【最終試験】

【最終試験】

シリーズ【鬼の宿】と少しリンクしていますが、こちらは人の話。
薬を使って体質変化を行う実験をしているところです。
メインは研究者側で、途中青年側の描写もあり。
多数×青年 その手のシーンは少ないです。

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 今回私が計画した実験には、どうしても素材の選定が重要であった。
 予備実験段階ではさまざまな要素を持つものを対象にして行ったが、その中で最適と思える素材を絞り込み、そして少なからず私の希望というか好みがあうものというのを加味したのだ。
 その選定には慎重に時間をかけることになったが、その分、最適な素材を見つけ出すことができた。
 できたのだが見つけ出した素材は、有名な一家を出自としており、彼自身もテレビに良い意味で出る程度には人気があった。つまり、いきなり失踪ではいろいろな方面を刺激しやすいということが言える。
 誘拐疑惑やなんらかの陰謀疑惑などが出ればそれはそれで揉み消すぐらいの力はあるが、それでも面倒なことには変わりない。まして、ネット社会の現代、何かのおりに話題が上がり、どこかでくすぶり続けるのは避けたいところだ。
 それで手をこまねいているということが、いつの間にか私のかなり上の上役の耳に入ったらしく、手を貸してくれるという話になったときには驚いた。
 元々そういう企てがお好きな方ではあるのだが、やはり雲の上の方とも言える存在にお願いするのはたいそう気が退けたのだが、あちらから「やりたい」と言われてお断りすることもできなかったというのが正しいのかもしれない。
 それに、彼の方は私の実験にたいそう興味をお持ちということもあって、それならば実験がうまくいった暁には第一号を差し上げるお約束をしてお願いをすることにしたのだ。
 その結果、考えた以上に簡単に私はその素材を手に入れることに成功した。
 誰にも疑われることのない自然な成り行きで進んだ企ては、やはりあの方だからと言えるだろう。
 手に入れたかった素材の父親が背任の疑いで逮捕後、直後に発症した重篤な病気で入院し数日後に死亡したのも、その結果、過労のために自動車事故の加害者および負傷による入院後やはり死亡した母親の件も、話題になりにせよ、問題のない筋書き。
 そして問題の素材は芸能界を休止して双方の関係者から要求されていた民事裁判、損害賠償金を支払うなどの手続きに奔走、心身の不調を訴えるうちに自殺した。
 立て続けの不幸はさすがにワイドショーネタとはなったが、世間の目はすでにいないものにはいつまでも関心を持たないのも確かだ。まして、死亡診断書は病院の医師が発行した正式のものであれば疑いようもないだろう。
 3カ月ほどかかった企ては、そのきっかけすらも自然な流れで発生し、私達はそれを眺めているだけで済んだ。私でもこのような筋書きは作ることはできるが、いかんせん手間暇はかける必要がある。しかしながら彼の方は本当に指先一本動かす程度でされてしまうのだ。
 それどころか濁流のような運命に素材が流されいく様はなかなかに楽しく、そのドラマチックな展開はさすが彼の方の企てだとしごく満足させていただいたほどだった。
 こうなれば、必ず実験を成功させなければと意気込みが増す。
 捕らえた素材の手足を部位ごとに可動するベッドに固定し、まずは多量の薬を投与する。
 最初のうちは暴れた素材も、薬がもたらす副作用も相まって、すぐに大人しくなったのは幸いだ。発熱と筋肉の弛緩、そして全身を襲う神経の過敏症状に苦しむ素材を数日放置していると、それも落ち着いてくる。
