【誰かへの願い 続編 パラレル1】

【誰かへの願い 続編 パラレル1】

「これは私が貰う」


 それでも助けてくれたと思ったのに、それは私にとって、違う悪夢の始まりだった。



「あひぃぃぃぃっ!!」
 全身を這う粘着質な生物がじわじわと私の尻穴から中に入っていく。
 異形なそれは巨大な不定形生物で、触れた場所からその表層を溶かし、生き物の老廃物を摂取して栄養とするのだ。排泄物すら喰らうそれは、穢らわしい生き物としての代表格のようなモノで、そんなモノに全身を嬲られては、不快で堪らなかったはずなのだ。
 けれど、それに顔以外の全身を覆われて、まして、中まで入り込まれて。
 じわりじわりと蠢く度に伝わる振動に、激しい絶頂に襲われ続けていた。
 じわじわと表層を嬲るような感触にぞわりと悪寒のような疼きが走る。中に潜り込んだそれがにゅぷくちゅっと動く度に、脳髄が痺れるほどの快感が走って。前立腺は、直にもみくちゃにされているような激しい快感が迸っていた。
 不快な生物から逃げようとした身体は、今は両腕を高い位置でまとめて括られて、足は広げた状態で間に枷がついていて床に繋がれていて逃げ出せない。
 そのままで、全身を襲う快感に狂わされていく。
「気持ちよいだろう? お前のために、特別に取り寄せた生物だ」
「ひ、あっ……ああっ」
 目の前でにたりと嗤う壮年の男の言葉に、私は枯れた喉で嬌声を上げながら涙を流して首を横に振る。
 彼は、私が元いた国の隣国の王で、私の新しいご主人様だった。


 あの日、あの宴に一個兵隊を連れて乗り込んできたこの隣国の王は、簒奪者達に剣を向け宣言した。
「これは私が貰う」
 剣を突きつけられた叔父が、その言葉に否と言える訳も無く。
 あれよあれよという間に私は王とともに隣国に連れ帰られた。
 その時に、あっけに取られたのは一瞬で、すぐに妹も連れてきて欲しいと取りすがったがダメで。
「お前が私の可愛い玩具でいる限り、殺さぬように大事に扱えと言っておこう。もし殺せば、我が国が全力で叩きつぶす、とな。成り上がりとは言え、国を守るだけの頭はあろうからな」
 クツクツと嗤いながらの言葉に、私が何を反論できるだろうか。
 まして「玩具」という言葉の意味がたいそう恐ろしく聞こえたけれど、それ以外でありたいならば不要と言われ、妹も見捨てると言われてしまえばもう何も言えなくて。
 私はこの王の足下で、三つ指を付いて深々と頭を下げて、了承の意を返した。
 客達に犯された時からずっと一切衣服を貰えていないので、何もかも丸出しの姿で蹲る私は、傍から見たら滑稽だろう。けれど、そんな事に構ってなどいられなかった。
 私ができたことは、この王の機嫌を損ねないようにすることだけだったのだから。
「わ、判りました……玩具になります。だ、だから……せ、せめて……妹達にはもう手は出さないように……と」
「おや、玩具のくせに私には進言するのか。ならば、罰として妹達には毎日男を与えるように追加しよう」
「ひっ、そ、そんな」
 剣を向けられ蒼白になってがくがくと震えていた簒奪者が、この王の言葉に諾々と従うことは目に見えていて。
 私は慌てて、王の前に額を擦りつけて懇願した。
「お許しをっ、私が、私が悪かったですっ。玩具の分際で王に頼み事など、申し我ありませんっ。咎は私が受けます故に、だから、その追加は撤回を……お願いしますっ」
「ふむ……まあ、今日はお前を手に入れて気分が良い。特別に許してやろうか……」
 そろりとうなじを撫でられぞくりと走った疼きは、王の嬉々とした視線に悪寒へと変わった。
 それは、待ち望んだ玩具をようやく手に入れたそれでしかなくて。
「待ち望んでいたんだよ。初めてそなたを見たときから、この手の中で思いっきり遊びたいと思っていたんだ。きっとキレイな声で泣くだろう。苦しむ歪む顔は、ひどくそそるだろう。何が好きだろうか、何が嫌いだろうかと、いろいろ考えていろいろな道具を手に入れるのは愉しかったけどねぇ。でもやっぱり実際に遊びたかったから。ふふ、ようやく手に入れられて、ほんとうに嬉しいよ」
 招き入れられた部屋を一歩入った途端に硬直した私を、王の力強い腕が引きずり込む。
 私は、決して頷いてはいけなかったのだ、と、その瞬間に理解して。
 けれど。
「少しずつ愉しもうね。ふふっ、長く遊ぶために、どうやったら壊れないかもちゃんと考えたからね。順番を守って、一つずつ。そう、毎日一つずつ使うから」
 棚に並ぶ大小様々な張り型は、端からどんどん太く歪に長くなっていて。一番端は大人の男の腕ほどもあった。
 天上に吊された容器の目盛りは最大が10リットルになっていて。細いチューブの先は張り型のような形をしておりそこから容器の中身が流れるのが容易に想像できた。それを何に使うのか、はるかに小さなモノを洗腸に使っていた私は知っていたからこそ、蒼白になる。
 ベッドには鎖に留め具。天上からも鎖と滑車に、十字の磔台や先の尖った木馬型。
 隣から聞こえる犬の興奮した声なんて、聞きたくも無かったけれど。
「私の可愛い飼い犬達の玩具にもしてあげるよ」
 嬉々として扉を開く王の言葉に、私は──。
 私は一度もそんな醜態など晒したことなど無かったのに。
 私はこの身に起きるであろう未来の悲惨さに、立ったまま気を失い、そのまま床にがくりと崩れ落ちてしまったのだ。



