【元婿の日々】

【元婿の日々】

【お義父さまのための婿の心得】の番外編。領地に帰った後の元婿の日々の生活(第三者語り)


 公爵領の領境を護る私兵団は、団長たる俺が選抜し、鍛え上げた体力自慢のつわものがそろっている。
 他領に接する深い森林に、魔獣やら山賊やらと公爵殿の威光に逆らうモノが潜みやすいが故に設立された我が団は、公爵家の方々から高い評価をいただいている。
 その誇りを持った我らは、常に鍛えることを忘れていないが、そのために必要な物資は全て公爵様が提供してくださっているから可能なことだ。
 先日、家督をお譲りになって隠居された元公爵様は、と言ってもまだその体躯は若々しく、剣を取ればかなりの腕前であり、指揮を執れば俺よりよほど旨く団を率いることができる。だからこそ、今はご隠居様と呼んでいる彼の方が公爵領へと戻ってこられた時には、我等はあらためて臣下として仕えることを誓ったものだ。
 そんなご隠居様は、公爵領へと戻られる際に一人の奴隷を連れて帰られた。
 奴隷とは犯罪者である。愚かにも欲望にかられて安易な道に進み、あげく無様に捕らえられた者であった。元より誇りなどない存在であるからか、奴隷と堕ちても生にしがみつき奴隷となったという、誇りある我ら私兵団からすれば塵芥にも等しいモノだ。
 そう、モノだ。
 奴隷は人にあらず、道具である。
 その存在を一言で説明しろと言われれば、誰もが口を揃えてそう言うだろう。
 ご隠居様の奴隷は、男のくせに生っ白い貧弱な身体付きで、その頬にくっきりと奴隷紋を刻まれているが、顔はまあ女性受けする程度にはいいほうに見えた。
 一時期あの素晴らしきお嬢さまの婿として迎え入れられたというが、男としての役目を果たすこともできず離縁され、実家からも絶縁された直後に罪を犯し投獄されたというのだから、結局は救いようのない馬鹿だったとしか思えない。
 あのお嬢さまに汚点を残したという意味では、俺たちにとって忌むべき相手ではあり、部下からの魔獣が住まう森林の奥に打ち捨てるべきだという意見には俺も賛同していたほど。
 だが心優しいご隠居様は、縁があったものだからと慈悲深く救い出されたのだ。
 またお嬢さまも、すでに過去の汚点を神殿でのみそぎで白くお戻しになれており、なんと第三王子とご婚約をなされたとか。来年の春には国を挙げての挙式となり、臣下に下る第三王子がこの公爵家に入られるとのこと。
 王や皇太子とも仲の良い第三王子が婿に入られるとならば、公爵家の将来は安泰である。
 おお、そうしてみれば、アレの子ができずに離縁となったのは素晴らしいことのように思えてきた。
 お嬢さまにはまったく責がないことを、神殿も王家もお認めになったことも重畳であった。これもこの国に貢献されてきたご隠居様の功績を、神もお認めになった証というか。
 まあアレは奴隷に堕ちるほどだったのだから、道理とも言えるだろうが。
 アレの刑期は十年というが、娼館奴隷の寿命は五年程度。
 厳しい奴隷働きによりまず精神が壊れ、そして身体が壊れる。使用に際し禁忌はあるとはいえ、刑期完遂まで至る奴隷が少ないのは、奴隷としての責務がそれだけ厳しい故か。それを考えれば、あの奴隷は半年でご隠居様に買われたのは幸いだと言うべきか。
 俺がもしそのような立場であったとしたならば、この命を賭してご隠居様には恩は返し続ける。それほどの恩なのだ。
 だがアレは、どうにもその恩に報いようという気がないのではないか。
 ご隠居様は、アレの性根を変えさせるために、普段は我が団の訓練に参加させておられる。 そのためにアレにふさわしい仕事を与えているというのに、あの怠け癖というか、やる気のなさは、そうとしか思えない。
 ふと賑やかな声が聞こえたと視線を向ければ、なるほど、あの奴隷が我が部下に叱られているところであった。
 どうやら、飼い葉を運ぶ役目すら満足にできぬのか、辺りに飼葉桶が転がり、中身が散乱しているようだ。その傍らで叱りつけられている奴隷がうずくまり、びくびくと震えている。
 その情けなさに嘆息を零し、俺は仕方なく足を向けた。

