【十二月の贈り物】後編 ~もう一つの檻の家~

【十二月の贈り物】後編 ~もう一つの檻の家~

「んぐっぐぅ……うぅっ……」
 眠っていても苦痛は感じる。呻き、身体を捩り、なんでこんなに苦しいのかわからないままに、泣き喚いた。
 だがその苦しさは容易に収まらず、泰地は何度も何度も、助けてと叫んだような気がした。
 そのときはそうするしかないと思って、耳元で囁かれる言葉に闇雲頷いて従う。
 だから。
 ひんやりとした感触が頬に触れて、意識が急速に浮かび上がったとき、視界に入った光景に自分がどこにいるのかわからなかった。
 白い天井は広く、大きな窓から見えるのは空ばかり。
 寝かせられているベッドは大きい。ただその上で、四つん這いの泰地は尻に何かが挿入されていた。それが細かな振動で震えているのを遅れて感じ、なんとも言えぬ感触に身を捩った。
「んあっ」
 だがその動きが得も言われぬ快感を生み出した。思わず上げた声は甘く、止めようと思う間もなく次の声が零れる。
「ひっ、いぁっ、やっ……な、に……あぅっ」
 じんじんと熱いほどに身体が火照り、下腹部の奥から身に覚えのある快感が脈打つように泰地の全身へと広がっていく。
 慌てて四つん這いから逃れようと身体を捻れば、ガチャガチャと金属質な音が響き、腹の下に置かれていたらしいクッションに身体が沈み込むだけだった。
 そのクッションもまた泰地の陰茎に刺激を与え、込み上げる衝動に思わず腰を突き上げた。
「ひっ、ああっ、イイッ、なんでっ、や、なんかっ」
 突き上げたとたん、陰茎がぐにゅっとした感覚に包まれた。ひだがあるような、波打つ圧迫感の中で陰茎が激しく揉まれているのだ。
 まるで温かな肉の中にいるような、そんな感触に泰地の焦点の合っていなかった瞳が一気に理性を取り戻した。
「な、何っ、これっ、なんかの中っ、ぁぁぁっ!」
 泰地自身、女の身体を知っている。脱童貞は大学の時で、その時の彼女と数回経験がある。だからこそ泰地はその感触を知っていた。
 だが寝具に顔を押しつけているせいで視界は狭いとはいえ、泰地の周囲に女はいない。何より、視界にあるのはベッドと寝具ばかりなのだ。
「ひぐっ、あ、あうっ!」
 覚醒したせいか、今度ははっきりと尻の中の存在にも気が付いた。
 腰に回されたベルトか何かで高く掲げられた尻。その狭間から体内へと何かが深く侵入しているのだ。
 それが前へ、後ろへと振動と共に動いている。その異物感は大きいのに、なのにどこかをごりごりと擦られる度に目の間が白くなるような快感が迸るのだ。まるで射精するときのような快感に加えて、陰茎を包み妙なる脈動で刺激されて、泰地は身体を襲う射精衝動に何度も腰を突き出していた。カクカクと揺れる腰が止められない。
 普通だったらもう射精しているほどの快感があるのに、腹の奥が締め付けられていてもどんなに突き出しても出てくれないのだ。
「い、出したいっ、なんで……あうっ、だめっ、またぁっ!」
 不自由な姿勢のまま顔だけを寝具から上げて、泣き叫ぶ。今までこんなにも長く射精を我慢することはなかった。男の沽券に関わるからと彼女相手に我慢したときでも、もっといい快感を得たいからと自慰の際に我慢したときも、すべて自分でコントロールしていたからこそ我慢できていたのだ。
 だが今は、与えられる強いままの刺激を強制的に我慢させられていた。誰か助けて、と何度も呼んだが、視界に入る範囲には誰もいない。
 性器からか伝わる快感に喘ぎ、前立腺の刺激に泣いて、泰地の顔は涙にまみれ、垂れた涎と共に寝具にシミを作っている。上げた顔は力つきてその中に落ちて、冷たい刺激にさらに涙が溢れた。
「助けて……もう、もう苦しい……達きたい……」
 身体が熱かった。吐き出す息は喉を焼き、血流が激しく全身を駆け巡る。まるで手ひどく酔っ払ったような感覚に、泰地は甘いオレンジの香りと味を思い出す。
