シャワーを浴び、後ろを解して洗ってきて。
全裸のままにリビングでチョコレートを物色している大紀の前に跪づく。
「準備できました」
すらりと伸びた啓治の身体は、あまり日に焼けることがなく、全体的に白い。
無駄な脂肪は少なく、均整のとれた体つきをしていた。大紀も「太るな」と、啓治に常々言い聞かせているから、出会ってから一年でその体重に変化はない。むしろ、新たに加わった日々の激しい運動のせいで、より筋肉質になったといえよう。
そんな身体を晒している啓治を一瞥し、大紀がぱくりと手に持っていたチョコレートを口にいれる。
「やらしい身体だ。今日は乳首を躾けて欲しいのか?」
くつくつと嗤う視線が捕らえているそれに気がついて、啓治はこみ上げる羞恥に肌を染めた。身体を何で飾るかは啓治に任せられていて、いつも悩まなければならないそれは、大紀にしてみれば啓治が何で嬲られたいかを教える代物なのだ。
今日のそれは、乳首にはめられた銀色のクリップとそれにつながる鎖だ。さっき浴室でつけてきた飾りの先は、股間で緩く立ち上がるペニスの飾りにつながっていて、その亀頭の根元に巻かれた小さなベルトは、勃起前の段階でつけているから、立ち上がり掛けてくると締め付けられた。それでも、一度嵌めてしまったそれを緩めることは、大紀に許可されない限り、できない。
それでも、選んでしまったのは、このイヤらしい身体を躾けて貰わなければならないから。
最近の大紀は、乳首責めが好きだから。
ここ何度か嬲られて、ぷくりと膨れあがったままの乳首への刺激が脳裏に甦った。
とたんに、慣れたはずの乳首の痛みがぶり返し、それがもたらす快感を想像してしまって、総毛だった肌が熱を持った。
意識しないようにしていたのに、痛みが快感へと変化して脳髄を冒し、全身を支配して。
とろんと淫蕩に澱む瞳を見据えた大紀がクツクツと笑みを深くした。その瞳に宿る確かに嗜虐の色に、身体がさらに熱くなる。
浅ましい身体だ、と嘆く理性は意識の奥底の闇に飲まれて消えていった。
ちょうど一年前のバレンタインデーの日に捕らわれてから、どこもかしこも余すことなく暴かれて変えられた身体は、奴隷の姿になったとたんに、こんなにも露わに期待して、ご主人様が下す言葉を待っている。
その間にも立ち上がり食い込んでいく亀頭のベルトの痛みに目眩がしてきた。
大紀が手に持ったチョコレートの箱をローテーブルに置き、中から取りだした塊の銀紙を解くのを待つ間も、準備ができてしまった身体が疼いてたまらない。
そんな啓治が判っているのか、大紀がことさらに焦らすように動く。
「おまえ、日本酒苦手なのに、リサーチ不足な女もいたもんだな」
くすくす笑いながら、日本酒入れのボンボンを味わう大紀の動きを知らず目で追って。
「大紀様は好きですよね、日本酒」
特に東日本のお酒が好きだ。
「おお、こりゃあ、うまいわ。ふぅん、あっちのほうの有名酒蔵の酒ねぇ……俺宛てなら本命扱いだったが。おまえにゃあ、もったいねぇな」
美味しいのだろう。
満足げに口の中で味わう様子に、啓治の口元も綻んだ。
日本酒の好きな大紀なら、きっと気に入ると思ったから。
続けて口の中に入れる大紀を見ていると、とろけ出た酒を舌先で転がしているのか、少し膨らんだ頬が舌先の形に蠢いた。
あれが……。
尖った舌先が己の陰茎をまさぐる様子が目の前に浮かんで。
「……っ」
ずきりと走る痛みに落とした視線の先で、痛々しげに色を変えた鬼頭が解放を求めてひくついている。
「欲しいか?」
「……ぅ」
顔を上げれば、唇の間からその舌先を出して。
イヤらしく誘うそれから目が離せなくて。
なのに、大紀は手元の箱から新しいチョコレートを取り出して、啓治に差し出した。
「食べてみろ」
日本酒が苦手なのは、早々に酔っ払うから。