「うるさいぞ、何をしている」

 部下へと問いかけるが、近づけばその状況は明らかだ。

「はっ、本日与えた仕事が一向に終わらず、叱責しましたところ飼葉桶を落とした始末です」

 部下の言葉にびくりと震える奴隷。おずおずと頭を上げる奴隷紋が浮かぶ顔は上気し、何かを期待しているように蕩けている。
 まったく、自分がしかられていることすらわからないのだろうか。
 しかも、辺りに漂う雄臭い臭いからして、仕事中に淫らな遊びでもしていたのは明白。
 本当に役立たずの穀潰しだと、再度の嘆息を吐く私に、部下も眉間に深いシワを寄せて、手に持った棒で手のひらを打つ。
 鋭い音は、奴隷を少しでも正気に戻したのか、その視線が我等へと向かう。だがその媚びた視線はなんとも腹立たしく、相も変わらず腰をびくびくと動かして、自らの快感を拾い続ける様は無様というかなんというか。
 俺は不平不満を飲み込んで、部下へと指示をした。

「尻でも打って正気に戻せ」
「了解」

 部下が奴隷の背を押して四つんばいにさせる。抗う間もなく伏した奴隷が無様に尻を高く掲げたところを、下衣を引きずり下ろした。剥き出しになった尻は、繰り返される罰で赤黒い筋がいくつも走っていた。
 だが問題はそのはざまにある躾け棒の丸い底がとろとろに濡れていることだ。
 娼館奴隷であったこれは大層淫乱で、すぐに男のモノを咥え込もうとする故にしっかりと塞いでいるのだが、そのための躾け棒だというのに、こんなものでコレは悦び、股間を濡れさせる。
 しかも、緩んだ尻は止めることもできずに、抜けかけているようだ。
 俺は溜息をつくと、躾け棒を握り一気に引っ張り出した。

「ひゃああぁぁぁぁっんんんん!」

 激しくのけ反り、目を見開いて、歓喜の声を上げる奴隷。
 無様な嬌声が辺りに響き、遠くにいた部下達までもがこちらへと視線を向ける。
 そんな視線を浴びながら、奴隷は全身をピクピクと震えさせ、しかも股間では白い汚濁をまき散らし、ひいひいと笑っている始末。
 なんとも無様な姿は、みなの失笑を買っていた。
 俺は手にした躾け棒を見て、再び深い溜息を零した。
 俺の手に余るほどの太さはごつごつとしたこぶがあり、中ほどが太く、先端にいくほど一度細くなって、反り返るような溝のあと一気に太くなる。先端は丸いが、そこも異様なこぶだらけの代物だというのに、奴隷の尻はこんなものでも呆気なく奥深く飲み込むのだ。
 だがこれが緩いとなると、さてどうしたものだろうか。
 ぽっかりと開いた穴へと視線を移し、ご隠居様にたっぷりと躾けられた証の白濁混じりの体液を零す奴隷は、本当に学ばない。
 俺は部下に視線を移し、頷いた。

