【諦観した先の未来-5】詳細Ver

【諦観した先の未来-5】詳細Ver

ダーバリア視点となります。本編裏話(2話)です。

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【ダーバリアの願い】

 私はダーバリア・テグ・コン・グルトリア。この国の習わしで言えば、グルトリア国第三王子ダーバリアである。
 グルトリア国では初めての黒の稀少獣種、黒豹として生を受け、当時はお祭り騒ぎだったと伝え聞いている。
 もともと豹の一族が治める南の国で、国土の大半が草原地帯だ。乾燥に強い穀物と果実、鉱山などが主な産業で、標高の高い一部では牧畜なども行われている。国としてはかなりというには語弊があるが、そこそこの裕福さと言えよう。
 そんな国での黒豹の生誕に、国が喜び沸いたのは当然ではあるが、ただ私を喜ばぬものがいたのも確かだ。何しろ我が母は現国王の側室、しかも正妃は我が国屈指の建国の時代から続く大貴族の出。すでに二人の王の子をもうけているとなると、私の風当たりは当然強かった。
 王ですら、私の元に訪れるのは一年に一度か二度。
 まるで神子か何かのように奉り上げているくせに、それ以外で私に接するものはない。王宮の奥の奥、後宮よりも奥に閉じ込められ、私に接するのは召使いか教育を担当するものだけ。
 奥から出されるのは物珍しい黒豹を見たいという客と謁見するときだけだ。
 五歳を過ぎるころには母からも引き離された。
 その後は母とも会うことはできたが、ほんの一言二言、話をすることすらままならない。
 正妃一派から実家に害をなすと脅されていたせいだとは、まだそのころにはいた私に味方するものからの情報だ。
 優しい母ではあったが、結局王宮にはびこる権力にはかなわなかった。私を守るだけの力を持ち得なかったのだ。
 それを知ったのはある程度の年齢だったが、それでも自分の存在が危ういものだということは、聡い私は幼いながらも気が付いていた。
 当然私は遊ぶ相手もおらず、小さな中庭で訪れる鳥や小さな虫を相手に遊ぶことぐらいしかなかった。
 それでも私は幼いながらに立場をわきまえておとなしくしていたのだが。
 ある日、迷い込んだ子猫が無残な姿で殺されていた。
 高いところから落とされたような血まみれな姿で発見された子猫を殺したのは、いつの間にか私だとなっていたのは、あれは十にもならないころだ。
 普通の子ならできるはずもないことだがそのころにはすでに私の力は、言葉を紡ぐより簡単に力を行使できていたのだ。
 私の言葉は誰も聞いてはくれなかった。
 幼少期に母がなんとか配置していた者達はすでにおらず、私の周りはいつの間にか正妃一派が占めていたからだ。
 私がどんなにその子猫の訪れを楽しみにしていたか、手ずから餌をやり、大きくなるのを楽しみにしていたかなど、知りもしないで。
 怒りよりも、後悔のほうが強かった。
 私などに近付いたせいだと、私が触れなければこの子猫はもっと生きられたのに、と。
 鳥に手を差し伸べれば数日後にはその鳥は死に、愛でていた花は枯れた。
 悪魔の子だと、触れたものは死ぬのだと、近付くものはさらに減り。なのに、私はあいかわらず崇められる。
 魔力が強く、勉強はできるが、人としての性格は最悪だと。
 変態で、自己中心で、わがままで、人を人とも思わない糞虫、唾棄すべき存在であると、人は噂した。
 幼いころから毎日毎日、数少ない召使いも教師も、顔を見せるたびに誰もがそう言ったのだ。
 誰かが病気をすれば私が呪ったからだと噂された。
 私が黒豹だから生かされているのだ、と向けられる視線は侮蔑だ。
 そんな噂が広まり、謁見を希望するものも減っていった。
 黒豹は黒豹としてそこにいるだけでいい。
 黒豹だから処分はされないが、性格破綻者は閉じ込めておけばいい。
 私の周りは全て敵となり、私は誰とも話さなくなった。
 与えられるもの食べ、日々を無為に過ごす。
 見上げれば空は高く澄んでいるが、私の周りは黒く澱んでいる。生きているものは私に近付かなくなったほどに、全てが私を拒絶した。
