【癒しの休暇】

【癒しの休暇】

癒しシリーズ 第三話 【癒しの休暇】


 深い森の中、馬の脚が大地を蹴る音が響く。速さよりも持久力を重視した漆黒の愛馬は、鬼躯国(きくこく)の民の中でも特に大柄な是羅(ぜら)と共にもう一人を乗せてもその走りに乱れはなく、すでに一時間以上を駆けている。
 空を覆い尽くすほどの木々の合間を駆ければ、新緑と苔むした大地の匂いが立ち昇り、風と共に後方へと消えていく。風音に交じり遠く聞こえるのはお付きの騎士の馬が駆ける足音、そして空高く飛び去る猛禽の鳴き声。
 だが木々が鳴らすこずえの音も木漏れ日の煌めきも、どちらも是羅の権謀術数に疲れた頭には心地良い。
 剣技に優れ、猛将と誉れ高き鬼躯国の剛無王(ごうむおう)の次期にふさわしく武に優れ、また他国が舌を巻くほどに優れた政治手腕を発揮する是羅ではあるが、疲れ知らずと言われる存在であっても精神的な疲労は蓄積する。もとより鬼躯国の民は頭で考えるより力で押し進めるほうを好み、そのせいか政治手腕に優れた人材となるとそこに負担が集中する傾向があった。
 剛無王も歴代の王と比すれば優れた治世を敷いてきているが、やはり彼も誰よりも濃い血の鬼躯国の民、最近では権謀術数となれば是羅へと押しつける傾向があり、必然的に是羅は常に激務に負われていたのだ。
 こんな是羅がようやくもぎ取った休暇ともなれば、彼が好む地へ遠征するのはいつものこと。
 その体格と戦場や政治舞台で見せる苛烈さから、血に濡れた場が似合うとさえ言われる是羅ではあるが、彼の好みは自然の音だけがする静寂だ。大気に満ちる自然の力は疲弊した頭を癒やし、雑念を払い、是羅に新たな深謀を与えてくれるのがいつものことだ。
 だが今回の休暇はそれだけでない。
 愛馬に乗せた自身以外のもう一人、その存在から届く微かな啼き声にも、鼻孔をくすぐる香りにも、そしてその身体が放つ心地良い熱も、何もかもが是羅を愉しい気分にさせてくれていた。
 たかだか二日の休みを取るためだけでも味わった激務ではあったが、そんなもの、この腕の中の存在がここにいるというだけで報われるだろう。
「そのように締め付けて、私の魔羅がそんなにうまいのか、シオンよ」
 左腕に手綱を絡め、右手で愛おしい血のつながりのない末弟を抱きしめる。
「ひっ、ああっ」
 のけ反った頭が是羅の胸に強く押しつけられ、是羅は露わになったシオンの仰向いた喉を撫で上げた。先ほどからひっきりなしに啼き声を上げる唾液にまみれた唇は紅く色づき、それより濃い暗紅色の舌がちろちろと何かを求めるように蠢いている。その唇の端から親指を差し入れれば、放つ声に震える歯が小さな痛みを是羅に与えた。
 小さな、是羅からすれば鬼躯国の幼子が持つ乳歯のような犬歯の愛らしさに是羅は嗤う。雛嶺国(すうれいこく)の民であるシオンは、鬼躯国の民でも大柄な是羅からすれば子どものような身体付きだ。片腕で抱えられる身体は華奢で成人男子には思えない。もとよりその祖は牙を持たぬ火の精霊、荒々しい鬼族と巨人族を祖に持つ是羅とは比べるまでもない。
 そんな可愛らしい歯を指先でなぞり、喘ぐ舌を捕まえる。
「あっ、ああっ」
 触れる吐息は熱く、視線を向けたその緋色の瞳は濁り、蜜を溢れさせたように濡れていた。
「あと半刻(1時間)ほどか、そなたが楽しむ時間はまだあるな」
 途端に震えた身体が心地良い締め付けを返し、緋色の瞳が長いまつげに隠される。その面に浮かぶのは、全てを諦めた絶望の色。だがすぐに耐えられぬ快楽を眉間に刻み、切ない吐息を繰り返す。
 是羅は、胸に抱く肌を晒した身体を右手でなぞりながら、馬上で軽く腰を動かした。
「ひぐっぁっ、あっ」
 震えた身体が先より強く声を発し、前へと倒れかけたシオンの腕が愛馬の首に絡まった。途端に愛馬が驚いたように嘶く。
「殿下っ、何か?」
 一番近くを走っていた騎士から鋭い声がかかるが、是羅は言葉に笑みを含ませたまま、「大事ない」と声を張り上げ返した。
