蟻地獄の甘い餌7

蟻地獄の甘い餌7

【三】

 狭くて真っ暗闇の部屋にいた。
 暗いのに、すごく狭いということは判る。ちなみにどれぐらい狭いかと言うと、手を伸ばすこともできないほどに狭いのだ。
 こんな狭い部屋にいる理由も判らず、とっとと出たいと足掻くのだが、思うばかりで身体は動かず、むしろよけいに狭まっているような気がしてきた。
 なんつうか、動けないせいか首が痛え。肩もなんだか強張っている。
 何より、なんかが股間のあたりで蠢いていて、くすぐったいやら、暑いやら。
 お湯に浸したきめ細かな布でグチャグチャと拭かれてような、しかも俺のペニスを……。
 そんな経験などしたことないのに、浮かんだのはそんなイメージだ。
 その熱が背筋を通して這い上がり、全身に伝わってじわりと汗が滲んできた。
 と、不意に、何かがねっとりと絡みついてくる。
 ねっとりとした液体を満たした柔らかな穴にでも突っ込まれたような感覚に、「おい」と思わず発した言葉は闇に消え、先より強くなった違和感がしだいに肉を浸食していく。
 ざわりと包み込む蒸れた空洞というか、どこか覚えのあるそれがどこか思い出せない。
 この狭い穴、絞られるような、きゅうっと吸い込まれる吸引力……、確かにどこかで……。
「う、……」
 くそっ、と思わず舌打ちをついたその時。
 吸われてる?
 チュウチュウ、美味そうに食いつかれてる?
 って……。
 急速に晴れ渡っていく意識が、近い距離で人の気配を感じ取った。
 誰かがいる、と、頭が理解するより先に、閉じていたまぶたが開く。
 とたん視界に入ったコンクリートの打ちっ放しの壁に、禍々しい器具の数々。天井から垂れた鎖は何もついておらず、床は湿っぽく濡れた跡が残っていて。
 何より。
「て、めぇ……何、してやがる?」
 見下ろした先に、白い肌を傷だらけにした男の姿。
 誰かなんて考えるまでもなく、リアンであるその前髪をひっつかんだ。
 くすぐったいと思ったら、これの髪の毛が下腹を擽っていたのだ。
 さらに、空いた隙間から見えた俺のペニスは、しっかりとこれの口の中に消えていて。
 外そうとしても容易に外れないくらいに必死になってむしゃぶりついている。
 一瞬で状況が理解できたが、なんでこいつが自由にうろついて、俺のペニスをしゃぶってるのかまでは判らない。
 どうやら、あまりの退屈さにグウグウ爆睡してから数時間、首も肩も痛くなってしまったほどに眠っている間に、ゴルドンとマーマニー二人の担当時間は終わっていたらしい。
 むせかえるような淫臭の臭いがこもる部屋に、何も放置するこたぁねぇとは思うのだが。
 何より、どうしてこれが自由なのか?
 おいっと前髪を引き掴んで外そうとするが、今度は嫌だとばかりに腰にしがみついてきた。
 と言っても柔な力だから外そうと思えば外れるが、これにしゃぶられるのは好きなので堪能するにこしたことはない……と思ってはいるのだが。
 それだけで済まない問題が一つ、どうしてこんなことをされるまでこの俺が気付かなかったのか、ということだ。
 椅子からずり落ちそうになるほど背もたれと壁にもたれて爆睡。その間にスラックスの前を開けられて取り出されて、しゃぶられる。
 これが敵だったら、今頃切り落とされていただろう恐怖は、血の気がひくほどの冷や汗もんだが。
 だが、常ならばあり得ない状況を作り出したやつがいたとしたら、この状況も考えられる。
 まあ、この状況を作り出した張本人など、深く考えなくても判ることだ。
 でなければ、こんなにも爆睡しねえよな、と窺えば、俺のペニスはまだ元気で、さすがにまだ達ってはいないと思う。それに、この漂う淫臭に、乾いていない体液の痕からして、前段が終わってからそんなに時間は経っていないだろう。
 ただ、時計を見やれば、記憶がある時刻より優に五時間は経っていた。
