蟻地獄の甘い餌8

蟻地獄の甘い餌8

 
 振るう鞭に、悲鳴が被さる。
「いやっ、ぁ、バージル、さまあっ、おねが、ぃっ」
 許して欲しいなら名前を呼べと言ったら、自発的に敬称を付けられて、その狡猾さに笑みがこぼれる。
 金持ちの甘ちゃん息子と思っていたけれど、すでに六発目の鞭を喰らって、それでも気を失わないのだからたいしたものだ。しかも、昨日からすれば一体どのぐらいの鞭を喰らっていることか。
 なのに、気も失わず、媚びを売るような振る舞いまでするのだから、まだまだ余裕だろう。
「ほらっ」
「ああ──っ!!」
 前の傷にクロスして背を打てば、流れた血が飛び散って俺の腕にかかる。それを舐め取れば血生臭い味に極上の美酒のごとく酔いしれる。
 これが好みでないクソ野郎だったら、汚した罰でもっと激しく打つのだが、この血はリアンのもので、そうなれば全ては俺のもの。その全てが欲しい相手のものであれば、血の一滴すら無駄にはできない。
「うああっ、やあっ、バー、ジルさ、まっ、ああっ、ひぃぃっ、バージル、ぁぁ、あーっ」
 緩急つけて、弱く打てば俺の名を喚び、強く打てばただ悲鳴を上げるだけ。
 だったら、と、弱く打つのを増やしてやれば、ますます俺の名を呼んでくれる。
 しなやかな身体が仰け反り、新たな傷が妖しい紋様を作り上げる。
 他人が付けた痕を覆い隠し、鮮やかな痕が、俺の鞭をさらに誘った。
 つうっと腰から尻の丸みを伝う血の滴の卑猥さに、堪らずごくりと息を飲んで、ゾクゾクッと這い上がる快感に、身震いした。
 やっべえ……。
 もうすっかり張り詰め切ったペニスの元気さと言ったら、後ほんの少しでも刺激を喰らったら暴発しそうなほどになっている。
 さすがに暴発なんてことになったらヤバいが、それでも湧き起こる衝動がもたらす精神的な快感がもっと欲しくて堪らなく、より効果的なところを探した。
 たいして激しく動いているわけではないけれど、つうっと首筋に汗が流れて、同時にリアンの背にも汗が流れる。それが血と混じり、薄い痕を残して落ちていった。
 他の場所でもじわりと滲み、集まって、きれいな滴を作り落ちていく。ポタリ……ポタリと続くほどに、深い傷もあるけれど、出血多量というにはほど遠い傷ばかり。
 時折ふうっと意識を失いかける様子はあるけれど、新たな痛みがすぐに正気に戻す。
 その瞳に色が戻る瞬間、その色の美しさは、過去どんな相手よりも美しい。
「ああ……」
 ほどよい酩酊状態に陥っている俺の気分はすこぶる良かった。
 つい先ほどの怒りなど今はどうでも良くて、広がる鞭の模様が俺を誘う。
 こうやって鞭を振るっていたら、鬱陶しいゴルドンの痕が消えるのも良かった。
「まだ、痕がついていないところがあった……」
 赤黒く腫れた尻タブから血が流れた先、白い内ももにいくつか残る痕はあるがどれも薄い。
 皮膚の弱いそこを打ったゴルドンの姿を思い出して、不意に湧いた不快感とともに、無性に消し去りたい衝動が湧き起こり。
「足を広げろ」
「ひっ」
 安定しない身体を支えるように僅かに開いて立つ足下を軽く打てば、床で跳ねた鞭先が掠めた足を慌てて横にずらす。
 その柔順さに笑みが浮かぶとともに、ますます露わになったクソゴルドンの鞭痕に、ムカムカと不愉快なむかつきがまた増してきて。
 振り上げた手が、狙い通りに鞭を操る。
「ぎぁぁっ!」
 狙い違うことなく古い痕を隠し、鮮紅が滲んだ。そのまま横にないで、反対の足も打つ。
「ぎっ、あっぅっ!」
 がくっと身体が崩れ、背中が大きく目の前に来て、再びその背に打ち下ろして。
 悲鳴とともに跳ね上がったその両の膝の下へ、思いっきり横に払った鞭を巻き付かせるように腕を振った。
 その鞭がきれいに膝下から跳ね上がり、返した先で太股の辺りで一周して前に回った鞭の先が、その前方に突き出していた肉の棒に。
