【我慢の日々】

【我慢の日々】

我慢の日々

『ほしいものを我慢するとそれだけ手に入れたときの喜びが多いことを、私は知っている』
 そんな私と息子と青年の物語。 
 薬、快楽地獄、拘束、契約、視姦


 色の濃い肌は、黄色人種としては健康的だと言えるだろう。
 張りのある薄い皮膚の下、盛り上がりのある筋肉の存在がよくわかる。無駄な脂肪の少ない身体は、意図的に作られた身体でなく、日々の暮らしで自然についた筋肉で覆われていた。
 その身体が、冷たいはずの床の上に横倒しに転がり、その四肢をだらりと伸ばしていた。
 左を向いた顔は彼の意識のなさを示していて、そのこめかみに涙が流れ落ちている。
 きかん気の強かった表情も、今はその面影もない。
「いい顔ができるようになったね」
 知らず込み上げてきた愉快さに、私は喉の奥を鳴らして彼の傍らに跪いた。
 先日仕立て上がったばかりのスーツの裾が床に触れかけ、寸前で足に力を入れる。
 前屈みにのぞきこめば、照明の影が彼の顔に落ち、蕩けた表情に苦悶めいた歪みが走った。
「トウヤ」
 囁けば、閉じられていたまぶたが震え、虚ろに緩んでいた口唇が震えて開いた。中から覗く白い歯とその隙間から覗く赤い舌。たらりと口角から流れた唾液は、白く濁っていた。
「貢嗣(ミツグ)のものは美味しかっただろう?」
 問うた言葉に返事はない。私は指先で垂れた唾液を掬いあげ、もったいないと彼の口の中へと戻した。
「……っ」
 呻き声を上げて、いやだと首を振るトウヤ。だが無意識だろうその動きは私の指を遮ることはなく、私は彼の口唇で拭うようにしてから自身の指を抜いた。
 それでも彼の瞳は明かず、伸びた四肢はそのままだ。
 そんな私達の背後では、清々しい水の音が響いており、のんきな鼻歌が漏れ聞こえていた。
 この部屋に作り付けのシャワー室はガラス張りで、中にいる筋骨逞しい男の姿が見える。上機嫌に身体を洗っているのは、私の息子――貢嗣。
 私の後継者として非常に忙しい息子をなんとかトウヤと引き合わせることができたのはおとといの昼。貢嗣がこうるさい副社長を説き伏せて三日の休みを取った初日のことだ。
 彼の誕生日でもあったその日、私は前々から手に入れていたトウヤのいる場所、この家へと貢嗣を連れてきた。その後、私もまた忙しい身であることからすぐに退室したのだが、どうやら二人はとても仲良く過ごせたようだ。
 そのことがこの部屋に漂う濃厚なオスの匂いでよくわかる。
 その匂いはトウヤを中心にして、室内全体にむせかえるように充満していた。
 私は立ち上がり、すっかり寝乱れているベッドへと向かい、汚れてなさそうな端に腰をかける。それを合図のようにシャワーの音も鼻歌も止まり、雫を垂らしたままに貢嗣がガラス戸を開けた。
「ああ、父さん、来てたのか」
「ちょっと様子見にね。どうだい、楽しく過ごせたかな?」
「最高だったね、父さんが見立てるやつに間違いはないとは思ったが」
 息子が獰猛な瞳をトウヤへと向けた。舌が唇を舐める様は肉食獣が得物の味を脳裏に描いているそれ。
 私より一回り大きく、逞しい身体は昔からスポーツで鍛えただけのことがあり、持久力もある。三日の間遊びに満喫したはずなのに疲れ一つ見せず、いや、より壮健さが増しているようだった。
 その股間では萎えていても人並み以上に大きな逸物が、まさしくぶら下がっていると言っていいだろう。
 私もそこそこに大きいが、息子のそれはウマナミという言葉がとても似合う代物だ。
「で、トウヤはどうだったかな?」
「わがままでしつけのなってないガキだったが、ずいぶんといい声で啼いて感度も良かった。男の味は初めてのくせして突っ込まれてザーメンを何度も噴き上げたし、すぐに尻だけでメスイキを覚えてよがりまくったしな」
「そう」
 私は貢嗣の言葉に笑みを浮かべ、深く頷いた。
 トウヤを初めて見たとき、私は得体の知れない何かに身体を貫かれた。それほどまでに何かが私の琴線に触れる存在、それがトウヤだったのだ。