 いくらどこでも寝られるといえ、常にない状況を起こされたと言えば、すぐに原因に辿り着く。
「あのやろうの薬か、おい」
 確かあいつは、暴動鎮圧用だとスプレー式の睡眠導入剤なんかをどっかに置いてあるはずだったから。
 堪らずに叫びそうになったそれをかろうじてささやき声までに押さえてみるが、聞こえているはずの二人から応えはなく、ただリアンが黙々としゃぶり続けるだけだ。
 まあいいけどな……。
 今更責めてもどうしようもないことを考えていても仕方がないと、相も変わらずむしゃぶりついてるリアンを見下ろした。
 もうすっかりできあがった感のあるリアンの様子に、ここまで来れば、己から逃げ出そうという気は起きないだろうと判断したのは間違いない。
 これの拷問参加にもっと多くの部下たちが立候補していたのだが、あの二人を選んだのは、何よりあいつらダブルの組み合わせの攻撃に耐えられた奴がかつてないという確実性に縋ったからだ。
 大勢で陵辱するのは壊れやすいが、そうでない輩もいる。だが、あの薬と痛みと言葉の攻撃は、なぜかものすごく効くのだ。そういうことで、いろいろな組み合わせよりもあの二人でやったほうが確実に堕とせると思ったのは間違いない、けど。
 この様子から、それが的を射た選択だったことは明白で、薬の影響があるのかもしれないが、この身体はすっかりできあがっていることは間違いない。
 だが満足かと言えば、なぜか胸の奥に妙な感覚があって。
 軽く唇を突き出して仏頂面を晒しながらも、リアンの背に目をやれば、俺がつけた以上の傷が縦横に走っていて、皮膚も裂けていた。この痕はゴルドンの鞭によるものだとすぐに判る。
 無心にしゃぶるリアンの口腔内を堪能しつつ、手を伸ばしてその傷に触れてみれば、薬で処置はされていようでしっとりとした湿り気を感じた。
 マーマニーにより最低限の処置はされているのだろうが、乾き始めた皮膚は触れてもひきつって痛むはずだ。
 なのに、リアンはそんなことも気にならぬかのように一心不乱に吸い付いている。
 完全に勃起したそれは、銜えるのも難儀なはずだったのに、今やすっかりと喉の奥まで迎え入れて亀頭がすっぽりと包まれていた。
 気持ち良くないといえば嘘になるが、どうも心の奥底が冷たく、快感に乗り切れない。
「んぐっ、ぐっ」
 時折喉の奥の刺激にむせながら、それでも離そうとしないままに首を振り、舌を絡みつかせ、溢れるままに唾液を零している。
 長いゴルドンのに比べたら、そりゃあ俺のほうがマシだろうけれど。
 不意にそんなバカな考えが頭に浮かんで……。バカだって判ってるのに、むかっ腹がどうしようもなく立って。
「離せっ」
 今度こそ、両手で頭を鷲掴みし押しのければ、ずぼっとずいぶんな吸引力で吸い付いていたペニスが涎まみれで現れた。
 間で泡だった唾液がぼたぼたと床に落ちる。
「いい加減にしろやっ、しゃぶって良いとは言ってねぇ!」
「や、あ……、チン、ポぉ……」
 けれど俺の怒りにすら聞く耳も持たないとばかりに、リアンが必死になって求めてくる。その額を片手で押さえ、近づけさせないようにしながら、ますます俺の眉間のしわが深くなった。
 この様子なら、これが完全に堕ちたのは誰の目にも明らかだ。
 押しのけてへたり込んだリアンには、両手首の枷と勃起したままのペニスの拘束具とカテーテル代わりなのか、プジーが突き刺さっている以外は何もついていない。吊るためのハーネスも首の枷も外されている。
 さんざん犯されたらしいことに、尻の辺りに精液と潤滑剤の液だまりまで作っており、それでヌルヌルと床の上を尻が滑っていた。そのまま座り込んだ足が力無く伸びているのは、足腰が立たないからだ。現に片手にそれほど力を入れていなくても、リアンは動けない。
「なんだ、そんだけやられたっていうのに、まだ足りねぇって言うのか? 汚ねぇザーメンが溢れてんじゃねえか」