 当たった。
「ひ、ぁぁぁぁぁっ──、やっ、あぁぁぁぁんんんんっ!!」
 ビクッと跳ねたペニスが、その陰茎にくっきりと赤い筋を浮かばせる。
 半ば崩れかけていた身体が跳ねるように飛び上がり、仰け反った身体が大きく逸らされて。
 目玉が飛び出しそうなほどに開いたリアンが大きく、長く吠える。
 ガクンガクンと何度も激しく痙攣し、陰嚢が激しく収縮を繰り返して、鈴口が呼吸をするかのように喘いで。
 射精はしていない。
 していないけれど、あの様子では確実に射精をしかけていた。けれど出せないそれは尿道に至る寸前で狭められた尿管が栓となり、駆け戻ったはずだ。
 そんな苦痛に、けれど今のリアンが感じているのは快感だった。
 紅潮した身体、見開いた瞳は茫然とどこも映しておらず、尻タブはきゅうと締まり、腰がガクガクと突き動かされている。
「……はっ、はっ……はっ」
 吐き出しきった息がまともに吸えないのか、不規則な呼吸の身体は、硬直しっぱなしだ。
 その、明らかに絶頂に至った姿を見て。
 いや、それより前、これが達った瞬間を見て。
 俺は。
 半ば呆然としたままに、ごくりと息を飲んでいた。
 未だかつて、鞭打ちして勃起したことはいくらでもある。興奮しまくって、先走りで濡らしたことも多い。ずいぶん前には堪えられないほどに感じてきて、途中交代して一人扱いて達ったこともあるし、我慢ならないとばかりにその固い尻をいただいたこともある。
 だが、今は。
 嘘だろ……と呆然と自問し、けれどその答えは、否、それだけだ。
 股間のスラックスの下、じわりと感じる滲み濡れるそれに、俺は平静を装いつつも内心思いっきり動揺していた。
 動揺ついでに、怒りも消えた。
 だが、刺激も無く射精したせいか、満足できていない。
 怒りに脳天まで駆け上がっていた衝動はそのままに、股間のそこは未だ勃起したままなのだ。
 触れもせずに、鞭打ってリアンが達ったと判ったとたんに暴発してしまった己の情けなさは、さすがに誰にも気付かれるわけにはいかないが、さりとてこのまま濡れたままではいつかはバレる。
 誰にと言うより、バレたくない相手などごまんといるという、その筆頭が今鏡越し&これからビデオを見るであろう連中どもだ。
 内心ため息吐きまくりではあるが、それでもこのままでいるわけにもいかず、俺は早々に次にこの昂ぶった身体を解消することにした。
 何せ、目の前にはたいした淫乱っぷりを白日の下に晒した相手がいるのだから。
「すげぇな……」
 押し殺した声音で呟き、ぐらりとした身体をじっくりと眺める。
「俺のこの鞭で達ったやつなんて、始めてたぜ」
 それは掛け値無しの賞賛だった。
 しかも、今の打った感触だと、骨にダメージを与えた可能性もあった。
 ずしっと重く響いたその反応に、一瞬『しまった……かな』と思ったのを今頃になって思い出す。
 まあ、その後に続いたことへの衝撃のほうが強くて、しばし忘れてしまってはいたが。
 とにかく、どちらにせよこれは手放せないし、それに。
 俺を達かせた奴も……いねえぜ。
 内心で呟いた言葉は、絶対にこれにも内緒だ。
 額に浮かぶ汗を袖で拭い、握りしめていた鞭の柄を、傍らの台車に置いた。
 リアン自身も先ほどの絶頂は今までの比では無かったのか、それとも激しい痛みの中で迎えたことへ驚愕しているのか、未だにどこか呆然としたままに片手で吊られていた。
 そんなこれのペニスへと視線をやれば、満足に射精できたわけでないせいか、それ自身の痛みもあったはずなのに、まだ勃起したままだ。
「……して……」
 そんな時、俺の耳に掠れ、弱々しい声が届いた。
 視線を上げれば、リアンが虚ろな瞳を揺らめかせ、掠れた声で何かを呟いいて、耳を澄ます。
「ゆ、る……て……。もう……くる……う……、やだぁ……こんな…、痛い、のにぃ……何でぇ? ああ……」
