【癒しの人生】 シオン編

【癒しの人生】 シオン編

【癒しの時間】のシオンバージョンとなります。シオンが鬼躯国に来てから一ヶ月まで。
それぞれとの初顔合わせ風景からです。
「時間」のほうが三ヶ月後メインですので、それより先の話になります。


 謁見の間で見た鬼躯国(きくこく)の王は、最敬礼の意を表すために片膝を突いているせいとも言えないほどに大きく感じた。
 もとより巨人と鬼の血を引く系統だとは知っているから、その大きさは予測はしていたのだが、旅の間に見かけた一般の民や兵の体躯はまだ納得できるものだった。
 だが王は違った。そしてその隣にいた王太子も。
 私の出身国である雛嶺国(すうれいこく)の平均的な身長は170。だが王はどう見ても200を超えているのではないか。何よりその横幅も我らの身体などすっぽりと収まるほどに逞しい。
 不敬ながら咎められないことをいいことに呆然と見つめていた先で、鬼躯国の王がおもむろに何かを口にしようとしたそのとき。
「恐れながら陛下にお願いの儀がございます」
 しんと静まりかえった空間で凜と響いた声は王の横に控えていた王太子だった。胸に手を当て軽く頭を下げた彼にちらりと視線をやった王が鷹揚に頷く。それに応えて王太子が口を開いた。
「我が国において本来ならば人質として迎え入れた他国の者は別宮(べつのみや)にて暮らしていただくことになっておりますが」
 別宮という聞き慣れない言葉。いやそれよりも人質という言葉に緊張で強張った頬骨が震えそうになった。大国である鬼躯国の援助を得るために差し出される服従の証。餓えた民人を救うためであると思うからこそ、粛々と王命を受け入れたこの身。今さら言葉に含まれて屈辱などにうろたえることはない。
 鬼躯国の人質となった者が、それ以降二度と自国に戻らず、解放もされたことがないと知っていてもだ。年に一度か二度、手紙を届く国もあるというが大半のものはそのまま音信不通となるという。自国の大使とも面会しようともしない彼らがどうなっているか、陰ではいろいろ言われているのだが。
 対外的には多分に過ぎる世話をしてもらい幸せに暮らしていると伝えられてはいても、おそらく不遇の末に死しているのだろうということは、周辺各国でも公然の秘密として伝わっている。だからこそ直系王族とはいえ妾腹の末子である私が選ばれたのだ。他国ではこの国に差し出す人質として身分の低い者に子を産ませている王族もいるという。
 そんなことを脳裏の片隅で思い出して、暗澹たる思いでいたのだが。
「雛嶺国が王子シオン殿を我が住まう奥宮にぜひ入れとうございます」
 そんな言葉が続いて驚きに彼らに向けていた視線が揺れた。ざわりとざわめいた場の空気と集まった視線に返されたのは王太子の冷ややかな視線だ。ぜひにと言いながらそこに熱はない。
 いや、冷酷なる鬼躯国の王太子であればこれが通常なのかもしれないが。
 王太子が視線を巡らせただけで、不要なざわめきはすぐに消えていった。
「理由を問おうか」
 重々しく響く王の言葉、だが垣間見えたその瞳は王太子の冷たい表情と違い愉快そうに笑みを浮かべていた。
「ここのところ大事もなく、我ら王家のものも夜には少々時間か空いております故に。しかしながら相手をしていただくものもおらずでございます。故に我らの遊戯の相手としてきていただきたいと」
「ふむ、そなたがそういうのであれば世に依存はない。だが奥宮に入れるとなるとうるさく言う者もおろうぞ」
「そのことに関してましては養子という立場がよろしかろうと」
 私には理解不能な会話が壇上で行われている。彼らの周りにいる者達は当然ながら意見を挟むこともできないのだろうが、当惑気味なのが伝わってきた。
 しかし王と王太子の話が終わる頃には、問題点は彼らの間で解決してしまったのか。
「それでは雛嶺国第六王子シオン殿はこれより我が鬼躯国王家第四子として奥宮で住まうこととなる。ただし奥宮で住まう資格以外を与えるものではない」
 凜としたお言葉が広間に響くと共に「ははっ」と臣下が首肯した。
 呆然とそれを視界に収めてはいるが、理解ができているわけではない。ただわかるのは満足げな王と相変わらず冷たい表情のままの王太子、それぞれの視線が私に向かっているということだけ。
 ぞくりと背筋に走る悪寒を必死で堪える私は、その理由もわからず、ただその視線にがんじがらめにされたように身動ぐ一つできなかった。


 別宮というのは人質となった者達が収容されている場所だということは知っていた。謁見の間からそこに移動された各国の人質がそこでどんな目にあっているのかわからず、皆が幸せに暮らしているという伝聞だけでは、宮でどうされているのかは想像すらできない。