 リアンの身体から俺以外の精液が出てくるのが、やたらに不快だった。犯すところを見るのも、犯されてひいひい喘いでいるところを見せつけられても全くの平気だったのに。
 目の前の、こいつが他人に犯された証をまざまざと見せつけられる今の状況のほうが、なぜか、不快な感情が大きくなる。
 そんな己の心情が理解できず、俺は顔を顰めて、にじり寄ろうとするリアン目がけて足を突き出した。
「ぐぎっ」
 無様な悲鳴を上げて転がる拍子に、赤く腫れ上がったアナルが見えた。
 よく見ればそこからコードが覗いていて。
「は、ん……まぁだ玩具で遊んでんのかぁ?」
 欲に狂った身体は、自分で抜くことなど考えないのか。それがまだぶるぶると震えてるのがコードの様子から判った。
 尿道のプジーにしろ、尻のバイブにしろ、よっぽど気に入ったのか、と思ったのだが。
「こ、ごしゅ、人さまが……、い、入れておく、よーにって……」
 うつぶせから上半身を起こして、蕩けた笑みを浮かべたリアンがうっとりと伝える。
「約束、守ったら……気持ちいーこと……いっぱい、してくれる、ぅ」
 無邪気な幼児のように、伝える言葉に、すうっと身体の熱が下がっていく。
「ご、主人、さま?」
 知らず低くなった声音に、リアンは気付かない。
「うん、ご主人、さまぁ……リアンのご、主人さまがぁ。オモチャ、でぇ……遊ぶのぉ……、お、まんこ……も、チンポも……、いっぱぁい……」
 手が、尻に回ってぐちゅりと指を入れていく。もう片側の手がペニスを扱き、摘まんだプジーも抜き差しする。
 そこにはカテーテルに痛いと喚いていた姿は無く、まさしく性奴隷と化した存在でしかない。
 こんな姿は過去幾人も見ていた。
 限界を超えた調教の果てに、理性を手放し、生きるために快楽に浸ることを覚えて、主人と認めたものの言いなりになって。
 だが?
「……ご主人様とは誰だ?」
 こいつの口からそんな言葉が出ることに、腹の底が冷えて、だが同時に、一気に熱いものが込み上げた。
「ゴ、ルド、ン、さまと、マー、マニーさま……」
 まして、うっとりした表情で、他人の名を言われるとは。
「ゴルドンとマーマニー?」
「ゴル、ドンさま、は、おま、んこ……、オモチャで……遊べ、と。そしたら……鞭打ち、痛いのを我慢、したら、良いこと、してくれる……」
「へえ……鞭ね」
「マーマニー、さまは、バージルのセーエキ、お腹いっぱい……たべなさ、いっ……て」
 その視線が、俺の股間に張り付いたらもう外れない。
「……セーエキ。いっぱい、食べた、ら……ご主人さま……は、気持ちいーこと、してくれるって……」
 言葉とともに手が延びてきたのを、強く腕を払ってはね除けた。鋭い痛みが手のひらに走り、リアンがきょとんと俺を見上げる。
「そうか、俺の精液喰らったら、ご主人様が犯してくれるのか」
 理解できた言葉を、復唱する己の声が低い。眇めた目で睨みつける俺に、理性のないこれはその意味に気付かない。
「う、ん……、チンポ欲しい……って、お願いしたら……くださぃって、こうやって」
 目の前で土下座をして頭を下げるその目は、やはり見ているのはチンポだけ。
「ご主人さま……が、しろって……言われたこと……いっぱい、した……食べろって……言われた、から、ご主人さまたちのも食べた……けど、もう出ないから……」
 ぺろりと乾いて傷の入った唇を舐める。
「出ないから……もらえって……」
 よく見れば、全身いたるところに精液がこびり付いて、乾き始めていた。
 これだけ外に出せば、リアンが飲めた精液などたいした量では無いだろうけれど、まるで俺がサブであるような物言いに、理性が一気に薄くなる。
「だか……ら……ちょーだ……い、ひぎぃっ」
 近寄ろうとするそれを、再度蹴飛ばして、ぎりりと奥歯を噛みしめた。