 かなり強いアルコールと、そしてそれだけでない快感の強さ。
「あうっ……っ、くうっ、おねが……誰か……、あひゅっ」
 かくんと腰が落ちた。腹の下にあるクッションの中で、何かが振動していた。それと同じリムで陰茎が強く刺激され、見えなくても自身の鈴口がパクついているのがわかる。
 腹の中で暴れる快感はいまだ落ち着く様子はなく、このまま喘ぎ死ぬのでは。
 そんな恐怖すら襲うのに、それでも身体は萎えない。
「ひぐっ……助けて……。誰か、ああ、オーナー……、あう、鈴木……さま……ぁ」
 もういやだ、助けてと、泰地は思わずその名を呼んでいた。この部屋の持ち主である彼。光葉が主人だと呼んだ男ならば、きっとこの苦しみから解放してくれるのでは。
 泰地はしゃくり上げながら鈴木を呼んだ。

 二度三度、いやもっと呼んだはずだった。
 喘ぎながらも口にした言葉に、喉はもうからからだった。顔を上げる元気もなく、腰は変わらず揺れてはいても暴れるほどではない。
 そんな泰地は自分に影が差したのを気付いて、伏せていた視線を上げた。
「楽しそうだね、いっぱい気持ち良かったでしょ」
 見えたのは鮮やかな笑顔を見せる光葉。その冷たい手が、泣き濡れた泰地の頬をなで上げる。
「どうかな? 泰地がとっても気持ち良くなるように、一番いい所に当たるようにってバイブを設置してみたんだけど」
「ん……ん、善かった、善かったからもう……」
 善すぎてもう限界が来ていた。何度も何度も達きたいと願った身体は、陰茎の根元に痛みすら感じている。だがその痛みすら心地よいのだ。
「それと……オナホールも善かったでしょ」
 楽しそうに泰地の腹の横からその奥へと手を差し入れる。細い腕には似合わぬ力で引きずり出されるそれ。
「痛っ、くうっ」
 無理に引き出されせいで、そこに入っていたであろう陰茎が無理に曲げられて強い痛みが走った。さすがに快楽に溺れた思考に冷たいトゲが刺さったように、理性が少し戻っていく。
 そんな泰地の視線の先に、光葉がボトルのようなものを差し出した。片手で余るほどの水筒のような形をしたもの。だが光葉が見せた円筒の底部は粘性のある液でまみれた肉色のひだを持った穴があった。
「これね、僕の中を再現しているんだよ。すっごい気持ちいいって、みんな喜んでくれる売れ筋商品」
「穴……?」
「うん、僕の穴。泰地のも、結構良さそうな。まだ固いけど、でも指入れた感じじゃ、うねうねして熱くて絞り込むように奥へと誘い込む動きしてて、結構いいと思うんだよ」
 呆けた頭でもそれ何の意味を示しているか判ってしまう。
「ちが……俺、のな……」
「光葉、もう止めたのかい?」
「ご主人様っ」
 反論しかけた言葉は、鈴木と、そして喜色に満ちた光葉の声で立ち消えた。
「お仕置きはもう終わりか、光葉にしては早いね」
「まだまだ足りないんですけどね。でも泰地はご主人様のものだしね。ご主人様をお待たせしては申し訳ないです」
「ああ、いい子だね。光葉は本当にいい子だ」
「あっ……」
 不意に光葉の声が甘く掠れ、二人の影が重なった。頭上で濡れた音が響き、衣擦れの音が妖しく響く。
 それは何分も続いた。
 陰茎を包む快感は消えても、尻から感じる刺激に苦しむ泰地の上で繰り返された睦言と淫靡な音。その音が下がり、ベッドと同じ高さまで光葉の顔が降りてきた。
「ご主人様、いただいてもよろしいでしょうか?」
 鈴木のスラックスの膨らみを撫でながら、見上げる光葉の妖艶な顔。
「No」
 けれどその言葉に、激しい衝撃をけたように光葉の顔が歪む。
「我慢しなさい、今は」
「はい、ご主人様」
 従順な態度を見せた光葉の顔をおしよける手。乱暴な仕草を甘んじて受け入れる光葉は、まるで奴隷のようで……。
 そんな言葉が頭の中に浮かび、それは泰地の身体に冷たいものをもたらせた。
 いやいや、ちょっと変な関係の恋人だろ? だが恋人をご主人様と呼ぶだろうか?