 それは無意識の言葉なのか、それとも理性が訴えているのか。
 どうやら叩かれて自分が絶頂を迎えたことは認識しているらしいそんな言葉に、嗤い返す。
「てめぇが正真正銘マゾ体質ってことを証明できて良かったじゃねえか。だいたいずっと俺が言ってただろうが。てめぇはうす汚ねぇ変態ジジイどもを変態プレイで喜ばせる身体なんだってなあ。ああ、鞭打たれて達きまくる身体だって、そのジジイどもに教えてやるよ。そしたら、喜んで身代金でも何でも払って助けてくれるだろうな。てめぇを犯したくてウズウズして、チンポと口から涎垂れまくりでなあ、良かったじゃねえか」
 尻穴の具合も最高級、ついで痛みに結構耐えて、あまつさえそれで絶頂を迎える身体。
 モリエール家当主がどこまでこれの質に気付いていたのか知らないが、クソ親父の目論見通りになっていたら、こいつはたいそうな儲け頭になっていただろう。
 そんなことがバレてたら、もう容易に手放すとなど考えられないから、こいつは一生籠の鳥で、モリエールのためになる客を喜ばせて生きていくことしか許されなくなるだろう。
 ああ、そうだ。穀潰しと考えていた息子が、そんな役に立つ代物だと知ってしまったら、こいつの役目は一生、悪趣味なジジイどもの接待役でしかない。
 これの身体に溺れたジジイが、モリエール家の言いなりになるのが目に見えるようで。
「いや……ぁ、助けて、そんなの……やだぁ」
 リアン自身も想像したのだろう。バカでない頭に浮かんだ想像に、止まったはずの涙がボロボロと流れ落ちていく。
「助ける? 何から?」
「い、いや……こんな、の……。嫌だ、お、おれ……も、う、犯され、たく、ない……」
「誰に?」
「や、し、司令……官……、副官……あ……やっ、お、俺を見る、みんな……、触れて、きて……」
 ヒクッとその肩が揺れた。
「パー、ティーで……俺、を見て……、笑ってた……人たち……。その中に、司令官がいて……ヒクッ、それで、気に入られたようだから、しばらく、仕えろ……って……。そんな、人たち……が、やだぁ……ひくっ」
 最初に俺が責めたとき、『そんなことはない』とでもいうように否定していたが、どうやらある程度は自覚はあったのか。
 やはりこれ自身もそうではないかという疑いをずっと持っていて、それでも逃れることなどできずに、地獄への道を辿っていたのだ。
 その強大すぎる権力を持った実の親によって。
「へえ……だったら、助けて欲しいか?」
「助けてぇ」
 即答だった。
「仲間のところ、いや、親父のところに、戻りたくないのか?」
「い、いやっああっ!!」
 絶対に拒絶する先を選べば、それに対する返答は絶叫に近かった。
 泣き濡れた瞳が俺を見る。ただ俺だけを映した瞳は美しく、魅入られて合わせた視線が外せない。
 縋るようなその意志ある瞳に、額や頬に濡れて張り付いた髪、赤く腫れた乳首に、無数に走る鞭の痕、未だ勃起を収めぬペニス。
 何より絶頂の余韻に紅潮した肌は匂い立つような妖艶さすら漂わせていて。
「だったら……ぉ、……しゃべれ」
 あやうく『俺の物になれ』と言いかけた言葉を飲み込んだのは奇跡だ。
 それはたぶん鏡から伝わる無言の圧力のせいもあったかもしれないけれど、とりあえず俺自身の仕事への熱心さということで。
「てめぇが知ってることしゃべれよ」
 そう言いながら、腕から鎖を外してやって、崩れ落ちかけた身体を支えてやる。
「う、くっ……」
 もう足にも力が入っておらず、ずるずると腕の中でずり落ちていく身体を支えながら横たえたが。
「うくっ……」
 吊られた側の腕が床に触れたとたんに、痛みに蹲る。けれど、引き寄せようとした足もうまく動かないようだった。
 ほとんど閉じかけていたまぶたが、震えて、涙が溢れた瞳が、すこしだけ覗く。
