【さくら さく】前編

【さくら さく】前編

 逃れられると思っていたのは間違いだったのだろうか?
 大学を卒業してしまえば、それぞれの道があって。接点など作らねば無いだろう未来への分かれ道のその日に、この日が最後だと信じていたけれど。
 彼らはいつものように自分を使う。
「ほんとっ、やーらしい尻穴だな、こんなもんまで銜えてやがる」
「あ、は──っ、ひいっ!」
 手に入れたばかりの卒業証書用の筒の侵入に、柔らかな肉が軋みを上げる。それぞれが自分よりは立派な逸物を持つけれど、それよりも太いうえに寸胴だ。しかも、先端が平らなそれをアナルが拒む。
 なのに。
「痛ぅ──っ、や、やめっ、くあっ」
 指でさんざん広げられたとは言え、先端が平らなそれが力任せに侵入する。さらに入ってしまえば、柔らかな粘膜をこそげるように柔肉を抉る痛みは、尋常ではない。
「タイちゃん、おいしそぉー」
「やっ、はう──っ、くうぅぅっ」
 けらけらと背後で嗤う声に、首を振る。
 のたうち回って逃れたいのに、ガタガタと机が暴れるだけで体はまともに動かない。
 体が、もたれるだけでギシギシと軋みを上げる古ぼけた会議用の長机に括り付けられているせいだ。それは、身を捩るたびに今にも崩れそうなほどに揺れた。そんな不安定な机に腕は机を抱え込むようにして両方の手首をネクタイできつく縛られている。両足は床にはついているけれど、その机の二本の脚に両足を着ていたシャツの袖で括り付けられていた。
 机と一体化させられて、身動ぎなどできようはずもない。
 太地(たいち)自身は、自分が柔な体格をしているとは思わない。けれど、周りにいる三人の男達にかかれば、逆らう間もなく、拘束されてしまう。もっとも、逆らう意志など見せられるはずもないほどに、三人には恐怖で支配されてもいるのだけど。
 この日のために新調したスーツは剥ぎ取られ、砂まみれのコンクリートの床でとぐろを巻いていた。その上に、ポタポタと汗が散って、薄黒い染みを作っている。まるで、新しい門出など無縁なのだと剥ぎ取られたそれらは、これからの太地を象徴するようだ。
「ほら、こんなところか? 入ったぜ」
「ひぎぃっ」
 さっきから太地のアナルに筒を埋め込む作業を専念していた海藤が、嗤いながらポンとそれを叩いた。途端に走った痛みに、喉の奥から悲鳴が迸る。
 海藤はもっぱら太地の拘束や力任せの作業を担当して、その所作には容赦がない。
 逆らえば逆らうほどその拘束はきつくなり、怒らせたあげくに血行すら途絶えるほどに縛られて、痛みと痺れと腐る恐怖に泣き喚くことになったのは三回目の時だ。
「しっぽ、可愛い──っ」
 ひいひいと痛みを逃すように荒い呼吸を繰り返す太地に、無邪気とも言える台詞がかけられて、首を上げて虚ろな視線を送った。
 太地が括り付けられている側とは反対側に腰をかけて、暴れる机を押さえつけてながら囃しているのは高橋だった。小柄で可愛い容姿と言動が女の子達に人気の男で、体育会系の海藤と仲が良くて、いつもつるんでいた。
 太地も可愛い彼に懐かれるのは気に入っていて、一緒にいると楽しくて仕方がなかったというのに。けれど、彼の本性があまりにも残虐だと知ってからは、怖くて仕方がない。
 筒を入れようと言いだしたのも、この高橋だ。
 元々は中の良い四人組だった。だがある日、何が起きたのか判らないうちに四人の関係は一変して、今や支配者一人にその友人二人、そして奴隷が一人の四人組。
 何がきっかけなのか判らないから、どんなに後悔してもあの時にはもう後戻りなどできない。こうやって、尻に何を突っ込まれても、それを享受するとしかできないように。
 繰り返される陵辱に全てを諦めようとしても、それでも辛いモノは辛くて、眦から溢れる涙を拭うこともできなかった。
 何よりも、支配者たる男は、太地に諦めることさえ許さない。
 普段は昔と同じように友人として扱い錯覚させる。けれど、ひとたびスイッチが入ると奴隷として虐待するのだ。