「名前は泰地だったか?」
「はい、ご主人様」
 そして近付いてくる鈴木の声。
 泰地は快楽にうなされながらも、その気配に身を固くした。陰茎の刺激がなくなった分、よけいにその存在を感じてしまう。
「た、い、ち……。うーん、そうだね、今後はイチと呼ぼう」
「おや、可愛い名前を付けられるんですね」
「イチは〝一〟、私は〝一〟という字が好きだからね」
「僕には付けてもらえませんでしたけど」
「光葉はそのまま、その名前が私は好きなんだよ。おまえ自身、光葉という音とその漢字の美しさにふさわしい」
「ああ、ありがとうございます」
 感極まったようにひざまずく光葉の身体がベッド下に消えた。
 小さく響いたリップ音よりも、泰地の視線は迫ってくる鈴木に釘付けだ。
「イチ、これからおまえを名にふさわしい奴隷にしてあげよう」
「ど、奴隷って……」
 さあっと全身から血の気が引いていく。さっきまで狂おしいほどに感じていた快感も熱も消え去り、全身に鳥肌が立った。
 だが泰地の問いも、震える身体も無視して、鈴木は泰地の視界から消えた。
 いや、動かぬ身体を捻り、肩越し背へと視線を向けた先にその存在はあった。
「これは細いね。いつもはもっと太いものを使うだろう?」
「ひゃうっ」
 ずるりと身体から何かが抜け出ていく。ぶるぶるとずっと身体の中で震えていたそれが一気になくなって、奇妙な喪失感に襲われた。
 無様な悲鳴を上げた喉が、わけもわからず長い息を吐き出す。
「これが浣腸をちゃんとさせてくれなかったので、僕からのお仕置きです」
「なるほど」
 くつくつと嗤う響きが、尻に触れた手のひらから伝わった。
「さて、まずはイチが私の奴隷になった記念だね」
 その言葉の意味を問いただすことも、それよりも逃げることも泰地にはできなかった。
「びきぁぁっ!」
 上がったのは悲鳴だけ。
 空虚な感覚を味わいながら閉じた場所に、いきなり激痛が走ったのだ。
 腹の奥まで太いものが入り込み、締め付ける肉を無理矢理こじ開けていく。
「がっ、あ――っ、はがっ!」
「きついねえ」
 顔が上がり、目を見開いたまま大きく口を開けて喘ぐ泰地の後ろで、のんきな声が響いた。
「もっとゆるめなさい」
 そんなことを言われても、身体が言うことをきかなかった。
 尻だけは下がらず、背を仰け反らせ、顔を上げた泰地。ひいひいと喘ぎながら、その強い圧迫感にただ喘ぐ。そんな泰地の前に顔を見せた光葉が、にっこりと微笑んだ。
「ご主人様のはとっても大きいからね。本当はもっとほぐしてあげるつもりだったんだよ。でもちゃんと言うことを聞かなかったら、僕からのお仕置きだよ」
 ならば、この痛みは……。
「ひ、あっ……ぎゃ、がっ……」
 泰地は自分を征服している存在に思い至って、痛みに捕らわれた以上の衝撃に涙を流した。
「気持ちいい?」
 問われたのには首を横にふる。許して、ごめんなさい、と口をパクつかせながら、掠れた声で懇願した。
 太い杭で貫かれた身体は休む間もなく使われて、激しい抽挿に言葉すら出せない。
 前後に激しく動く力の入らぬ身体で、それでも縋るように三葉を見るが、そんな三葉は嗤うばかりだ。
「ご主人様、イチの具合はいかがですか?」
「さすが光葉が選んだだけあるな。体つきもいいと思ったが、この穴もたいそう具合がいい。名器と言えるだろう」
「ちが、ぎぃ、ひいいっ!」
 気に入ったとばかりに尻を叩かれた。痛みは強く、激しい抽挿の中でも中にまで響くほどだ。
