【誰かへの願い】

【誰かへの願い】

 悔しい。
 憎い。
 死んでしまえ、死んでくれ、と何度も願った。
 今目の前で酒を酌み交わし、豪快に笑う4人の簒奪者達の姿に、心の奥底に押し込めた闇がどろりとその色を濃くしていく。
 けれど、力無い私にできるのはそこまでで、吐き気がするほどの汚泥に満ちた感情を腹の奥底に封じ込める。
 この肌に衣服と呼ぶのもはばかれるほどの申し訳程度の女物の薄衣を纏い、足を上げ腰を振り、常ならば決して人前に晒さぬところを卑猥に見せる淫らな舞を踊りながら、敵である男達への憎しみを募らせる。
 父を殺し亡骸を獣に喰わせ、汚名を着せて地位を奪った首謀者の叔父を。
 悲嘆に暮れる母を笑いながら引きずり倒し、私たち、子供の目の前で大勢の男達に陵辱させ続けて、狂い殺した叔父の義兄を。
 19歳で嫁ぎ先も決まっていた妹シェイリーの衣服を剥ぎ取り、犯し尽くした後にその股間に家宝の女神像を突き刺して、往来で見世物にした従兄弟の一人を。
 18歳の妹メイリーを、全裸で四つん這いにし、乳首にカウベルをつけてそれを鳴らしつつ、首輪から伸びる綱を引っ張り散歩をさせるもう一人の従兄弟を。
 そして私は、地下牢のようなところに閉じこめられ、四肢を拘束されて、四人に代わる代わる無垢だった尻穴を犯され続けた。さらにそれから実に一週間もの間、必ずそこには何かが入っていて。
 その後、叔父の戴冠記念式典だと開かれた宵闇の宴で、私は客の前に全裸で引きずり出されて。さらに、叔父達に与した客達に対してこの身体での奉仕を強要されたのだ。
 そんなことできるわけが無いと突っぱねることができたのは最初だけだった。
 暴力と妹への脅しの前に、私の矜恃はあまりにも脆いものであった。
 今ではこうやって命令されるがままに淫らな踊りを踊ってしまう程に。
「ミオウ、もっと腰を突き出せ、足を上げろ。お前のイヤらしさをもっと誇張しろ」
 言われるがままに、腰を前につきだして大きく足を振り上げて、布地の合間から見える勃起したペニスを晒してぶらぶらと振る。
 獣畜生でもしない卑猥な踊りの振り付けは、意識など無くても踊れるほどに徹底的に躾けられた。
「ひゃはははっ、いいぞ、淫売っ! もっと尻穴を広げろっ。お客様方に挿れてもらえるようになあっ」
 王子となったとは思えぬほど下品な言葉遣いのあぐらをかいた従兄弟の腕の中には、シェイリーがいた。足の上で大きく股を広げて、その股間には従兄弟のペニスが埋まって喘ぎ続けていて。
「ほらっ、お願いしろ。挿れてくださぃってなっ」
 愉しげにワイングラスを掲げて煽るもう一人の椅子に座った従兄弟の足の間では、メイリーが四つん這いで大きく膨れあがったペニスを銜えさせられていた。
 二人とも、ずいぶん前からあの四人の言葉には従順で、勝ち気だったその瞳には意志すら感じられなかった。
 私が呼びかけても返事をしなくなったのは、こんな立場に追われてすぐで、あれからもう三ヶ月以上経っている。
 いっそのこと、逆らって殺されてしまおうかと思うけれど、私が逆らえば二人を場末の娼館街でガラスに閉じこめ獣に犯される見世物役にして一生飼い続けてやると言われては、逆らえない。
 衣服すらまともに与えられぬ私たちには、剣で鍛えた屈強な男達相手に素手で謀反を起こすこともできなくて。
「お、客様ぁ、どうか……どうか、このミオウの淫乱な尻穴をお使いくださませぇ……、私、ミオウは、男のチンポが好きな、変態でござますぅ……どうか、ああ、挿れてぇ……」
 命令されるがままに、客席に向かって尻を突き出し、両手で尻タブを掴んで自分で見たことも無い穴を晒す。
 その拍子に、客席から息を飲む卑猥な音がいくつも鳴り響き、下卑た嗤いが響き渡った。
 もう慣れたはずなのに、それでもこの不躾な視線に、喉の奥から熱いモノが迸りそうになる。けれど、決して吐き出すことのできない塊は喉に詰まって止まり、苦しくて堪らなかった。
 さらに。
「慎ましい穴でこざりますなあ、そのような穴では、我らのモノは銜えられますまい、ミオウ”元”王子様」
 奴らに荷担して父を裏切った大臣の、厭らしくわざとらしいセリフに、私ができるのは首を振り、ネットリと甘える仕草で強請ることだけ。
「……いえ、ノルエード大臣、様、ミオウの穴はチンポを銜えるのが大好きで、毎日いっぱい銜えておりますから……、どんなモノでも銜えることができるのでこざいます。特にチンポが大好きです。 どうか、この貪欲な穴に大臣様の逞しい御身を試しくださいませ」
 教え込まれたセリフがこんなにも流ちょうになるほどに繰り返された見世物は、この後の展開もいつも同じだ。
「そうか、ならば試してみようか」
 最初から順番の決まった出来レースであるこの見世物に、私は促されるままにこの身体から布を落としながら大臣に近づく。
「ほおぉぉ……」
 私自身は嫌っているのだが、この身体は毎朝時間をかけて薬湯に浸され、全身に香油を塗り込められて爪の先まで磨かれる。それこそ、深窓の令嬢ですらそこまではしないだろうと思われる手入れがされた身体は、私自身も信じられないほどに瑞々しくも艶やかで。──そのせいでよけいに男が誘われてしまうらしい。
 宴への参加はもちろんお客の接待、そして連日連夜必ずあの首謀者達の誰かに犯される日々を繰り返しているというのに、ますます妖艶になっている自分の身体が反吐が出そうな程に嫌いなのに、私にはどうすることもできない。
 その悔しさもまた募り、腹立たしい思いを封じ込める苦痛に悶えながらも、外面だけは淫乱な娼婦のように客達に媚びる。
 それを見て簒奪者達は嗤うのだ。
 さらに。
「白い肌に薄桃色の花びらが、ようもようも、数えきれぬほどに貼り付いておるわ、何とも見事なモノよ」