 そうなれば今度は外的要因から、薬の効果を高める過程となる。もちろん薬の投与期間は最低二週間なので、その都度なんらかの副作用も出てしまうが、それは外的刺激をよりいっそう強めて、効果を上げる。
 そのためのさまざまな道具や治具を見せつけると、素材は顔をしかめ、力が入らずとも悪態は尽きなかった。
 投与した薬は、本来持つ機能とは別の効果を持つように、素材自体の身体を作り替えていく効果がある。
 まずは全身の皮膚感覚、特に触覚に過敏になる効果。その結果、性感帯と呼ばれるものが増加し、脳がそれに反応しやすくなる。そして、性器への刺激はより強く感じるとともに、持続力が強くなる。
 そして一番の効果はアナルが柔軟になり、腸壁から潤滑剤のような粘液を多量に発生させるようになることだ。その結果、女の性器のごとく濡れて、柔軟に入り込んだ異物を飲み込んでいく。
 さらに飢えた身体はフェロモンを強く発生させて、誘蛾灯のように男を誘うのだ。
 そう、私の薬はたいそう淫乱な、日がな一日犯されないと気が済まない身体にするものであった。
 ただしよくある麻薬などのセックスドラッグとは違う。
 変化するのは身体だけで、しかも数週間の投与で永続的にその効果を発揮し――つまり身体をすっかり変えてしまって元に戻ることはないのだ――理論上は。
 素材への投与でもそれは裏付けられ、精神はそのままで――否、それどころか快感に流されることなく理性を保つ時間は日々長くなっている。
 嬌声を上げて絶頂を繰り返しているのに、快楽に溺れきれずに羞恥と受け入れきれない思いに咽び泣く姿は、私のように嗜虐性が強いものにはひどくそそるもので、あやうく彼を犯してしまいそうになったのは一度や二度ではない。
 しかも、満足することはない。一時的に性欲が弱まっても、すぐにまた欲しくなる。セックス中毒とも言える症状が常時出ている、まさしく淫魔と呼べるものを人工的に作るための薬だった。
 そのために手に入れた素材で、私はさらにその身体を淫魔に近付けるための実験を重ねていった。 
 ベッドに括り付け、きつかったアナルをねじれた張型でほぐし、拡張した。
 痛みに喚いたのは最初のときだけで、すぐに弛緩した身体は、それを飲み込み、中から刺激に射精した。驚き、喚く素材の前立腺を絶えず刺激し続け、次に電気を流すとおもしろいように跳ねて射精を繰り返す。
 逆らえばクリップで乳首やペニスを挟み、天井へと強く引っ張って伸ばし続けた。おかげで、最初の頃よりかなり大きな乳首ができあがり、たいそう摘まみやすい。
 指示どおりにアナルの緩急ができない場合は腹一杯の浣腸を施し、勝手に射精をしたときは、天井からぶら下げた多重の円環状の蝋燭立てに立てたたくさんの太い蝋燭から蝋の雨を降らせる罰を与え続けると、かなり大人しく従順にはなった。
 と言っても、その目の輝きは変わらない。
 いつでも逃げ出そうと隙を狙っているのだが、私の研究室はそう簡単に逃げ出せる代物ではない。まあ、脱走させて捕まえて、を繰り返すのも楽しそうではあるのだが、いかんせん、まずはこの素材を完成させるのが最優先の身としては、そんなお遊びは後に取っておくことにする。
 幸いにもこの素材は賢く、覚えも良かったため、決めた罰を数度繰り返せば従うようになってきた。
 排泄を全て管理される屈辱に涙する姿はなかなかにそそるもので、張型の形をしたものに入った流動食を、亀頭の形をした部分を扱き吸い付いて飲む姿は笑いがこみ上げるほどに滑稽だ。
 一週間も経てば子どもの腕ほどの張型を銜え込んでその圧迫だけで射精ができるようになり、乳首を弄られるだけでドライオーガズムも味わって、さらに潮を吹くようにもなった。
 かなり効果的に薬が効いて、二週間もすれば肌に触れるだけで勃起するようになり、ペニスを扱けばすぐにドライで達くようになった。さらに、アナルに道具を突っ込まれるだけで射精してしまう。