 あれから六ヶ月。
 私はまだ生きている。
 かろうじて生きている。
 この身に受けた様々な王にとっての遊びは、激しい快楽地獄の時もあれば、時に狂いたくなるほどの苦痛もあって、今生き延びているのが不思議なほどだった。
 あれから私は与えられたこの部屋と、隣の飼い犬用の遊戯場だけが私の世界で、時折遊戯のために外に出ることはあっても大半がここで過ごした。
 食事も日に三度、ドアの下の小さな扉から差し込まれるだけだった。湯も水も排泄場所もあったから、必要最低限の生活はできていたけれど、それでも衣食住とこの身に受ける陵辱場所とが全く同じということに、私の精神はどんどん弱ってきていて、許されぬ泣き言や懇願を王にしてしまうことも多くなっていて。
 そのたびに、妹に対する対応を変えると言われて、許しを請い続けて──たぶん、王は許してくれているはずなのだけど。
 それもだんだん記憶が曖昧になってきていた。
 それほどまでに、王の遊びは凄惨で苦しくて、地獄のようなものばかりで。
 この身体も、今や尻穴は一番太かった張り型ともう一本を銜えるほどに拡張され、尿道も小指が奥まで入るほどに広げられていた。小さかった乳首などは、今や歪に膨れ人の数倍はあるし、鞭打つ痛みにすら絶頂を得るほどになっていた。
 王が飼う犬の陰茎は早々に与えられていたけれど、先月に王の愛馬の陰茎を与えられ、その精液を上からも下の口からも飲み干してからは、毎日のようにさまざまな動物の精液をこの身に受けるようになっていた。
 王はもともと私を直接は使わない。
 私を犯すのは、常に淫具であり、奴隷であり、家畜であった。
 王の中では、王が考える人は私を犯すものでは無いのだ。
 あるときは、ひどく逞しい肉体奴隷のペニスサックにされて一日過ごした。
 両足をその腰に回した状態で足首を括られ、手は脇の下を回して同じく括られ。奴隷にとって私はいつも担ぐ重い荷物よりは軽い存在なのか、その動きを妨げるものでは無かったけれど。
 尻穴に、その奴隷の異形に変形した長大なペニスを自重で奥深くまで銜えて。
 その奴隷がいつも行う仕事の合間も貫かれたままで、何度も何度も中に射精をされても抜いて貰えなかったのだ。
 泣き叫ぶ私の声は、同様に働く奴隷達の耳まで届いていただろう。
 自由に射精を許可された奴隷を羨む声が聞こえ、淫らに悶える私を侮蔑する言葉も聞こえ。
 だが、奴隷の腹に擦られた私のペニスは恥知らずに噴き上げて、奴隷の腹を汚し足を濡らした。
 ようやく抜かれたときには、私は疲労困憊だったけれど、汚したその身体を舌で乾ききったそれが一滴残らずキレイになるまで許されることは無かった。
 あれも酷いことだと思っていたけれど、次の日には、さらに酷いものになって。
 そして。
 今日のこれは、このまま死んでしまいたいと願うほどだったのだ。
「あ、うっ、あぁぁっ」
