須崎コレクション5

須崎コレクション5

 1時間かっきりの昼休み。
 須崎の要求である、挿入して使い切ることのできる、たった一度の機会。
 こっそりとトイレにこもって、つるりとしたローターをアナルに押し込んだ。
 スイッチはダイヤル式で、回し始めたときだけ指先にカチリとした感触が響く。後はスムーズに動くそれが、くるりと回って。
「うっ、あっ!」
 強い。
 腹の中の振動が外まで伝わってくるほどに、強い。
「ひっ、いぃっ」
 覚えず足が上がって、力の抜けた腰が倒れてしまう。
 ミシッ、と、ちゃちな作りの便座カバーが悲鳴を上げたのを気にする余裕もない。
「や、だ……、こんなぁぁあっ」
 ただ、ただ、引きずられそうになる快感から理性を保とうとするけれど。強い振動は、刺激に弱い快楽の泉を掻き回す。
 今にも射精してしまいそうな、拘束されていないペニスを、右手が握りしめた。
 ひくひくと喘ぐ鈴口から、たらりと吹き出す粘液が、つぅっと茎を伝い指を濡らす。
『いっぱい、達ってきていいぜ。空にしてこいよ』
 滅多に許されない自由な射精。
 快感に身を任せれば、きっとどんなに心地よいことか。
 だけど、ここは会社で、昼休みで。
 そして。
 会社内には、もう一人の支配者がいる。
「あ、は……ぁ……」
 彼が来るよりも先に一度……。
 とにかく一度、達ってしまおう。
 ぎゅっと陰茎を握る手に力が入った。
 ──その瞬間。
「ご主人様の言いつけ守っているね。良い子だな」
 キイィッ──と立て付けが悪くなった蝶番の音より早く、狭いトイレに含み笑いの声とシャッター音が響いて。
 遅れてやってきた彼が、鍵の掛かっていないトイレのドアを開けていた。
「あ……やだ……」
 一番のご主人様の須崎の言葉は誰よりも優先されるけれど。
 二番目のご主人様の伸吾の言葉もまた従うべきもので、この新しいご主人様である高見の命令の優先度は三番目だけれど。
 会社での行為の邪魔にならなくて、アナルへの生身のペニスの挿入さえなけければ、彼に従うことを、須崎から命令されていた。
 あの日、エレベーター内でばれた日に、ばれたことを須崎に伝えた後に決まったことだ。
 須崎と高見の間に、どんな取引がされたのか判らないけれど、会社で何をされたか、何をしたか、その画像とともに全て須崎に伝わっているから、それが代償だったのかも知れない。
 そして、須崎に何を命令されたか、高見もまた知っていて、その時に言われたとおりにトイレには鍵はかけていなくて。
「でもさ、もしかして先に達こうとしただろう? 俺が昼食べて行くまでは待っててね、と言っといたけど」
 内なる振動からの快感すら遠のいたほどに冷たい嗤いに、言い訳しようとした唇まで震えて、言葉にならない。
「まあ、まだ達っていなさそうだから、いいや。つうことで、ノルマ5回な」
 ほっと安堵の吐息を吐く間もなく、付け加えた命令に、ひくりと喉が震える。
「全部自分の体に出せよ。出しまくった汁で汚れたイヤらしい姿をたっぷり撮ってやるよ」
 最新鋭の一眼レフは、高見の趣味の一つだ。
 そのレンズがテルの全てを写し取ろうと向けられる。
 それこそ、ぎゅっと握った陰茎の、喘ぐ鈴口が物欲しげに涎を垂らしている姿まで。
「もっと足を上げろよ、シャツも前開けてイヤらしい乳首が見えるようにしろって」
 トイレの決して明るくない照明の下で、ピアスに刺激を受け続けている赤く熟れた乳首も晒される。
「マックスにしてイヤらしく喘げ、物欲しげに煽れよ、俺を。全部撮ってやる」
 逃れられない命令のままに、テルの指が震えながらダイヤルを回し。
「ひっ、あぁぁぁっ! ──いあっ、ああっ」
 声を出せと言われ続けた奴隷の性か、止まらない喘ぎ声とともに全身が震える。
 強い振動は単純に震えるだけでなくて、中で暴れるように踊って内壁を叩き続けていて、全身が硬直するほどの快感が溢れ出した。
「い、あぁぁ、出る──っくぅ……っ」
 びくっと全身が震えたとたんに、濃厚な精液がボタッ、ボタっと胸へと落ちる。
「す、げぇ……」
 感嘆の声が遠く響く。それに恥じ入るよりも先に、さらなる快感の山に襲われた。
「こ、こんな……、止まらなっ……あぅっ」
 元気なローター一つに、体が踊り、悶えて、喘ぐ。
 もうここが会社であることも、途切れなく響くシャッター音も気にならない。
「これだったら、5回なんてすぐかもな」
 嗤う高見に、それは無い……と答えたいと思ったのも一瞬で、先より薄くなった精液を、また胸の上へと吐き出した。
31-1.jpg 原寸大