身体が熱くなりやすくて、それでなくても淫らな身体がよけいに熱を持ってしまうから。
淫乱な身体を持つ奴隷にそれは、媚薬にも等しい効果を持つのだと——そう催眠術のように、精神に刻むように、たまらない快感とともに、繰り返し調教されてきたから。
だからこそ、啓治は外では絶対に日本酒を飲まなくなった。
啓治がそれを飲むのは、ご主人様に命令されたときだけ。
この身を自由にできる相手の前だけ。
「ありがとう、ございます」
受け取った小さな酒瓶の形をした銀紙を剥いて、中から取りだしたチョコレートを口に含み、犬歯を突き立てる。
中に入っているのは日本酒を混ぜたゼリーで、アルコール度数としては1%程度だということは知っていた。
この程度では、大紀どころか啓治すら酔うことはないけれど。
口の中に広がるアルコール分に、濃度以上に冒されてくらりと目の前が揺らぐ。
「あ……」
あごに手を添えられ持ち上げられて、熱くなった顔をまじまじと見られて。
「酒に酔った——んな、はずはないな」
イヤらしく動いた親指が、力なく開いた口の中に入って。
「熱いぜ」
舌先を指先で撫でられて、ぞくりと肌がざわめく。
引き上げられて、肌の上で揺れる鎖にすら嬲られる。
「来いよ、欲しいなら自分で挿れろ」
嘲笑ばかりの尊大な命令に、啓治は逆らえない。一年間、休む間もなく繰り返された調教で、啓治の理性は快感にひとたまりも無くなっていて。心と身体を完全に支配されてしまえば、言いなりにしかなれない。
何より。
手を上げて、大紀の肩に触れて。
あげた腰を大紀の身体に寄せて、落としていく。
視線は衣服から取り出された大紀のたくましいペニスから外せないままに、自分で位置を調節する。
俺は淫乱だから……。
今更真面目ぶって貞淑な振りをしても無駄なほどに、淫乱だから。
男に犯されて、いじめられて喜ぶ変態だから。
「ん……」
屹立は固く、先端の柔らかさが嘘のようにその存在を主張する。
最初の頃は、いくら解してもきつかったけれど、今ではたやすく飲み込める。ズブズブと潜り込むそれに、全身の肌が総毛立ち、ざわめく疼きに身震いが止まらない。
「あっ、うっ……ぅぁぁぁ……」
奥の奥まで届くそれを一気に迎え入れ、異物感と圧迫感に苦しんで、けれど、それ以上の快感にまなじりから勝手に涙がこぼれ落ちた。
「うまいか?」
ぺたりと腰を完全に落として、力が抜けたように大紀の身体にしがみついていると、うなじに触れた熱い吐息が揺れた。
「おいし、です」
「何が?」
「大紀様の……ちんぽ、おいしいです」
身体の洞を埋め尽くす熱い肉の存在がたまらない。
うっとりと囁く啓治に、「くそっ」と苛立ちを含んだ毒が落ちる。
「ご主人様を煽った罰を与えねぇとなあ」
剣呑な言葉と地を這う声音に、ぞくりと震え。
「だいき……さま……」
こみ上げる感情の赴くままに、たくましい力を持つ男を誘う。
「ください……淫乱な俺を……躾けて、ください。俺は……あなたのものだから」
あなたに変えられたこの身体で、あなたが望むままに……。
「啓治?」
いつもよりもかなり積極的なことに気がついたのだろう。
大紀が、いぶかしげな声を上げたことに小さく口元を歪めて、荒くなる呼吸の中で言葉を紡ぐ。
「今日は……一年目の記念日だから……あのときのように……犯して、くださ……い、俺を……ご主人様……のモノにした時のように……」
とたん、激しく驚愕した大紀の表情を、啓治は決して忘れないだろう。
一年間の奴隷生活で、初めて大紀に、勝った、と思って、意識しないままに笑っていてた。
ただ単に、楽しいと思っただけだったのだけど。
勝利に感激する時間はあまりにも短くて。
大紀の自尊心を傷つけた報いは、激しい陵辱として啓治の身体に降りかかった。
続く