【残された想い】

【残された想い】

20,000hitキリリクrabi様のリクエストです。
浩二の雅人への想いを浩二視点で描いてみました。
一人きりの一夜の続編になりますが、これだけ読まれても問題はないと思います。
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 この人は、どうしてこんなに私を和ましてくれるのだろう。
 増山浩二はソファでうたた寝している明石雅人をじっと見下ろしていた。
 大晦日から正月朝までの夜勤を終えて帰ってこれたのは朝の9時。
 帰り着いてすぐ彼がソファで寝ているのを見つけた。そのままずっと見守っている。もうかれこれ10分は経っている。
 それでも浩二は動けなかった。
 何故、ベッドで寝ていないのか?
 ふと襲ってきた疑問は、大事そうに両手で握りしめている携帯が目に入った途端に氷解した。
 もしかして、次の電話を待っていてくれた?
 ここで、ずっと。
 いつかかってくるか判らない電話を?
 雅人が大晦日を一緒に過ごそうと楽しみにしていたのは知っていた。だが、夜勤を入れたせいで一緒にいられなくて……詫びを兼ねて何度か電話を入れた。勤務の合間を縫っての電話だから、本当に短い電話しか出来なくて、それでもワンコールもしない内にこの人は出てくれて……。
 浩二の口元が微かに笑みをつくる。
 ほんとうに、この人は……。
 浩二はそっとソファの横に跪くと、かけていた眼鏡を胸ポケットにしまい、雅人の額に口付けた。そのまま顔をずらし、耳元でそっと囁きかける。
「こんなにも愛おしい人ができるなんて……思っても見ませんでした」
 それでも眠り続ける雅人。
 このまま眠り続ける姿も見続けたい……、だけど起きて嬉しそうにする姿も見てみたい。
 もし白雪姫のように唇にキスしたら……目覚めてくれるでしょうか?
 幼い頃、母に読み聞かされた童話を思い出して、思わずその顔に笑みがこぼれた。母はその話がお気に入りで、白馬の王子さまのように女性は大事にしなさいといつも言っていた。
 そう言えば兄の健一郎はそのお話が大層気に入ってしまって、好きな人にはキスするんだと幼い頃から実行し続け、<可愛い人は抱きしてキスしたい>という、未だに好意を持つ人間にはキスしないと済まない人間になってしまった……。
「私も雅人さんを見てその話を思い出してしまうのですから、似たような人間かも知れませんね。でも……雅人さん以外の人間とキスしたいとは思いませんけど……」
 だから、最近健一郎にキスされるのも嫌気がさしてきていた。
『当然、正月には帰ってくるんだろうな!』
 ふと数週間前にかかってきた健一郎の電話を思い出した。
 正月には一家全員揃うこと。
 何故か健一郎はそれに固執していて……。
 昨年の正月、浩二はあるホストクラブで知り合った秀也に心奪われて、拉致騒動を起こし……だから帰ることなど全く失念していたのだが、その夕方から健一郎の執拗な帰ってこいコールに襲われることになってしまった。
 あんな騒ぎを起こした後だから、帰る気にはなれなかったのだが、健一郎のしつこい性格に逆らえばどうなるかは肝に命じて判っていたので、結局3日目には帰宅した。
 だから、今年は何としてでも帰らない理由を付けなければならなかった。
 雅人が浩二と正月を過ごすことを楽しみにしているのを知っていたから。
 雅人は黙っていたが、時折広げられたままの雑誌が正月特集で、しかも初詣ポイントの紹介となっていたら、雅人の考えていることを想像することは容易だった。
 健一郎は雅人とのつき合いを知っている。が、だからといって帰らない理由にするには許されないだろう。だから、絶対許される理由の仕事を入れた。
 そうすれば、少なくとも例え躰にはきつくても元旦から2日までは一緒に過ごせる。例え2日の夜には帰省しなくてはならなくても……。
 それでも……。
「んん……」
 雅人が身じろぎをした。
 目覚めが近づいている。
 ふっと、先ほどの考えが頭を持ち上げてきた。
 『白雪姫は王子さまの口付けで生き返りました……』
