【目覚め】(1)

【目覚め】(1)

「子羊が迷い込んできました」
 脂ぎった顔に満面の笑みを浮かべ、爛々と目を輝かせながらそう言ったのは須崎(すざき)の相棒で、須崎ドラッグストアで薬剤師をやっている三坂だ。電話を介していたが、その声音だけでそんな表情が容易に想像できるほどに、須崎と三坂は互いをよく知っている。
 須崎の店の薬剤師として三坂がやってきてからもう5年。
 小さな街の薬局だから、店長である須崎と三坂が仲良くないとやっていけないのはもちろんだが、二人揃って趣味がよく似ていたのだ。
 この店は、昨今あるような化粧品やら雑貨やらを扱っているチェーン店とは規模も取り扱い品も雲泥の差だが、大病院の裏通り沿いにあるおかげで調薬の仕事もけっこうあるのと、一部ニッチな需要のある品物が豊富なので、そこそこにやっていた。
 そんな店に、三坂曰く子羊が罠を張るまでもなく自分から檻に入ってきたもんだから、悦ぶのも無理はないだろう。何しろ、若者向けの品物なんか扱っていないから、三坂好みの子羊はなかなかやってこないのだ。
 それに、三坂が好む子羊は須崎の趣味じゃなかった。どちらかと言えば、子羊よりは成長した羊の方が好きな須崎は、自分だけの時なら折りに迷い込んできたとしても正規の手段を取って、さようなら、だ。
 面倒ごとがごめんだからだが、かと言って放っておくと増殖して困るから、仕方なく面倒な手順をこなすしかない。
 だが、今日は三坂が店番だった。
 三坂も面倒なことは自分からはしないが、さすがに好みの子羊が現れてしまえば、その横着癖もどっかに吹っ飛んでしまうらしい。
 家でゆっくりしていたらいきなり呼び出されて、倉庫に入ればもうすでに三坂は絶好調だった。
 全く、運が悪い子羊もいたもんだ。
「ひぐっ、ぐぅ……ぅぅ」
「どうした? 腰をモジモジ振って、誘ってんのか?」
 入り口側に向けられた子羊の顔は、苦悶に歪み、羞恥に真っ赤に染まっていた。その目が須崎を見つけて、助けを乞うように見つめてくる。その目は赤く腫れ、頬には埃の浮かんだ涙の痕があった。
「おい、三坂、来たけどよ。なんだよ、こいつ?」
 須崎が来たからか、バタバタと上半身を捩って逃れようとしているけれど、腕は高い位置で後ろ手に縛られて、腰の上には熊のような体格の三坂が乗っているから、逃げようもない。
 まあ、電話があってからもう1時間は経っているから、まだ暴れる元気があるってことの方が珍しい。
「あぁー、遅いっすよ。待ちくたびれちまった……もうすっかりこいつの尻、緩んじまってるってぇのに」
 足下でうーうー唸る声を無視して、三坂の肩越しに子羊の尻を見やれば、下半身の服は全て剥がされて、ぷるんとした若々しい尻タブがふるふると震えていた。
 その狭間にあるのはゴムを被った筆記用具の束で、シャーペンにボールペン、マジックが束になったそれは、軽く握ったほどの太さだ。
「5分ごとに一本増やして……あっ、そろそろ次の一本をっと」
 見慣れぬ筆箱は子羊の物だろう。じゃらじゃらと中を漁り、出てきたのはピンクの蛍光ペンだった。
「──っ!! んぅっ、ん──っ」
 どう考えても尻穴に物を突っ込まれた経験などあるはずもない体だ。暴れる子羊は、必死になって首を振って上半身を捩り、三坂を振るい落とそうとする。
 もっとも、熊の重さをはね飛ばすのは須崎も無理で、ましてすでに弱ってきている子羊にはとうてい無理だ。
 そんな子羊の口には、丸い玉を口の中に突っ込んで塞ぐボールギャグが嵌められてた。その真新しさに眉を顰めて、見つけた包装紙にため息を吐く。
「お前、商品を勝手に使うなよ。給料からさっ引くぞ」
「まあまあ従業員価格でお願いしますって。何せ、こいつうるせぇのなんのって。しゃあねぇから塞いでさ」
「ん──っ!!」
 ペンとペンの間にずぷりと入り込んだ蛍光ペンは、ずぶずぶと奥へと入っていく。
 若々しい尻がひくんと強張り、つま先までぴんと伸びて震えて、短い髪がぱさぱさと床を叩いた。