 しょせん鬼躯国のような強国に、我が国のような周辺小国は意見の一つも言える立場ではないのだ。逆らえば完全なる弱肉強食の世界で我らは鬼躯国に屠られるだけ。王家の血を引く者を生け贄のごとく差し出すことを国が頷かなければ、その国土は屍で覆い尽くされるだけなのだから。
 そんな状態で人質として差し出された己にできることは少しでも良い扱いを受けられることを願うばかり。
 けれど今、謁見の間から連れ出された私は白い壁でできた部屋へと連れて行かれ、そこにあった寝台へと括り付けられていた。抗う間も無いし、何よりも近衛らしき騎士が蔑視の視線で私を見ていると思うのは気のせいか。知らず四肢が強張って動きづらい。
「何をするのですか?」
 かろうじて発した言葉は震えて弱々しい。火の精霊を祖に持つために火の魔力はあるが、簡単な火起こしや寒い冬に暖を取ることはできても、石造りの宮殿では身を守ることも難しいほどの力。それに目の前の彼は一介の騎士でもその腕は太く、その手で掴まれれば私の細い首などわずかな力で折られてしまいそうだった。
 黙したままの騎士は私を固定するとすぐに部屋から出て行った。寝台のほかは美しく磨かれた金属でできた棚。その奥には何かの器具が並んでいるが、印象としては医療室だろうか。
 戦闘民族故か身体強化術や身体改造術の術を持つ鬼躯国では医術や薬術などにも優れていて、ここにあるものがなんなのか薬術か呪術でしか病を治せない我らが国の知識では理解はできない。
 冷たい部屋は暖房などなさそうで、芯から凍えるような冷気に思考能力すら衰える。
 このままでは凍死するのではという本能的な恐怖に襲われかけていたとき、カチャリと扉が開く音がして人が一人入ってきた。白衣に身を包んだ身体は大きく、だが先ほどの騎士ほどではない。どちらかというと細身だがそれでも私よりは大きいだろう。
 本当に鬼躯国の人からすれば雛嶺国出身の私など子どもぐらいの大きさなのだ。
「君がシオン?」
 なれなれしい物言いの彼は寝かされた私を真上から覗き込んできた。深い藍色の瞳が好奇心を蓄えている。まるで実験動物でも見ているような、そんな不快さが背筋を走る。
「兄上様から俺が施術をするようにって言われたんだよね」
「兄上様……」
 言葉の意味はわかるのだが、初っぱなからこんなところで聞くとは思えぬ単語に眉根を寄せた。それに施術とはなんなのか?
 今の状態も、いやそれより前の謁見の間の出来事も、何もかもが理解できない。
「兄上様は兄上様。ああ、えっと王太子だよ、謁見の間にいただろう?」
 そこまで言われて、あの冷たいまなざしを思い出した。今目の前にいる彼と同じ色の瞳だ。
「王太子殿が兄上様……であるならば……」
「うん、鬼躯国第二王子 是蒼(ぜそう)だよ。んで、シオンの身体を改造する係ってわけ」
「か、いぞう……って……」
「今のままじゃ早々に壊れちゃうからね。なんせ体格が全然違うから。せめてしばらくは保ってくれないと退屈しのぎにもならないし」
 畳みかけるように言われる言葉の半分も理解できないが、得体の知れない恐怖が身の内を襲っていた。
 頭の中をここに来る前に調べた事柄が次々とよぎっていった。
 鬼躯国の身体改造術はその魔力を持って人為的に身体の構造を変えるものだ。その気になれば人の身体に翼をはやすことも、二つ足を四つ足に、手を四本にすることもできるという。ただし一度変化させた身体を元に戻すことはできず、戦のために無理に改造された者はたいていが狂い、戦うことしかできないという。だがその一人で1万の軍勢が滅ぶほどの戦力があるらしい。
 もっともそこまでの力は市井の民にはおらず、今は必要以上に怖れることなく普通に交流はされている。
 だが王家同士は違う。王家のものが時折各国の王に見せつけているというその力がどんなものか知っているのはその国の重鎮だけ。故に鬼躯国は怖れられ、どの国も人質一人出すことで生きながらえることを選んでいた。
 私もそれがどんな力なのか聞いたわけではない。だが決して逆らってはならぬのだと、逆らえばそれだけで国が滅ぶのだと言いつけられていた。
 その改造術をするのだと、回転の鈍い頭がようようにして理解した。
「……か、改造、とは……な、何をするつもりですか……」
 人体実験という言葉が頭の中をぐるぐるとよぎる。
 眉間に深いしわを刻み喉の奥で唸る私を、是蒼と名乗った彼は口角を歪めながら覗き込んだ。
「怖い? でもすぐに終わるよ。そんなに痛いこともしないし。ほら、なんせ俺達は巨人の血を引いているからか何もかもが大きすぎて簡単に受け入れられないって人が多くってさ。双方がきちんと楽しむためにもってこと。まあ別宮にいる術士だったら俺より劣るからしばらく悶絶ぐらいはするかもしれないけどさ。シオンは俺で良かったね」
 安心させるような言葉の中に、聞き捨てならない言葉が混ざっている。その言葉の意味を知りたくはなかったが。