 僅かに開かれた唇に誘われるように浩二は自らの唇をそっと合わせた。
 最初は触れるだけ。
 そして、ゆっくりと両手を雅人の躰に回した。
 肩の下に手を入れ、抱き起こすように口付ける。
「……うん……」
 雅人がぼんやりと瞼を開けた。
 何が起こっているか判らないのか、虚ろな視線で間近の浩二を見つめている。
 浩二はそれに気が付くと、緩んだままの歯の間に舌を差し込んだ。力無く弛緩している雅人の舌を絡め取る。
「…あ、あ!」
 雅人の目がはっきりと見開かれた。
 驚いて浩二を押しのけようとしているが、浩二には離す気がさらさらなかった。
 驚き狼狽える雅人は、浩二の嗜虐心をいつも刺激する。
 苛めたくなる……。
 堪えようもない衝動をいつも必死で抑える。
 時折自分が破壊的な性格になることをずいぶん前から気が付いてはいた。だからこそ拳法の道場に通い、いつだって冷静であれるよう意識して過ごしていたら、いつの間にか無表情がこびりついてしまった。
 それなのに、雅人といると浩二の被っていた仮面が簡単に外れてしまう。
 楽しければ思わず笑ってしまうし、気に入らないと不機嫌な表情になってしまう。
 それは、普通の人からすれば僅かな変化でしか思えないだろうが、雅人はそれを容易く気付いてくれる。
 しかも、浩二以上に一喜一憂する。
 だから、嬉しい。
 だから……。
 苛めたくなる。培ってきた冷静さを保つ壁が簡単に崩れてしまう。
「ん、もう……」
 息苦しそうに顔を歪め、躰を捩る雅人の瞳が赤く潤んでいるのは寝不足のせいだけではないだろう。
 ちらりと向けた視線の先で、ジーンズの下が苦しそうなのは朝の生理現象だけではないことも……。
 だから。
 くすりと笑みを漏らす。
 そうすると、雅人は真っ赤になって浩二から視線を逸らした。
「何だよ、起こすにしたってもうちょっと違う方法があるだろう!」
 怒って浩二を睨む雅人も可愛いとしか言いようがない。
 初めて会ったときの、秀也と優司を護ろうとしていた落ち着いた雰囲気の雅人はもういない。いつだって雅人の取る仕草も行動も浩二にとっては可愛いとしか思えない。
 『惚れてしまえば、あばたもえくぼ』
 この言葉が否定できない自分がいる。
「あまりに可愛い寝顔ですから、キスしたくなったんですよ」
 これは本音。
 いつだってキスしたい。離したくない。
「……もう、浩二は……」
 朱に染めたままの顔を俯かせ、浩二の肩に当てた両手を突っ張る雅人。
 そんな彼に微笑みかける。
「ちゃんとベッドに入らないと風邪をひいてしまいますよ。どうしてこんな所で寝ているんです?」
 答えの判っている問いをする。
 どうしてこんなに苛める気を逸らせないのだろう。
 すると、雅人は困ったように視線を泳がせた。身を捩り逃げようとするのを捕まえて、抱きしめる。
 本当にこの人は思ったとおりの答えを返してくれる。
 愛おしくて、そんな姿を見たくて、また苛めたくなる……。
「どうしたんです?答えられないんですか?」
 僅かに眉間に皺が寄る。
 と、途端に雅人の顔に緊張の色が走った。
 抱きしめていた躰が強ばる。
 ああ、まただ。
 雅人さんは、私を怒らせることを極端に怖がっている。
 それは最初の行為が強姦だったせいだから……警戒しているのだろうが……
だが、そんな反応を示す雅人に浩二はいつも酷く煽られる。
 結局収まりきれないのだ、私の性格は。
 <可愛いものほど苛めたくなる>
 自分でも呆れるが、人間どんなに努力しても根幹に結びついた性格は容易には消えてくれないらしい。隠すことは出来るし、表に出さずに過ごすことだってできるけれど……そうしなくて良い相手が出来てしまった。
 雅人にとっては不幸かもしれない。
 そんな浩二に気に入られてしまったことは。
 それでも……。
「その、さ……浩二の電話、かかってくるかなあって思っていたら……寝てしまってさ」
 ぼそぼそっと小さく言い訳して、上目遣いに浩二を見つめる雅人は、本当に可愛くて……。
「困った人ですね」