 いまだバックバージンであるが、まさしく淫乱、いやもう、これは確かに淫魔と言っていいかもしれない。
 私は実験が成功したことにたいそう満足し、そして最終試験を行うことにした。


 その足はずっと震えていた。
 遠目に見ても判るほどに、それこそ自分の身体を支えられないほどだ。
 震える足がたたらを踏み、バランスを取ろうとしたのか左右の肩が交互に動く。だが、宙を描くはずの腕は背に回され、しっかりと固定されていて動くことはなかった。
 それでも倒れることはなく、前屈みになりかけた拍子に彼の表情が息苦しげに歪む。
 細身の身体を支えたのは、その細い喉に食い込む無粋な革の枷から伸びた鎖だ。天井から吊された鎖の長さは、彼がわずかに膝を折ることができる程度で、さっきから彼が揺らぐたびに喉が絞まるようだ。枷に擦れた擦れて赤くなったかわいそうな肌が教えてくれている。
 喉が絞まる苦しさに、彼が反り気味になれば、突き出した胸で赤く色づいた二つの乳首が、触ってくれと言わんばかりに立ち上がっているのが見える。
 棒状の口枷がはまっているせいで閉じられない口角から流れた涎が、その乳首をさらにいやらしく濡らしていた。
 そんな彼に向かい、闇の中のそこかしこから、「だらしない姿だ」と笑う声がする。
 闇に沈む中にいる客達が見ているのは、全身くまなく脱毛処理された身体の、無毛の股間だろう。
 首枷以外で身につけているのは棒状の口枷と革製の下帯だ。腰に回された喜平チェーンで股間を通る革帯を固定していて、ちょうどペニスのところだけリングがはまっており、そこから勃起したペニスがぴょこんと飛び出してふるふると震えていた。
 萎えたときには通ったリングは、勃起した今かなりの痛みを持ってそこに食い込んでいるはずだ。それなのにそこからひっきりなしに粘性の汁のお漏らしをしている。
 こんな状態でも快感に晒され、射精を求めているのだ。
 それを知っている客達の揶揄に、その首筋は羞恥に赤く染まっており、恥ずかしげに伏せた目元も口も悔しげに歪んでいた。
 そんな姿がスポットライトに照らされてから数分。 
 不意にタキシード姿の男が脇に立った。目元だけの仮面をつけた彼は私の弟だが、私と違いこういう話をさせるとたいそううまい。
 そのために起用したのだが、薬を欲しがっているからギブアンドテイクというところか。
 そんな弟が咳払いをして、客の視線を引きつけた。
『まずは、今宵開催されますお披露目および開通の儀にお越しいただいたお客さまに厚く御礼申し上げます』
 半分ほど闇に身体を沈ませた弟の傍らで、スポットライトに照らされた身体が妖しく蠢く。視線が弟のほうに向き、何を言い出すのかとその片頬はひきつっていた。
『すっかりと準備が整い、今か今かと開演を楽しみにしているこれは、名を隷(レイ)と申します。隷属の隷の字を与えられたこれは、今後全てのものに従うことを運命(さだめ)に、今宵生まれ変わることとなりました。その記念すべき祝い事に、これだけ大勢のお客さまにご来場いただけたこと、この隷も深く感謝しているしだいでございます』
 その言葉に、拍手とざわめく声が周りから響く。
 私も、手にしたグラスをそっと持ち上げて、彼のために捧げてから口につけた。
 誰でも名を知る最高級のシャンパンは、こういう素晴らしい日にこそふさわしい。
『ぜひとも皆さまの深いお情けをこの身にいただき、名実ともに「隷」という名にふさわしい存在になることができますよう、主催する我らからお願いするしだいでございます』
「ひっ……」
 朗々と案内されたその内容にと、大きくなったざわめきに、彼の――隷の身体が戦慄き、裸足の足の裏が逃れようとばかりに冷たい床を蹴った
