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【鬼の子】 (4)
〜888,888キリリク〜


「ここ、狭いからあっち行こうぜ」
「え、あっ」
 鎖を解き強く引き寄せれば、純哉が体を折り曲げて呻く。体の向きが変わったことで、バイブがさらに体内の奥深くを抉ったのだろう。
 紅潮した顔が切なげな表情を見せる。
 それが苦悶の表情でないことを確認して、啓輔はさらに純哉を引っ張った。
「もう、止め……」
 その吐息に交じる甘さに、つい笑んでしまう。
「気持ちいいのに?」
 問えば、恥ずかしそうに視線を逸らす。
 ふらつきながらも寝室に向かう純哉のそれは、完全にいきり立っていた。
 もうちょっと逆らうかと思ったけれど、純哉は意外に素直だ。けれど声だけは漏らすまいと必死になって奥歯を噛みしめている。そんなふうに我慢されると、悲鳴の一つでもあげさせたくなるというのに。
「何だ、この程度では物足りない?」
「うあぁっ!」
 ベッドに押し倒した途端に純哉が堪らず悲鳴を発した。倒れた拍子に、バイブがさらに深く入ったようで、全身が小刻みに震えている。
「こんなんで感じる? 純哉って、こういうの好きなんだ?」
「ち、ちがっ、もうっ!──やあっ!」
 食い縛った歯が弛んだら、呆気なく悲鳴が零れていた。
 その姿が啓輔の劣情をさらに煽り、ずくずくとたぎった下半身が、今にも節操無しに暴走しそうだった。
 眼下にある純哉の淫猥な姿に、目の前がぶれる。
「んっ……くっ……け…すけ……」
 震える唇が、欲情に満ちて掠れた声音を呟いた。
 うっすらと開いた目が、潤んでいる。それが誘っていると思うのは気のせいだろうか?
「何?」
 期待に満ちて答えを待つ。
 欲しいと言わせてみたい。
 純哉から、絶対に。
「どうしたい?」
「どうって……」
 なのに、純哉は固く目を閉ざし、なおかつそっぽを向いてしまった。
 なぜっ!
 言って欲しいのに。
 たったひと言、無理矢理は嫌だが、こうなると意地にでも言わせたくなる。
 そう思った途端に、勝手に笑みが浮かんだ。
「何だ、何もしなくて良い? でもなあ、それだと俺楽しくないし」
 何だろう?
 この精神の昂揚は?
 楽しい。
「これ、物足りないだろ? だったら、こっち試してみる?」
 純哉の目の前で、さっきより一回りは大きいバイブにたらりとローションを垂らした。
 溢れて流れたローションが、純哉の頬にぽたりと落ちる。乳白色でわずかにピンク色をしているから、その姿は酷くエロティックだ。
「へへ、いい顔。顔にかけたみたいだね」
 そういやこれも槻山のものだった。
 あの男の好みそうなローションだなと思う。
 この色は、行為の痕の残滓を思い起こさせる。
「俺、なんか気に入っちゃった」
 指先でゆっくりと伸ばすと、肌がざわめくのを感じた。純哉も感じているのだ。
「気持ちいいだろ? なんか言ってみてよ?」
「んっ……」
 けれど、僅かに喘いでいるだけで、何も言ってくれない。
 そんな反抗的な態度は、逆効果なのに。
 聡い純哉だから、そんなことは判っているだろうに。
「なんかさあ、煽ってるだろ? 俺が我慢できなくなるの待ってる?」
「ちが……」
「嘘吐け」
 しっとりと汗ばんだ肉体が、時折びくびくと震える。
「良さそうだね」
 ぐいっとバイブを動かせば、「ああっ」と、さすがに嬌声が迸った。
「すげぇ……」
「け、啓輔っ!もうっ」
「達きそう? 純哉、バイブで達くんだ?」
 揶揄を込めて耳元で囁けば、羞恥に耳朶まで赤くなって俯いていた。
 こういうところは堪らなく可愛いくせに。
「な、どうしたい? 欲しいもの、あるだろ?」
「うっくう……」
 肝心なことは何も言ってくれない。
「ちくしょっ……」
 もう、啓輔も限界が来ていた。
 触れてもいないのに、啓輔のモノだって完全に張り詰めているのだ。
「こっちにしようと思ったんだけどね……」
 とりあえず自分の欲望を何とかしないと、我慢比べでは負けてしまいそうだった。
「先に俺が愉しむよ」
「け、啓輔」
 純哉がその言葉に何かを感じたのか、啓輔の名を呼んだ。
 どこか嬉しげな響きを持ったそれに、啓輔は苦笑を浮かべる。
「嬉しい? まあ、良いけどね」
 かちゃと鎖が音を立てる。
 不自由な両手が、少しだけ前に差し伸べられていた。
 代わりに、啓輔から抱きしめてやる。
 しどけなく広げられた足の間に腰を進めて、邪魔なバイブを抜き取った。
「うくっ」
 小さな悲鳴と共に振動音が大きくなる。
 蠢くバイブが、震動したままベッドサイドからごとりと落ちていった。生き物のように蠢くそれすらも、啓輔の熱を高める。
「うわあ、どろどろ」
 溢れるほどのローションが卑猥に純哉の肌を伝う。
 それを見ているだけで、ぞくぞくと背筋をむず痒く快感が這い上がって。
「挿れるよ」
 柔らかなそこに、熱く張り詰めた自身を押し込んだ。