 そんなリアンの身体を手早く確認すれば、全身の鞭の傷はともかく、吊られて体重がかかっていた肩は、脱臼こそしていないまでも、筋をかなり痛めているようだった。それに、左膝の臑あたりが腫れている気配がする。これは骨にヒビか折れたかもしれないなと見当を付けたけれど。
 どうせ今はアドレナリンが少しは麻酔の効果をしているのだろう。
 痛いと言っても、暴れるほどで無かった。
「言えよ、知ってること全部」
 鞭の次は飴。
 ほんの少しの優しさは、ひどい行為の後にはとても良く効くのがいつものことで。
「鎮痛剤を打ってやる」
 とわざわざ断って腕に注射をして、さらに用意しておいた三リットル入りガロン瓶の薬液を引きずり寄せ、その紫色という異様な色合いのそれをしっかりと見せつけた後、その口元に直接中の液を少しだけ注いだ。
 それは砂糖に似た甘さを持つシロップ状の代物で、それが口に入ったリアンは、堪らないようにごくりとそれを飲んだ。
 もうそれが怪しいといいうことを考える気力もないのだろうけれど。
 こんなところで飲まされるそれが、まともでないことは当然だ。
 これは強壮剤と栄養剤入りの薬に媚薬の効果が追加されたものだ。前日のものより栄養剤の効果は高い。ただ媚薬と言っても発情させるというところに主眼が置かれた代物で、快感は幾分かプラスするぐらいなのだ。
 それでも、発情が始まれば結構強く、じっとしてはいられない程度に苛まれはする。
 これはもともと媚薬のないタイプがあって、そっちは主に極限状態に置かれた兵士用の栄養補給剤の錠剤として渡されている。
 嘘か誠は判らぬが、マーマニー曰く、一粒飲めばフルマラソンが走れるぐらいの栄養効果はあるという。さすがにそこまでいかないとは思うが、それでもマーマニーの言葉となると、誰もが笑うことなどできなくて、未だに誰も飲んだことはない。まあ、そこまで極限状態になる前に、とっとと帰ってくるのが俺たちなのだけど。
 ただ、その液体バージョンで媚薬入りの薬は、こうやって使われることがあった。
 液体な分飲みやすいように希釈はされているらしいが、それでも平気でガロン瓶で渡してくるあいつの感性は、良く判らない。
 そんな無理矢理に体力を回復させ、疲れなど吹き飛ばした身体を徹底的に苛むことができるようにするために作られた薬は、実はなかなか使いづらい代物ではあるが効果も非常に高いのは実証済みだ。
 前にこれを与えられた捕虜は、3日間これだけを服用し続けて、犯されまくっても良い反応を繰り返し、途絶えぬ快感に達きまくっていた。もっとも、奴隷化は一晩で完成して、必要な情報は全部取り出していたのだから、後の二日は完全にマーマニーの趣味だった。それが四日目の朝、さすがに心臓が止まりかけたんで実験は中止になっていたが、あの奴隷はさてどうなったのか、知っているのはマーマニーだけで、俺すらもよく知らない。
 それはともかく、目安の分だけ飲んだこれが一息吐いたところで。
「で、しゃべるか?」
 問えば、人心地吐いたリアンは疲れた顔を見せながら、こくりと頷いた。
「そんな……に、知らない……けど……」
 そう始めたその内容は。


 なんだかんだ言って、大半の薄っぺらい情報の中には、さすがモリエール家の息子、と言いたいくらいには貴重な情報も混じってたのは事実で。
 
 
 
 けれど。
「ん、あ……やっ、熱っ……ぅ」
 三十分も経たないうちに、横たわっていた身体がもぞもぞと蠢き始めた。
 少し落ち着いて、ペニスも勃起時よりはしんなりとしてきていたが、今はまた全身がほのかに色づき始めて、惹いていた汗が噴き出し、零す吐息が熱くなっている。
 焦れったさそうに蠢く腰は、痛めたはずの膝下の痛みすら刺激になっているのか、その顰める顔に切なさすら混じっていた。
「どうした?」
 そんなリアンに素知らぬ顔で問いかける。