 だが、そのせいでバランスを失った身体は、天井から伸びた鎖の先にある首枷によって支えられ、喉が締まる。
「ぐぁ、ぁっ……」
 無様な呻き声が響き、バタバタと足が踊った。粘液が落ちているせいで滑った足が滑ったようだ。
 その拍子にペニスがゆらゆらと揺れて、糸を引いた滴があちこちに飛び散った。
 そんなことには気付かないのだろう青ざめた顔が、浴びせられる狂気のような欲を恐れているのは明白だ。
 スポットライトの中にいる隷は、闇に紛れた客達の姿を見て取れない。だからこそ、何人いるかも判らない視線に怯えている。
『おやおや、落ち着きのない様子で申し訳ございません。何しろ処女のくせにたいそうな淫乱でございますので、早く皆さまのお情けをいただきたいと興奮しきりでございます、ほら、この通り』
「ぎっ!」
 闇から伸びてきた細い棒が突き出すペニスを音が立つほどに叩いて、彼が歯を食い縛るより先に漏れた悲鳴が辺りに響いた。
 淡い色の茎に赤い筋がくっきりと残るのが、三方に設置されたスクリーンに拡大して映し出される。
『このような痛みを与えても、勃起どころか我慢汁を垂らして期待している始末です』
「うー、うー」
 否定したいのか、愚かしくも首を振った。
 だが、隷のペニスはいまだに勃起したままで、先っぽからはだらしなく淫汁が零れ落ちているのは変わらない。
 痛みに対する耐性は確認できていない。それも今日の最終試験にて判ることだったが、その様子ではなかなかに良い結果が出そうだ。
『こちらも……激しく苛められたいとこのようにピンと突っ立っておりますし……』
 二週間前には、あるのかないのか判らないほどに小さく慎ましやかだったそこは、今は腫れ上がり、赤黒く膨れていた。乳暈も範囲を広くし、白い肌にくっきりと目立っている。
 さらに、辺りに強く漂うのは男を誘うフェロモンでかなり広範囲に広がるようだ。そして、太ももを伝うのはアナルに仕込まれた潤滑剤のせいだけではない。
 前立腺を突き上げる体内に埋め込んだバイブにより、発情した女のように濡れていた。
『さて、この隷でございますが、まだ男を知らぬ身体でございます。このままではまだ青い実であって決してうまくはないでしょう。ですので、ぜひ皆さま方のお力を貸していただき、この身体を開花させていただきとう存じ上げます』
 とたんに、隷が驚愕に目を見開き、いやいやと激しく首を振った。
「あー、あーっ、ああっ」
 何かを訴えようと叫ぶ言葉は意味をなさず、身体は逃れようとしているがいたずらに枷が肌に傷をつけるだけだった。
 実際、処女が良いという客もいるが、処女は面倒というものも多いのは確かだ。
 それに、今日の最終試験の意図とは外れてしまうという問題もある。
 何しろ、今日の最終試験は、耐久性――隷が30人の男を相手に保つのかどうか、そういう試験なのだから。


『それでは、皆さま、よろしくお願いいたします』
 弟の言葉とともに首枷が離れた。
 鍵が外れた金属質のその音と、いきなり解放された首の締め付けに、隷がきょとんと呆けた視線を上へと向けると、ぶら下がった枷がその頬を叩く。
 一瞬遅れて、彼が目を見開いた。
 一度膝から崩れかけた身体が、よろよろと上半身を起こしていく。
 細められた目が、左右を素早く見回して。不意に、客席より数段高いステージから、その身体が飛び降りた。
 明るい中にいただろう目では闇を見通すことはできないだろうに。
 無茶をするものだと、私は喉の奥で笑いながら、手に持ったグラスを傾けた。
「捕まえろっ!」
「こっち寄こせっ!!」
「やっ、あーっ」
「すげぇ、ぬるぬるじゃるえかっ」
 隷が飛び降りた辺りは随分と賑やかで、下品な揶揄と、隷のうなり声が混じっている。
 そこから遠い客から見えないとブーイングが入ると同時に、スクリーンに暗視カメラが写しだした映像が映った。