 囁きかけると、もう赤くなりようがないほど真っ赤に染まっている顔を浩二の肩に押しつけてきた。
 ああ、もう。
 どうして、この人はさんざん私を煽ってくれるのだろう。
 夜勤明けで疲れているはずの自身が昂ぶってしようがない。
 もっとこの人を苛めたい。
 そうすればもっと可愛い姿を見せてくれる。
「ねえ、雅人さん、ここ、何だか苦しそうですけど?」
 そっと雅人の足の付け根に手を這わせると、雅人の躰がびくりと大きく震えた。数度、上下に柔らかく擦る。
「あ……止めろって……」
 浩二の手を止めようとする腕を掴み、抱きしめている手で捕らえる。
 もう片方の手は躰に挟まれ、既に自由が利いていない。
「雅人さん、どうしてこんなになっているんでしょうかね?」
 耳元で囁き、耳朶を甘噛みする。
「く……うう……判って……いる癖に……」
 そう言いながら、浩二をきつく睨む。だが、劣情に苛まれて潤んでしまった瞳で見つめられても迫力など無い。むしろ、そのこぼれ落ちそうになる涙が、余計に浩二を煽る。
 このままでは無理強いをしそうだ。
 耐えきれなくなってきていた浩二は、すうっと腹に溜めるように息を吸うと、ゆっくりと吐き出した。
 心を落ち着かせ、攻撃的になる意識を押さえ込む。
 そして。
 ゆっくりと雅人に囁きかけた。
「雅人さん、あなたが欲しい……。いいですか?」
 その言葉に、雅人は目を瞑りほおっと息を吐いた。そしてぎゅっと浩二に頭を押しつけると、小さく呟いた。
「もう、ずっと……ずっと浩二といたい……今日、どこにも出られなくてもいいから……明日までずっと浩二といたい……だから、激しく……してくれ」
 その言葉にさすがに浩二も息を飲んだ。
「ま、さとさん……いいんですか?出かけたいんじゃなかったんですか?」
 思わず口走ってしまう。
「だって……浩二は明日の夜には実家に帰るんだろう……だったら、一緒にいられる間、浩二とこうしていたい。浩二の休みが明けてしまったら、こうやってずっと一緒にいられる時間ってあんまり作れない。俺達ってほんと時間が合わないから……」
「それは、そうですけど……」
 確かに二人で何も気にせずに過ごせる時間は、普通のサラリーマン達に比べれば段違いに少ない。勤務体系が違いすぎるのだ。
「それに、俺……自分がこんなに寂しがり屋だとは思わなかった。今までどうやって一人で過ごしてきたのかが判らない。こんなの……今までなかったのに……」
 そう言って縋り付く雅人に浩二の理性の壁は崩壊寸前だった。
「雅人さん」
 その言葉が掠れていることに気付いて、必死で自分を落ち着かせようとする。
 まだだ。
 まだ、駄目……。
「雅人さん、ベッド行きましょうね」
 躰を離すと、ふっと雅人が不安げな表情を浮かべた。
 そんな彼に、努めて優しく微笑みかける。
 本当にこの人は……どうしてこんなに簡単に私の理性を崩壊させてくれるのだろう。
 ふらりと雅人が立ち上がった。
 浩二より背の高い雅人。
 だが、その線は細い。
 その腰を抱えるように浩二は雅人を自分の寝室に連れて行った。
「ねえ、雅人さん……本当にいいんですか?」
 それは、「激しく」という言葉の確認。
 その問いに雅人はひくりと躰を強ばらせた。
 ああ、まだ躰が最初の恐怖を覚えている……。
「……いいよ」
 だが、それでも雅人は言う。いいよ、と。

 気が付いたら、雅人をベッドに押しつけていた。
 判っている。
 傷つける抱き方はしない。それだけは必ず守ると自身の心に誓っている。
 だけど、止められない。 
 自分の劣情のままに雅人を抱くことを。
 雅人を傷つけないようにしながら、それでも雅人の懇願を聞く耳はもてない。
 イキたくて、悶えている雅人のモノをきつく握りしめ堰き止める。
「まだ、駄目ですよ」
 俯せの躰を全身で押さえつけ、背筋に舌を這わせると雅人の躰が何度も痙攣するかのように跳ねた。
「あ、ああっ、やあっ!」
 抑えきれない嬌声が閉じられることのない口から立て続けに漏れる。
 雅人の体内に潜り込んだ指を少しずつ増やしながら、すでに記憶している体内のポイントを指先でつつく。と、雅人がビクッと一際大きく仰け反った。
