【最高の解放感】

【最高の解放感】

目覚め 番外編 シイコと陽介のお話になります。
甘い日常?のお話 短め
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まだ梅雨だというのに、一向に雨が降る気配はなく、俺は不機嫌さもあらわに空を見上げた。あまり枝張りの良くない木々は、自身を覆うほどの木陰はない。もう少し移動すれば木陰も増えるのだが、そこにいくとまた戻ってくるのが面倒だ。
「しくった……」
 これが待ち合わせ相手が選んだ場所ならば文句のいいようがあるが、ここを指定したのは自分なので今更どうしようもない。
 もっともここは大学の校舎から少し離れた人通りの少ない場所で生け垣とか密集して生えている木々とか、意外に他からは直に見えなかったりする。その割に結構開けていて、秘密の会話であっても盗み聞きされることはないという、密会するにはちょうどよいところなのだが。
 最近、テルと遊べないせいもあって、少し苛つき気味で何か苛つき解消のものがバックに入っていないかとテキスト類が詰まったそれをまさぐった。けれど、飲み物一つ入っていなくて、さらにイライラしてしまう。
「もう……」
 呟く俺の背に、ようやくと足音が聞こえたのはそのときだ。
「遅いです、陽介先輩」
 振り返りながら文句を言えば、困ったような笑みを浮かべた彼が「ごめん」と返してきた。
 遅いと言っても待ち合わせの時間はまだきていない。けれど、彼は強く言われると従うタイプの人間で、いつだって下手になってしまう。
 そんな彼の性質を見抜いているから、いつだってこんなふうに彼を振り回す。もっともそれが愉しいのだから仕方がない。
「でも先輩が約束を守ってくれてるなら、許しますよ」
 にっこりと笑って上目遣いに見上げれば、先輩は困ったように俯いた。
 さらりと流れる髪が彼の整った顔を覆ってしまうのが惜しい。
 俺が先輩と出会った頃は、根暗っぽくてださくて、どこぞのオタク、と言えるほどにそのまんまの格好だったが、黒フレームの眼鏡をコンタクトに変え、美容院で髪を整え、ファッションもチェックしたらそこそこに見られる姿になったのはうれしい限りだ。やっぱり自分のものだというなら、外見の好みも重要だと思うし。
 元々しゃべるときははっきりとしゃべるし、感情も豊かだ。ただ、それを他人の前では出さないだけで。もっともそれは俺だけが知っていればいいことだ。
 何せ俺は、先輩のご主人さまなのだから。
「で、どうです?」
 ニヤリと口角を上げて促せば、先輩が諦めたようにシャツの上から胸に手を当てた。もう一方の手はシャツの裾を引っ張るように押さえている。
「してる、ちゃんとしてるから」
 震える唇が赤く染まるほどに歯が食い込む。その唇に触れて解かせて。
「舐めて」
 にこりと微笑み、口を開かせる。
 従順な彼は、ご主人さまには逆らわない。
 初めて出会ってからもう半年ほど経ってるけれど、未だに初々しい姿はどこかテルに似ていて、先輩を選んだ自分の英断に自画自賛しているほどだ。
 今ではすっかり俺に支配されてくれて、とても従順な奴隷と言える。
 俺の命令におずおずと覗いた舌が、人さし指に触れる。ぞわりと心地よい快感に肩を竦め、にこりと笑えば、先輩もうれしそうに口元を綻ばせた。
 その潤んだ瞳が、蕩けるように揺れて、熱い吐息が零れてる。先ほど胸に触れた手が、ぎゅっとシャツを掴み、四方にシワを作っていた。
「もっと」
 押し込むように指を銜えさせれば、棒状の飴でもしゃぶるように舌が動く。そんな先輩をじっと見つめると、先輩もまた俺の視線に囚われたように見つめて返していた。
 その瞳に浮かぶあからさまな欲情にあおられる。
