「ひぃっ、——ぃぃっ! ああぁ……うぁ」
ベッドにうつぶせに押しつけられ、高く掲げた尻の狭間に、たくましいペニスが、ずぼっと音を立てて沈められる。パンッと音を立てた皮膚は全身汗ばんでいて、流れ落ちるほどだ。
もうずっと、啓治の身体を知り尽くした大紀の責めは激しくて、快楽の源をこれでもかと突き上げられて、脳天を突き抜けるほどの快感に、上げる嬌声はもう悲鳴に近い。
泣き濡れた瞳は赤く染まり、閉じる間もない口の端からだらだらと涎が流れ続けて、シーツにはいくつもの染みを作っていた。
大紀の性欲は強く、通常でも数時間に及ぶ行為が、今日はさらに長い。
「どうした、も、降参か? チンポは、いらねぇか?」
「あ、ひっ、イキたい、ですっ、ああ、もうっ、お願いですっ」
「はん、チンポいらねぇなら、イかせねぇよ」
するりと伸びた手が、張り詰めて色を変えた啓治のペニスを握りしめた。
だらだらと先走りだけ零しているそれは、玉から陰茎の根元まで拘束されていて、戒めると同時に動きを封じている。そのせいで、啓治は何度も絶頂を迎えながら、射精することができないのだ。
アナルはもう何度も抽挿されて、大紀が吐きだしたザーメンが溢れて泡立っている。
最初に座位でさんざん突き上げられて、それから前からも後ろからも犯されて。
太くて長い、知る人は凶器と呼ぶそれを受け続けて身体は限界だ。
けれど、たっぷりとザーメンを蓄え、熱を孕んでその瞬間を待ち望む身体は、いまだ一度も解放を許されていない。
亀頭のバンドは外されたが、その分根元を拘束され、長引かされた快楽に狂ってしまいそうだ。
けれど。
「もっと、……使って、くださ……。俺のケツマン……使って……大紀様ぁ……」
限界だと思っていても、誘う言葉が止まらない。
大紀が望むなら、壊れるまで使って欲しくてたまらない。
「チンポ、いっぱい……くださいぃ、あぅっ……大紀様、の、ほし……」
ドロドロにとろけた身体に食い込む鋭い楔を、大きく広げた身体に受け入れて、逃さぬとばかりに、足に力を込めて締め付ける。
「だい、き様……ください、いっぱい……」
あなたの淫乱奴隷に、たくさん注いでください。
「てめぇ……くそっ、止らねぇっ、煽んな、ばか、このっ」
「あ、ぅ、くっ……うっ、あ、だ、だいき、さまっ、あうっ」
降り注ぐ汗の中で、歪む大紀の表情に魅入られる。
あの表情をさせているのは、啓治なのだ。
他の誰でも無い。
あの、プレゼントの送り主でも無い。
このたくましいペニスを受け入れることが出来るのは、自身だけ。
毎日毎日ずっと、一年前のあの日から、受け入れ続けた啓治だけ。
ぐちゅっ——と、奥の奥に突き上げられたとたんに、大紀の身体が止まり、奥に感じる熱に「はああ……」と甘い吐息が漏れた。
苦しいのに、たまらなく嬉しい。
達けなくても、たまらなく、気持ちよい……。
俺は、もう……。
「もっと……もっと、大紀さま……、浅ましい淫乱奴隷を……もっと……使って」
これだけできるのは、俺だけ、だから……。
だから。
「はっ、そんなにヤリ殺されてぇかぁ、ああっ!」
憤怒の色を瞳に写して、見下ろす大紀は、啓治のご主人様。
「どうか……大紀様の気が済むまで……」
知らず微笑みが浮かぶ啓治に、大紀がますますいきり立った。
「は、ん、そうかよ。だったら、今度はおまえが達きまくる様が見てぇな」
「え……あっ」
押さえつけていた身体を離し、根元を戒めていたベルトを外す。
とたんに血流が完全に戻ったペニスが震え、啓治の身体がびくりと震えた。それが静まるのを待たずに、一気に突き上げる。