 そんなふうに私が気に入ったトウヤだから、当然貢嗣も気に入ると思っていた。私が求めるようにきっとトウヤを可愛がってくれるだろうと。
「トウヤが何度射精したかわかるかい?」
「ああ、父さんが数えろって言ったから数えてるさ。確か十三回だったか。最後には痙攣したようにチンポが震えるから射精したなとわかったが、ザーメンなんかほとんど出てなかったけどな」
「そう、禁欲させてたからそのぐらいは平気かと思ったけどね」
「はははっ、俺も頑張ってイカせてみたが、まだまだ生産量が追いつかないようだったぜ。その辺りは改造の余地があるな」
「並の人間ならそんなものだろうね、それは仕方ないことだよ」
 三日で十三回ならいいほうか。
「まあそいつが出せない分、俺のもんを喰らわせておいたよ。下からも上からも、吐き出すぐらいにな」
 はるかな昔に鬼を先祖に持つという血のせいか、体質的に一度の射精量が多いのが私達の家系だから、きっとトウヤも満足するほどに喰らうことができただろう。
「だが今日はもう、そろそろおまえも仕事に戻る必要があるだろう?」
「ああ、今夜はA社の会頭殿と会食があるからな。昼前に会社のほうに顔を出さねえといけねえ」
「あの方とお近づきになれたか、さすが貢嗣だな」
「何、あの方は俺みたいなのと話すのが好きなのさ。孫みたいに見えるんだろうよ」
 鼻を鳴らして肩をすくめるが、その孫扱いされるまでに対応を間違い、消えていった経営者は多い。
 私は着替えに隣室へと向かう貢嗣を視線で見送り、再度トウヤへとその視線を動かした。
 いまだ私が来たことにも気づかず、怠惰に横になったままのトウヤ。
 全身を覆うのは今日のためにと用意していた特製の潤滑剤か。だが透明なはずのそれに混じる多量の白濁した液は違うものだろう。
 健康的な肌に散らばる鮮紅色の痕、長く伸びるひっかき傷は喉にも腹にも、そして太腿に。
 何よりくっきりと目立つのは、淡い色をした乳輪を囲むようにつけられた鋭い歯形だろうか。
 その中心にある乳嘴は、血のように赤く充血して女のそれのように大きく膨らんでいる。
 なるほど、転がる注射器を見るに薬液でもそこに注がれたか。
 三日間、貢嗣の相手をしたのだから、きっと体力も尽きているのだろうけれど。
「さてトウヤ、今度は私の無聊につきあっておくれ」
 私もトウヤと遊びたいのだから。



 二週間ほど前、連れてきたトウヤに課したことは一つだけ。
 決して射精してはいけないと、ただそれだけだ。
 その約束をトウヤは当然だとばかりに受け入れて、そして書面に自ら署名までして、声に出してそれを読み上げた。
 契約書に書かれたそれを完遂したならば、私は彼が持つ借金の肩代わりを全額行うことを約束しており、もちろんその旨もきちんと明記されている。
 と同時にその内容が履行されない場合、要するに射精をしたならば一度で総額から十パーセントの金額が減り、百パーセントになった時点でトウヤは私に囚われることとなる。今まで持っていた借金は倍額に増え、返済するまでは私のものとなるという契約。
 その内容を嘲笑っていたトウヤは、守ることはたやすいと思ったのか、それともそんなバカな契約が履行されるわけがないと思ったのか。
 だが契約は決してジョークでもなんでもないものだ。
 着替えた私はシャツとスラックス姿で、トウヤの腕をつかんで引き上げ肩に担ぎ上げた。
 貢嗣ほどではないが、私もこの程度の力仕事を労することなくできる程度の力はある。
 身体の向きを変えた拍子に、トウヤの尻の挾間から白い液がだらりと流れ、私の足元へ伝っていく。
 耳に届く唸り声はさすがに覚醒が始まっているからか。
 私はトウヤの身体を寝乱れたままのベッドへと転がして、その四肢へと枷をつけていった。その後は鎖を取り付け、寝台の四隅へと繋いでいく。
 最後は右の手首とを繋いだとき、身じろいだトウヤの目が薄く開いた。
「な、に……」