 最近ご無沙汰だった身体が浅ましく疼く。それは先輩も同様で、欲しいと、あからさまな欲求をその瞳にたたえてさらに舌がイヤらしくしゃぶり続けた。
 そんな先輩に、俺ははくすりと笑った。
「イヤらしいね、陽介先輩。こんなあっかるいところでそんないやらしくしゃぶって。ねえ、何を舐めてるつもりなのかな?」
 問いかけながらも、指先で掴んでいる手を突けば、頭も良い先輩は俺の意図に気がついて、おずおずと手を離した。シワだけが残るシャツの中心を指先で触れれば、肉とは違う固い異物に触れる。それにクスリと笑みを浮かべて、さらに強く押せば、指が熱い吐息に包まれる。
「ふふ、気持ちよかった、これ」
「あ、ああ……、堪らなくて……」
「どんなふうに?」
 濡れて唾液が垂れる指先で、そっと唇をなぞって言葉を促す。
 ごくりと飲み込む音が響いた後、白目の縁が明るくなるほどに欲情した先輩が離れる指を物欲しげに見つめながら告白した。
「じんじんと疼いて、堪らないんだ。急に動くし、そうなったらなんか…じっとしていられなくて」
「授業中ももじもじ腰を揺らしてた?」
 揶揄に「そんなこと」と答えた先輩は、けれど羞恥に顔を染めたまま、俯いた。
 きっとそんなことをしていただろう。この、快感に弱い先輩は、俺の調教に見事にその被虐の質を開花させ、苛められるほどに喜ぶようになっていたのだから。
「ねぇ、見せて先輩のかわいくていやらしい乳首を」
「え……ここで?」
 性的に蕩けていても、それでも人目を気にする先輩が辺りを見渡す。
「いや?」
「い、や……じゃないけど……恥ずかしい、し……」
 俯く視線が捉えているのは、シャツの下のいやらしい乳首。
 そこは今、俺が命令したとおりにテンチョ自慢の一品を取りつけている。
 それは一定の携帯の番号を受信するたびにバイブ機能のスイッチが入るニップルピアスで、今日の朝からずっと付けさせているのだ。
 そんな俺の携帯の今日の発信履歴は朝から何件先輩宛があるだろう。
 もっとも先輩がつけているのはそれだけじゃない。
 だって先輩のもっと大好きなところをいじめ抜いてあげなきゃ、良いご主人様とは言えないから。
 俺はポケットにあるリモコンのダイヤルを少しだけ動かした。
 とたんにびくとり震えた先輩が、潤んだ瞳で俺を見つめてくる。その切羽詰まった感に、俺まで欲情してイッてしまいそうだ。
「ふーん、じゃ、恥ずかしくないところ行こうか?」
 ここで無理に剥いてもいいけれど、それはそれで問題があることも知っている。
 何しろ世間にばれるわけにはいかない関係だ。それにまだまだ先輩で遊びたい俺としては、こんな些細なことで先輩を奪われたくはない。
「どこがいいかなあ? あ、あの桜の屋敷なんてどうかなあ。先輩、外で遊ぶの試してなかったよね」
 俺の嬉々とした言葉に、けれど先輩はさあっと青ざめ、俺から数歩離れてしまった。強ばった表情で何度も何度も首を振る。あまりのことに言葉も出ないようなそれに、俺はケラケラと笑い返した。
「判ってるって、先輩、あそこ苦手だもんねえ。もっのすごいぶっといチンポでさんざん喘がされて、尿道も開発されて、むっちゃよがってたけどさ」
 後から渡されたビデオは和風の拷問紛いの行為に、虚ろな表情で尻を振りたくっている先輩が映ってた。それこそ、もうイッちゃってるっていう言葉そのまんまに先輩は、けれどあそこでの行為を思い出したくないほどに嫌ってる。あやうくピアス穴を開けられたチンポが腐り落ちそうになるまで化膿したとなったら、イヤだろうけれど。
 でも、それ以外では、結構あんな拷問でも感じてたってことは知っている。
「だったら、俺がしたいこと、していい? 桜屋敷は諦めるからさ」