 だから私も、周りの全てを拒絶した。


 そんなふうに育った私があの宮殿の奥から出られたのは、味方になってくれた出入りの商家の主人のおかげだった。
 いや、その主人も自分のためだったのは知っている。
 稀少獣種はいるだけで国が富むという話は間違いなく、そんな私を手元に置きたかったのだ。
 多くの金貨、宝石が動いたのは違いなく、国王や、私を憎んでいる正妃一派ですら、私を解き放っても良いとすら思えるほどのものだったのだろう。
 それでも私は嬉しかった。たとえ、王位継承権を失おうとも、幾つかの条件を課せられようとも、それでもあの宮殿から出られたというだけで、その主人に感謝したほどだ。
 もとより王家に対する未練などない。
 国も嫌いだし、王家も周りの全てが嫌いだった。
 ただ母があの国にはいるから呪わずにいるだけだ。
 何よりこれ以上自分の評価を貶めたくなかった。
 だいたい私の力は呪だけではない。別に商家に引き取られたというわけではないだろうか、私には商売の才があったのだ。
 稀少獣種だからなのか、それとも私自身に元からあったものなのか、それは知らない。
 私は商売というものを学んだ後、小さな自分の店を作った。
 例の主人に招き猫という偶像崇拝にも似たように囲われていた生活から、抜け出す一歩にしたかったのだ。
 別に主人とはいまだに良い関係ではあるし、彼の利益になるように願うことは忘れていない。
 だがそれだけだ。
 私は、人が怖い。
 人と接するのは嫌いだった。
 幼少期、まともに人と接したことのなかった私は、人との話をまともにしたのは長じてからだ。
 だが同時に、王家としての立場もたたき込まれていたせいか、矜持というものもあって、人前で情けない姿はとりたくなかった。故に私は、別の自分を作って自身の上に仮面を被った。
 魔力の力も借りて、商売をするために理想の私を作ったのだ。
 商売をするときは人当たりがよく、機知に富んだ会話で周りを楽しませることができる。
 相手が何をしたいか、何を望んでいるかを察知して、先回りして動いた。
 金が絡んでいるから、利益を出したいという欲が絡んでいる相手に対してはとても有効で、いつの間にか私の唯一の特技のようになっていく。
 こんな私でもできることがあったのだなと、思った瞬間だった。
 そんな中で、黒の稀少獣種の存在について正しい知識を得る機会もあったが、それでも幼いころから植え付けられた私というものは変わらない。
 商売以外で付き合う相手はおらず、従業員達も私という存在を神聖視でもしているかのように遠巻きにしている。いや、これは私の悪い噂を信じているからか。
 一応距離を縮めようとはしたのだが、うまくいかなかった。
 金が絡むとうまくいくのに、なんでだろう?
 これはやはり私がわがままだからなのだろうか?
 気を付けてはいるものの、自己中心で突っ走っているからだろうか?
 やはり私は嫌われもので、一人でいるしかないのか。
 そんなふうに悶々と日々が過ぎるころ、私は私だけの番を欲するようになっていた。


 あんな閉鎖的なところにいても番がなんであるかぐらいは知っていたし、仲の良い番の姿はうらやましいとは思っていた。
 だから近所の仲の良い夫婦をうらやましく、ついじっと見ていたりもしていたのだが。
「ダーバリア様っ、私もあなたのことがお慕いもうしておりますっ」
 いきなりその片割れが店にやってきて、私に迫ってきたときには驚いた。 
 まだ若い私は突然のことに頭の中が真っ白になり、対処方法が判らなかった。
「え、はっ、なぜだっ!」
「あなた様が、私を熱い視線でお見つめになられて、私は、私はもうっ」
 真っ赤になって瞳を潤ませ私に迫る女は、ほかの全てが視界に入っていないようだった。
「私が? なぜ、私がそのようなことを。あなたのことなど私は知らぬっ」
「そ、そんなっ。あんなにも熱く、私の全てを見通すほど強く、見つめてくださったではありませんかっ。私の全てがあなたの虜。もう、あなた無しではいられませんのにっ、私を捨てるというのですかっ」