 この身体に最初に挿られた水彫りの技法による刺青は、踊りに紅潮した肌の上で、桜吹雪のように淡い花色の花びらを浮かせるのだ。
 胸に腹に、腰に尻に。
「どうか……私の花びらをたっぷりと触れて下さいませ」
「おお、おお、早うこっちに来い」
 大臣のたくさんの指輪が嵌まってぶよぶよと脂ぎった手が、私の腕を掴む。
 男として決して小さくは無い身体と思うけれど、引きずり込まれた腕の中にすっぽりと納まってしまう。
「あ、ひっ」
 尻タブに食い込む指の強さに、ひくりと身体が仰け反る。
 ネトリと首筋に這う気持ち悪い肉厚の舌に身震いをし、抗えない手で、それでも僅かに押し返して、新鮮な空気を体内へと送り込んだ。
 包み込まれただけで、むせ返るような男の臭いに吐き気がしたのだ。
 けれど、こんなところで嘔吐などしてしまえば、待っているのは私への折檻だけでは無い。
 前に客への愛撫を怠ったときは、私は射精を封じられた上に媚薬付けのままに丸一昼夜犯され続けただけでなく、シェイリーは、女陰だけでなく尻穴まで叔父の家来達に犯されて、全裸で汚濁まみれのままにたくさんの召使いがいる庭を何周も歩かされていた。
 メイリーは、馬車職人達がたむろする馬小屋の中で、四肢を繋がれた牡馬の股間でそれが射精するまで舌で愛撫するように言われて。
 あの小さな口で、懸命に巨大な陰茎をくまなく舐めさせられた上に、放出された精液を全て飲まされたのだ。床に落ちたものまで、だ。
「や……ぁぁっ、そんなぁ、急にぃ……」
 だから、抗いを隠すように媚びた声を上げ、剥き出しになった腰を押しつけて。服の上からでも感じられるほどに熱く硬い醜悪な代物を刺激する。
 せめて、妹たちにこれ以上酷い扱いを受けさせたくなくて。
「あ、んっ、ああっ、お願いです。はやく、はやく下さい。大臣様の、太い、ご立派なチンポぉ、くださぁぁぃっ」
 淫らに媚びて、その気にさせて。
「おうおう、なんと厭らしいお願いをすることよ。ははっ、結局そなたは王子の器では無かったということよ」
「うっ、ああっ!」
 抱え上げられ落とされた先で、私の尻穴がグブグブと太い陰茎を飲み込んでいく。
 もう痛みなど感じない。
 あるのは、広げられ、征服される刺激による快感だけ。
 それが堪らなく厭で、背筋を走る疼きを震い払いたくて唇を噛み締めようとしたけれど、口が閉じられることなく甘く湿った声が勝手に口を吐いて出てしまう。
「あぁやぁぁ、あっ、あぁ」
 私は……。
「ミオウは、こうやって男に嬲られてこその存在だったということだっ、どうだっ」
「あ、ぁぁっ、奥、お、奥まで、深いっ、ぃぃぃ」
 ガツガツと突き上げられる衝撃に全身がガクガクと揺れた。
 嬲られ続けた身体はそれだけで絶頂をむかえるようになっていて、一突きされるごとに、目の前が白く爆ぜ、瞬く視界に酔いそうになって固く目を瞑った。
 グチャグチャと濡れた音が中からも外からも響いて、私を揺らす男が叫ぶ音よりも鼓膜に響く。
 太くて熱い肉が身体の中を押し広げ、たっぷりと汁を滲ませ抜けていく度に、ぞわぞわと全身が総毛立った。
 途端に腹の奥底から熱くてどろどろの塊が込み上げてきて。
 勝手には達っては怒られる。
 ああ、そういえば、今日はいつもされている射精防止の淫具をつけられていない。
「ひぃ、あぁ、ふかっ、やあ、だめぇ、そこ、イくぅぅ、あ、ダメッぁぁ、イイ、あぁっ、だめぇぇ──っ」
 暗い世界の中は、押し寄せる快感と白く弾ける衝撃に、全てが支配されていく。 
 全身を苛む快感により放心した身体は、けれど、休ませては貰えなくて。
「や、ぁぁ、いやぁ」
「客より先に射精するとは……。これはしっかりとお仕置きして、この性根を叩き直してやらねば……」
「も、申しわけっ、ありま……、んっ」
「大臣、詫びにどうかいかようにも仕置きをしてやっておくれ。その子の淫乱さは、どんなに躾をしても治らぬでな。我々もほとほと参っておる。ほれ、ここに薬も道具も何でもある。ああ、他の方々もどうかしっかりと躾けてやってくれ」
「ああっ、お許しを、ご主人様ぁぁぁっ」
 聞き慣れた声音に、全身に冷水を浴びせられたかのように一気に冷めて、血の気が失せて。
 縋ろうとする叔父の姿が遠い。
 ぼやけた視界の中に迫る男達が手に手に淫具を持って迫るのが見える。
 そしてその向こうでは、妹たちが客達の手に渡されているのも。
「ぁぁっ、妹達はっ、私が悪いのですっ、どうかっ」
 伸ばした手は引き戻され、床に打ち据えられて。
「客が、雌犬用に雄犬を貢いできたのでな。それが今発情期だって言うので、相手をさせることにしただけだ」
「お、す、犬……?」
「知ってっか? 犬の交尾はそりゃあもう時間がかかるんだぜ。しかも少々のことじゃ抜けねえくらいでっかくなるらしいし。はは、そのまんま雌犬どもの番として飼ってやるのも良いかなってな」
 ははは、と笑い飛ばす従兄弟が、普段から妹達を雌犬と読んでいるのを知っていた。
 だから……。
 連れて行かれる妹達が何をされるか、すぐに気が付いて。
 私は……。
 けれど。
「あ、はぁぁぁっ」
 突き上げられて仰け反り晒した乳首に、ねとりと絡む熱い刺激に、さらに仰け反る。
「淫売っ、もっと腰を振れっ」
「は、はぃっ、あっ、ぁ」
 ああ、私は……。
「お前は、ここで客達をもてなすんだ。たっぷりとな」
 群がる男達の淫欲に満ちたギラギラした瞳に私は……。
 あああ……。
 溢れる涙が、顎を伝い、ぽたぽたと胸に落ちているというのに。
 そんなものにすら、ゾクゾクとした快感がこの身を浸し、堪えきれないままに身震いして。
「なんだ、また達きやがったっ」
 私は……。