 そういえば、先輩はもう拒絶できない。まあ元から拒絶なんてしない人だけどね、あの桜屋敷以外は。
「うん、桑崎の好きなようにして欲しい」
 案の定、俺の望む言葉を言った先輩に俺は満足げに頷いた。
「そ、じゃ行こうか」
 ちらりと見遣った先輩の股間は少し膨らんでいる。サポーターをしているから目立たさないけど、今はきっと完勃ちのはず。
「先輩、ちょっと今の時間満員電車になっちゃうけど、我慢してよ」
 愉しく言い放つ俺に、先輩は一瞬強ばったように足を止めたけれど、すぐによろよろとその足を動かし始めた。
 それは一見嫌そうに見えるけれど、でも俺は知っている。
 だって、先輩は満員電車が好きだから。
 イキまくるほどに好きだから。


 寂れたラブホテルの一室で、ベッドの上で俺の股間にうまそうに吸い付く先輩は、尻を高く掲げて左右に振りたくっていた。俺はまだ服を着ているけど、先輩は全裸。
 だって先輩は奴隷だから、奴隷はご主人様の前で服なんか着る権利なんてないし。
 外で服を着るのは特別に許してるけど、二人だけのときは先輩はいっつも全裸だから。
 そんな先輩の尻から覗くバイブは、結構激しい振動で鏡に映る姿もぶれている。そこから続く線とコントローラーは太ももにバンドで貼り付けていて、俺が持つリモコンでも強度が変えられる。
 カチと小さな振動を指に感じれば、おもしろいように尻が跳ねて鏡の中でアナルがきゅっと引き絞られた。呻く振動が俺のペニスに伝わって、その心地よさに甘い吐息が零れる。
「いい子だね、先輩。でも射精は禁止、判ってるね」
「ん」
 小さく答える先輩の髪の毛をそっと梳いて、苦しげに顔をしかめている先輩の頬を撫でる。
「ほんと、いい子。後1日我慢できるよね」
「ん、ん」
 今度は二度頷く先輩に微笑みかけ、その身体を起こさせた。
「もういいや、俺先輩の中でイキたいからさ」
 ずぽりと口から抜けた俺のペニスはゆだったように湯気が上がっている。
 裏筋に小さいピアスをしている俺のペニスを舐めるのも先輩は大好きで、特にピアスが舌を刺激するのが堪らなくいいらしい。でも、もっといいのは、奥をガツガツと責められること。
 でもそれは今日はお預けだ。
 残念そうにペニスばかりを見ている先輩の背を平手で叩いて、尻をこっちに向けさせる。
 そのせいで、股間から垂れ下がるペニスがしっかりと確認できた。
 裏筋にも亀頭にもあるピアスは、その間と陰嚢の根元を拘束するバンドとを鎖で繫げていて、勃起を妨げる。もとより、陰嚢の動きを固定するバンドは、射精の動きをさせないから、簡単には射精できないのだ。
 それを取りつけてもう1週間で、約束の解放の日まで後1日。
 もじもじと尻を動かす先輩の陰嚢は重たげに張り詰めていて、内部を抉る振動にたまらなく感じているのがよく判る。
 それなのに射精できない苦しみは俺だって経験済み。だからこそ先輩にもたっぷりと味わって欲しいんだ。だって限界まで我慢して我慢して、それで許されたときの解放感っていったら。
「ねぇ、先輩、今日はたっぷりと先輩の中でイッてあげるから。もう、溢れるぐらいにたっぷりと」
 そう言いながら、先輩に見せたのは、一つの小さな鍵。
 それと共に、俺はスラックスを下ろして、同じような枷に固定された股間を見せつけた。
「今日は特別だからって、お許しをもらったんだ。なんかさ、俺が編集した先輩の調教DVDがむっちゃ売れたっていうんで特別に三坂さんが許してくれたよ」
 5日か6日か。
 もう数えるのも諦めた拘束がこんなに短く終わるのは特別なんだ。
 ちょうど三坂さんが忙しくて、なんか薬剤師の研修とかで留守だからってのもあるみたいだけど。
「ふふ、いいでしょ」