 一体何が起きているのか、私には判らなかった。
 店の周りに人だかりができ、誰もが私を指さした。
 最低な男だ、人妻を弄んで捨てたのだと、私が悪者になっている。
 そのうちにその女の夫までもが乗り込んできて、騒ぎはさらに激しくなって。
 収拾がついたのは、何時間も経ってからだ。
 そんなことが何回も続けば、店の評判にも傷が付く。
 噂によると、私は変態の人非人らしい。
 仲の良い夫婦を引き裂くのが好きで、深夜になると日々呪を回りにばらまいている、極悪非道な男だと。
 私が何かをしたわけではないが、それでも実際に私の周りの夫婦はみんな別れてしまった。
 あれだけ仲睦まじかったのに。
 こうなってくると私が何か無意識のうちに呪をばらまいたとしか思えない。
 ああ、私はなんて罪深くクソったれな男なのだろう。
 誰もが私を指さしているような気がして、私は再び自室にこもるようになってきた。
 順調だった商売も陰りすら帯びるようになってきていたが、どうしようもなかった。
 いっそこの店を、ただ一人信用している筆頭番頭にでもやって、出奔してやろうか、そんなことまで考えたのだが。
「ダーバリア様、ダーバリア様は一箇所に留まっておらないほうが良いでしょう」
 夜半遅く、私の前で深々と頭を下げた彼は、そう言った。
「やはり私は不要な存在なのだな……」
 俯き呟く私に、彼は続けた。
「ダーバリア様は何も悪いことはしておりません。しかしこの国では悪い評判がどうしても先に立って、正当な評価が得られなくなっております」
「正当な評価……?」
「はい。ですのでこの国を出て、他の国での商売をお勧めします。できましたらその黒豹という立場を生かして、各国でわれわれの店を宣伝し取引を持ちかけていただきたいのです」
「……黒豹としての立場、か?」
「そうです。この国でも黒の稀少獣種は大切にされるべき存在。しかし出自故にないがしろにされておりますが、他国ではそうではありません。何よりダーバリア様はもっと外で活躍されるべきお方です。このように閉じこもっておられる方ではありません」
 きっぱりと言い切った番頭は、私に向けて優しく笑った。
 それは今まで向けられた皮肉げなものではなく、穏やかで優しいものだった。
 ああそうだ、この番頭はいつも変わらず私に向かって笑いかけてくれる。
 私が間違えたら間違えたと言うけれど、褒めてくれるのも彼だ。
 私より少しだけ年上の、苦労人。幼いころから奉公に出て商売を学び、他店からも引く手あまたの彼が、なぜ私のような若造の役立たずの店に来てくれたのかは最大の謎だ。
 だが彼が何かを企んでいる気配はなく、いつでも私のために働いてくれているのは知っている。
「ダーバリア様は立派なお方です。噂は噂です、ダーバリア様はもう周りの噂など無視してください。外に出てダーバリア様のやりたいことをしてください。そして、ほかの国でいい番を見つけてください」
「番……か? 私のようなものに、番など見つかるだろうか?」
 こんな極悪非道人だと言われるような男に。
「ダーバリア様は優しいですよ。他の人の評価など無視してくださっていいのです。ダーバリア様の直感を信じて、好きだと思った方を口説いて、求愛してください」
「き、求愛っ」
 慣れぬ言葉に、頭の中が桃色に染まり、顔まで熱くなった。
 求愛行動と言えば、アレをアレする行為ではないのか?
 実のところ、私は今までそういう経験をしたことがない。恋とは何か、いまだによく判っていないのだが、求愛行動がなんたるかぐらいは知っていた。
 まだ宮殿に住んでいたころ、人目の付かない奥の宮なうえに、叱るものもいない私の住まい近くは、そういう求愛行動をするのに最適だったらしく。
 特に見られて興奮する質の者どもが幼い私がいるにも関わらず、それをしていたのだ。
 浅ましい声を上げていた女は、私を見て笑っていた。
 気持ちいいのだと、誘いすらかけてきた。
 あのとき何を何していたかは知っているが、あれをすればいいのか?