「ああっ!もう……こう、じっ!」
 開かれた口元から流れる唾液がシーツに染みを作る。
 あなたが……あなたが望んだんだ。
 激しいの意味を知っている癖に。
 浩二の嗜虐心が頭の中を支配しようとしている。
 それが、雅人に責任転嫁しようとする。
「お、ねが、い……こう……イキたい!」
 堰き止められた雅人のモノから滲み出る液で、それはじっとりと濡れそぼっていた。
「イキたいですか?」
 聞こえているのに、わざと問い返す。
 こくこくと何度も頷く雅人の目は硬く瞑られている。ぎりりと噛み締められている歯は今にも音がしそうな程だった。
「では、上を向いてください」
 その真意が図りかねたのか雅人が一瞬躊躇した。
 しかし、性欲に支配された躰が、ごろりと仰向けになる。
「ひいっ」
 その動きに体内の指が雅人を刺激し、雅人の躰が仰け反った。
 さらに溢れた液がとろりと雅人のモノを伝う。そのきつく反り返っているを浩二はぱくりと口に含んだ。先走りの液の独特の味が咥内に広がる。
「あっああっ!やっあ!」
 雅人の手が浩二の頭を強く抑えた。
 だが、浩二はそれを無視して大きく雅人のモノを扱くと、堰き止めていた手を離す。と。
「ああああっ!」
 いきなりの刺激と解放に、雅人の躰が激しく痙攣し、浩二の咥内にその精液を数回に分けて吐き出した。
 何度も何度も震えているそれを、そっと扱いて全てを絞り出すようにする。
「はあ、はあ、はあ……」
 全身で大きく息をしている雅人はすでに全身を弛緩させ、その瞳は朦朧として焦点を結んでいない。
 浩二は躰を起こすと、雅人の顔の横に手をついた。
 まっすぐ雅人を見下ろす。
「雅人さん」
 呼びかけるとようやく雅人の焦点が浩二にあった。
「愛しています。どんな時だってあなたを離しません」
 力無く喘いでいる口をそっと塞ぐ。
 すると、雅人の手がゆるゆると浩二の首に回された。
 唇を離し、雅人と再度視線を合わせると、雅人はふっと微笑んで言った。
「俺も……浩二と離れたくない……だから、浩二が欲しい……」
 回された腕に力が入って、浩二は引き寄せられるように雅人と口付けた。
 愛おしい。
 それは何よりも代え難い。
 これほどまでに可愛くて自分のものにしたいと願える人に会えるとは思わなかった。
 それが男であることは意外ではあったけれども、それが必然だったのかも知れない。浩二にとって雅人は雅人なのだから。
 浩二は、雅人の足を掲げると、その合間に躰を進めていった。
 すでに解されたそこが、浩二を誘うように潤んでいる。
 そこに差し込まれた浩二のモノは、数度の抵抗をものともせずに最奥まで突き進んだ。
 最初の痛みにずり上がりそうになる雅人の躰を引き戻し、抱きしめる。
 しっくりと馴染むそこは、最高の快楽を浩二に与えた。
 暴走しそうなる躰を、ただ薄くなった理性の壁が押さえつける。
 最初だけは優しくしないと傷つけることになる。
 だから、最初はそっと抜き差しを繰り返す。
 痛みを堪えていた顔が、徐々に艶っぽい表情に変化する。片手で雅人のモノを探るとそこは十分に起立していた。
 それを確認してから、今度は大きく抜き差しをする。
「んあ、ああ、はあ、くう」
 そのリズムに合わせて漏れる声に追い立てられるように浩二の動きが早まっていく。
「あっ、はあ、はあ、はあ、やあっ」
「雅人、さん……」
 浩二の限界が近づいていた。
「雅人さん、もう!」
 その言葉で浩二の限界を知った雅人が、その躰にしがみついてきた。
「あ、ああっ」
 躰が数度痙攣し、自らの劣情が雅人の体内に放出されるのを全身で味わう。
 最高の気分。
 そして、心までもが白く何もかもが消えていく。
 堪っていたストレスも、何もかもが消える。
 そして、ただ一つ心に残るのは雅人への想い。
 この愛おしい人への想い。
 それだけに満たされた心は、本当に軽くて……浩二にとって至福の時。
 離さない。
 この人を。
 愛しています。
 雅人さん……。

【了】