「まったく、そなたがおとなしくしてない故に、護衛騎士にいらぬ気苦労を与えたではないか」
 そう言って木漏れ日が落ちる乳白色の肌へと視線を落とした。いつもなら速効で罰を与えるべきであるが、さてどうしたものかと考えたが、それも館に着いてからだと是羅はすぐに意識を切り替えた。
 そういえば最近は躾に鞭を使っていない故か、シオンの肌に傷はない。
 この鬼躯国にシオンが来てからすでに半年、だがずっと奥宮(おくのみや)から出ることのないシオンの肌は是羅のように日に焼けることもなく、非常に滑らかな肌を持っている。またこの肌に、淫らな模様を施してみたいものだと、是羅は深く突き刺さる己自身を小刻みに動かしながら、華奢な骨格に見あう肩甲骨が羽ばたくかのように蠢く様を楽しんだ。
 視線を落とせば、是羅の王太子らしき衣装をまとう下腹部とシオンの尻を密着する固定具が役目を果たし、言いつけを守らぬシオンがいくら身悶えようともその身体が離れることはない。
 シオンの両足は是羅の愛馬の鞍に括り付けており、鞍と自身の身体の間にある可愛らしい魔羅(まら)は剛無王より施された金細工の板状の貞操帯に押さえられながらも、その上から先端だけを覗かせて、粘性の高い液体をひっきりなしにこぼし続けている。板の下では、五輪の輪っかが無駄な射精をしないようにとシオンの魔羅を締め付けるようになっていた。
「そろそろ私も一度放(はな)っておくか、底なしに淫乱な穴も寂しがっておるようだ」
 一刻(2時間)ほどの道のりの間、心地良いシオンにこうも自身を嬲られては我慢強い是羅とは言え、滾る性欲を我慢しきれるものではない。
 淫猥さにかけては鬼躯国一の高級娼婦や男娼にも負けぬ淫らな身体は、いつでもそのぬかるんだ穴に雄の欲を銜え込みたがる。それこそ、たった一刻ですら我慢できないシオンのために、是羅はその身体に自身の魔羅を銜えることを赦してやっていたのだ。
 だが是羅の魔羅とシオンの肉穴はまるで一つを二つに分かったかのようなほどにみっちりと嵌まっていた。そんな是羅の魔羅をその身体の奥深くに銜え込み、熱い肉の穴で舐めしゃぶるシオンの技巧にかかれば、いかな是羅でもいつまでも我慢しきれるものではない。
 頭の中が白く弾け、込み上げる快楽が全身を甘く震わせながら歓喜の唸り声を上げ、是羅はシオンの中に己の欲望を解き放った。
 こんな馬上で浅ましくも放つなど是羅の矜持にひびが入りそうなものだが、相手がシオンであるならば致し方ないと諦めているのも事実。
 溜まりに溜まった欲は簡単には終わらず、人より多いと自覚している多量の精液がシオンの中を満たしていく。
「ぐ、っ、うぅぅぅ、ひっぃっ、イク、イキタ……ぁぁっ、動か……ああっ」
 隙間なく埋め尽くした是羅の魔羅が栓となり、溢れるほどに出たはずの精液は外に零れることはなかった。解放の余韻にぶるりと震えた是羅に、シオンもまた小刻みに震え続ける。
 しゃくり上げる身体は先より熱を持ち、肌に浮く汗は甘く淫靡な香りを是羅へと届ける。
 風に嬲られた肌は、汗のせいもあって寒いのだろうか、是羅は前屈みになるシオンの身体を抱きしめて、高貴なる身体で温もりと施しを与えてやる。
「や、あっ、深っ、ああっ」
「まだ深く欲しいか、貪欲なやつめ」
 起こした分自重で深く咥え込み、再び強く締め付ける身体。蠢く肉壁は、さらに奥へと是羅を誘い込む。
 少し木々がまばらになったせいか、木漏れ日が多くなった中で、淡い朱色の大きな乳首も、形の良いへそも、そして金色の下生えも薄い下腹部も、是羅の目にはよく見える。シオンの腹が少し膨らんでいるように見えるのは、先ほど注いでやったせいか、それともここまで届いているからか。