 すっかり色狂いとなったこれは、もともと俺のモノなのだ。
 なのに。
 あいつらをご主人様と呼ぶ、そのことに激しい怒りが湧いてくる。
「あ、……あ、ご主人さま、の、オモチャ、が……」
 転んだ拍子に息んで飛び出したのか、ころんとパールローターが転がっていた。
 それを慌てて取りに行こうとするのにすら、目の前が眩み。
「来いっ」
 四つん這いで這う腕を掴み上げ、立ち上がるのも待たずに天井から延びる鎖へと連れて行く。軽い体は腕一本でも容易に這いずらせることができて、すぐに右腕に鎖を巻き付け、解けないように枷と繋いだ。
「痛ぃ……ううっ、い、痛っ、やあっ」
 上昇した鎖は、片手を伸ばして背を伸ばし、足裏が付くかどうかの高さで停止する。
 まともに支えられぬ足でかろうじて立ち上がっているリアンが苦しげに呻くのをそのままに、俺はすぐに壁際のロッカーへと向かった。
 道中手早く、みっともなく飛び出していたペニスに気付きしまい込んだが、意識はすぐにロッカーの中へと向かった。
 そこから一本の鞭を取り出す。それは愛用の鞭の中でも一番太く、強い打撃を与える代物だ。
 この狭い空間では少し長めで使いづらいが、その分獲物の身体に巻き付いて、全身を嬲ることができる代物だが、それを取り出して。
『おいっ、何をしている?』
 耳元で聞こえた声に、「うるせぇ」と反射的に怒鳴る。
 とたんにリアンがびくりと震え、何が起きたのか分からぬ表情のままに、ようやく俺の顔を見た。
 耳の中のイヤフォンも沈黙したが、そんなことはもう俺の意識は無視していた。
「ゴルドンの鞭は気持ちよかったかあ?」
 一振りすれば、床を打って良い音を立てる。
 昨日の鞭音とは違う、どちらかと言えば、ゴルドンの音に近いそれに、ビクリと震えたリアンの体が色を失った。
 ようやく俺の怒りに気が付いたのか、それともご主人様でない鞭は怖いのか。
「鞭が欲しいってんならくれてやるよ、俺のをな」
 知らず片頬が歪み、口角が上がった。ぺろりと唇を舐めたその時、リアンの表情に明らかな怯えが走る。
「ひっ」
 体を捻り、逃げを打つところを捕らえて、その身体に鞭が巻き付いたのはその直後だ。
 撫で払った鞭が離れ、宙を舞う。
「ぎゃぁぁぁっ」
 一拍遅れて、悲鳴が鼓膜を振るわせた。
 ぐらりと揺れた身体がかろうじて踏ん張ったのは、腕に絡みついた鎖のせいだ。
「ぐぅっ……」
 手のひらに触れた鎖を握りしめ、腕の筋が突っ張る。反対の手がそんな腕を庇うようにその腕に縋っていた。その身体に、第二打を加える。
 バシーンッ!!
「やああぁっ!!、ひっ、きっつぅ、ああっ」
 泣きの入った悲鳴が迸る。
 ぴちゃっと頬に何かが飛んできて、ふっと手のひらで拭ったそれを舌を出してぺろりと舐めた。
 塩辛いそれと同じものがリアンの頬を伝い、ハアハアと苦しげに喘ぐその背から左右の腰に渡って腹まで、二本の赤い線がくっきりと入っている。
 長い鞭は、一閃すればそれだけで身体に巻き付き、深い痕を残す。
「効くだろう? 俺の鞭のほうが」
 ゴルドンよりももっと。
「ひっ、いっ……」
 伏せた顔が上がり、涙に濡れた瞳が俺を映す。汗に濡れた額に髪が張り付き、ふるふると小さく横に振られた首とともに、逃れるように後ずさっていく。
 その離れた分だけ近づいて、先よりさらに大きく振りかぶり、一気に振り下ろした。
「ぎぁぁっ!!」
 皮膚が弾けるほどの打撃にリアンの身体がぐらりと泳ぐ。
 くっきりと浮かび上がった肩から胸、腹までの打痕は、リアンの身体によく映えた。惜しむらくはすでにゴルドンたちの不快な痕がたっぷりと付いた後だったが、それでもこいつには鞭の痕が似合うのは確かだ。
「……ぁ、あぁ、やめっ、痛……ぁぁ、許し……てぇ」
 ゆらゆらと揺れる身体が、必死になって逃げを打つ。