 今日だって、彼に明るく肩を叩きながら囁かれた言葉に返答できなかっただけで、彼のスイッチが入ってしまった。
「尻尾、振れよ」
 背後からの冷たい声音が耳に届き、太地の全身がぎくりと硬直した。
 どこか落ち着いた支配者の声音を出すのは、ただ一人。海藤の隣で、ビデオを構えていた林恭一(はやし きょういち)の声を、太地は間違えない。
 痛みに青白くなった顔を、高橋が楽しそうに覗き込む。
「ほーら、タイちゃん、キョーイチ様の命令だよぉ、早くしないと」
 冷や汗が浮かび、蒼白な面持ちの太地の頬を、その手がするりと撫でながら言葉で追い詰める。
「キョーイチ、なんか機嫌が悪いかもねぇ、タイちゃんってば、またキョーイチの地雷踏んじゃったんだぁ」
 踏んだつもりなんてなかった。
 あの日以来、いつだって恭一への返答は気を遣って返し続けてきたのだ。けれど、なぜかしょっちゅう失敗して。
 今日だって、ほんの少し躊躇っただけだ。それは、傍から聞いた者の誰だってそう思う程度の間だったはずで。
「あ……、たか、はし……」
 高橋だってそれは知っている。けれど、高橋は判っていて、さらなる怒りを注いでくれるのは、骨身に染みて判っているはずなのに。
「あれっ、タイちゃんってば、振りたくないってぇっ! わあ、キョーイチ様に逆らうんだぁ、いけないんだぁっ」
 痛みと苦しさに堪らず助けを請うた太地に、けたたましい笑い声が重なる。
「ふーん、振りたくないって?」
 静かな怒りは、もう止められない。
 こうなることは判っていたはずなのに。誰も頼りになんかならないってことは、判っていたはずなのに。
「あいかわず我が侭だな太地は。まだまだ躾が足りないらしい」
 薄暗い倉庫の中で、恭一の冷たい声音と高橋の歓声、それに海藤の呆れたようなため息が反響するのを、太地は絶望の中で聞くことしかできなかった。



 太地が初めて恭一に犯されたのは一年前のことだった。
 コンパの帰りに酔った恭一と高橋、そして海藤を部屋に泊めた日のことだ。それまでにも何度もあった事で、その日もいつもと同じようにしただけだったのに。酔った高橋は触り魔で、べたべたとくっつくのを笑って交わしていただけだったのに。
 けれど、その日はどこかが違っていた。いきなり恭一が怒り出して、太地を押し倒してきたのだ。
 ──気にいらねえ──。
 そんな言葉とともに。
 何が何だか判らなかった。高橋も海藤も、嗤って見ているだけだった。
 ──太地が鈍感だから、キョーイチが切れちゃったぁっ
 高橋が言って。
 ──ま、いいんじゃね。太地ってば、犯しがいがありそうだし。恭一手伝えば、おこぼれ貰えるし。
 海藤がけらけらと返して。痛みと気持ち悪さに暴れる太地の口を塞ぎ、恭一の命令のままに縛り上げて、尻だけを高く掲げた格好にさせたのだ。
 そんな格好でアナルを貫かれ、前立腺をさんざん嬲られて、ひいひいと嬌声を上げる太地を恭一が飽きるまで犯した。そして高橋も海藤もまた、躊躇うことなく太地を犯し続けたのだ。
 その日から、太地の体は、太地のモノではなくなった。逃げることなど不可能で、太地の傍には常に三人の内の一人がいるのだ。
 傍から見れば、前と変わらぬ友人としての態度は崩さない。だがその実態は、恭一が望むときに望むように犯される道具でしかなくて、逆らえば、恭一が気が済むまで折檻される。高橋も海藤も、太地の体を自由に使う権利を与えられていて、彼らに逆らえば、すぐに恭一に連絡がいった。
 ──くそ奴隷のくせに、俺に恥をかかせんじゃねえよっ。
 二人を大切な友人として大事にしている恭一は、二人を粗末にすることを許さなかった。
 殴られはしない。けれど、折檻の度に両方の乳首とペニスに穿たれたピアスの数が増えるごとに、太地から反抗心を奪った。
 剃毛され、下着すら着けることを許されず、いつでも体内を洗浄できるようにビデすら持たされて。アパートの自室でも、大学の講義室でも、駅のトイレでも、三人の誰かがその気になれば、犯され、嬲られる。
 どんなに泣き叫んでも許されず、人に気付かれそうでも頓着せず、ばれそうになったら太地が悪いと責められた。