 身体に這う不浄の生物の粘液が染みこんできているのが判る。それだけでも厭なのに、けれどこの厭らしい身体は、それが動く僅かな振動でも堪らなく感じてしまうのだ。
 喉からひっきりなしに零れる嬌声は紛れもなく快感を味わっている証拠で、しかも、声を抑えきれないほどに強いものだった。
 特に、ペニスや尻穴の中までその自由になる身体で潜り込んで、直接肉を嬲られ吸い付かれ、振動を与えられて、びくびくと何度も痙攣してしまうほどの快楽に襲われる。
「ひぃぃ、あぁぁぁ、ああぁっ」
 少し蠢かれるだけで、喉からひっきりなしに嬌声が漏れて、閉じられない口から涎がたらたらと溢れて落ちた。その涎までそれは表面から吸収して、悦んでいるかのように震える。
 まして、ペニスやアナルから滲み出る淫汁はたいそう気に入ったようで、しかも、振動を激しくするとますますたくさん出ると学習してしまったのか、動きがどんどん激しくなるのだ。
「ふぁぁ、あっ、うっ、うっ、だめえ……あぅぅっ、やぁぁあ」
 ペニスをすっぽりと覆われてぐにぐにと扱かれる。
 尻穴の中全体を擦り取るように膨らんだそれに、抉られる。
 尿道まで入り込んで、そちらでも抽挿されて。
「やあぁぁ、達きたっ、あぁぁ、いやあぁぁ」
 嫌悪感よりも射精感が凌駕していた。けれと、腹の奥から迫り上がる奔流に、陰嚢がひくひくと震え、中からたっぷりと液体を放出しようとしてるのに先端から奥までを塞がれて、出ない。
 苦しくて辛くて、溢れた涙が頬を伝う。
 それを王が指で掬い取り、美味そうに舐めて。
「甘露よのお。さすが私が欲して止まなかった王子よ。あの美しき王子が泣き喚き、淫らに悶える姿を見ていると、確かに余は若返るわ」
「あひっ、あぁぁっ、やぁぁ」
 異形の生物は、食欲だけの本能で休むこと無く私の身体に官能を与え、狂おしい快楽の中に苦しみを与え続ける。
 それは、王の好きな行為で、毎日のように課せられる遊びだけれども、どんなに受けても、慣れることは無くて。
 全身くまなく与えられる不規則な振動は、今日にいたるまでの遊びの中で全身が性感帯のように敏感になった私には、脳髄が爆発してしまいそうなほどの激しい快楽だった。。
 けれど、射精できないままに、悲鳴を上げ続けているのだけど、王は嗤うばかりなのだ。
「お、お許しを……ご主人様。淫乱な玩具は、……玩具は、壊れそう、でぇ」
 急にずるりと、尻穴のさらに奥まで入ってこられて。
 一番奥を割り広げ、その奥へと侵入を果たしたその違和感に、もう何もかも忘れて叫んでいた。
「やぁぁっっ、助けてぇぇぇっ、やだぁぁ、奥がぁぁぁっ、奥やめてぇっっ!!」
 腹の中をこれが、這いずり上がってくる。
 皮膚がヒリヒリと痛み、這いずり回る刺激に全身が総毛立つ。
「ああぁっ!! もうやだぁぁっ、あぁぁぁっ、あぎっ、お、玩具ぁぁ、はぁぁ、こあれうぅぅっ、ひゃれつするぅぅ」