 鬼躯国の民と雛嶺国の民の体格差から、是羅はシオンを奥宮に入れてすぐに第二王子 是蒼(ぜそう)に身体改造の施術を施させたが、その判断は正解だったと今でも考える。是蒼は魔術を駆使した繊細な医療技術が得意で、肉体を構成する小さな組織から改編することが可能だ。その技で、極太で長大な魔羅を銜えてなお壊れぬ身体へと変化させたシオンは、その淫靡さをさらに強くして、こうして是羅達を楽しませてくれる大切な弟となっていた。
「シオン」
 涙で両頬を濡らし、声なき声で喘ぐシオンの身体を抱きしめて、是羅は耳元で囁いた。
「せっかく私のモノを注いでやったというのに、礼の言葉を忘れる無作法は赦されぬぞ」
 嗤いながらその可愛らしさ以上に愚かな義弟へと伝えれば、掠れた悲鳴がその喉を震わせ、逃れようとするかのように身悶える。
 その身体を強く抱きしめ、是羅は続ける。
「まだまだ躾が足りぬそなたに、忙しすぎて教えきれていなかったことをしてやるつもりだ、感謝するが良い」
「ひっ」
 虚ろだった瞳に焦点が合い、恐怖に満ちた色に染まる。
「何、怖れることも、遠慮することもない、そなたを躾けるのは、存外なことに愉しい故に」
 うなじから首筋へと舌を這わせ、肌の下で薄く浮かぶ血管を狙うように牙を立てる。
「ひっ、ぃ……ぃっ、お、赦し……を……」
 硬直したシオンの柔らかな肌に、シオンとは比べものにならぬほどに頑丈で鋭い牙が食い込んでいく。是羅が後少し力を入れれば、馬の震動が少しでも強くなれば、か弱く薄い肌はすぐ穿てるほどの力に、強張った身体は熱を失っていく。
 だが卑猥な穴は相変わらず是羅の肉をきゅうきゅうと絞りたて、快感を求めて止まらないし、シオンの魔羅は、新たな体液をこぼし、期待に充ち満ちている。
「ふむ、何か言いたいことがあると、では、特別に望むことを赦す」
 牙を外し、耳朶を舐めながら囁けば、シオンが震える口で言葉を紡ぐ。
 つかの間、シオンが是羅に向けた瞳に浮かぶのは、先ほどと同じ絶望、そして諦観。
 是羅はシオンが望む言葉を知っていた。
 知って、なお口に出すように誘う。赦してやったのだからと、是羅はシオンの言葉を待った。
 そしてシオンは、是羅が赦した意味を、最初のときに徹底的に教えられていた。それこそ、意識するより先に言葉が出てしまうほどに。
「あ、兄、うっ上様の魔羅、で、愚かなシオンをし、躾けてください、ませ」
 是羅の赦しにシオンが発するのはいつも淫猥な望み。少し掠れた声音と共に発せられた望みは、いつも是羅の背筋を疼かせ幸福感に満たしていく。
 愛らしい唇が放つ淫猥な言葉に是羅の魔羅は自重することなく勃起し、この淫らな身体を欲して止まらなくなる。
「それがそなたの望みであるならば、叶えることはたやすいことよ」
 是羅が答えれば、シオンは俯き震え、大粒の涙が鞍へと落ちていった。

※※※

 是羅がシオンを初めて見かけたのは、実のところ鬼躯国ではない。
 シオンが鬼躯国に入るより二年前、是羅が王代として隣国である雛嶺国を表敬訪問した際のことだ。
 その時、是羅は貴賓室で休憩をしており、シオンは庭を散歩していたために直接顔を合わせたわけではない。だが窓から見下ろした先にいた鬼躯国の民にはない雛嶺国の王子の可憐さに対する思いは、その時確かに是羅の中に根付いたのだろう。帰国後ふと彼の姿形を情報局に伝えれば、望む情報はすぐにもたらされた。
 だがそれはその時だけで終わったはすだった。
 しかしその二年後、雛嶺国が食糧不足に陥り援助求められたその時、終わったはずの縁は確かに動き出したのだろう。
 その時、是羅の頭の中に浮かんだは誰よりもシオンの姿だった。
 あれだったら皆も気に入るだろう、そう考えたから人質を指名した。
 もとより外交にまつわる実権はすでに是羅にあり、王権の強い鬼躯国において王家の意向が優先される場で、是羅の要望を通すことはたやすかった。もとより小国である雛嶺国の人質が今までいなかったことを思えば、その要求もしやすかったというのもある。
 大国にて大陸随一の栄華をほこる鬼躯国に対して、小国である雛嶺国が望まれて出せないと言えるはずもない。