 休みの日ともなれば朝から晩まで使われて、三人が飽きれば道具を突っ込まれて、一人で悶え達かされるのだ。
 性奴隷。
 そんな言葉が現在まで残るとは考えたこともなかった太地だったが、今の自分はその性奴隷でしかないと自覚していた。
 けれど、それでも卒業してしまえば、四人の進路はまったく違ってくる。
 海藤と高橋、そして太地は就職だし、恭一は大学に残るのだ。住まうところも同じ都内とは言え離れてしまうので、そうなってしまえば、こんな生活から解放される。
 ただ、それだけが一縷の救いのように堪えてきたというのに。
 卒業式の後に。
『一緒に暮らそう』
 そんな恭一の言葉にすぐに頷かなかった太地に、恭一は口の端を歪めて「お仕置き」という言葉を口にしたのだった。


「あ、くうっ、ううっ」
 太い筒は、突っ込む前に穴を開けていたのだと、海藤が嗤って教えてくれた。その穴から、ねっとりとした粘液が、たらりと直腸に流れ込んでいく。
 その冷たい感触に身震いしたのもつかの間、体内に感じた灼熱感と掻痒感に、太地はくぐもった悲鳴を上げた。
 粘液が直腸を満たしていくたびに、体内を掻きむしりたいような痒みが増してくる。
「やあっ、かゆっ、掻かして──ぇっ」
 腰が勝手に動く。中に入っている筒を動かして、ごしごしと擦りたくてしようがない。これが表皮であるならば、皮膚の下をたくさんの虫がぞわぞわと蠢いている感覚に似ていた。かと思えば、居ても立ってもいられないほどに疼いて、走り出したくて堪らない。
「しっぽぉ──振ってるぅ、ちょー、かーわいっ!」
「い、いやっ、助、て……高橋っ、痒いっ、痒くてっ」
 目の前に座っている高橋に、泣き濡れた顔を上げて懇願する。その本性が悪魔だと判っていても、視界に入る彼しか縋る相手がいない。
「た、助け……てっ、痒いっ、こんなっ、やぁぁぁっ」
 太地が暴れる度にガタガタと机が揺れた。
 尻を振れば筒が揺れて中が擦れる。その僅かな刺激を求めてより一層に腰を振るけれど、上半身と足を括り付けられていては、たいした動きができない。
 それがもの足りなくて、手首、足首に拘束布が食い込むのも気にならず、足掻き続ける。
「やあ……はあっ──っ、あぁっ」
 息んでも筒は動くのだと気付けば、必死になって息む。その度に中の粘液が筒と肉の間から噴き出して、会陰から陰嚢までを汚す。
 そこも痒い。
 それでも息むのを止められない。
 抜けかけた筒は海藤の手が押し込む。その刺激も欲しくて、繰り返す。
「もっ、もっと、動かして──掻いてぇ──、ひぃ、ああっ」
「いやあ、おいしそぉっ、タイちゃん、山芋好きなんだぁ、良かったね」
「あひっ、や、山芋っ、ひぎぃ、──そんなっ」
 粘液の正体が判って全身が総毛だった。
 山芋なんて、上の口から食べても口の周りがかぶれるせいで、普段食べやしないのだ。そんなものを、体内に入れられたのだと知って、太地はわなわなと口元を震わせて、背後を振り返った。
 尻から伸びた筒を押さえる海藤の手。傍らには、まだすり下ろした白い山芋がなみなみと入ったコップが見える。
 それが持ち上げられて、たらりと、筒に向かって傾けられて。
「い、いやだっ、止めっ、止めてくれぇ──っ」
 流れ込む山芋に恐怖して、必死になって腰を動かした。ぎゅっと尻穴を締め付けて、息んで筒を押しだそうとするけれど。
「そんなに尻尾振って、喜ばれると嬉しいね」
 海藤の手に掴まれた筒は、びくりとも動かなくて、ますます奥に入り込む。その筒の中を、新しく注がれた山芋が流れ落ちていくのだ。
 熱く熟れた肉に、冷たい感触が滲む。けれど、すぐにそれが灼熱のごとく粘膜を刺激する。さっきより痒みを強く感じて、痙攣するように悶えた。
 山芋だと知ったせいで、全身どこもかしこも痒くなったのだ。
「ぎゃ、ああぁ──かゆっ、痒いっ、か、かゆぅ──っ」
 ガタンガタンと長机が先より激しく動き、跳ね飛ばされそうになった高橋が、それは楽しいとばかりに歓声を上げた。その机と一体化している太地の尻から生えた筒が、それより激しく動いて踊っている。