 呟く様は、いまだ事態がわかっていないよう。そんなトウヤの瞳をのぞきこみ、私は笑みを浮かべた。
「おはよう、トウヤ」
 静かに囁いたつもりだったが、私の声が届いたとたんトウヤが鋭く息を飲み、その瞳が大きく見開かれた。
「ひいいっ」
 掠れた声が弱々しく響き、四肢が無駄にシーツにシワを作る。
「三日ぶりだね、どうだったかな、息子に遊んでもらえて。ずいぶんと楽しく過ごせたようだが」
「あ、ぁぁ……」
 さっきまで健康的だと思った顔から血の気が失せて、トウヤが嫌だとばかりに首を振る。
 まああの貢嗣の相手をした後では、こんなトウヤの対応も致し方ないことぐらいは私にもわかっている。だがわかってはいるが、それを許容するかどうかは私次第であり、そして私にはそんなつもりは毛頭なかった。
 伸ばした手でトウヤの顎をつかみ、視線を合わせようとしない彼の瞳をのぞきこむ。
「契約は履行できなかったトウヤが行うことは私に従うことだけだ。そう契約書には書いてあったよね」
 色素が薄い瞳が怯えの色を濃くし、指に力を入れて無理やり開けさせた口に注ぐ液体を呆然と見つめていた。
 とろみがある濃厚な甘い匂いを放つ液体は滋養強壮効果の強い秘伝薬だ。
 即効性成分は疲労回復効果のみだが、遅効成分こそが秘伝たるゆえん。
 その効果は、老いたモノにすらそのオスとしての精力を向上させ、勃起と射精を何度もさせてなお萎えないほどに強く発情させる代物だ。
「飲みなさい」
 私の強い一言に逆らえる状態ではないのか、トウヤの喉がごくりと数度動いて口内の液が消えていく。すっかりと消えたのを確認してから指を放せば、涙と共に寝具へと沈み込んだトウヤの身体は細かく震えていた。
 その身体をよく見れば、背には幾筋ものみみず腫れが走っている。そこにそっと指を這わせれば、おもしろいようにトウヤの身体が跳ねた。
「これは?」
 問えば返事はなく、しゃくり上げるような音が小さく響く。
 私はため息をついて、トウヤへと再度呼びかけた。
「これはどうしたんだい? 言えないなら、私が想像することをしてみよう。同じ痕が付けば、正解ということだろうからね」
 ベッドから降りて作り付けの棚へと移動する。目当てはその上段にある使われたままに適当に投げ入れられたようなとぐろを巻いた鞭。
 貢嗣が好むのはこういうものだろうと当たりをつけて、私はそれを手にトウヤへと振り返った。
「ひ、ぃぃ、嫌、嫌だ、それは嫌だっ!」
 さすが薬の効果はてきめんで、さっきより元気になったトウヤが涙を飛ばして首を振っていた。逃げようともがいているが、頑丈な枷と鎖はその程度ではびくりともしない。それこそ重機でも持ってきて引っ張らないと千切れない代物だ。まあそんなことをすれば、ヒトの身体のほうがもたないだろうけれど。
 それよりも。
「私はなんで痕を付けられたか知りたいだけなんだがね」
 問いかけながら、丈夫な鞭を両手で持って左右に引っ張った。
 ビィーンと強い音が鳴り響き、わずかな伸縮性を持つ鞭が心地良い振動を伝えてくる。
 貢嗣ほどではないが、私も鞭を使うのは得意なほうだ。貢嗣が習得するまでは私が一番だと思っていたが、どうも息子には運動機能を使う方面では負け続き。
 それが残念だと思うのと同時に誇らしいと思う辺りが微妙なところではあるが、まあそれでもあれは自慢の息子であるのは違いない。
 その貢嗣が褒めたトウヤ。
 きっと的としてもたいそう良かったのだろうが。
「そっ、それっ、それで、鞭で叩かれた痕っ」
 どうやらトウヤも貢嗣を相手にして十分に学んだことがあったのだろう。
「そう。きちんと答えられるじゃないか」
 若干不服さは隠せなかったが、それでもちゃんと求めた答えを言ったトウヤには褒美がいる。私は自分の欲を殺して、鞭を棚へと戻した。
「鞭はやめてあげよう」
 この程度我慢したと言っても、ほかにもたくさん楽しいことはあるのだ。
「では膝を曲げて立たせなさい、股間を広げて尻を掲げて」
 太腿を叩けば良い音が鳴る。それから膝を立たせて、大きく広げさせる。