「とりあえずのところは聞けたってことか……。他に何か情報を持っていないか?」
 しゃべり始めたリアンは、もう覚悟を決めたかのように重要そうな情報から話し始めていて、最後になるほど、すでにこちらが知っていることも多かった。だが、それでもまだ何か残っていないかと聞くけれど。
「あっ……くっ……も、もう……やぁ」
 荒くなる吐息とともに、もじりと太股をすり寄せた股間は明らかに完勃ちしていて、またぞろたらりと涎を零し始めていた。
 もうプジーが入っていないそこは、粘液程度ならば零してしまう。
 じわりと広がるのは淫欲を誘う淫臭で、射精していない身体はすでに知ってしまった快楽を求めて、淫らに咲き誇る。
「おい、話はまだ終わってないぞ」
 などと、白々しく問いかけても、俺の視線はすでにそのぱくつくアナルから離れなかった。
 そんな俺に、リアンが切なげに眉間にしわを寄せてままに手を伸ばしてくる。
「お、ねが……熱、くるし……。射精した……い」
 縋り付き、熱い吐息を吹きかけながら希うそれは淫婦のごとく妖艶で。
 赤く綻んだ乳首、濡れたペニス、何より男を欲しがって震えるおちょぼ口のアナルが、俺を誘っている。
「……そうだな。だいぶ良い情報をくれたから……」
 本当に予期せぬほどに重要な情報だった。
 もともと経営陣に入るための帝王教育の最中に、親父たちから戦力外と判定を下されたと同時に、軍部入りを指示されたというのだから、その課程で得た情報は、ある意味上層部のためのものに近い。
 完全な機密事項ではないとはいえ、その情報はなかなか得られるものでなかった。
 その予想外の情報は、本部も満足する代物だと容易に想像できて、この後が少しは楽になるかも、と楽観的な考えも浮かんでしまう。
「そうだなあ、褒美でもやろうか」
 そう言いながら、震えるペニスを根元からそっと指先でなぞってやれば、ビクビクっと上体を仰け反らせて、喘ぐ。
 すり寄せる腰は淫らに揺れ、手が堪えきれないとばかりに己の陰茎へ絡もうとするのを、寸前で捕らえて床に押しつけた。
「てめぇは今後一切自分でチンポを慰める権利はねぇんだ」
 その代わりに、と、俺の手がそれを包み込む。
「ん、んぁ」
 軽く握っただけで、ぐいっと腰が押しつけられて、濡れた切っ先がたらりと滴を零した。
 縋る手がさらに俺を引き寄せようと力が入り、傷がある肌を俺にすり寄せ、滲んだ血が服に移る。痛みがあるだろうと思うのに、それよりも快感が勝っているようで、擦り寄るのは止まらない。
 その身体を床に押しつけて、片足を俺の肩に無理矢理載せて身体を開かせる。
 そのまま腰を引き上げて、己の服を緩めて。そういや中で達ったままだったとその時に思い出したけれど、どうせカメラには写りやしないと太股で隠れた影でべたつくペニスを素早く引き出し、一気にぬかるんだ穴に突っ込んだ。
「んあぁぁ、んんっ」
 熱い締め付けが、ペニスを襲う。甘い嬌声を上げたリアンの手が、もっととばかりに俺の腕を捕らえようとして、爪がかろうじて布地にひっかかった。
 固く目を瞑り、襲う快感を堪能しているかのように口元を引き結び、息を止めていて。
「うめぇか?」
 複数の男の味を知った穴が、今度はどうかとばかりに蠢き、締め付け、中へと送り込もうとする感覚に、たった二日で徹底的に開花した淫乱っぷりに驚くとともに、うれしくなる。
 リアンを気に入っているのは確かで、俺のモノだと宣言したいほどに独占欲もある。
 けれど、だからこそ、こいつのこの身体を他人に自慢したいという欲求もまたぞろ盛り上がってきていた。
『これは俺のモノだけどな、てめぇらも試してみろよ、な、ほれっ、もっと乱暴に扱ってやったら、もっと良いぜ。ああ、虐めてもいいぜ、そのほうがすっげえ良くなるし。なあ、こんな極上品はそうはいねぇぜ。すげえだろっ、俺はこれを自由にできるんだ』