「ひぐっ、ぎぃぃっ、ああっ」

 立て続けに三発、そしてもう三発。
 色狂いの悲鳴は、そんな場合ではないというのに奇妙に男の性を刺激する。
 淫乱でゆるゆる尻穴ではあるが、奴隷の穴は性欲処理には最適であって、ついその時のことを思い出してしまうせいだろうか。
 俺自身、仕事中だと律してはいるが、その卑猥な声を聞かないわけにはいかない部下達はつらそうだ。
 若干前かがみ気味になってはいるのは許容範囲だろうが。
 残念ながら一名ほど、かなりつらそうな表情を見せている者がいた。
 あれは先日この部隊に入ったばかりの新人だ。
 俺に勝るとも劣らぬ体躯は重歩兵の盾持ちとしては最適で、その豪腕は片手で人一人を放り投げるほどだ。
 そういえばつい先日、訓練を頑張っている褒美だとこの奴隷の使用を許可したばかりか。
 ご隠居様は、日に一度であれば娼館奴隷として使って良いと許可してくださっているのだ。
 新人は男相手は経験がないのだと言っていたが、いざことが始まれば、その夜一晩中遊戯室の中から奴隷の嬌声が聞こえ続けていたことまで思い出す。
 どうやらすっかり奴隷の媚態に囚われ、理性を飛ばして本能のままにむさぼっていたようで、おかげでこの新人はそれから数日、燃え尽きたようになって使い物にならなかった。
 ついでに奴隷はもっと使い物にならなくなってしまっていたが。
 慌てて精根尽き果てて伏せった新人の代わりにご隠居様におわびに言ったが、彼の方は笑って許してくださった。
 淫乱な奴隷が悪いのだと、そうおっしゃってくださった寛大なご処置に、俺はもう平伏するしかなかったものだ。
 あれはいつだったかと指折り数えて、なんともう一カ月は経っていた。
 なんとも月日が経つのは早いものだと、罰を受け終えて、ひいひいと震える奴隷を見下ろした。
 少し暴れたせいで上の服までまくれ上がり、白い肉の薄い背中も丸見えだ。散らばるのは、ご隠居様が施したという淫紋で、あれらを刺激すると、奴隷は絶頂を味わうことができるという。
 俺にしてみれば過ぎた褒美だと思える淫紋だが。

「おい、おまえ、来い」

 訓練中に我慢ができていない新人の罰にはちょうど良い。
 呼び寄せた新人は、緊張しているのか、唇が薄くなるほど引き締めて、俺の前で直立不動で命令を待っている。
 俺はそんな彼に、奴隷の服を全て剥げと命令した。
 もっともすでに下衣は膝まで下りているし、貫頭衣のような上衣は上へと引っ張るだけですっぽりと脱げる。
 あっというまに全裸になった奴隷を、俺は近くの大木へと括り付けた。
 
「そのまま、そいつの淫紋を刺激し続けろ。そうだな、十回以上空イキさせるまでだ。その間、おまえは自慰もせずに堪えろ。突っ込んでもいいが射精は許さん」

 途端に絶望的な表情になる新人。
 気の毒そうに見つめる部下達。
 この奴隷の絶頂時の嬌声は、快楽神経にたまらなく響くのだ。
 年を取って勃たなくなっていた出入りの業者が通りすがりにこいつの声を聞いて勃起し、あまつさえそのまま馬車の中で若い後家と行為にまで至ったという。しかもその一発で子供を孕ませることができたという逸話があるほどだ。

「始めろ」
「はっ、了解です」

 苦渋を舐めたように顔をゆがませた新人だが、この程度、堪えるだけの精神はここでは必要だ。何せこの奴隷はどこでも盛るのだから、それに流されていては訓練もままならぬ。
 さっそく新人は奴隷の乳首にしゃぶりつき、両手を使って淫紋を刺激していく。
 自身が我慢できるように、先手必勝とばかりに攻撃をしかけたようだ。
 艶やかな嬌声が辺りに響く。至近距離で聞く新人はつらそうだが、まあいい鍛錬にはなるだろう。
 その内に、奴隷をうまく扱えるようになったら、また遊ばせてやってもいいだろう。