 私の手が触れるたびにトウヤの身体は震え、先日までは何一つ言うことを聞かなかった身体がたやすく動く。
 上げられた尻の下に固いクッションを差し込んで支え、曲げた膝には別の鎖を繋いで、広げた状態で固定すれば、緩んだ穴から貢嗣の精液が溢れ出しているのがよく見えた。
 息子の大事な子種を溢れさすなどもったいない。
 私はこれ以上流れるのを止めるためにと、別のものを注ぐことにした。そんな私の手が伸びた先にあるのは、さまざまなサイズのシリンジが並ぶ棚だ。
 そんな私の行動を見つめるトウヤは、何をされるのか不安がっているのがよくわかる。
 きかん気の強さは消えてしまったが、怯えて従順な様子もなかなかクルものがあった。
 私は上機嫌で、大きなシリンジにたっぷりと薬液を入れたものをトウヤに見せつけた。
「これはトウヤがさっき飲んだ滋養強壮薬によく似ているけどね。さっき飲んだのはオス用で、これはメス用。この薬をメスの身体の中に入れるとあっという間に発情してオスを求めて止まなくなる。要するに発情期に入るというわけだ」
「はっ……、まさかそれを俺にっ」
「そうだよ」
「俺はメスなんかじゃねえっ」
「メスだよ。メスイキできるようになったメスだって、貢嗣は言っていたからね」
 私は一度シリンジを置いて、トウヤの顔をのぞきこんだ。
 至近距離の私の視線に、トウヤが寝具に深く沈み込んで逃れようとする。その瞳を捕らえたまま、私は言葉を続けた。
「この薬液は体内に入るとその熱でゼリー状になる。体内のものを外に流さないようにもする」
 それがなんだとばかりに、訝しげに眉がひそめられたが、それは身をもって体験すればいいことだ。
 私はトウヤの股間の間へと戻ると、彼が何かを言う前にシリンジを使って、体内へと薬を注入した。
「あ、あぁっ……」
 苦悶に呻く心地良い悲鳴はすぐに止まる。注いだと言ってもそれほどの量ではない。せいぜいが拳大ぐらいのゼリーができる程度。
 だが固まり始めた薬液で、さっきまで流れていた精液が止まったのだから十分だ。
 薬液は固まり、そしてゆっくりとトウヤの体内へとその成分は吸収されていく。その粘性を持って腸壁にへばりつくその塊は完全に吸収されるか、何かでかき出さない限りは出てくることはない。
「さて、薬が完全に吸収されるまでそのままだよ。上から飲んだ薬も、下からのその薬も、そうだな一時間あれば十分か」
 私はトウヤの恐怖に歪んだ顔を見つめながら、隣室へと移動した。

 ※

 隣室でよく冷えた酒とうまいつまみをたしなんで過ごして一時間。
 頃合いかとトウヤの元に戻れば、そこには獣のごとく唸りながら腰を振りたくり、鎖を振り回すほどに暴れたトウヤがいた。
「あ、ぁぁっ、あつっ、い……、尻がっ、チンポがっ、ああ、イキたっ、あうっぅぅ」
 腰を前後に振り、身体をえび反りにして何度も強く突き出している。
 立ち上がった陰茎は濡れそぼり、赤黒い先端をぱくつかせていた。
「トウヤ」
 呼びかけれれば泣き濡れて赤くなった目が、私へと群れられる。
「あ、ぁ、あぁ、イキたぁ……、ザーメン、出してぇ、尻が、尻が疼くんだよぉ」
 オスの本能とメスの本能、二つがせめぎ合いトウヤは理性の欠片すらなく、ただ性欲に配されている。
「イキたいか?」
「うん、うんっ、イキたいっ」
「どっちでイキたい?」
「どっち?」
 私の問いかけの意味がわからないと、問い返すトウヤに、私は口角を上げて頷いた。
「射精によりイキたいか、尻を犯されてイキたいか」
 一瞬言葉の意味が把握できないと啞然としたトウヤだったが、すぐに「射精したい」と訴えた。
「そうか。でも射精したいと言ってもどうやって?」
「あ、そ、それは手、この手を外してくれればっ」
 自慰がしたいとそう言っているのだろうが。
「駄目だ、私がその気にならない限り、その鎖を外すのは三日後だ」
 三日貢嗣と遊んで射精しまくった罰は、三日そうやって固定する。そう言ってやれば、絶望の色を浮かべたトウヤが嫌だと首を振った。
