刺激することなく通り過ぎていった。




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