【放置された奴隷の話】
突発的に作成した短編
奴隷、緊縛、放置
荒い息が狭い部屋でこだまする。冷たい空気の流れが濡れた肌をくすぐり、炙られたように熱い身体から熱を奪う。もっとも昂る熱はさらに強く、彼の身体に充ち満ちて全てを支配し、彼自身を狂わせていく。
「ひ、ぃぁぁっ!」
甲高く上がった声は掠れ、薄い木板の隙間から闇夜へと漏れていく。意味のない音でしかないそれは、近くの海から響くさざ波の音にかき消され、野生の動物が不思議そうに耳をひくつかせただけだ。
ざわざわと風に嬲られたこずえと潮騒が奏でる音の中に響く人の声は、その孕んだ熱を鎮めるような闇夜の中で消えていく。
「だ、だめぇ、あひぃ――、ふかっ、あぅぅっ!」
粗末な小屋はもう何年も放棄されたかのように朽ちていて、かろうじて雨風を防げる程度の小さなものだ。それが彼が暴れるたびにぐらぐらと揺れているが、人気もない山の中ではそれを見咎める者は誰もいなかった。
中も見た目と同様で、床は地面が剥き出しで、かろうじて敷かれたわら作りのござは穴だらけ。そんな上で彼は、朽ちたわらくずと汚れた砂や埃を汗みどろの身体にまとわせ、仰向けでさっきから何度も腰を高く掲げて、それでも足りないとばかりに何度も突き上げていた。その股間にそびえるのは、四肢をつなぐ荒縄よりも細い赤い縄でぎちぎちに戒められた彼の陰茎だ。だがくい込む縄の圧に負けじとばかりに赤味を帯びた先端はトプトプとひっきりなしに粘液を拭きだし、赤い縄を湿らせていた。そのせいでさらに締め付けられた陰茎は、歪な肉の塊のようだ。
そこは痛みこそあれ、快楽を与える刺激など一つもない。
だが彼の身体は性的な刺激を全身で味わっているような感覚に陥っていた。戒められた陰茎も、ぷくりと膨れた一対の乳首も、何よりも身体の奥が溜まらないほどに熱い、そして痒い。細やかな震動が時に強くなってその痒みを和らげる。だけどそのせいで上がった熱はもっと強い刺激を求め、絶えぬ欲求は強い性欲となって彼の意識を狂わせる。
彼が暴れるたびに戒められた陰茎が肉の薄い腹をペシンペシンと腹鼓のように打ち付ける。
そんな刺激にすら快感に味わい、歓喜のあまり口角から涎が流れ落ちた。
布と呼べる物など何一つまとっていない彼の姿は、電気など通っていないはずの小屋の中で、橙色の灯りの中で影などないほどにしっかりと照らされていた。淡い照度に調整されたLED電球は小屋の天井の四方から彼を照らしている。その電球から伸びるコードがつながるのは不釣り合いなほどに立派な蓄電池だ。すぐには尽きぬのだろうと思わせる電池には別にもコードがつながっていて、それは三脚に固定された彼自身のスマホへと伸びていた。
そのレンズが捉えているのは、紅潮した彼の身体。
もし彼が見えないディスプレイを目にすることができたら、そこには淫らに悶える彼の姿を楽しむ男の姿が映っていただろう。だが彼は見えなくてもそこに男がいるのがわかっていた。
ずっと見ているよ――と言われたのはいつだったか、もう思い出せないけれど。
「だ、だめぇぇ、もっ、がまっ、ぎゃまんっ、でひなあぁぁっ、おねがっ、お願ひぃ――っ」
切ない懇願は悲鳴とも喘ぎともつかぬ音となり、狭い小屋に大きく響く。そのたびに暴れる四肢によって荒縄は引っ張られ、各々がつながれた小屋の土台をぐらぐらと揺らした。粗末な小屋とは言え土台は案外丈夫なようで、小屋は揺れようとも崩れるまでには至っていない。それでも、先ほどからボロボロと天井から木くずが落ち、異様な軋み音が闇夜に響いている。
――暴れたら崩れるよ。
「ひっ!」
不意に脳裏に走った言葉と顔に落ちる木くずが恐怖を呼び起こし、不気味に軋む音の存在に身体が硬直した。
だがすぐに、尻の奥から込み上げる快楽への強い欲求が、理性を凌駕する。
何より、不意に強くなった震動に、頭の中が何度も白く爆発する。
「ひぐっ、あぐぁ、ひゃあ――っ、あっ、あっぁぁぁぃぃ――っ」
びくびくっと震えた身体が何度目かの絶頂の声を上げた。
高く掲げた腰はその姿勢で硬直し、伸びた四肢の指がきつく丸まった。だらしなく開いた口から舌が垂れ、唾液がだらだらと床を汚す。
一瞬後、音を立てて地に墜ちた身体は、いまだ小刻みに震えて、強い快楽の余韻に彼が浸っているのを伝えていた。
だが彼の陰茎はいまだ雄々しく勃ち上がったままで、萎える様子はない。
その時、ばらばらと落ちてきた木片が肌を叩き、外で何かが崩れるような音が響いた。
「……あ……だ、め……」
それは忘れきれない恐怖を呼び覚まし、甦った理性が誘うままに視線が薄暗い天井へと走る。
そこにはさっきまで見えなかった空が垣間見えていた。小さい隙間だが、確かに新しくできあがったそれに背筋に冷たいものが走る。
しんと静まりかえった小屋の中、ジジジと虫の羽音のような音が響いていた。
彼が奏でる音がなくなって初めて響いてきたその音は、彼の硬直した音とともにスマホが捕らえている。
「えっ、あぁぁっ! ひ、ぐううっ」
落ち着いた疼きが再び彼の身体を襲い始めた。震えた身体は再び彼の意志から離れ、暴れ始める。
強く腰を突き上げる身体を支えるように足が自由を求め、触れられぬ身体を掻き抱くように腕が闇雲に足掻く。
「……ん、んぁ、あっ、い、いあぁっ、あ」
乾いた絶頂では足りない。尻で達っしても満足できない彼にとって、戒められた陰茎の解放だけが頭を支配する。
見開かれた瞳は焦点が合わず、バタバタと暴れる四肢はまるで別の生き物のようにただ足掻くだけ。
「た、たすけ……やあっ、くるっひっ……ひああっ、あっ、おくうっ、奥が、ひああっ」
押し寄せる快楽は何度達してもどこか物足りなく、彼の中にくすぶり続ける。熱い身体から喉を焼くような息が零れ、淫らな嬌声は止まることを知らない。
だが彼を救う者はそこにはおらず、ただ彼のスマホが冷たくその様子を映し続けていく。
それがいつ終わるのか、それとも終わらないのか。
「んああ――っ、いくぅぅ、あひぃぃ、ひゃっ、ひぐあぁ――っ!!」
もう何度目の痙攣だろうか、味わった彼自身もわからぬままに、彼は絶頂の余韻の中で白目を剥き、そして崩れ落ちた。
腹の中の震動はまだ止まらない。そのせいですぐに意識を叩き戻されるその刹那、白い世界の中で、彼は笑い声を聞いたような気がした。
――どうしたらいいか、わかるだろう?