 澄ました顔をしている番頭を上目遣いで探れば、にっこりと微笑んでいた。
「ダーバリア様が手放したくないと思われる方が見つかったら、――そうですね、ダーバリア様が一生懸命迫り続けて、求愛をされて落ちない方はおられませんよ。ダーバリア様」
 オチナイ――オチナイとは堕ちない? おお、恋におちるとは、そういうことか。
 私のものになってくれるのだな。
 私から離れたいと思わないようにするには、求愛すればいいのか。私が求愛して、たくさん求愛して、迫って……。
「真剣な求愛行動には真剣に応えていただけます。ダーバリア様ならきっと相手の方も気に入りますから」
 求愛行動で、アレをアレして……。
 なんだか身体が熱くなる。
 むずむずと下腹がなんともいえず熱く、重く……。
 ふむ、私のものが勃起しているが、これをその相手に突っ込んで喘がせればいいのだな。
 なるほど、求愛すれば応えてくれるのか。
「ダーバリア様にもきっと素敵な家族ができますよ」
 ああ、そうだ、私の子を孕んでもらおう。
 大切な家族。
 優しくて笑い声の絶えない、温かい家族。
 ずっとずっと欲しかった。
 子どもができたら遊ぶのだ。
 一緒に食事をして、笑いながら話をするのだ。
「それにダーバリア様の黒豹のお姿はたいそうお美しい。きっと相手の方も一目で虜になられるに違いありません」
 そうなのか、豹の姿を見せればいいのか、うんうん、なんて素晴らしい。
 家族が欲しい、子どもも欲しい。
 私の幸せを与えてくれる番が欲しい。それが、あの噂の真なる番だったら、どんなに素晴らしいことだろう。
 そのためには求愛行動だな、そうだ、そうすればいい。
 そうだ、そうすればもっと私のところに堕ちてくれるはずだ。
 一応私のアレは、なかなかいいサイズらしいし。
 あの女どもに見せたわけではないのに、なぜかそんなことを言ってうっとりと微笑んでおった。ならばきっと相手も喜んでくれるはずだ。
「あ、でも人妻は駄目ですよ、そこは大切です」
「それは判っている。あのような修羅場はもうまっぴらだ」
 一体何人の夫婦が喧嘩別れをしたのか、それを毎回見せられて、しかも私が原因だというのはもう味わいたくない代物だ。
「どうか素敵な番をお探しください。ダーバリア様に今必要なのは、大切なお方です」
 やはりこの番頭は素晴らしい。
 私は彼の言葉に頷くと、次の日さっそく旅の準備を始めた。



 甘く芳しい匂いに誘われるように振り向いた。
 ほんの少し酸味が入った甘い匂いは、食欲にも似た衝動で私の口内に唾液が溢れる。
 向けた視線の先にいたのは、小さな雑貨屋らしき店にたむろしている数人の人たち。
 その中の一人に視線が吸い寄せられる。
 白っぽい色の耳と髪。ふさふさの触り心地の良さそうな尻尾。私の腕にちょうど良さそうな体格の、しかし男ではあるようだ。
 それでもその笑顔に引きつけられた。
 自分の全神経が彼に向かう。
 遠いのに、彼の全てが感じられる。
 ああ、これは……。
 見つけた、と思った。
 ようやく見つけた。
 あの番頭の言葉が頭によぎる。
『ダーバリア様の直感を信じて、好きだと思った方を口説いて、求愛してください』
 そうだ。
 迫るのだ。
 彼を私の元にする。
 ああ、だが私は話下手で、うまくこの思いを伝えられない。
『見つけたら一生懸命迫り続けたら、ダーバリア様の元に落ちてこないはずがありません』
 私の持てる力で、彼を手に入れたい。
「あ……」
 だが、彼は私に気付かぬように店の奥に入っていってしまった。
 どうしよう……。
 どう話しかければいいのだろう?
「ダーバリア様、いかがなさいましたか? 何か気に入られたものでも?」
「ん、ああ……。あの雑貨屋に入っていった白っぽい髪をしたものは?」
「え、ああ、トゥーリンですかな? 灰色狼種で、最近白髪が増えたと気にしておりましたから白っぽく見えたのでしょう」
 この地を仕切る男の狡猾な笑みが私に向けられた。
「お気に召したようで?」
「ん、ああ……。どういう男なのだ?」
「あれは……」
 つられるままに問えば、いろいろと教えてくれた。
 独り暮らしで伴侶はいない。ということは人妻ではないということか。
「もしよろしければ、先ほどの価格をこちらの言い値にさせていただけるなら、あれをダーバリア様に差し上げましょう」
「……差し上げるとは?」
 男の言う意味が判らなく、単純に問うたのだが。
「ダーバリア様のお好きなようにされればよろしいのです。おお、そうですな。とても良い薬もありますし。もしお気に召すなら奴隷として飼われるのも一興」
「奴隷……、それは……」
 さすがに奴隷にするつもりはないと首を振った。
 私は伴侶を得たいのであって奴隷を得たいのではない。どことなく男の言い様を不快に感じて、すがめた視線を送れば慌てたように目の前で手を振った。
「いや、あれはその、ものすごく周りのもの達に人気がありましてな。なんというか、人気者、というやつで。ですのでもしお気に召したのなら、閉じ込めて外に出さないほうにされたほうがいいかと。まあ、それで奴隷というのは言葉のあやと申しましょうか、奴隷みたいにつないで外に出さないほうが、という意味でして」
「閉じ込めたほうがいいのか?」
「はい、そのほうがたっぷりとお使いいただけますしね」
「使う?」
「ええ、たっぷりとあれをお使いください。むふふふ、ダーバリア様のアレはとてもご立派なご様子。閉じ込めて毎日毎日犯してやれば、きっとトゥーリンもあなた様から離れられなくなりますよ」
「ん? おかして……とは?」
「おお、ダーバリア様のご立派なものでまぐわうということで」
「おお、そうか。まぐわうことを犯すというのか」
 なるほど、まぐわうとは求愛行動のことだと番頭が言っていたが、ところ変われば言い方も変わるということか。
 そうか、私のもので毎日犯せばいいのか、そうなのか。そうすれば、あのトゥーリンというものを我が物にすることができるのだな。
 そうか。
「判った。私はトゥーリンが欲しい」
「承知いたしました。今夜にでもダーバリア様のお屋敷にあれをお連れいたしましょう」
 男の申し出に頷いた。
 彼が私の元に来てくれる。もうそれだけが頭の中を占めていた。


 なぜ彼はあんなにも怒るのだろう?