 そんな感じのことを実行してしまうのが、俺の性質なのだ。
 それに加えて。
 もっともっと良くしてやりたい。この世の快感という快感を味合わせて、絶頂地獄に落としてやりたい。乳首だけで潮吹くぐらいに感じるようにしてみたい。俺を見ただけで濡れる身体にしてやりたい。
 なんて、開発しまくってる姿も容易に想像できる。
 まあ、これが俺だから、俺という人間だから、もうどうしようもないのだけど。
「イイ思いさせてやるよ」
 今までの中途半端なもんじゃなくて、俺の技巧全てで達かせてやるよ。
 内心だけで宣言したそれは、リアンには届いていなかったはずなかった。
 だが、不意にリアンの目が開き、俺を映したとたんに微笑んだ。
 引き寄せられる身体は熱く、そしてぐにゅっとさらに深く銜え込む肉筒は狭くきつい。
 ゴルドンの巨根にすら堪えきった穴は、ひどく柔軟性に富んでいて、俺のモノを絞り尽くそうとした。
「たいしたタマだぜ、てめぇは」
 さすがに主導権を取られるつもりはなく、すぐに腰をグイグイと動かして、奥の様子を窺ってから、すでに覚えていた前立腺の位置まで抜いて、今度はそこを抉るように刺激する。
 とたんに。
「ひぃ、ぃぃっ、ああっん、ん、んっ」
 甘い嬌声が高く響き、肉の襞が余すところなく締め付けてきた。
 ああもうほんとに。
 油断大敵な相手に、俺の闘争心も火が点くというものだ。
 ググッとぎりぎりまで引き抜き、一気に入れる。その動きを速くしながら、リアンの頭を抱え込み、唇を合わせて。喘ぐ口への侵入は容易く、暴れる舌を捕らえて、しゃぶり吸い上げた。
 その間もペニスで的確に、これの善いところばかりを貫いて、ヒンヒン喘がせ、その吐息も奪い去る。
 さらに、暴れる舌をおとなしくさせようと、軽く舌を噛んでやればビクビクっと痙攣して、それだけで軽い絶頂を迎えたのだと、締め付ける肉の動きに気が付いた。
 これはとばかりに、外した口で乳首を探り、括りだした乳首に鋭い犬歯を食い込ませる。
「い、やぁぁぁ、あんっ、あん、んあぁぁ」
 先より高くなる嬌声に、苦痛の色はない。
 それどころか、ますます強く胸を押しつけてくるのだ。
 そんなことをされて、俺の股間が黙ってるはずもなく、ガツガツと貪るがごとく激しい抽挿で、奥を暴き、肉を抉り。
「やるぞ、俺のザーメン、腹いっぱい欲しかったんだろうが」
 要望通り、溢れるほどに注いでやる。
 あのゴルドンよりも多く、激しく、全てを塗り替えてやる。
「んあ、がっ、あっ、ぁっ、あっ」
 押し込むたびに息を吐き出すように声が漏れ、時折激しく痙攣して、ぎゅうっと抱き込む指はもう強張っているかのように白かった。
 そんな些細な動きにすら煽られて、限界が来たのは早かった。
「くそっ」
「え、あ、ぁぁ、あ、ザー、メン……? ああ……」
 すでに本日何度目なのか。
 それでも数度にわたり、どくどくと出て行く精液が、肉の中でじわりと俺のペニスにも絡みつく。
 それをまた美味そうにこれがするものだから、ぞわりと快感が背筋を這い上がり生殖本能がもっと種付けしろとばかりに、ペニスに血を送る。
 すぐに動き出した腰を、今度はリアンも加勢してくれた。
 その肩口に顔を埋め、鎖骨の上をきつく噛めば、勝手に腰が揺れて、奥へと誘ってくれるのだ。
 自慢じゃないがたいそう丈夫な俺の歯は、獣の皮すら食いちぎることがある。その歯が、吸血鬼のごとくリアンの肌に食い込んで、じわりと滲む血を舐め取った。
「ん、んあぁぁ、イイ、ああ、イイよぉ、そこぉっ」 
 なおかつ、その痛みが良いとばかりに、リアンの手が俺の頭を抱えこんで、もっととばかりに欲しがるのだ。
「ど変態だな、マジで」
 暗く嗤い、けれど、内心俺の心は歓喜に充ち満ちていた。