 見せつけるように鍵で枷を外していけば、先輩が肩越しに振り返って涎を垂らしそうなほどにうらやましげにそれを見ていた。
 それにくすんと笑って、先輩の腰へと手を置いた。
「たっぷりと楽しませて上げるから、いい声で鳴いてよ」
 ずるりとバイブを引き抜いて、そこがまだ閉じきる前に、ずぶりと鬼頭部を押し込む。そうなったら、後はもう一気だ。
「あ、ああぅっっ!」
 激しく悶える腰を押さえつけ、前立腺を抉るように奥まで叩きこむ。
「あひぃぃっ、ぃっ」
 喉を曝し、白目を剥くほどに見開いた瞳が、天井を捉えている。
 締まりなく開いた口から舌がだらりと落ち、涎が糸を引いてシーツに染みを作った。
「なんだ、挿入しただけでイッた? もうこらえ性がないなあ、そんな悪い子は明日も外せないかも」
 からかう言葉に、けれど、口答えなどさせなかった。
 ガツガツと激しく抽挿を繰り返し、崩れた身体にのしかかってその身体の奥の奥まで味わう。
「先輩、すごい、中がむっちゃ熱くて、やけどしそう」
「ひ、いっん……んぐっ、あうっ」
 快楽に弱い先輩は、いったん抽挿が始まるともうまともな言葉なんか返してこない。
「イキたい……射精し、たあぁ、ああっ、お願ぁいぃ、ああっ」
 快楽のとりこになって、射精したいってばっかり考えて、溺れきった先輩はたまらなくかわいい。
 痛みすらあるんじゃないかっていうくらい激しく突き上げても、恍惚の表情を浮かべてドライでの絶頂に狂いまくるのだ。
 もちろんそうなるように俺が躾けたのもあるけれど、先輩の場合は元々の素質も大きいと思う。
 だってここまでの被虐待質は、やっぱり先天的なものもあると思うんだよね。
 俺みたいに、一本どっかのネジが飛んじゃったのとも違う。
 テルみたいに理性は仕方なくっていうのだけど、身体がそれを裏切ってるというのとも違う。
 抑圧されたそれが解放されたら、淫乱でしたって感じかな。
「ねえ、せ、ん、ぱ、いっ。ずっとずっと飼ってあげるからさ、だから、いつまでもいい子でいてよね」
 俺の先走りやらローションやらでぐちゃぐちゃになったアナルに種付けをしながら、俺はうっとりと囁いた。
 いつかどっかに就職して、もっと稼げるようになったら、もっといろんな遊びをしてみたい。
 その頃には先輩も就職してるかなあ。できれば、同じ職場になれればいいけれど。
 先輩が欲しがるなら、別のオスを見つけて貸し出してもいいし。だって、先輩って別の男に犯されるのも好きだよね。だってあの桜の屋敷では、あんな不細工な男にも喜んでたし。欲しいなら先輩の好みのをテンチョたちにあっせんしてもらってもいいかもね。
 三坂さんも大好きで、彼に嬲られるともう堪らなく気持ちいいんだけど。
 先輩を苛めるのはまた違った楽しみがあって、最高で。
「先輩、ね、欲しいものがあったらなんでもしてあげるよ。だから今日もいっぱい先輩のだーい好きなチンポで犯してあげるからね」
「あ、く、わ、ざき……くるし、も、イキたい、射精したいっ」
「あー、でもそのお願いだけは駄目だよ。だって我慢した方がずっといいからさ」
「やあ、桑崎ぃっ、もう、あひぃぃぃっ、……ひぃ」
「うん、もっと責めて上げるよ、だからたっぷりと味わって」
 苦しげに呻く先輩の腰を捉えて、もっと激しく腰を押しつける。
 ぱんぱんと弾ける肌の音に、俺たちの荒い呼吸音が混じる。呻くような嬌声を上げる先輩の声はほんとに耳障りが良くて、もっと聞きたくて。
「先輩、ほらもっとがんばって締め付けて。いい子にしないと明日許してあげないから」
 とたんにぎゅっとしまったその熱い締め付けに、俺は唸りながらもたっぷりと濃いザーメンをぶちまけた。
「あー、やっぱり、サイコーっ」
 先輩の中も、溜めに溜めてた解放感も、何もかも。
 

【了】