「ひぃ、ああぁぁ——っ!」
さんざん突き上げた快楽の泉は、啓治の中で暴れたままだ。貯まりにたまった玉がひくりと動き、いまだ痺れているような陰茎まで一気に反応する。
悲鳴に近い嬌声が続く間、啓治のペニスは間歇泉のようにザーメンを吹き上げ、その身体は痙攣しっ放しだ。
その間にも狙い違わぬ大紀の亀頭が、啓治の前立腺をこねくり回し、堪えきれないままに、啓治が絶頂に狂いまくる。
達けない苦しみも辛いが、達き過ぎるのも辛い。
けれど、その辛さがまた良いモノだと教え込まれている啓治には、限界を超えて繰り返されるそれらに結局さらに辛さが増すだけなのだ。
けれど、理性も何も無くしたうつろな瞳が大紀を写すと、その口元がゆっくりと弧を描いて。
「だいき……さま……、もっと……、もっと、使ってください……」
見たことも無いあの贈り主なんかより、俺を……。
ひくりと驚愕に震える大紀に抱きつき、引き寄せて。
ずぷりと入り込む逞しくて長くて熱い肉を奥深くまで銜え込む。
「あ、あっ……あっぁぁぁ」
長い夜の中、二人だけの室内に激しい動きは、ひどく長く……いつまでも続いていた。
『何、ダイキってば、ケージちゃんに言いように扱われてんじゃん』
「うるせぇっ」
電話先のけたたましい笑い声に、思わず離したそれに向かって怒鳴る。
あんなこと、誰にも言いたくは無かったけれど。
それでも、ついつい電話をかけてまで喋ってしまったのは、誰かに聞いて貰いたいというジレンマがあったから。
悔しさとか、怒りとか……そういうものとは違う何かの感情が頭の中に渦巻いて、収まらないのだ。
だからと言って、現況である啓治をこれ以上責め立ててれば、さすがに病院送りにしてしまう。
今の楽しい生活に、余分なモノを入れたくないのは最大優先事項なのだ。
けれど。
やっぱりもどかしい感情を、整理をつけたくて電話した相手は、開口一番笑いやがった。
『んな、怒鳴んなよ。ケージちゃんの奴隷の嵌まりっぷりには俺も十分驚いていたけどさ。そこまで大紀のデカマラに嵌まってたなんて……良かったじゃん、理想の奴隷に仕上がってさ』
その言葉に、反論する言葉などなく、大紀はイライラと手に持っていた電話を握りしめる。
「だからってご主人様を驚かすなんてよぉ」
一年目の記念日だと、普段そんな気配すらさせなかった奴隷がいきなり甘ったるく誘ってきた。それも本心からだと判ってしまったのだ。
今の状況は決して望まぬ関係だと、日頃の態度に出しまくっていたくせに。
なのにいきなり誘ってきて、まるで愛を確かめ合うように身体を開いて受け入れて。
あまつさえ、驚かされた腹いせに陵辱まがいの行為を延々し続けた大紀に向かって、何度も何度も甘く切なく求めてきた。
またその身体が甘かったことと言ったら無い。
まるであいつ自身がチョコレートにでもなったかのように、甘ったるく、とろけるように絡みついて。
思い出したとたんに、出し尽くしたはずの己が元気になりそうな気がして、慌てて意識を逸らす。
『最近ダイキがもてるって話を俺らも聞いたなあって思ったら、それってケージちゃんが情報源だわ。つうことは、結構気にしていたってことだろ』
「んなこと、俺には……。って昨日の俺のチョコ……妬いてたのか、あれはマジか……」
一体いつからそんな気になっていたというのか。
それに、啓治が貰ったチョコレートの中で、一番気に入ったあの日本酒のボンボンは、実は啓治が自分で買ってきた物だと、気に入ってくれて嬉しいと、最中に告白されてはたまらない。