「ひ、イクイクっ、だめぇ、ああっ、イクぅっ!」

 どうやら乳首だけで一回目の絶頂を迎えた奴隷の声が、辺りに響く。
 新人の罰だったが、どうやら俺にも結構我慢を強いられるものだったと少し後悔するほどに、股間に熱が溜まってきていた。
 まあそろそろ訓練は終わりだし、最後は木人形相手の打ち込みで、溜まったうっぷんをうまくはらすとするか。
 どうやら部下達も同じ考えのようで、それぞれの獲物を握り、ぎらぎらと目をぎらつかせて各々の木人形へと向かっていく。

「い、いやあ、達きたくない、ない、ひぃぃっ、だめえっっ」

 木人形に撃ち込んでいる最中も、そしてその後も、ずっとそんな声が聞こえていた。
 いい汗を掻いたと布で汗を拭き取りながら視線をやれば、奴隷が頭を振りたくりながら泣き叫んでいた。それもまたすぐに嬌声に変わっていたが。

「ああ、なるほど」

 アレはどうやら絶頂禁止の命でも受けているのだろう。
 以前もあんな声を上げて拒絶しようとした奴隷に打ち据えて、部下の褒美に使わせたことがあったが、あの時も後から聞いたところによるとご隠居様から絶頂禁止の命令を受けていたらしい。
 見事に命を破った奴隷は、ご隠居様に強制的な連続絶頂と連続射精の罰が一昼夜与えられていたと聞く。
 それだけの罰を受けた奴隷にしてみれば、当然今度はきちんと命令を守るかと思ったが、どうやら堪えることなく破り続けているらしい。

「ひぐう、だめえ、いやあっ、ああ、舐め、ない、ひぃ噛むのも、押すのも、だめぇ、だめぇぇ、ひぁぁぁ――っ!」

 嫌だといいながら絶頂している奴隷を眺め、さてと俺は部下に訓練終了を告げた。
 新人はまだ時間がかかりそうで、そのまま続けるように言う。
 頷く新人の股間は、なかなかに張り詰めていそうだが、どうやらきちんと命令を守っているようだ。縛り付けられた奴隷に抱きつき、指や身体で淫紋全てを刺激する勢いの新人は、さすがに俺が見込んだ部下だと感心する。
 そんな新人に手を振って、宿舎へと向かう途中、ご隠居様の部屋の窓が開いていることに気が付いた。見上げれば、眼光鋭い我が主の姿が見える。
 全員即座に敬礼をし、ご隠居様が応えられるのを待った。
 満足気に頷かれたご隠居様が室内に戻られるのを見送って、俺たちは足を進めた。
 
「きっとあの奴隷は、今日もご隠居様の手を煩わせるんだろうな」

 当たり前のことを言う部下に、俺たちの誰もが苦笑交じりで頷いた。
 ご隠居様は我等のためにとあの奴隷を貸し出されるが、かと言ってあれを処分しようとか、売却しようとか、そういうことは一切考えておられない。
 それどころか、ああしていつもその動向を見守り、毎夜のようにお情けをかけられるぐらいだ。
 それはもう執着と言えるほどに、ご隠居様はあの奴隷が気に入っておられる。
 それが分かっている我々としては、せめてあの奴隷がもう少し賢くならないかと躾のお手伝いをするぐらいしかできないが。
 奴隷のはしたない嬌声が響く中、俺の中にも少々熱が溜まってしまったようだ。
 少々の打ち込みぐらいでは、溜まった熱は発散できなかったらしい。
 張り詰めかけている股間を意識して苦笑を浮かべた俺は、肩をすくめて仕方ないとばかりに呟いた。

「今日は娼館でも行くか……」

 渇いた笑いがあちこちで上がり、けれど部下達もまた賛同する。


 最近、街の娼館がやたらに商売繁盛だと、そんなうわさが流れてきたが、街が潤えば公爵領の税収も増える。ご隠居様のやられることはやはりいいことばかりだと、俺達はうなずき合った。

【了】