 三坂の下にいるから全ては見えないが、背は高くて、無駄な脂肪はなさそうだ。すらりと伸びた足には張りのある筋肉が感じられて、子羊というよりは子鹿のイメージがあった。
 適度に日に焼けた体は健康的だし、若さを感じる張りのある肌は、万年事務仕事の須崎としては、しょうしょう羨ましい。
 もう一度、後ろに下がって子羊の顔をまじまじと見たら、少年と青年の中間のような曖昧さを持っていた。
 三坂が気に入るのだから成人ではないだろうと思ったけれど。
「で、こいつは何てんだ?」
 問えば、顎で示された先に紺色の皮の手帳が転がっていて、そこにはよく知っている高校の名と氏名と年齢、学年が書いてあった。
 三年生で18歳の桑崎 伸吾。
 大学受験の真っ只中の高校生。今頃は最後の夏休みを楽しんでいるか、それとも受験のための補講にはまっているかどっちかのはずなのに、こんな何もない店に迷い込んだ理由がわからない。
「こいつ、コンドーム万引きしたんすよ。どうやら相当な欲求不満なようで、細っこいペンで尻掻き混ぜるだけで悦んでてさ」
 三坂が言うには、子羊はよりによって三坂の目の前でコンドームの箱を持っていた鞄の中に滑り込ませ、あろうことかそのまま店を出ようとした、らしい。
 らしい──というのは、須崎はその瞬間を見ていないし、鞄に入っていたのも見ていない。
 問題の箱はすでに開封されていて、中の一つは子羊の尻の中に入り込んでいるのだから。
「証拠あんのかよ……」
 なんとなく想像できる状況に、苦笑を浮かべながら聞いてみる。
 抜かりのない三坂のことだから証拠が無いはずはないけれど、一応一番大事な事なのだ。その問いかけに、三坂が頭だけで振り返り、にやりと笑みを返した。
「聞いてみる?」
 取り出されたボイスレコーダーが手渡され、近くの段ボール箱の上の紙を見るように促された。
「……ふーん、××高校 3年B組 桑崎伸吾は、須崎ドラッグストアでコンドーム1箱を万引きしたことを認めます、か……」
 直筆の文章、日付、署名、拇印、それら全てが小さく震えているのは判るが、きちとん読める。
 それに、イヤホンをつけてカチリとスイッチを入れたボイスレコーダーからは、
『桑崎……しんご……は、須、崎ドラッグストアで……ひっく、万引きしました。……こ、こん……コンドームの箱……一つ……欲しくて、溜まらなくて、俺が使いたくて……、盗みました……』
 これが彼の声なのだろう。しゃくり上げる声の様子は、今、呻いて泣いている時とよく似ている。
「携帯には写真もあるぜ。こいつがコンドーム盗っているところのな」
 見慣れた三坂の携帯を開いて操作すると、連続して5枚にそれらしくシーンが写っていた。主人公は確かにこの子羊──伸吾だ。
 けれど。
「相変わらず巧いなあ」
 くつくつと喉を震わせて、褒めてやる。
 顔を伏せて上半身しか写っていないけれど、伸吾だと判る姿。背に回った手に握られた箱。鞄に入る手と箱。そしてまた上半身と鞄とそのポケットから見える箱の一角。
 それらをつなげると見事なストーリー性持っている。
 時間のごまかしも忘れられていないその写真は、ある意味三坂の才能の一つだ。きっと写真に写っていない下半身は剥き出しで、いつ誰が来るとも判らぬ店内に連れ出して、指示をして写真を撮ったのだろう。
 直筆の告白文も言葉も写真も全て、三坂の言いなりになった時点で、伸吾は三坂の生け贄たる子羊になるしかない。
「で、俺は何すれば良いんだよ」
 店番と言っても、木曜の午後は休みの店だ。もう閉店時間は過ぎている。
「んー、こいつの親呼んだ。後10分もしたら来るんじゃね」
 のそりと起き上がって腰を叩いて伸ばす三坂の言葉に目を剥いた。
「10分っ! なんじゃそりゃっ」
「こいつは親父似なんだとよ」
 いきなり押しつけられた難題に怒り心頭になった須崎だったが、その一言で一気に静めた。
「親父似? こいつが?」