 そんな様を、恭一はずっとビデオで撮っていたけれど、不意にくすりと笑みを浮かべて愉しい事でも思いついたように言った。
「生白い肌がかぶれて赤くなって、イヤらしい模様を描いているぜ。こいつ、タトゥみてぇ」
 暴れたせいで恭一が視界に入る。その視界の中で、彼はビデオを三脚に取り付けていた。
 そしてフリーになった手を太地に伸ばして、垂れて流れた山芋の痕を指で辿る。
「あっ、はあっ」
 その指の刺激に、体が甘く震える。中の痒みだけに気を取られていたけれど、隙間から垂れた山芋は、大腿の皮膚をも刺激していたのだ。
「タトゥ? あ、それイイかもぉー。俺、どんなところにでも注文通りのタトゥ入れてくれる人知ってるよ」
「そりゃあ、イイな。誰が所有者か、刻みつけてやろう」
「い、イヤだ……タトゥなんて……そんな」
 戦慄く唇が紡ぐ拒絶など、誰も聞いてくれない。
 それどころか目に映るのは、恭一がニヤリとほくそ笑みながら同意したところだ。
「公衆便所って尻に入れるのは、俗過ぎるかあ……。それより、こいつの性感帯が一目で分かるように印つけよう。なあ、太地、どうだ? 良いだろう?」
「あっ、あぁ、イイよぉ、もっとぉ!」
 舌なめずりした海藤が楽しげに筒を乱雑に動かしたせいで、痒みが解消される快感に、嬌声が上がる。
 何かを言われても、この痒みが解消される方が嬉しい。
 もっと動かして欲しいと、唯一動く尻を振って強請ってしまう。
「へへ、決定だな」
 それが、彼らの問いかけの肯定と捕らえられるなんて、その時には考えていなかった。
「どこもかしこも性感帯のタイちゃんだから、体中にいっぱい入れてもらわなきゃいけないね」
「ははっ、だったらさ、本格的な和彫りにしてもらおうぜ。水彫りで桜の花びらにしたらさあ、興奮したときだけ浮かぶから、いやらしさ全開じゃねえか?」
「それ良いっ。タイちゃん色白いから映えそうっ」
 もう何でも良いから。
 頭上で、三人がきゃあきゃあと楽しげに言い合う下で、太地はぜいぜいと喘ぎながら少しでも痒みが楽になるように尻を振り続ける。
 それよりも、早く助けて欲しくて堪らなかった。
「もっ、助け……て、痒いの……おねがぁ……ああっ、ひぃ……」
 ぽろぽろと涙を流し、涎を零しながら、救いを求める。
「おねが……、恭一さまぁ……、助けて、掻いてぇ、もっと、掻いてぇ」
 もう頭の中は掻いて欲しいというそれだけで、ニヤリと嗤う恭一が、そんな簡単に許してくれないことなど忘れていた。
「じゃあさ、太地」
 恭一が、尻を振り続ける太地の背にそっとのしかかって耳元で囁いてくる。赤くなった尻タブを爪先でかりっと引っかかれて、安堵の吐息すら吐いた太地は、続いた言葉の意味など理解していなかった。
「もう一回聞くぜ。俺と一緒に住むか? そうしたら、ここをたっぷり掻いてやるぜ」
「あ、はぁぁっ」
 尻タブからアナルに移った爪が、カリカリと引っ掻く。
 その振動に、あえかな嬌声が上がり、太地は無意識のうちにこくこくと頷いていた。
「もっとぉ、もっと……ああ、イイっ……イイよぉ」
「俺の家に来るなら、会社に行くのも許してやる。自由に外出もできる」
「あんっ、んんっ」
「気持ち良いこともたくさんしてやる」
「んんっ、ああっ、イイっ、それイイっ」
 ずるずると筒が抜かれる感触に、太地の肌が粟立ち、ぶるりと身震いする。身を焦がす掻痒感に与えられた感触は、天国にもいたるほどの快楽だ。
 その感触に恍惚とした表情を浮かべた太地の目の前に、ふわりと一枚の紙が差し出された。
「ターイちゃんっ、ここにもサインしてね」
「な、なにぃ、ああっんっ」
 もうろうとする視界に入ったたくさんの文字。何かが書いてあるのだけど、うまく読めない。
 その一部の四角の中を、高橋が指先でこつこつと叩いた。
「ここに、サイン。名前くらいかけるだろ? 書いたらその筒とってあげるからさあ。ほら、ペン持って」
「あ、取って……? ひあっ」