「あっ、はああっ!」
 ぎゅっと純哉の腕が体を締め付ける。
 背で鎖が微かな音を立て、金属質な感触が肌を伝う。
 全身を汗で濡らし、紅潮した肌からは湯気が立っていた。奥深く抉るたびに、純哉の喉が震える。掠れた声が室内に響く。
「ああっ、けえすけぇ……」
「純哉ぁ、可愛いぃ」
 いつもの純哉も好きだが、必死になって啓輔に縋り付く純哉も堪らなく好きだ。
 愛おしくて、可愛くて、淫猥で──もっと苛めたくなる。
「欲しい? もっと欲しい?」
 耳朶を甘噛みしながらそっと囁けば、コクコクと頭を動かす。
 その瞳はどこか朦朧とし、欲情に満ちていた。
 こうなれば素直なんだけどな。
 ふっと笑んで、ぐいっと突き上げれば、艶やかな嬌声が先を促す。
 もっとこんな純哉を見たいのに、そんな声や姿を聞くと、腰が止められない。激しく突き上げ、自らの快感を貪ってしまう。
「ああっ、やあっ──、い、いくっ!」
「う、ふうっ! んくぅっ!」
 びくんっと純哉の体が強張る。ぎゅうっと体内の雄を締め付けられ、啓輔もきつく眉根を寄せた。
 堪えられないと締め付けから逃れようとしたけれど、きついけれど柔らかな感触に、限界は呆気なく超えた。
 快感の波が奔流となって暴れ狂い、体の芯で爆発する。
「あっ……はあっ……」
 大きく息を吐く。
 下腹の下で純哉のモノがびくびくと震えていた。
 指先が背に食い込んで痛いけれど、それすらも愛おしく感じる。我を忘れた純哉がきつく抱きしめているからだ。
「純哉……」
 そっと口付ければ固く閉じられていた目蓋が震えた。
「良かった?」
 問えば、嫌だとばかりに顔を背けられる。
 あっという間に戻ってきた純哉の理性に苦笑し、啓輔は肩を竦めた。
 これで離れれば、また終わり。
 前と同じようにいつもの純哉に戻ってしまう。
「純哉……」
 呼びかけて、その顎を捕らえる。
 何とばかりに、うっすらと開いた瞳を覗き込んで、微笑みかけた。
「もっと俺の虜にしてあげる」
 その言葉に、純哉が大きく目を見開く。
「だって、これで終わればいつもと同じじゃん」
「け、啓輔……どういう……」
 荒い息が零れる。
 その口の端をあやすように口付けて、ぎゅっと腕の中に抱きしめた。
「でもさ、今日は寝て良いよ。だけど、このままね」
 にいっと笑う啓輔に、純哉の顔に明らかに怯えが走った。
 その表情を愉しみながら、拾い上げたバイブを純哉の中に突き立てた。
「うぅ、ああっ」
「動かさないけどね」
 わざと音を立てて手枷から伸びた鎖を弄ぶ。ぶらりと垂れ下がる鎖の端を純哉に見せつけて。
「寝られるといいね」
 ベッドの足へと括り付けた。
 

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