「まだ35だと。若気の至りってやつらしいぜ。18で籍を入れて、25で離婚。それ以来、父親一人で伸吾を育てて、今に至る。ただ、最近は自分が大学に行かずに苦労したからって、大学いけっと煩くて、そのストレスが性欲に向かった……と。そうだよな、シイコちゃん」
 伸吾をもじってシイコ。
 三坂は奴隷に女性名をつけて呼ぶ。
 それは知っていたけれど、どこか妙な違和感のある言葉に眉を潜めると、三坂が嗤って言葉を継いだ。
「可愛いだろ、シイコちゃん。こいつ、小さい頃、女の子みてぇに可愛いからそうからかわれたんだと。ま、確かにぴったりだ」
 三坂が退けてもぜいぜいとあえいで動けない伸吾は、さっきよりさにな頬を紅潮させていて、もじもじと合わせた太股を擦り寄せていた。三坂の揶揄も耳に入っていない様子だ。
 その太股が淡いピンクの液体で濡れている。粘性のあるそれと、桃に似た芳香は、三坂特性の媚薬だと知れた。
 粘膜に塗られると痒みと熱に襲われて、掻き毟って欲しくて堪らなくなる。
 伸吾も後ろ手に縛られた腕を必死で尻に向かって下ろそうとしているが、固く縛られた手は届くはずもなく、仰け反りながら身悶えていた。
 その卑猥な尻のダンスにごくりと息を飲みながら、伸吾改めシイコの父親の姿を想像する。
「……35ねぇ……」
「よく似てるって?」
「らしいぜ。一緒に並んでいると兄弟と間違えられるってよ」
 きっと許しを請うシイコに、話したら許すとか言って、いろいろ聞き出したのだろう。
「淫乱なシイコちゃんは、夜ごとに悶々して、尻穴をほじくりたくなったけど、ばっちいかもしれないところに指突っ込むのがイヤで、ゴムを盗みに来たんだよな」
 明らかな創作話ぽかったが須崎の胡散臭げな視線に気がついた三坂が、実際のところ大半は当たっているのだと、嗤う。
 父親からのプレッシャーとまじめな性格、勉強と、ストレス溜まりまくりのシイコは、そのストレスがどうやら性欲に走ったが、ネットで知ってしまった前立腺という物に興味を持って突っ込んでみたらひどく良くて。けれど、安全のためにコンドームを使いましょうというメッセージに真面目な子羊は忠実であろうとしたけれど、さすがにコンドームを買うのに抵抗があって……とか、そんな感じの告白を、確かにシイコから聞き出したとのこと。
 そんな赤裸々な打ち明け話をしながら、三坂がぐったりとしたシイコの腰を引き上げる。
「さあさあ、これから記念すべき処女喪失ですよぉ、良い顔で撮りましょうね」
 腰の次に、シイコの胸に手を入れて上半身を抱え上げる三坂が目線で合図をしてきたのに応えていると、疲れ切ってぼんやりとしているシイコが父親の姿に見えて、下腹部がずんっと熱くなった。
 手の中でかちりと音がしたのを確かめて、邪魔をしない位置まで後ずさる。
 それにそろそろ用意をしないと、父親は直に来るだろうと、この頃には須崎は、三坂の案にしっかり乗ることにしていた。
「据え膳喰わぬは男の恥だしな」
 シイコによく似た若い親父。年齢も30から40。考えただけで涎が溢れ、下半身が熱を持ってくる。
 三坂は青臭いガキが好きだが、須崎は脂ののった年代の方が好きなのだ。ただ、その辺りの年代の健康的な羊もまた、なかなかこの店には来ないので、遭遇しない。
「久方ぶりに滾ってきたぜ」
 二人よく似た趣味を持つ、けれど嗜好の違う二人はとても仲良しだ。
 趣味が高じて、店の地下にはその手のグッズを扱って、本業よりも儲かっている。
「じゃ、そっちはよろしくぅ」
「ん──っ! ううっ!!」
 ジュプ、グチュ、ズズッ。
 呻き声が響く中、体格に似合った太さの肉棒が若々しい尻のある尻の狭間をメリメリと肉を裂きながら入っていく。
 使い込まれた赤黒いチンポは、エラが張り反り返っていて、長い陰茎部は真ん中辺りが異様に太い。使いこなれた尻穴すら悲鳴を上げる逸物は、初めての尻穴には辛いだろうが、シイコは涙を零しながらも紅潮した顔をさらに濃く染めている。
 ここの薬は、一見合法で。