「ご主人様のモノはとっても大きくて、とっても太くて、とっても硬くて。しかもとっても長持ちするんだよ。もう気が狂うぐらい気持ちいいのが、ずっとずっと長く続くんだよ」
 しかも目の前で光葉がそんなことを言う。
「ほら、言ってごらん、気持ちいいって」
「痛、いや、ああっ、やめっ、くる……ぐうっ」
「ううん、気持ちいい、だよ。ほら、言いなさい、気持ちいいって言えばいいんだよ」
「あ、ぐっ、うぅっ」
 ようやく慣れてきたのか、最初の頃の強い痛みは薄れてきた。だが腹一杯を満たす強い圧迫感に重苦しい感覚は消えない。あれだけ達きたいと泣いていた身体は今はもう熱は立ち消え、ただ早い解放を願うばかりだというのに。
 光葉が言う。
「言うんだよ、気持ちいいって。ほら、さあ」
 笑いながら促す言葉に、嫌だと目で訴えても止まらない。
 それよりもさらに激しくなる身体を苛むものの存在。
「ふふ、言わないの? 気持ちいいって言うの、嫌なんだ? それともまだ足りないのかな?」
 そんなことまで光葉が言いだして、彼の視線が泰地の後ろへと向かった。
「ご主人様、イチはまだ足りないようですよ」
「そうか」
「ひぎいぃぃっ!」
 とたんに激しくなった衝撃に、泰地の背が大きく反った。
 腹が突き破られそうな勢いで、尻たぶがパンパンと強い音を立てる。身体の奥、閉じた場所があるのか、そこが強い刺激に痛みを発していた。
 このままではそこから突き破られるのでは、壊れるのでは。
 そんな恐怖に泰地は、囁かれた言葉に促されるように口を開いた。
「き、きもち……いい……ぐうっ、気持ちい、がっ、……っ、気、持ち、いっ!」
「うん、ずっとずっと、終わるまで言っててごらん」
「あ、はっ、ああ、気持ちいい、ああ、もう、もっ――気持ちいいからっ、ねえ、ああっ」
 言われるがままに泰地は叫んだ。喘ぎ、悲鳴を上げながらもずっと。
 そうしないといけないのだと、光葉が言うから。
 言葉を紡ぐたびに光葉の手が濡れた頬をなで上げる。
「いい子だね、イチ。ほら、ご主人様の大切なものをおまえの穴で優しく抱きしめてあげるんだ、ほら、尻に力を入れてごらん」
「あ、は、気持……、いいっ、んんっ、あうっ、気持ちい、いっ」
 言われるままに力を入れる。
 大きな存在感を強く感じる。ごりごりと内壁を擦られて、とたんに目の前がくらぬような感覚に襲われた。
「あひっ、ああ、気持ち、ひぃ、ひぃぁ……ひ、もちぃ、ひぐいっ」
「ほら、もっと絞めて、さっきいっぱい楽しんだ気持ちいいところ、ほら、もっと擦ってもらったらもっと気持ちいいよ」
「気持ひ、い、い?」
 ああ、確かにあそこを擦ってもらえれば、この苦しいのも忘れそうだ。
「うん、もう天に昇るかと思うほどに気持ちいいよ」
 そう言われて、泰地はその言葉に縋るように、腰を揺らした。力の入らぬ身体で、それでもぎゅうと股関節周りの筋肉を引き絞る。
「くっ」
 背後で息を飲む音がした。
 まざまざと感じる存在が、大地の前立腺を激しく刺激する。目の奥で火の粉が煌めき、すべての感覚が白く弾ける。
「あ、あぁっ!」
「ほら、気持ちいいでしょ」
 耳の奥から脳へと染みこむ甘い囁きに、泰地は頷いた。
「き、きもひぃぃ――っ、ああ、気持ち、ひぃっ、いいっ、ああ、いいっ」
 叫びながら、自ら腰を鈴木に押しつけて、白目をむきながら叫んでいた。

 ※

 意識を失っていたのだと、目覚めてしばらくしてから気が付いた。
 覚えている限りは寝具にうつ伏せだったのに、今目の前に広がるのは広い天井だ。