 雛嶺国から正式に受諾の返事が是羅の元に届いたその瞬間、その場にいた宰相以下主立った者は、確かに背筋に震えが走った。新しい人質が是羅の眼鏡にかなうほどに優れたものだという喜びを老若問わずに知っていたからだ。
 この場にいる者は、別宮への立ち入りを赦されている者ばかり。
 是羅もまたわずかな口の端を上げて、確かに嗤っていた。満足気に、だが瞳に浮かぶ冷たさは消しもせずに、淡々と喜びを口にする。
「楽しみだ」
 その言葉に、宰相は人質が幾月も経たないうちに死者が住まう陰宮(いんのみや)送りになるだろうと信じて疑わなかったと、是羅が私人としている時に思わず口にした。
 その言葉に、是羅はその時の感情を思い出して苦笑をした。
 確かにその時点では、是羅はシオンが他の人質と同じく別宮に幽閉することを考えており、あの可憐な身体が陵辱の果てに壊れるさまを想像していたのだから。
 半年をすぎて今なお生き延びているシオンは、確かにいつものように人質が住まう別宮(べつのみや)に送られていれば、今ごろは陰宮にいておかしくない。
 だが、謁見の間でシオンを見たとき、是羅は自分でも考えていなかった言葉を口にした。
 シオンを奥宮に入れたいという願いに剛無王が賛同してくれたのは、親子で趣味が似通っていたからか。しかも養子という言葉に、その手があったかと是羅すらも内心では目を瞠った始末。
 さすが他国に名を馳せるほどの剛無王だと、あらためて父王を尊敬したほどだ。
 だが確かにその結果シオンは今も生きており、そして是羅の義弟としていつでも共にあれるだろう。シオンはその時点で、別宮で抱きつぶし壊してよいほかの人質とは違う扱いとなった。
 シオンは簡単には壊さない。そう考えたからこそ、是羅は是蒼の施術をシオンに受けさせた。
 別宮の医師にはできぬ天才とも言える是蒼の施術を繰り返し何度も受けたことにより、シオンは雛嶺国の民らしからぬ体力と頑強な身体、そして媚薬を盛られた娼婦以上に敏感な身体を持つことになったのだ。
 その身体は、是羅だけでなく、是羅の大切な弟達――是蒼や是無(ぜむ)だけでなく剛無王すらお気に入りだ。
 何しろいくら穿っても処女のようにすぼまり濡れる熱い肉の穴、心地良い締め付けを覚えた肉壁も合わせて、シオンの快楽の泉たる人並み以上に敏感な器官はぷくりと膨らんでいて、是羅達の太い魔羅へ心地良い刺激を与えてくれるのだから。
 長大なために腹の奥まで貫いた魔羅は、口を閉ざした扉の奥まで届くのだが、そこの締め付けもまた別の快感を与えてくれる。そこまで届くとシオンには苦しいらしいが、何度も突き上げればすぐに我を忘れてイキ狂う。全身の敏感な性感帯は、是羅にも身体の開発という楽しみを与えた。
 改造されたのは魔羅を受け入れる中だけではない、シオンの魔羅はそのままだがその奥、子種を作る玉は刺激に敏感で、快感を味わえば味わうほどに精液を作り続けるし、会陰にしても、薄い腹にしても、外から押さえても快楽の泉への刺激が伝わるし、二度と子作りに使われることのない魔羅は触れられれば即勃起するほど敏感だし、尿道の中も広げられて、ブツブツがついた棒を入れられて快感に身悶えるほど。
 しかもシオンは是羅達に逆らえないし、逆らわない。
 是羅が施した躾も、是無の世話も、是蒼の遊びも、全てシオンの糧となり、今のシオンができあがっている。
 今のシオンは雛嶺国の第三王子シオンではなく鬼躯国の第四王子のシオンであり、そのことは鬼躯国からの食糧補助の見返りとして雛嶺国には通告されている。
 ある意味婚姻関係を結んだのと同義だが、食糧不足に苦しむ雛嶺国にしてみれば、それで援助が増えるとなれば万々歳だった。
 だからこそシオンは、鬼躯国に来た当初から、是羅達には逆らえないし、逆らわない。しかも鬼躯国の王家たる一員になるためにと是羅が与えた躾は激しく、三カ月もしないうちに、シオンは逆らう気概など一欠片さえも残さないほどにその身から奪われていた。