あんなにも煽っておいて、さんざん大紀に犯された啓治は、昼近くなっても未だに起き上がれないほどに疲弊していた。
しかも、大紀を煽ればただではすまないのは知っていて、あらかじめ今日は休みを取っていたという周到さは、さすがに啓治だと呆れたのも事実。
『まあ、ケージちゃんは頭良いからなあ。その気になったケージちゃんには、俺ら誰も敵わないと思うけど』
それは否定できなくて、大紀も黙りこくる。
今朝だって目が覚めたとき、さすがにやり過ぎたかと啓治の様子を見に行った大紀を見上げてきて。
「大紀様……」
と切なく見つめられ、甘く囁かれたとたん、大紀の頭のネジは完全に天空に吹っ飛んだ。気がついた時には、啓治のまだ熱く腫れたままの肉穴に己のいきりたったペニスを突っ込んで、激しく抽挿していたという。
さらなる激しい一戦は、大紀とてやり過ぎたと思ったけれど、何せ止まらなかったのだからどうしようもない。
だからこそ、こうやって啓治がいる部屋から離れたところで電話をしている始末だ。
「はあ……」
と、大きくため息を吐いたとたんに、電話の向こうでこらえきれずに噴き出したような笑い声が響いた。
「うるせぇ、笑うなっ」
からかうのは好きだが、からかわれるのが嫌いな大紀の怒りに満ちた怒声とともに、さらに力がこもった手の中で、電話機がミシミシと鳴り響いて。
ビシッと甲高い音が耳のそばで鳴ったとたんに、はらはらと手の中から細かい破片が落ちていく。
「あ……」
思わず手の中を見やれば、携帯のカバーが割れて外れていて、さらに、ディスプレイの真ん中に大きな亀裂が入ってしまっていたのだ。
『おーい……』
と、声だけは聞こえるから、通話はできているようだけど。
液晶が黒く滲んで、画像の半分が見えなくなってしまっていた。
「やべ……」
怒りのあまりとは言え、携帯を握りつぶしたのは初めてで、さすがに己の馬鹿力には呆れ果てたけれど。
「これ、啓治のだった……」
自分の携帯が充電切れで、やむなくそこにあった啓治の携帯で電話していたのをすっかり忘れいて。
「……無いと困るんだよな、確か」
仕事上、いろいろな情報をメールでやり取りとしていて、休みの間はそのあたりの情報を転送しているはずだった。
「ちっ、しょうがねぇ……」
どうしようかと逡巡したのもつかの間、すぐに上着を持って立ち上がり玄関へと向かう。
「いらん出費だ……、くそっ」
ばらけた部品をポケットに入れつつ、そのまま出ようとしてはたと止まる。
傍らのドアを開けて中をうかがうと、布団の山かわずかに動いた。
「買い物に出てくる、寝とけ」
簡潔に言い放った拍子に、山がむくりと動いて。
向けられた視線が、どこか不安げに見えて動けなくなった。まして。
「大紀様……」
と、何かを求めるように呼ばれて。
そこにいるのはバリバリのエリートの大の男のはずなのに、まるで幼子でも相手にしているような錯覚を覚えて。
頭の中を、昨夜から朝にかけての啓治の様子と……そして、今の啓治が明滅して迫ってきた。
その、懇願するような妄想に、大紀は何度かパクパクと何度か口を開けては噤む動きを繰り返したが……。
ふうっとあきらめたように大きく息を吸って、吐きだして。
きっとこちらに視線を向けている啓治を睨み付けた。
「……ホワイトデーに何が良いのか考えとけ。何も言ってこなかったら、赤の他人に売り飛ばしてやるからなっ」
その言葉の返事を聞くより先に、玄関まで一気に飛び出した大紀だったが、寒風吹き荒れる外にいるというのに、やたらに耳まで熱く。
なぜかイライラとする自分を抑えられないままに、一番近い携帯ショップに足早に駆けていった。
【了】