 赤茶けた闇の中に、荒い画像の白い身体が浮かび上がり、そこに数人の客が群がっているのが見える。
 今はテーブルに押し倒されているのか、封じられた腕では身体を捩ることしかできず、足だけがバタバタと動いている。
 隷がはめている下帯はきつく股間を覆っているが、それを固定しているチェーンはネックレスのような喜平チェーンだ。引っ張れば肌に食い込み、加減が強ければ切れる程度の代物だ。と考えたところで、ピシッと鋭い音がして、近くに何かが飛んできて落ちた。
 闇を見通す私の目には、それが千切れたチェーンの欠片であることがはっきりと写る。
「おいっ、見えねえっ!」
「くそっ、どこだっ」
 どうやら周りの客達も業を煮やして移動し始めたようだった。
 その段階で、特殊なライトが室内を照らした。それは、ある種の薬を発光させるもので、今は隷の身体が白くぼんやりと浮かび上がる。
 このステージに上げる前に全身に塗布した薬に反応したのだ。
 それと同時。
「あーっ、いあぁぁぁぁ――っ!!」
 さっきまで違う悲壮な悲鳴が室内に響き渡った。さらに、ぐじゅぐじゅと独特の水音が一箇所からなり始めた。
「おいっ、あそこかっ」
「えーいっ、邪魔だっ」
 テーブルや椅子がなぎ倒される音が、耳障りではあるが、大きく足を広げた身体にのしかかる男の身体を見て取れば、大人しくはできないだろう。さらに、犯された瞬間に、ぶわっという勢いでフェロモンが拡散したのだから、耐性のないものには我慢などできるはずもない。
 目の色を変えた男達が、たった一人の隷に殺到する。
 それこそ隷を押しつぶす勢いだが、あの客の中には3人ばかりのサクラが含まれており、性的行為以外で隷が壊れることのないようにはするように指示をしていた。
 確か、今宵の客は30人を切っていたか。
 一隻の客船を貸し切っての一日限定イベントは、人工的に作成した淫魔もどきということもあって割安の参加料には設定した。しかも告知から披露目までの期間が短くて、人気は今一だったが、今後は口コミで広がって行くとは思っている。
 まあ、足りなかったら今後隷が稼ぐので相殺はされるだろうが、それでも赤字というのはおもしろくない。
 その辺りも少し考えないといけないかもな。
 私は小さく吐息を零すと、空になったグラスを置いて椅子から立ち上がった。
 闇とは言え、夜目の利く私には関係ない。
 さっきとは違う男に犯されながら、喉の奥で入り込んでいるペニスにくぐもった悲鳴が響いていた。さらにさっきまでなかった青臭い匂いが辺りに漂い始めていた。



 何が起きているんだろう。
 俺はどうしてこんなところにいるんだろう。
 なんで、こんな臭いものを口に突っ込まれて、身体の中を引きずり回されて、どうしてこんな快感に狂わされているんだろう……。
 口の中いっぱいに入り込んだ温く生臭いものがようやく出ていったら、すぐに頭上からポタポタと臭い汁が振ってきた。粘つくそれを拭う腕は後ろ手に括られていて、軋む痛みに悲鳴を上げている。
 なのに、手が肌に触れるたびに自分の口から零れるのは、甘い嬌声だ。
 どこを触られても痺れたように快感が全身を走る。
「や、ああっ、ひぃぃっ!」
 倒れ込んだ身体を抱き上げられ、勃起したペニスを扱かれた。下帯のリングに戒められて射精ができない場所への刺激に、目を見開いて身悶えた。
 ある日不意に射精をできないように貞操帯をはめられてからすでに一カ月。
 それ以前の射精地獄からすればどちらが良かったのか。
 だが、今、これだけ刺激されても出すことのできない状態は、神経が焼き切れそうなほどにつらい。
「ぎっ、がっ――あっっ!」
 口枷が無理に引っ張られて、ブチッと後頭部で音がした。