 噛み痕を増やしても、痛むはずの足を持ち上げても、リアンは嫌がらないどころか喜ぶのだから。
「そ、そこぉぉっ、あん、奥がぁ、っ、あっ」
 深い鞭の痕も、傷の入った乳首も、何もかもがすでにリアンの性感帯だった。
 刺激すれば、もう神経がつながってしまったかのようにアナルの中が締まり、揉みしだくかのように蠢いて、快感を伝えてくるのだから堪らない。
 まるでこちらが搾り取られるように、精液が出て行ってしまう。蠕動運動だけでない、性器としての蠢きに堪えられるものではなく、もとより我慢などする気もない。
 続けて腰を振りたくり、口が触れたところを無作為に噛みつき、悲鳴とも嬌声もしれぬ声に酔いしれて、泡立つ白い汚濁が伝い出てくる感触にもゾワゾワと肌が総毛立った。
 背中に回した指が、凸凹になった肌を辿るとき、ぐっと爪が立ち。
「痛ぁぁ、ああ、ひいぃぃ!」
 全身を激しく痙攣させたリアンの内部の堪らない動きに、一気に高みへと上がる。
 白く弾けた視界の先で、リアンが手を差しのばしていて、
 掴んだ腕を引き寄せて、深く口付けた。
 逃げを打つように、わざとらしい動きで翻弄する舌を、捕まえ、お仕置きとばかりに歯を食い込ませて。
 そのまま、腰を回すように動かしてやれば、ヒイヒイと鳴いてよがって、また達していた。
 そんな俺たちの腹の間でリアンのペニスが、切なげに涎を垂らしながら震えている。
 ひとしきり、それこそ五度目かぐらいの射精のしばらくあと、そんな存在に気が付いて。
 ぐんぐんと最奥を抉りながら、パチパチと手早くロックを外して一気に解放してやったその時。
「ひ、いぁぁぁぁ──っ!!」
 一際高い絶叫とともに、今までに無く激しく締め付けられて堪らずに唸る。
 グジュッと狭くなった隙間から押し出されるように今までの精液が溢れる中で、締め付けられたままにザワザワと激しい蠕動に、搾り取られるように射精して。
 同時に腹にじわりと広がる感覚に、視線をやればリアンがたっぷりと──それこそ、よくもうまあ溜め込んでいたと思うぐらいに多量の精液を吹きだしていた。しかも、まだ震えるたびに出てきている。
 たらりと腹を伝い、床まで流れ落ちる精液は、粘性が高く、それはしばらく溜め込んでいた証でもあった。にしても、一回の量が多い。
 一体いつから出していなかったのか、それとも元から多いのか。この二日の刺激で際限なく溜まってしまったのか?
 だったら、それはそれでおもしろいと、ほくそ笑む。
 けれど、それはまた別の機会に楽しむとして。
「おいおい、外したとたんに達きやがって。これからたっぷり前立腺を虐めてやろうとしてたのに」
 そう、まだたっぷり虐めて、我慢させてから解放させようと思ったのに。
 そんな命令を下すより先に射精したこれにはお仕置きだ、と眇めた視線をやったのだが。
「……」
 リアンは完全に白目を剥いてて、だらしなく開けた口から舌をだらりと垂らし、アヘアヘと笑ったような顔で気を失っていたのだ。
 だが、まだ射精は続いて、腰はガクガクと小さく痙攣し続けているし、中は中で激しく蠕動して俺のペニスを離さまいとばかりに、締め付けている。
「とんだ淫乱だ。気ぃ失っても、まあだやりてぇってか……。ふん、良いだろう、せっかく尻穴だけで射精できたんだ。今度はたっぷりと射精させてやるよ、もう一滴も出ねえってまでな。さあ、起きろっ」
 パアーンと甲高くなるほどに、頬を張り飛ばせば、白目がぐるんと元に戻り、惚けた顔を晒してきた。どれだけ俺の言葉を聞いていたか──いや、そんなことはどうでも良い。
「今度は射精する前に、必ず申告しろよ。できなかったら、チン先だけ塞いで射精させるぞ」
 これだけは理解させるように耳元で囁いて、正気に戻すように耳朶に犬歯を食い込ませ、いつかは俺好みのピアスで飾り立ててやろうとグリグリと抉りながら、瞳が動くのを確認して。
 

 
 