 打たれた前面を庇うかのようにぐるりと身体を回転させれば、白い肌に縦横に走った昨日の痕が浮かんでいて。
「ふ、ん……俺の鞭が良いって言いな。もっと打って欲しいってな」
 ほくそ笑みながら、今度は正確に昨夜の痕の上に打ち込んだ。
「い、ひぎ、ぃっっ!」
 制御することを優先したせいか、威力が弱まる。
 それでも、傷が弾けるには十分だ。
 そこにさらにもう一発打てば、背がきれいに弧を描き、天井を仰ぐ顔から舌がだらりと零れ落ちた。
 と。
 カラン
 どこかで金属質の音がして、視線を向ければコンクリの床に金属の棒が落ちていた。
「おい、お気に入りの玩具が落ちたぜ」
 衝撃に息んだ拍子に力が入ったのか、それとも自重で落ちたのか、リアンのペニスに刺さっていたはずのプジーが落ちてしまったようで。
 ピチャピチャと僅かな液が後を追っていた。
 水分が足りていないのか、その量は少ない。
「ったく、締まりがねぇ穴だなあ」
 しょうがないと拾い上げようとして、ふと目に入ったリアンのペニスに、俺は身体の動きを止めた。
「へ、え……」
 堪らず漏れた感嘆の声の意味に、固く目を瞑ったままのリアンは気付かない。
「おい、目ぇ開けろ」
 プジーを蹴飛ばし、目の前に立って、これの顎を掴んで引き下げる。
「開けて、てめぇの浅ましい姿をよっく見な」
 低い声音で強く言えば、うっすらとまぶたが開いて。
「わあわあ喚いているくせに、てめぇのチンポは我慢できねぇってぐらいに勃起してるぜぇ」
 枷の下で窮屈に膨れあがって、なおかつ解放された鈴口からだらりと粘液を垂れさせている勃起ペニスを指し示した。
「普通、痛かったら萎えるだろうに、なあ……。てめぇのは善すぎて、涎まで垂らしてやがるぜ」
 クツクツと喉の奥で嗤いながら、空いた手の指でチュクっと亀頭を揉んでやれば。
「い、やっ……ああ、……」
 すぐさま堪らないとばかりに腰が揺れるではないか。
 目の前では、肌にくっきりと鞭痕を作り、あまつさえ出血をしているところすらある。
 なのに、こいつは感じているのだ。
 そうではないかとは考えたこともあったが、これで確定した。これは痛みにさえ感じる体質なのだと、はっきりと判った。
 だいたい割と最初の段階からそうじゃなかったか?
 こいつの勃起は、たとえ薬のせいであったとしても、いや、それより前から勃起していたはずだ。痛いと喚いていても、決して萎えていなかった身体。
 薬が切れた後でも勃起は収まらず、無理矢理な口淫でも、股間だけは元気だった。
 しかも、相当な痛みでもOKな、まれに見る被虐体質。
 驚き、けれど、そんな事実にこの身の内に深い愉悦が湧き起こる。
「だったら、もっと鞭打ってやろうか? なあ、リアン」
 嗤いながらその身体を離したら、嫌だとばかりに腰が追ってくる。けれど、その表情には明らかな絶望が浮かんでいた。
「や、あ……な、何でぇ……やあっ、痛い、の……やあぁっ」
 ボロボロと涙を流していて、俺の手を恐怖でもって見つめているというのに、その身体は先より紅潮して、勃起は少しも収まっていないのだ。
 実際痛み自体は変わらないのだろう。
 身体も脳も、明らかに痛いと悲鳴を上げるけれど、性器だけは反応してしまう。
 それは死に至りそうな恐怖により子孫を残そうとする本能が働いているのかもしれないと、どっかのまじめな医者とかは言いそうだが、おれにとっては単純な話、これがマゾだっていうことだけだ。
 卑猥なオブジェのように、自己主張するペニスが求めているのは俺の鞭なのだ。
 そう考えるだけで、身体の奥の熱塊が暴れ出す。さっき中途半端に煽られたままの股間が、またぞろムクリと鎌首をもたげて、無理矢理に仕舞い込んだ収まりの悪い中で突っ張ろうとしている。
 それが味わった熱い肉の感覚を思い出して、覚えずじゅるりと口内いっぱいに涎が溢れ、溢れそうになるそれを腕で拭いつつ、飲み込んだ。