 私がほかの遊びがしたくなるほうが早いだろうに、我慢が利かないトウヤの頬を叩き、私は契約した内容を繰り返す。
「借金減額分がなくなった以上に射精した場合、トウヤは現在の金額の倍を私から借金したこととなり、その返済は奴隷して絶対服従することよる給金によって支払われる。なおその給金は一日辺り……」
 元の借金からしても焼け石に水のその金額を、了承したのはトウヤ自身だ。まあ頷かなければ、元の借金主に何をされるかわからない、というか、明らかに死んだほうがマシだと思う目に遭うのは明らかだった。
 まあ結局同じような目に遭っていると本人は思っているのだろうが。
「服従できないなら、借金は増えるともなっていたね」
 小さい文字で追加されていたその項目。
 まあ私としては世間一般的には誠実なることを売りにしている以上、もちろんその項目についても見逃さないように説明はした。それをうるさいとばかりに無視したのはトウヤのほうだ。
「だったら……」
 涙を流しながら震える言葉で問うのは、悲しいからではなく、込み上げる欲情に堪えるのが苦しいからだろう。その証拠にトウヤの身体が発情により赤く染まり、その瞳は熱に浮かされたように虚ろだ。
「そうだね、特別にこれを与えてあげようか」
 示したのは私の逸物の型から作成したディルド。動きもしない、形だけの代物だが、なかなか芸術的にできている。
「ひ、ふ、太いっ!」
「おや、これより太い貢嗣のモノでさんざん楽しんだと聞いているよ。だから大丈夫だよ」
 硬直した身体に手を掛けて、私は手に持ったそれをトウヤの尻へと向けた。
「い、嫌だっ、い、ぃぃひぎぃぃっっ!!」
 残っていた潤滑剤と精液と、そして追加した薬の滑りでたやすくめり込んだディルド。
 ずぶずぶと入るたびに噴き上げるのは、トウヤの勃起仕切った陰茎からの精液だ。
「良かったね、ザーメンがたっぷり出ているよ」
「イ、ク、イッてるっ、ああっ、ひぃ、ぃぃっ、またっ、イクぅ」
 数度抜き差しをすれば、それだけで射精を繰り返すトウヤ。
 イキまくるトウヤは、泣き笑いのような顔をして、ひいひい喘ぎまくって、尻穴からの快感を貪り続けている。
「ふふ、確かにメスイキしまくって、ずいぶんと楽しそうだ」
 ならば、いろんな楽しみ方ができるだろう。
 私はしばらくディルド遊びに興じることとした。


 三日間も貢嗣の相手をしていたせいか、すっかりと柔らかく解れた肉穴は特製のディルドをうまそうに飲み込んでしゃぶり続ける。
「ひ、ふかっ……あっ、ひゃいっ、イぃ……ひぃあぁぁ……」
 何度も抜き差しを繰り返しているが、そのたびに白濁した体液を勃起しっぱなしの先端か噴き出しては、全身を痙攣させているトウヤ。その表情は快楽に蕩けきっていて、突き上げるたびに喜色に満ちただらしない笑みを見せている。
 だがそろそろ私の腕も怠くなったと時計を見れば、驚くことにすでに一時間が過ぎようとしていた。そんなに時間が経ったように思えなかったが、いろいろな痴態を見せるトウヤに、私も存外に熱中してしまっていたらしい。
 太いディルドから手を離せば、奥深くまで咥えられたディルドが生き物のように蠢いている。だがその脈動によって少しずつ外へと押し出されているようだ。
 これでは落ちてしまうと、私は立ち上がって棚から革紐を取り出した。
「トウヤ」
 呼びかければ虚ろな視線が私を捕らえる。その瞳に笑いかけ、私は手に持ったその革紐を掲げて見せた。
「これで縛ってあげようね」
 細く平たい革がトウヤの身体を這っていく。
 首輪のように数度巻きつけた後、そのまま胸元でクロスさせ、腰を一周して二本まとめてねじりながら股間へ通す。後ろから前へと通すときには少しきつめに、飛び出たディルドに巻きつけて、ちょうど良いところにあったくぼみに食い込ませれば容易には外れないだろう。前後では特に強くねじりを入れたまま、前へと渡ってきた革を玉と陰茎へと巻きつける。 もう何度もイッてはいるが、薬の効果でトウヤのモノはたいそう元気だ。張り詰めた肉の棒に食い込むほどの力で絞れば、トウヤが苦痛に呻き身をねじった。