 とたんに閉じられなかった口から言葉が湧き出した。
「イク、イクッ、達かせてぇぇぇっ!!!」
 なのに、拒絶の言葉より先に、身体の中から迸る衝動から射精を求める言葉が飛び出る。
 ついさっきまで処女だと揶揄されていたアナルは、無数のペニスに貫かれ、そのたびに脳天を突き抜けそうな快感に視界は白く弾けていた。
 ものすごく達きたい、もう思いっきり吐き出したいのに、達けない。
 なのに、絶頂は強く、白い快感は長く続き、昇り詰めたまま墜ちることがないどころか、さらに高みへと連れていかれる。
「や、ああっ、あっん、ん、んぅぅっ」
「寄こせ、もっと銜えさせるんだ、俺のもんを」
「あんたはさっき遊んだろうが、今度は俺だっ」
「何をっ」
「喧嘩は他でやれっ! あんたはこっちだっ」
 頭上で喧嘩が始まるが、鋭い声に不思議と男達が従う。
 だからと言って、複数の男が群がっているのは変わらない。
「もっと腿に力をいれろって」
「んぐうっ、んあっ」
 力なく投げ出した足は、股関節が外れるのではと思うほどに大きく広げられ、男の太い腰を挟み続けていた。激しく前後する身体で擦れて、太ももが擦り傷を作ったように痛んでいた。
 そのヒリヒリとした痛みすら、肌の下がざわめいている。
 どくんと震えた口内のペニスが、たっぷりの生臭い白濁を零しながら抜け落ちる。思わず零しそうになった声は、新たな肉棒とともに再び喉の奥へと潜り、嬌声が新たな刺激を与えた。
「かわいいチンポを舐めさせてもらうよ」
「あ、ぁやぁぁっんっ」
 優しい物言いだったくせに、その舌の動きは容赦がなかった。くびれからシワの一つ一つまで丁寧に舐められて、びくびくと激しく痙攣しながら先っぽから何かを噴き出した。
 びちゃびちゃと小便のように流れるそれが、腹に留まり、背中まで流れ落ちる。
「まじ、すっげえ潮吹きするんだな」
「舐めただけっていうのに、どんだけ敏感なんだよ」
 嗤われながら、脇の下でペニスを扱かれた。
 乳首を鈴口に潜り込ませて、自慰をしている男もいる。反対の乳首は指先で押しつぶされては引っ張られ、その甘い疼痛に悲鳴を上げた。
 掴まれた髪が激しく頭を前後させられ、目の前がぶれる。
 全身を性具のように使われ、生臭い液体が全身を覆い、滑るせいで転がる身体は、すぐに捕まえられてまた別の肉棒に犯された。
 いつまでこれが続くのか。
 口をだらしなく上げて、こみ上げる快感に喘ぎ、全てを享受するし続ける。
 果てがない陵辱の最中でも、ほとんど気が遠くなりそうな快感を得ても、それでも俺の意識はここにあった。
 視界には数えることなどできないままに男達がいた。
 ぎらぎらとした視線で、犯すことだけを考えているのか。
「いー匂いだ。俺の逸物がますます元気になるぜ」
「ああ、犯すほどにこの匂いは強くなるな。まるで精力剤でも飲んだようだ」
 もう何度も犯されているのに、男達の精力は衰えるどこかますます強くなっている。
 そんなことに気付いても、それが人数が多すぎるせいなのか、本当に匂いのせいなのか。
 そんなことを考えることはできるのに、身体はもう犯されるだけで、声は喘ぎ声しか出なかった。




 ショーの終了を宣言し、それでも渋る客を客室に帰したのは、私がこの場所に戻ってきてからさらに一時間以上が経ってからだった。
 私が席を経ってから5時間は経過しているだろうか。
 生臭い精液の匂いが充満した広々とした部屋は、今や高級客船のホールとは思えないほどに散らかっていた。
 そんな中で、肌色の塊が小刻みな痙攣をして、丸テーブルの上で転がっている。
 正確な客の数は28人。
 それを元に今日の損益を算出してみれば、予想どおりにとんとん。赤字にならない程度だが、利益でもない。