 高橋の言葉とともに、海藤がずるりと筒を引っ張り出す。その感触に、またもやこくこくと激しく頷いた。
 それを見て取った高橋が、手を拘束していたネクタイを外した。半ば痺れた右手にペンが持たされる。
「ん、手が、うまく……」
 山芋が中に溜まっているはずの筒が抜けるのだと思うと、一刻でも早くサインしたかった。
 けれど、縛られて血行が悪くなった右手が思うように動かない。
「焦ることないって。その間、これでゆっくり掻いてやるからさ」
「あ、ぁぁぁっ、か、かいとっ、ああっ、達くっ、イクぅぅぅっ!!」
 ほとんど出かけていた筒が、また入ってくる。かぶれて赤く腫れきっているであろう肉壁を掻き乱しながら、前立腺を抉られて、激しい快感に鈴口から多量の精液が迸る。
 仰け反り叫ぶ太地の耳元で、恭一が甘く囁いた。
「サインしたら、尻ん中、綺麗に洗って思う存分に犯してやるよ。書かないなら、このまんまんだ。もっともっと山芋をつっこんでやるよ」
「や、やぁ……」
 そんなことになったら、狂ってしまう。
 そんな脅迫に襲われて、快感に意識すら混濁していたけれど、必死になってサインを入れる。
 四塚太地。
 それが太地の名前だ。
「ちょっと震えているけど、確かにタイちゃんの字だね」
 用紙の一部に書かれた名前を高橋が確認して、恭一の手に渡される。
「良い子だ、太地」
「あっ」
 耳朶に鋭い痛みが走った。
 鋭い犬歯に噛みつかれ、けれど、痛みは一瞬後には甘い疼きになって、痒みを僅かながらに消してくれた。
「太地」
 上げた目前に、恭一の顔があった。珍しく嬉しそうな笑みを浮かべたその顔が、近づいてくる。
「太地、愛している」
 視界一杯にひろがる顔に、触れる唇の感触。
 その瞳をめいっぱい見開いたのは、かけられた甘い言葉のせいだけでなくて。
「あ、あぁぁぁっ」
 唇を塞がれながらも、太地は喉の奥から絶叫に近い嬌声を上げていた。
「約束通り、たっくさん掻いてやるな」
 背後からは、海藤がずぼっずぼっと激しい抽挿音で筒を激しく動かして、体内を掻き回していた。
「ほら、銜えろよ」
 机に乗り上げた恭一はおもむろにペニスを取り出し、太地の口内に突っ込む。
「まずは一回達かせろよ。ったく、いつもいつもやらしい顔で誘いやがって。洗うなんて待てねえ」
「ふぁっ、むう」
 細身な体格だが恭一のペニスは三人の中でも一番太く、長い。そんなペニスで喉奥を突かれ、反射的に舌で絡めて押しだそうとした。けれど、その程度ではびくりともせずに、ずんずんと突き上げられる。
「ああっ、俺も俺も」
 高橋が、ペンを取り落とした手のひらに、自分のペニスを握らせる。
「俺も一回達ったら、タイちゃん使ってやるからねぇ」
 可愛い容姿の割りには、歪でグロテスクなペニスを持つ高橋は、タフだ。一日に何回でも射精して、太地の腹を精液で一杯にする。
 ある意味、一番体格が良い海藤が一番標準的なサイズのペニスなのだが、彼は必ず道具を使いながら太地を犯す。
「しゃあねえな、じゃあ、そろそろこれを片付けるか」
 ぺしりと尻タブを叩かれて、筒がズポンッと音を立てて抜かれ、小さく呻いた。途端に、ぶちゅぶちゅと、変色した山芋が噴き出した。
「えぇ、汚いなあ、綺麗にしてなかったの?」
「これは、山芋が変色しただけ。さっき、綺麗に洗っただろ、さすがにまだ便は降りてきてねえよ」
「あ、そっかぁ」
「それに、どうせまたたっぷりと洗わんとさ」
 海藤が嬉々としてバケツに突っ込まれていたシリンジを取り上げた。最初に机に縛り付けたときに、直腸洗浄したセットだ。
 その先を、ずぷりと突き刺す。
「んくぅ」
 その冷たい感触にすら、太地は歓喜の声を上げて、もっと奥までと尻を揺らめかす。
「淫乱」
「好きなんだからぁー」
「浣腸も好きになったようだな」
 三人の言葉などもう耳に入っていなくて、冷たい水が入り込む感触に、太地はくぐもった嬌声を上げるだけだった。
 
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