「おとなしくしてなさい」
 股間から上へと革紐を強く引きながら、先ほど一周させた腰の部分と絡ませて、そこから二つに分けて肩へと回し、後ろでクロスさせてから胸の上で何度も巻きつけた。
 細い革紐が重なり、その隙間から膨れ上がった乳嘴を引っ張り出す。
「う、ぅぅぅ……」
 特別な薬液を注入された乳嘴はたいそう敏感に育っており、上下で革紐に挟まれてその形を歪めていた。
 最終的に両端を背中で縛り、紐の端は身体と紐の間へとねじり込む。
「さあできたよ」
 四肢とベッドを繋いでいた鎖を外して、胸の革紐をつかんで身体を起こさせた。
「ああ、すばらしい。とても似合っている」
 感嘆の声を上げて褒めてあげたのに、帰ってきたのは無様な喘ぎ越え。
「うっ、ぐぅぅっ!」
 しかも全身を立たせたとたんに、トウヤが全身を硬直させて激しく痙攣した。
 見開いた目は白目を剥いて、腹は波打ち、喘ぐように開いた口から舌が垂れ出ていた。
 股間では突き出た陰茎が生き物のように暴れ、体液を振りまいている。
「トウヤ」
 呼びかけても返事はない。忘我の境地に陥ったように、自身の世界に入り込んでいるトウヤの身体を支え、私は彼の右腕を肩へとかけた。
「デッキまで散歩に行こう」
 この三日間ずっと室内にいたはずで、それはとても健康には良くないことだ。
 それにそろそろ私も腹が減っており、今日はとても天気がいい。外で食事をするのも乙だとトウヤを誘う。
「今日の昼食は五つ星で評判の割烹料理の店で手配したものだよ。冷めても美味しくて、ぜひともトウヤに食べさせてみたいと思ってね」
 話しかけても返事はない。
 だがその身体は従順に私に従う様子を見せており、すっかり良い子になったトウヤに今の私は気分が良かった。
「あ、ひっ、ぐっ……」
 一歩進むたびにおぼつかない足取りでも足を動かすトウヤ。トウヤもお腹が減っているのだろう、引きずる足を懸命に動かしている。
 私は拭きだし窓からウッドデッキへと足を踏み出した。
「ああ、気持ちいい風だ、トウヤ、寒くないかい?」
 全身を汗で濡らした身体には冷たいかもしれないと伺えば、革紐で飾られた身体はやはり小さく震えている。
 私は手早く丸みを帯びたフォルムのガーデンチェアにトウヤを下ろすと、その足を持ち上げさせた。
「あ、ぎぃっ、イクぅ、奥がぁっ、ひっ、またイクっ、イクぅぅっ」
 背中を丸く覆う背もたれから伸びる紐を足首に繋ぎ、落ちないようすれば、尻を前へと突き出す格好になる。そこでは革紐で固定されたディルドが再び蠢き、トウヤが味わう絶頂にその身を震わせた。
「何度でもイクがいいよ。メスの薬で発情した身体はオスの精液を貰わないと満足しない。オスの薬を使った身体は、メスの陰液を陰茎に滲ませるまでその精が尽きることはない。飽きることのない絶頂をオスとして、そしてメスとして味わい続けるといい」
 私はガーデンテーブルに弁当を広げながら、トウヤに話しかけていた。
 もっとも絶頂のさなかにいるトウヤがどこまで理解しているか。
 ちらりと見やれば、差し込む太陽の光に照らされた身体が、またびくりと硬直していた。
 だがその肌の下では筋肉が脈動し、生あるものの美しさというものを露わにしており、とても美しい。
「ああ、美しいな」
 若い身体が見せる躍動感は私の好物の一つだ。
「さあ、お食べ。食べないともたないよ」
 白目を剥いて喘ぐトウヤに、私はだし巻きの一つをその口の中へと差し入れた。



 昼食を食べてから夜まで、広い庭を散歩して。もっともトウヤは歩けないからと蹲るので、車椅子に乗せてではあった。
 それでも自然豊かなこの庭をずいぶんと喜んでくれて、私もいつもよりずっと長く散歩の時間を楽しんだ。