 憎い、
 悔しい、
 辛い、
 悲しい。



 だけど、何もできない。
 私は、助けられない。



 お願い……。
 誰か……。
 助けて……。



 引きずり込まれる快感の海の中で、ただ祈る。
 神などいないと諦めた頭で。
 ただ、祈る。



 助けて。
 妹達を助けて。
 妹達を……お願い。



 助けてくれたら……私は……。
 どうなっても、
 良い……から。



 私が祈ったのは、元より神ではなかった。
 神など両親が無残に殺され、この身を穢された時に信じる事を止めてしまったからだ。
 それでも祈ったのは、何もできない、簒奪者に従うしかない弱い私の代わりに、誰から妹達を助けて欲しくて。
 助けてくれるのなら、本当に誰でも良かったのだ。
 なぜなら、妹達が助かれば……そうしたら、私は死ねるのだと思ったから。
 妹達さえいなければ、この地獄から逃れられるのだ。
 死んで欲しいとさえ思う己の浅ましい考えを認めたくなくて。
 けれど、私の心もまた限界を迎えていたのだ。
 それでも、せめて、妹達を見捨てることだけはしたくなくて。
 だから、他力本願だと判っていても、何かに祈り続けた。
 せめて。
 この身が変わってしまう前に、人としての矜持を忘れぬ前に。
 妹達が助かってくれれば、私は死ねるのだ。
 そう、私は。
 死んでしまいたかったのだ。


【続】


この先、二つのパラレルのお話があります。キーワードはよく似ていますが、相手が全く違います。

続編1は、何一つ救いの無いお話で、気分を害する方がおられるかもしれません。
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続編2は、主人公は救われていると思っていますが……ハッピーエンドとは口が裂けても言えません。
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