 だがその天井はひっきりなしに揺れていた。いや揺れているのは泰地自身だ。
 それよりも自身を包み込む熱い存在に、泰地は朦朧としながらも掠れた嬌声を上げていた。
「達きた、ああっ、おねがっ、出した、ザーメン、出させてくださっ!」
 尻から伝わる快感は、もう泰地の全身とつながっていた。さっきより落ち着いているとはいえ、それでも尻を突かれるたびに指の先が痺れるほどに快感が弾ける。肌はさっきからずっとざわめき続け、触れる寝具の感触にすら甘く痺れた。
「ひっ、きつっ、やめっ、ああっ」
 善すぎる快感は苦痛と同じだと、そんなことを聞いたことがある。それが本当だと、泰地はもうろうとするほどの快感の中で、思い至っていた。
 そんな身体の腹の上にのしかかる人の身体。鈴木の大きな身体はVの字に割り開かれた足の向こうにあるから、この身体は別の人。
 白い肌を晒した上半身がのしかかり、泰地と鈴木の陰部の結合部近くに柔らかな髪をたたえた頭が蠢いている。
 そこから、泰地を狂わせる別の快感がひっきりなしに与えられているのだ。
「ひ、あっ、許してくださっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
 ひいひいと泣きながら、その過ぎた快楽に悲鳴を上げる。
 もう何度も貫かれたせいか痛みは消えて、ただ痺れたような感覚が結合部にはある。その痛みがなければ、与えられるのは快楽ばかりで、泰地の身体はすでに降伏していた。
 その身体に与えられる光葉の口淫は、泰地の身体にとって強すぎる毒と同じだった。
 尻の穴だけよりも強くなった射精衝動に泰地は狂おしいほどに支配されていた。
 女性経験はあってもフェラなどされたこともない。
 だから光葉がうまいかどうかなどわからないはずなのに、きっと光葉はとてつもなくうまいのだと、泰地はひいひい喘ぎながら思っていた。
 でなければ、ぱくりと銜えられただけでどうして射精したいと思ってしまうのか。
 だが、それよりも。
「おねがいぃ……、それ外してぇ……、ごめんなさい、ごめんさない」
 さらに泰地を苦しめるものが、少しだけ顔を浮かせた光葉の下から垣間見える。
 それは泰地の陰茎の目元にしっかりとはまった射精防止リングだった。陰茎と陰嚢の動きを固定して、射精に必要な動きを封じ込める器具。
 それを、泰地はバスルームからずっとされたままだったのだ。
 そのまま陰茎をしゃぶられて、すでに泰地の頭の中は射精のことばかりだ。
 気をそらしたいと願っても、直接的な快感のみならず、尻を犯される刺激でそれを後押しする。
 鈴木は光葉に好きなようにやらせながら、同時に泰地の身体を思うままに扱っていた。
 あの苦しいほどの大きさも、太さも、気持ちいいと言い続けたせいか、苦しいだけでないことを身体と心が覚えてしまっていたのだ。
 実際、痛みが薄まればさらにそれははっきりと身体が認識できてしまって、そうなるともうそこからは逃れられなかった。
「お願い……、ゆるして……もう達かせてえっ」
 涙混じりの懇願からずっと、時折光葉は謝罪を要求した。
 これは光葉の行為を拒絶したからだと。光葉はご主人様の言いつけで泰地の浣腸をしようとしたのに、邪魔をしたからだと。
 だからと、泰地は何度も何度も謝罪して、許しを乞うた。
 時にはご主人様に直接お願いもした。
「ご、ご主人様……、射精したいです、ごめんなさい、お許しください、ひぎぃっ!」
 陰茎に走った強い痛みに、身体が跳ねて、ベッドに落ちた。