「別宮……って、受け入れるって」
 本来ならばシオンもそこに入るはずだったところだ。ならば別宮とは……。
「それがいいって見物客もいるけど」
「待ってっ」
 聞きたいことがあった。別宮の意味を、是蒼様の言葉の意味をもっと知りたかった。だが静止の言葉より先に、ハハハッと軽い笑い声を上げる是蒼様の掌が下腹部へと当てられていた。
「ひっ」
 布越しでも伝わるその冷たさに得も言われぬ恐怖に囚われる。
「安心していいいって」
 不安――確かにものすごい不安を感じていた。人の身体がそうでないものに変化させられるかもしれない不安は、身の毛もよだつ恐怖となって襲ってくる。
「い、嫌だ……やめてくれ……やめて」
 国のために、民のためにと覚悟を決めてここまで来た。だが本能的な恐怖は抑えきれるものではなく、私は無様に懇願していた。
「大丈夫だって、ちょこっと腹の中をいじるだけ。シオンだって腹を突き破られたくないでしょ」
 全く安心できない台詞に、頭を拒絶に振りたくる。
「やめて……やめ」
「うるさいから、このまんま始めるね。見てたら安心するだろ、ほら」
「ひ、い、いやっ、ああっ」
 触れた掌が不意に熱くなった。そこから腹の中までがじわりと熱くなる。
「ひぐっ!」
 どくんと心臓が弾けたように跳ねた。全身の血流が濁流のごとく音を立てて流れている。
「あ、ぁぁっ!」
 仰け反り口を開いて喉の奥から音を絞り出していた。
 見開いた目は天井しか映していない。だが頭はそれを理解することなく、ただ制御できない衝動にただ叫ぶ。
「へえ、勃起しちゃった? そんなに気持ちいいの、これ」
 笑い声が遠く響く。
 腹の奥が熱くてたまらなかった。炎の魔力が腹の奥で暴れているみたいだ。手の中でなら経験があるそれを、今敏感な腹の中で感じている。だけど魔力なら放出できるはずだが、今暴れているそれはどこにも吐き出せない。狂おしいほどの熱塊がそこにあって、じっとしていられなかった。ガクガクと腰が揺れて、股間を押さえつける服が邪魔で仕方が無い。
「ああなるほど、雛嶺国の祖は炎の精霊だっけ。欲望が集まりやすいのかな、んで俺の魔力に反応しちゃってんだ」
「た、助けて……、熱い……苦しい……」
「ふふ、いい顔。兄上様が気に入ったのもわかるなあ、なんかたっぷりと虐めたい気分だよ」
 ぺろりと耳朶を舐められて、ぞくぞくと全身が悪寒のような震えに翻弄された。少し下腹部を押さえられれば、吐き出したい欲求はさらに強くなり、ガクガクと全身の痙攣がひどくなる。もう自分の身体がどんなことになっているかわからない。
「そうそう、こっちもね」
 と仰け反り晒した喉にも手が触れる。途端に息苦しさとむずがゆさが喉の中に襲ってきた。
「や、あぁぁっ!」
 苦しげに喘げば、なぜか口内から喉の奥がひどく敏感に感じた。太い熱杭で満ち満ちたように、広げた口が閉じられない。舌も口内も何かが表面で暴れている。
「もうちょいだよ。ほら、痛みなんて感じない。これがさあ、下手なやつがあるとマジで痛いらしいんだけど、どうせなら気持ちよくしたほうがおもしろいだろ」
「や、あっ、ぁぁっ、そこ、そこはっ!」
 腹の奥がぐりぐりとこねくり回されている。不快感があって当然なのに、ものすごく気持ち良かった。中から広げられて、押されて、抉られていく感覚に狂いそうだ。
「い、いきたっ、出る、出るっ!」
 中から内臓を刺激されて、排泄物が噴き出しそうだった。
「んー、出せば? こんなに勃起してんだからさ、子種がたっぷり出るんじゃないかな」
「ちがっ、出る、小、水っ、あうっ」
 快感が激しいが、感じるのは張り詰めた膀胱からの刺激だった。射精もしたいがそれ以上の排泄欲が大きい。
「あー、うん、それは嫌だなあ。出すなら俺がいなくなってからね」
 スカトロは嫌いなんだよなあという言葉が聞こえて。
「ひぐっ」
「勃起してたら出ないでしょ」
 楽しそうな言葉と共に、先より激しい快感に襲われた。揺れる腰はもう止められず、目の前が何度も白く瞬いた。
「いいなあ、清廉潔白な精霊族の深窓の王子様が浅ましく喘いでいる姿って……」
 髪を掴まれ、視線を無理に合わせられる。涙に濡れた瞳で焦点がうまく合わないけれど、是蒼様の顔が至近距離にあるのがわかる。
「俺も気に入ったよ。だからシオンのためになる特別施術をしてあげる。それと楽しい玩具もいっぱい作ってあげるね」
 生暖かいものが私の頬を舐めた。
「まず一番はそうだなあ、我慢する顔がすっごくいいから勝手に出せないようにしてあげるよ」
「ひぐっ、イク。いやっ、は、離してっ、やあっ、助けてっ、熱い、弾けるっ!!」
「だぁめ、もっともっと我慢してよ。きっともっと気持ちいいから」
 無邪気な言葉の意味などわからずに、さらに強くなった刺激に衝動的に叫び続ける。
 叫び続けるしかなかった。