彼をこの快楽と恐怖と苦しみの中においた男の言葉が脳裏にこだまする。
縋ってはならぬと強い決意の元にいたはずの彼。
「い、いああっ、あっ、くるひっ、ひぃぃぁ、まだあ、いくっ、イクぅぅっ!」
さっきより大きな欠片が落ちてくる。
崩れる、何が……危ない、死ん……やだ、けど。
「イク、イキタっ、とまんなっ、あうっ!!」
ギギギっと軋む音が大きくなり、小屋が傾いたせいか落下した灯りの一つが明滅し、ぶつりと切れた。
先より暗くなった部屋で彼は涙を流しながら天井を見上げ、恐怖に歪んだ顔を快楽に緩ませて、また硬直する。
「た、たすけ……怖いっ、くずれ……ひあああっ、おなかがっ、止まんない、やぁぁ――イク、またぁぁっ」
甲高い悲鳴はいつまで続く。
強くなった風がこずえを揺らし、白波を立たせて自然の音を世界へと広げる。
そんな中、まるで獣が遠吠えでもしているかのような奇妙な声がいつまでも響いていた。
side Master
くすくすと押し殺した笑い声が響き、その声の主は手を伸ばしてスマホのスイッチを切った。
途端に響き渡っていた嬌声は消え、代わりにピチャピチャと濡れた音が響く。
スマホを消した男は、その手を伸ばして自らの股間を舐めてしゃぶる青年の頭をそっと撫で、その頬へと手のひらを当てた。
「新しい奴隷はどうやらようやく服従してくれそうだよ」
その言葉に、全裸で男の足の間に跪いた青年はちらりと視線を走らせた。
その瞳は泣き濡れて赤く染まり、剥き出しの背には赤い筋が幾条にも走っていた。床でとぐろを巻く鞭は太く、濡れた淫具があちこちで転がっていた。
部屋に充満するのは明らかに淫臭でしかない匂い。
青年は怯えた色を見せたまま目を伏せて、目の前の男のモノに奉仕を続ける。
すでに何度も青年の中で果てた陰茎は簡単には果ててくれない。それでもやれと言われたらやるしかない青年は、疲れ切った身体と顎を動かし続けるしかなかった。
もし男を怒らせれば、圧死の恐怖の中で激しい快楽責めをされているあの彼と同じ目に遭ってしまうから。
そんな恐怖の中で一生懸命奉仕を続ける青年に、男はひとしきり優しく撫でた後、不意に両手で小さな頭を掴んだ。
「ぐっ!」
いきなり喉奥まで突き入れられた常人よりも太い陰茎に、青年がくぐもった悲鳴を上げる。その頭を引き寄せれば小柄な身体は中腰になり、その手が泳ぐ。だ青年が体勢を整えるより先に、男は激しく彼の頭を前後させた。
「ぐがぁぁぁっ!」
喉を塞がれたまま悲鳴が迸る。咥内だけでは納まらない陰茎が深く青年の喉を冒し、引きずれ出されてはまだ奥へと入り込む。
「いいぞ、もっと絞めろ、おまえの喉は最高だ」
がつがつとむさぼる男に青年はなすすべもない。呼吸すら奪われたまま淫具のように揺り動かされるだけだ。
そんな行為が数分も続いただろうか、不意男が全身を震わせて動きを止めた。それからしばらくしてから男の手が離れる。
完全に白目を剥いた青年の身体が床へと崩れ落ちた。その咥内から溢れる泡立った白濁が床を汚したが、そんなものに頓着せずに男は立ち上がり身繕いをすると窓辺へと寄った。
壁一面の大きな窓は、岸壁に寄せる波と緑濃い山を一望できる場所だ。
その山の中腹へと視線をやれば、小さな灯りがちらちらと見える場所がある。
そこへと視線を向けて、男は口角を上げた。
「さて、次の何をして遊ぼうか」
せっかく手に入れた新しい奴隷、遊ぶ時間はまだまだある。
このために苦労して準備した休みはまだ始まったばかりだった。
【了】