「こらっ、ご主人様に強請るなんて、奴隷の分際でなんてことをっ!」
 振り返った光葉の顔は涎まみれのままで、だが泰地に背筋に冷たいモノが走ったほどの鬼気迫るものがあった。
「ひ、あ、ごめんなさ、……いっ、ひぃっ、ごめんないっ、ごめんさないっ」
「奴隷はご主人様の望みを叶えるためにあって、奴隷が望みを口にするなんて、分不相応なんだよっ」
「ぎぃぃっ!」
 張り詰めた陰茎が強い力で握りしめられた。陰嚢に食い込む爪も激しい痛みをもたらし、泰地の身体がベッドの上で暴れた。だが股間でつながっているため、逃げようがない。
「イチが踊る様子はなかなかに見応えがあるな」
 そんな泰地に鈴木が感嘆の声を上げた。
「そうですね。薄くついた筋肉の形がきれいに乱れて、これはこれで楽しめそうです」
 ご主人様の言うことは全肯定の光葉が頷き、ますます強く手に力を込めた。
「ねえイチ、君は何者なんだっけ?」
 優しい囁き声に泰地の意識はひきずられる。涙で揺らぐ視線の先で、光葉がぎゅっぎゅっと力を入れながら、「君は何?」と問うてくる。
「いやっ、潰れる、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
 謝罪の言葉を繰り返す泰地に、鈴木も言う。
「イチ、おまえは何だ?」
「あ、ああ……」
 鋭い視線が泰地を縛る。逸らしたいのに、引きずられて無理やり視線を合わされて外れない。
「お、俺は……奴隷っ、ご主人、様の奴隷、奴隷なのにっ、お願いしてごめんなさいっ!」
 それは初めて泰地が自らを奴隷と言った瞬間だった。
 その瞬間、鈴木も、そして光葉もその口元に笑みを浮かべる。光葉の視線は枕元に隠されたレコーダーのインジケーターの明かりを確かめていた。
 そんなことにも気付かず、泰地は言いつのる。
「もう言いません、奴隷だから、俺は。もう言わないから、許してくださいっ」
 痛みから逃れたいと口にした言葉の意味もわからずに、上半身を起こした泰地は光葉の身体に縋った。
「お願いですっ、潰れるっ、いや、ああっ、ごめんなさいっ」
「そう、だったらイチは何? イチは、何なの?」
 ほんの少しゆるんだ力と優しい言葉。
 見つめる光葉の視線に泰地はごくりと息を飲み、誘われるようにその言葉を口にした。その瞳に浮かぶのは、ただただ恐怖の色。
「俺は、ご主人様の奴隷。ご主人様の望みを叶えるだけの存在」
 それは鈴木や光葉にとって満点の答えだった。
「大正解。すごいねイチは」
「ああ、百点満点だな。光葉、イチに褒美を与えなさい」
「はい、ご主人様。イチ、これを外してあげる」
 笑みを浮かべた光葉が指先で触れたのは、ずっとイチを苛んでいた陰茎のリング。
「あ、ああ、ありがとうございます、ありがっ、あうっ、はふ、ございます」
 ぺろっと鈴口を舐められて、礼の言葉が途切れかけた。それでもなんとか続けた泰地に、光葉は満足気に頷き、カチッと音を立ててそれを外して。
 ばくっと食んだそれが、激しく吸引されたのと最奥を激しく貫かれたのが同時。
 声にならない悲鳴を上げた泰地の身体が、二人の身体の間で大きく跳ねる。
 その下腹部に飛び散った白い精液の上に、泰地の陰茎が別の生き物のように震えながらさらなる体液を噴き出していた。



 首にはチョーカーにも似た首輪。
 両方の手首には細いバングルがはめられて、鎖は袖から肩へ、乳首のリングを介して反対の袖からバングルへとつながっている。