 喘ぎ続けて枯れた喉が与えた薬の甘さに餓えたように飲み干して、ひくつくディルドの隙間から、先より多い量の薬を注ぎ込んでおいた。
 それからしばらく一眠りして、目覚めてみればすっかり外は暗くなっていた。
 変な時間に眠ったせいか、すっかり目がさえた私は、今は星空の下で一人散策中だ。
「ひぃぃ、ぎぁぁっ、ひぐぅ!」
 静かな星空の下で、トウヤの嬌声だけが大きく響く。
 私は時折その声を味わうために耳を澄ませて目を閉じた。
 ぐらぐら揺れる木馬に乗せたトウヤと共に遅い夕食を取り、まったりとくつろいぎながらいろいろと道具を試していた私達。そんな最中に戻ってきた貢嗣は、三日間の休みでは満足するに足りなかったらしい。
 革紐で飾ったトウヤを見たとたんにひどく興奮し、せっかく私がトウヤで遊棒としていたのにきかん気の聞かない子どものように私の手から彼を奪ってしまったのだ。
 もっとも突き出た乳嘴と陰茎に細かな振動をランダムに起こす玩具を取り付けて、身悶えるトウヤがどこが一番好きか確認していただけ。どうやら乳嘴に触れるか触れないかで嬲られるのが一番反応が良さそうだと結論付いたところだったのだからちょうど良かったとは言える。
 暇になった私は、満月の月夜が照らす池のそばで育てている花壇へと足を向けた。
 温室の中では夜行性の花が開き、その濃厚な香りで中を満たしている。だが私が跪いたのは外にある花壇だ。
 その一角にある高く伸びた茎に大きな葉が一枚だけついたイモ。
 私は持ってきたナイフで茎を切り取り、その液が手に触れぬように先の皮を少しだけ剥いてみた。現れた粘性のある液に包まれたずいきから漂う微かな香りに笑みが深くなる。
「うまくできたようだ」
 改良を重ねた結果できあがったこのずいきは、一般に流通しているものより効果が大きい。
 ほかにも滋養強壮、性欲増進の薬効成分が含まれる植物がここには多数育てられている。
 今は亡き私の父のコレクションでもあり、とても実用的な趣味だと私も引き継いだものだ。
 ここで育てた植物は先ほどトウヤに与えた薬にも入っている。
 この効能は百歳を過ぎてなお女性を犯すことができるほどに男性機能が衰えなかった父で証明済み。そういえばそのときにできた私の異母弟は、そろそろ成人する頃か。
 異母弟も今度この家に招いてやれば喜ぶに違いない。何しろあの子は鬼子と文字通り呼ばれるほどに荒々しく猛々しく、その体躯は貢嗣と匹敵するほどで、先祖返りだと親族一同が認めているほど。だが貢嗣と仲が良いから、一緒になってトウヤと仲良く遊んでくれるだろうし。
 ふとしばらく見てない異母弟のことを思い出しながら、私はザルを取り上げた。
 今度来たときにはここで採れた野菜も食べさせてやりたいなと思う。きっとあの子はもっと強く、元気になるだろうから。
 貢嗣のあの立派な陰茎と体力も、血以上にこの植物達の効果があると私は踏んでいる。
 私はイモの茎だけでなく幾つかの野菜を収穫してザルにいれ、ゆっくりと家へと戻ることにした。
「ひぁぁっ、太っ、裂けるぅっっ、あひっ、ああっもう、無理いぃっ!」
 先より大きくなった嬌声の中で、貢嗣の声も聞こえてきた。
「ほらよ、腰を動かせ、前後左右に揺らすんだよっ」
「ぎぃぃっ!!」
 重ねて聞こえたのは、あれは肌を鞭が打つ音か。
「やれやれしょうがないな、貢嗣は」
 血を見ると興奮する質だから、あれは当分止まらないだろう。
 もっとも今収穫した中には止血剤も腫れ止めもあるから少々の傷はたやすく治り、その痕は残りもしない。
「まあ、痒みと痛みが強いんだが、あのトウヤなら少々の痛みぐらい堪えられるだろうし」
 あの薄暗い路地裏で、私を引きずり込みギラついた目で脅してきたトウヤ。
 金欲しさに私を狙ったその勘の良さは確かにいい。そのとき私の懐には百万を下らぬ額の蓄えていたのだ。
 もっともチンピラごときに私の金を恵む気など最初は毛頭なかったのだが。
 トウヤの姿が目に入ったその瞬間、私の身体の奥底から熱い何かが引きずり出され、最近感じていた無聊が消え失せていくことに気がついた。