 けれど、常連ならば知っている、とても強い効果がある薬が混じっている。それを作り上げた本人だからこそ効能を知り尽くした三坂に、その薬を絶妙なタイミングで使われれば、破瓜の痛みすら快感になるのだ。
 実際、シイコの表情は強い痒みをようやく掻き毟って貰えた快楽に蕩け、緩んだ口の端からだらだと涎が溢れ落ちている。前立腺に興味を持っていて、その良さを知っているシイコの反応は上々だ。何しろ三坂のチンポは、亀頭部だけに抉られるだけでなく、その陰茎のぶっといところで擦られるのも非常に良いらしい。
 ボールギャグに封じ込められていなければ、お強請りすらしているはずだ。
 じっくりと時間をかけて緩まされた尻穴の入り口は、切れることなく赤黒い肉棒を迎え入れていた。
 敏感で、飲み込む存在を露わに感じる肉壁は、他とは濃い色だけどまだまだ淡い。そこに生々しく肉が入り込んでいく様は、青い尻は好みでないと言いつつもそそられる。
「んあぁぁぁ──っ、ぅぅぅっ!!」
 けれど、深く入るほどに伸吾の瞳が大きく見開かれ、その頬から血の気が失せていく。蕩けていた表情が顰められ、涙がぽろぼろと溢れ落ちた。
 それは見慣れた光景で。
「なんだ、また奥まで拡げていなかったのか?」
 三坂が拡げるのは出入り口だけだ。前立腺近くまでは拡げて指で刺激して遊ぶけれど、それ以上は拡げない。そのせいで、快感ばかりを追っていた子羊は、圧倒的質量を持った三坂のチンポを受け入れられなくなる。入り口近くは快感ばかりを味わい、奥深くは張り裂けそうな痛みに苦しんで。柔軟な腸壁が馴染むまでのわずかの間の苦痛は、けれど、奴隷を狂わせるには十分だ。
 狭い範囲で感じる相反する感覚に、全身がバラバラになって精神がもみくちゃにされてしまう。
 そうやって三坂は奴隷を作り上げる。
 奴隷の全てを支配していく。
 三坂の手が伸びてきて、ボールギャグを止めていたフックをピンと弾いて外した。
 大きく息を吸い込み、ぜいぜいと息を荒げる子羊の耳元で、低い声音で囁きかける。
「覚えておけよ、この痛みを。俺がお前を初めて犯した証だ。お前は俺を手こずらせた。この尻をすぐに開いて自ら迎え入れなかった。この痛みはその罰だ」
「ひぃぃぃ──っ、いぃぃ……んあっ、ああっ、やだぁ、そこが、そこがいいのぉさ」
 奥深く抉られて悲鳴を上げ、寸前まで抜いて前立腺を抉るように刺激すれば、全身がざわめくほどの快感に喘いで。
 繰り返される表情の変化は、見ていて面白い。
 それを繰り返すうちに、奴隷が一匹できあがる。
「イイ顔しろっ、売れる顔をしろよっ、売れたら褒美をやる。ほらほらほらほらほらっ」
「あはぁぁぁっ、やぁぁ──っ、なんでぇ、なんでぇ、痛っいのにぃぃっ……でもイイっ、むっちゃ感じって……あぁぁっ!」
 繰り返されるリズムが激しくなって、もう噎び泣いている理由が、快楽なのか苦痛なのか判っていないようだ。ただ、尻穴だけの感覚に翻弄された憐れな子羊は、ひんひん啼きながら、三坂に揺さぶられ続けている。
 知的さなど感じられない獣のように、ただただ快楽だけに縋り付いた瞳は、ろくに焦点があっていなかった。
 そんな憐れな子羊の様子は全て、何台ものカメラのレンズが捕らえている。それが子羊の痴態を逃さないようにこの倉庫には据え付けられていた。須崎がさっき入れたのは、その切り替えスイッチだ。
 準備の段階でも撮っていたカメラよりもさらに高性能なカメラは、自動追尾の機能すら持っていて、この後繰り返される陵辱を余すことなく撮し尽くす。
 三坂は、趣味を実益に変えるのがたいそう巧い。
 涎を垂らして悦ぶ写真や、処女尻を犯すチンポに悦ぶビデオ、ひいては卑猥な淫語での調教に、複数での陵辱ビデオという「シイコちゃんシリーズ」が地下の店に並ぶのも、そう遠くないだろう。
 そして、須崎の羊が主人公のそれらが並ぶのも。
「来た来た来た来たっ!!」
 店の出入り口が開いたチャイムの音が遠くに聞こえて、須崎は満面の笑みで憐れな生け贄を迎えに向かった。



NEXT