 足首にはGPS機能付きのアンクレットが左右にあって、陰茎を締め付けて苛む治具と、短めの長さでつながっていた。
 そのどれもがイチの意志では外せない。
 そしてその右手首には、蛇が絡まる鈴木の奴隷の証であるブレスレットもはめられていた。
 あの日運んだ重い枷は室内で遊ぶとき用で、普段はこれらのアクセサリーがイチを縛る枷となる。
 イチの力でたやすく千切れる程度の鎖でも、それでもイチには外せない。
 クリスマスの日、鈴木への贈り物となった泰地は、もうすべてが鈴木に支配されている。
「んぐっ、うっ、うう」
「もっと奥まで銜えるんだ」
「ひゃい」
 鈴木を運ぶ車の中で、イチはいつものように彼のモノを慰めていた。
 一日働いて衣服の中で蒸れたそれを慰めるのはいつもなら家に帰ってからだが、今日はご鈴木が忙しいからと呼び出されて、移動の最中に慰めるようになった。
 イチは普段は今までどおり光葉がオーナーのダイニングバーにバイトに入っている。オーナーの光葉はイチの先輩で、そして鈴木の命によりイチの奴隷教育と躾を担っていた。
 前に住んでいたアパートは解約して、今はあの広いマンションの中『イチの小屋』と名付けられた一角で暮らしている。犬小屋のような大きな檻がイチの部屋。
 ハローワーク通いはもうしていない。
「イチ」
「ひゃい」
「射精したいかい?」
 問われてイチの動きがわずかに止まる。だがすぐに動き出して、濡れた瞳が鈴木を見上げた。
 奴隷は自分の望みを言わない。だから答えない。それが正解。
 イチは奴隷して申し分ないと鈴木が嗤う。
 その言葉に、イチは銜えたままに頷いた。
 だがその瞳に複雑な感情が浮かんでいるのを、鈴木は見逃さない。
「これから二週間ばかり海外出張だがね、おまえも来なさい」
 そんな言葉にイチが目を見開いた。あわあわと視線を彷徨わせるのは、海外の行くための準備のことでも頭に過ったのか。
 三白眼で目つきが悪いと言われるイチだが、その瞳は感情が豊かでわかりやすい。
 口では喜ぶ素振りを見せても嫌なことを隠せないイチを嬲るのはおもしろいと、鈴木はそれでも口を離さなかったイチの頭を撫でた。
 襟からのぞいた細いチェーンを引っ張れば、チャリチャリと音がして、イチの目元が痛みに歪んだ。
 先日お仕置きに痛みをわざと与えながら開けたピアスホールは、まだじくじくと痛みを訴えているのだろう。
 まだ簡易なものしか着けていないそこに、渡航先にあるその筋御用達のアクセサリー店で着けるものを手に入れたい。あちらの国にあるその店は、こちらが望むモノを作ってくれるすばらしい店だった。
 淫らな奴隷を飾るものを買うのには、やはり本人を連れていくのが大事だ。
「何も要らない。それよりも今日はホテルに一拍だな。飛行機の中で遊べない分、たっぷりと楽しんでおこうか」
 そのとたん、耳まで朱に染まったイチ。
 それがどんな楽しみなのか、もうイチの身には染み付いている。与えられるのは快感ばりではないこともわかっていて、それでもイチの身体はその時のこと思いだすと欲情するのだ。
 それほどしっかりとイチにはその身体にも精神にも鈴木が主人であることを植え付けている。
 逃げても追いかけ、死に至る寸前まで責め立てた結果、こんなにも従順な奴隷がここにいる。
 

 帰国後、光葉が一人だけ連れていってもらったイチに嫉妬して限界以上に責め苛んだ結果入院したという報告を土下座して謝る光葉を足置きにしながら、鈴木は笑って聞いていた。

【了】


鈴木昌孝氏は鈴木家傍系ですが、本家に限りなく近い方です。