 それでも、先ほど彼の方――黄勝様に連絡した際に喜んでいただけたのは、やはり大成功を収めた実験結果とそれを至らしめたこの薬の効果だろう。
 そして、その効果を余すことなく体現したこの蕩けた瞳をした隷の存在だ。
 今はどこを見ているのか判らないが、これだけの人数を相手にしても狂っていない。
 快感に狂い、射精を求めて尻を振っていたとしても、隷が流す涙は精神の苦痛のそれで、時折悲鳴とともに漏れる拒絶の言葉は真からのものだったのは、モニターしていたせいで明白だ。
「ぐ、げほっ」
 不意に、小さく咳き込んだ隷が、口角から白く泡立った唾液を吐き出し、物憂げに身動いだ。とたんに股間の奥から溢れる精液は、液だまりを作るほどに多い。
 それらを眺めながら、隷のいまだに勃起したままのペニスを見やった。そこには下帯のリングだけが残り、根元に食い込んでいた。そろそろうっ血してペニスの色が変わってきていた。腐らないようには調整しているが、それも限界だったか。
 まあ、射精しなくてもドライで絶頂を感じる身体だから、外す必要もないと言えばないか。
「隷……」
 近付き呼びかければ、その瞳だけが声を追ってきた。
「黄勝様がたいそうお喜びになった。おまえのおかげで私の地位も上がる」
 我らの一族の中で、彼の方に喜んでもらえるのは至上の喜びだ。
「褒美をやろう」
 虚ろだった視線が惑うように私を見上げてきた。
 その確かな正気を確認しながら、言葉を続ける。
「解放してやろう」
 とたんに、隷の目が見開かれた。
 私の言動から一度で終わるとは思ってもいなかったに違いない。
 だが、黄勝様は薬を提供する代わりに、私に次の実験をお与えくださったのだ。
「好きに生きるがいい。もっともおまえはすでに死んだ者となっているがな」
 薄笑いが口元に浮かぶ。
 とたんに隷の眉間に小さなしわが寄る。こんな状態でも正気なのは薬の効果だが、短い内容を正確に理解するのは素材がいいせいだろう。
「……おれ……死んでるのに……どう……、やって?」
 絶望の色の濃い言葉に、私は頷く。
「簡単なことだ。この顔を少し変えてやろう。それか、アメリカ辺りに行くか?」
 黄勝様考案の実験は、隷を野に放てば何が起こるかを確かめること。
 それはきっと一日でもあれば終了するだろう。
 さて、どこにこれを放つか。
 いまだに強いフェロモン臭がする隷を見つめながら、考える。
 アメリカ人でも体格の良い連中がいる……そういう地区に連れていくか。
「い、や……だ……」
 何を察したのか、隷が恐怖に青ざめたまま首を振る。そのたびに、髪についた粘液が流れ、テーブルを汚した。
「心配することはない。死ぬことはないさ。それに、そこにはもう一人一緒に行くものもいる」
 黄勝様のペットも同行させて、どんな相乗効果を果たすか、ペットがどんなことをしようとするのか確かめたいと嗤われていた。
 きっと隷については、ついでなのだろうが、黄勝様が言われるなら、私には異論はない。
 その準備を早々に行おうと踵を返した私の背に、隷がしゃくりを上げる。
「お、お願い……します……、も……殺して……」
 何度も何度も繰り返される戯れ言に、私は一度振り返り、そして言い放った。
「なんのために今日実験したと思う? 少々のことで壊れぬ身体だと証明するためだ。さらに、自死はできぬように設定されている」
「え……」
「死のうとすれば、その身体は発情し力が抜ける。同時に発生したフェロモンが近くにいる男は呼び、おまえを犯すために助けようともする。誰もおまえを死なせたいとは思わない。湧き上がる性欲故にな」
 大事な実験体に、なんの処置も施さないわけがないだろう。まだまだ確認しなければならないことはたいそうあるのだ。
 そう言い放った私を見る隷は、がく然とした表情のまま言葉を失っていた。

【了】