 遭遇は必然だったに違いない。
 働きづめで疲れていた私を慰めるために神が使わせてくれたのか。いや、私の場合は先祖の鬼神が褒美として与えてくれたというべきか。
 その日拉致同然にトウヤをこの家につれてきてしまったが、それは借金取りに追われているというトウヤ自身も望んだことだから、別に無理やりではない。
 金持ちの道楽と揶揄するトウヤは実のところほかに選択肢がなく、だからこそ私の助けに縋ったのだ。
 そうしてこの家で暮らしていたトウヤに、私は貢嗣を引き合わせたのが三日前のことというわけだ。
 私は夕方にトウヤと共に食事をしたウッドデッキから室内へと入れば、開け放たれたドアから大きな声が響いてきた。
 中を覗けば、逞しい裸体を晒した貢嗣の上で、革紐をまとったままのトウヤが貢嗣の身体をまたいで激しく腰を揺すられていた。
 細い腰をがっちりとつかむ大きな手。指は食い込み、トウヤの肌にはあざができあがっている。
「貢嗣、まだ満足しないのかい?」
「まだまだだな。こいつの身体からいい匂いがするせいで、俺のモンは一向に衰えやしねえ」
「やれやれ。まあ私が一目で気に入った子だから、おまえも気に入ると思っていたけどね」
 がくがくと揺すられる身体の上で、泣き濡れた瞳が私を縋るように見ていた。その視線に苦笑を浮かべ、首を横に振る。絶望に彩られた表情は愛らしく、私はあの日のように自分の中に再び熱が込み上げてくるのを感じた。
 喰らいたい、というそれはとても激しい欲求と共に。
 知らず舌が唇を舐め、喉が動く。
 ああ、うまそうだ。
 絶望に追いやられ、望まぬ快楽の中にいる憐れなトウヤは、なんてうまそうなんだろう。
 私は揺れる身体に手を伸ばし、指先でそのみずみずしい肌を辿った。
 ごくりと再び喉が鳴る。
「父さん、もうちょっと遊ばせてくれよ」
 そんな私に気づいたのか、貢嗣が過ぎるような視線を向けてきた。もうすっかり独り立ちした大人のくせに、こんなときだけ子どものように甘える貢嗣。もっとも私はそんな貢嗣には弱いのだ。
「……ああ、いいよ。もっともっと、おまえの好きなようにすればいい」
 早くあの身体を貫け、その味を味あわせろ。
 内なる欲求は牙を剥いているが、同時に時間をおけばもっと美味しくなるということも私は知っていた。
「父さんの我慢強さは、俺にはねえからな。まあ我慢しきれなくなったら言ってくれ」
「ああ、……ああ、大丈夫だ、まだ我慢できる」
 込み上げる熱は股間へと集まり濃縮していく。
 脈打つそれは私の先祖返りの陰茎へととどまり、そして肥大させていく。
 普段の私の陰茎は息子のものより小さいが、我慢したあげくのその瞬間、この世の誰よりも大きくなる。もちろん快感も天にも昇る心地良さで、一度味わうともう通常では満足できないほど。
 だがいまだかつて、その肥大したそれを受け入れて生き延びたものはいない。
 ああ、貢嗣の母はなんとか無事に孕むことができたのだったか。
 だが貢嗣が生まれたときには、その生気をすべて子に奪い取られて干からびて死んでしまった。
 ただ最近わかったことがあって、貢嗣が犯した相手は少しばかり持ちがいいのだ。
 ある日貢嗣が時間をかけて遊んだ相手を、まあ暇つぶしにとばかりに手を出したら、なんと私を相手に一週間も保ったのだから驚きだ。
 だからこそ、貢嗣も私のためにとトウヤを受けていれてくれたのだが、どうやら貢嗣も結構はまってしまったようだ。
 それでも飽きっぽい貢嗣だから、最終的には私にちゃんと返してくれるだろう。
 さてトウヤは私を受け入れることができるだろうか。
 いや、ぜひとも受け入れてほしい。
 しかも私の我慢して肥大しきったモノで、たっぷりとよがり狂ってほしかった。
 それはどんなに美しく、可愛らしく、そして楽しい日々だろうか。
 貢嗣の上で揺れるトウヤの姿を眺めながら、私は来るべき楽しい未来を思い描きながら、うっとりと微笑んでいた。

【了】