 何かに腹の奥を満たされる。
 どくどくと脈打つ刺激に意識が爆ぜ、全身の刺激に気が狂うほどの快感を味わいながら、弾ける恐怖に襲われる。
 がくがくと痙攣し、泡を吐く私は、近づいた王が呟く言葉が聞こえていなかった。
「おやおや、玩具のくせに嫌がるとはのう……。と言っても、今さら妹の事を出しても、どうせ聞く耳など持たないだろうが。まあ……そなたが愚かな行為をする度に妹達の待遇を変えていたら、とうとうあちらの城の最下層の牢屋で下級兵達の慰み者になってもう完全に狂っているという話だが……ふふっ、そなたが頑張っている限り、ちゃんと生きているから問題ないよのう……」
 王が何かを言っていて。
 ほんの少し妹の事を言っているように思えたけど。
 けれど、私は。
「あひっ……も、入らない……ぃ、あぁぁ、たすけてぇぇ、もうゆるしてぇ」
 ぽこりと膨らむ腹に何が入ってきているのかも理解できないままに、その苦しさか逃れたいと泣き喚く。
 ああ、お願いですぅ、ご主人様ぁぁ。と、激しい圧迫感にえづき、苦しみ、誰ともつかず助けを請う。
「ふふっ、どうやら無事卵が産み付けられたようだ。何、一月もすれば生まれるだろうから、生まれたら今度は尻の穴の中で育てるんだ。そいつは浅ましくも汚らわしいことに、他の生物の老廃物、特に排泄物を好むからな。これで玩具の老廃物処理の面倒が無くなって良いわ。玩具は他にもおるのでな、何匹でも育ててくれよ」
 カラカラと愉しげに笑う王は、私の手を止めていた枷を外して。
 その拍子に崩れ落ちかけた身体は、身体を包む生物によって抱き留められた。
 それを一瞥し、足の枷を外そうとした王は、生物に包まれていることに気が付いて一瞬嫌悪の表情を浮かべ、その鍵を衣服にしまい込んだ。
 その時には私の身体は、頭までその生物の中に埋もれていて、王が喋っていることも聞こえなくなっていた。
 何より苦しさと辛さに、元々言葉が理解できなくなっていたくらいで。
 ただ、口と鼻だけは出ていて、それで呼吸はできていたけれど。
 はあはあと喘ぐ私に王が目を向けたのは一瞬で、そのまま部屋から出て行ってしまう。
「まあ、もう歩くこともなかろうし……。それにしても、そろそろまた違う玩具でも探そうかのう。これも飽きてきたしな」
 飽きっぽいことで有名な王だと、私は知らなかったけれど。
 ただ判るのは、バタンと閉じられるドアには、もう手が届かなかったことで。



 そのまま閉じられたこの部屋が開けられたのは、王が再びやってきた一ヶ月後だった。



「あかひゃん……かわい……よ……」
 巨大な不定形生物にもたれて、複数の周りで蠢くその生物と同様のサイズだけは小さな身体を抱え上げ、開ききった尻穴にも入り込むそれを取り上げては頬ずりしていた玩具は、すでにその瞳から完全に正気の色を失っていたという。

【完】