 皆が言うように、毎日毎日求愛している。
 最初のときにあんまり暴れるから、呪をかけた。首につけたアクセサリーはあの男からの贈り物だが、私の呪ともなじみが良くしかも彼にとてもよく似合う。
 気持ち良くして、求愛行動でまぐわう以外のことを考えられなくするようにすればいいという助言ももらったので、頑張って呪を重ねた。
 毎日閉じ込めていると精神が先にまいってしまうから、それを防ぐ呪もかけたほうが良い言われた。確かにそのとおりだと重ねてかける。
 ただ彼は私の悪口ばかりを言う。罵詈雑言は彼には似合わないし、何よりそれを聞くと私自身落ち込んで萎えてしまう。それでは彼を犯してあげられないから言葉も封じた。
 それに素晴らしい言葉以外は聞きたくない。
 どうやら彼は私の悪い噂を知っていたらしいのだが、それらも彼の口から聞きたくなかったのだ。
 どうかその愛らしい声で、私に求愛を求めて欲しい。だが彼は恥ずかしがるのか、照れているのか。ツンデレというらしいが、言葉にはしてくれない。
 だから彼に呪を追加した。
 彼から求めてくれるように、その身体に欲という名の熱を孕ませていく。
「欲しい……きて」
 だから彼がそう言ってくれたときには嬉しかったはずなのに。
 それでも彼がそう言ったのは呪をかけたからだということも判っていた。本当はこんな呪など使わなくても彼から言って欲しかったのに。
 もっともっと、我を忘れて私を欲しがって欲しいのに。
だが今は呪の力を借りないと彼が我を忘れるまで欲しがってはいないようだ。
 言ってくれたことは嬉しいのに苛立って、その苛立ちが彼が悶えて私を求めるたびに強くなっていく。
『ダーバリア様の豹の姿はとてもお美しいですよ』
 不意にそんなことを言われたことを思い出した。
 豹の姿を見せれば、もっと好きになってくれるのでは?
「そうだな。今日は趣向を変えて、獣体ならば犯してやっても良いな」
 そうすれば、もっと私を好きになってくれるだろう。
 人型の彼より大きな身体は彼にたいそうな威圧感を与えてしまったし、この姿になると獣の欲望が強くなる。
 気が付いたら彼を犯していたが人型のときよりものすごく気持ちが良かった。
 狭い彼を割り開く感触、きついぐらいの締め付けがあり、彼の心地よい悲鳴。
 うっとりと浸りながら彼を犯したのだが、どうやら私のものは大き過ぎたらしい。
 血まみれになっていた彼に慌てて治癒魔法を施す。
 直接触れたほうが効きが良いから、血を舐め取りながら施したら。
「す、素晴らしい……、なんと甘美な味なのだ。まるで極上の美酒のごとく……、ああ、素晴らしい」
 うっかり途中で治癒魔法を忘れたほど、彼の体液は素晴らしいものだった。
 これは彼には悪いが、獣型でたまにはさせていただこう。その代わり痛みを和らげる魔法を使い、終わったらしっかりと治癒するので心配はないだろう。
 彼は常に健やかであって欲しいのだから。