 リアンが一体何度射精したか、もう判らない。
 俺が何回注いだかも覚えていない。
 ただ、さすがにもう無理だとばかりに俺のペニスが痛みを訴えてきて。
 隙間からはダラダラと泡だった白濁が途切れることなく流れていた。
 気が付けばリアンの意識などとうに無く、力無く横たわった身体はどちらのともつかぬ体液に濡れ、至る所に噛み痕やら傷跡があったけれど、それでもなお、その腰は小さく揺れていて、ペニスは色の無い粘液をぷくりと僅かに絞り出していた。
 時間も相当経っていて、時間的にはもう頃合いなのだろう。
 耳元で、聞き取れぬ会話が響きだしていた。
 ちらりと鏡を見やれば、それが合図と認識したのか。
『OKだ』
 若干、苦虫を噛みつぶしたような声音を感じたか、それはともかく、映像のクライマックスのスタートだ。
 俺は、すでにぐったりとしたリアンの身体をひっくり返し、尻だけを掲げて再び激しく抽挿を始めて。
 すでに怠い腰であっても、見た目は乱暴に見えるように尻を叩きながらだ。
 そして。
 ふっと、違和感に気付いたかのように、身体の動きを止めた。
 探るように腰を突き出し、リアンの尻に密着させて、中を数度抉ってみる。
 実のところ違和感はないから、とんだ茶番なのだが。
「……、リアン?」
 俺は、いぶかしげな声を上げながら、深く貫いたままに伸ばした手で肩を掴んだ。
 すでに気絶しているから反応が無いのは当然だが、それでも上体を起こさせて。抱え込んだ身体の俯いた顔を肩越しに覗き込み。
 手のひらを、その口元に当てて数秒後。
「……おいっ、誰かっ! 医者だっ、来いっ!!」
 鏡に向かって、険しく顔を顰め、大声で命令した。
 ジュブッと濡れた音を立てて、ペニスを抜けば、タラタラと泡立った精液が太股を伝って落ちていった。
 それを無視してリアンの身体を横たえ、仰向けにしてその口元に耳を寄せる。と同時に、甲高い悲鳴のような音をさせて扉が開き、ゴルドンとマーマニー、そして残りの二人の部下が駆け込んできた。
「息をしていない……」
 数秒確認して顔を上げ、くいっとマーマニーを呼び寄せた。
 どいた俺の場所にマーマニーが跪き、俺はその様子を眺めながらスラックスをはき直し、肩越しに覗き込んだ
「いつから?」
「さて、な。なんか締め付けが弱え……っていうか、緩んだなって思ったら、こうだ」
 しかめっ面をしてリアンを顎で示す。
「とにかく心マを、それからAED(自動体外式除細動器)」
 医師に戻ったマーマニーの指示は的確だ。ゴルドンがその力強い手で心臓マッサージを始め、すぐに備え付けのAEDをセッティングする。
「死なすと面倒だ」
 ゴルドンが呟いたが、「さて……」とマーマニーが気乗りしさなげに返してきた。
「使った薬の影響もあるからね。あれでぶっ飛ぶとなかなか復活してくれなかったりするんだよ。この前の時もそうだったけど、あれは筋肉バカっていうくらい体力があったからだし、最初から栄養剤を入れてたしね。でもこの子、昨日も寝ていないし、そんなに体力あるように見えないしねえ、完全な心停止だったら、もう無理だし」
 なんてことをつらつらとのたまいながら、ぺたりぺたりと電極を貼って。
「とりあえず、これが効くと良いけど、二回やって駄目だったら即処置室へ、復活してもね。俺は先に戻って、処置の準備してくる」
 その言葉に、一緒に入ってきた部下達が手早くストレッチャーを用意する。その横で、ゴルドンが心臓マッサージを止めて、ガイダンスに従ってスイッチを入れた。
 カウントダウン後、ドンとリアンの身体が跳ねる。
 それからしばらくして、再実行のメッセージが流れて。
 再び跳ねたリアンの身体が床に沈み込んで。
 それから一分も経たないうちに、リアンの身体はストレッチャーに乗せられ固定されて、取調室から運び出されていった。