4章終わりで、男の元を去る選択をしたココのその後。
「はあ、はあ……んっ、はあ……」
山の中のログハウスから、着の身着のままで逃げ出すように出てきたココは、一本道の山道を麓へと向かっていた。
ギリギリまで躊躇って。
こんな身体で……とか、弟を置いて……とか。
悩み続けて、考え込んだけれど、最後はほとんど衝動に駆られるままに出てきていた。
結局は自分が逃げたかったのだ、あの男から。
途中、繁る雑木の陰に隠れて取り付けられていた数々のアクセサリーを外すことにした。
アクセサリーはやる、と言われていたけれど、こんな物は二度と見たくないと、外す度に遠くへ投げ捨てる。
けれど、乳首のピアスを外しても広がった穴は塞がらず、濃く色づいた朱色の大きな果実は歪に膨れ上がったままだ。
しかも。
ペニスの射精防止ベルトの鍵を外したとたん、久方ぶりにまともに味わった開放感に全身が歓喜にぶるりと震え、勢いよく勃起してしまう。
知らず零れた喘ぎ声を止める術を持たず、ヒィヒィと嬌声を上げて身悶えながら、震えるそれに触れて。
亀頭を横に貫き、拡張用のブジーを内部で固定していたバーベルに触れたとたん、響く振動にすら下腹部の澱みが大きく膨れ上がり、押し出されるように空に向けて開いた口からひどく熱い熱が噴き上げる。
それでも理性をかろうじて保って、木の幹に背を預けて、中からブジーを取り出そうとしたけれど。
「あ、ぁぁ、っ、あっ、あっ」
ガクガクと腰が勝手に揺れて止まらない。
固定されていない陰嚢が大きく上下して。広がりきった尿道に、多量の精液が駆け上がる。
堪らず力の入った下腹部に、中から押し上げる力も加わって、ぬかるむ肉の管からブジーをビュッと噴き出させ。
「や、あっ、あっんっ、イイ、チンポぉぉっ、ああっ、きもひっ、イッ——っ、いあぁぁぁ」
あえかな嬌声を青い空に響かせて、ぐいぐいと腰を中空に突き出し、戒めの痕を残すペニスが、ぶるぶると踊りまくる。
そのたびに、太くなった尿道からだらだらと精液があふれ出し、鮮やかな緑を白く汚していくのだ。
「んっ、ああっ、すごぉぉ、あん、んっ、ん……」
射精は長く続いた。
その間、ココは惚けたように焦点の合わない視線を空に向けて。
ただ、うわごとのように卑猥な言葉を繰り返す。
そこにあの男がいるかのように、どんなに良いかを繰り返す。
「ん、きもひ、イイですぅ……チンポぉ、ビクビュクってぇ、あ、……あぁ」
そのまま放心しているかのようだったけれど、不意にまるで何かを探すかのように辺りを見渡して。
「きもひ、い……の、もっとぉぉ、ほし……ですぅぅ」
見えない誰かに強請るように、淫らに緩んだ顔を陽光のもとに向けたまま、ココは背を倒して尻を、アナルを空に晒した。
その口角からはだらだらと唾液が零れているのに啜ることすらせずに、足を抱え上げて股間を大きく開き、のろのろと伸ばした片手でアナルへと伸ばす。
その手が動き出す。
まだ中に残っていたアナルプラグをしっかりと掴み、グチャグチャと激しい抽挿を繰り返し。
「チンポぉ、ちょーだい……あっん……、マンコ、ココのやらしいマンコ、いっぱい突いてぇ……あはっぁぁ」
狂ったように卑猥な懇願を繰り返し、尽きることの無い欲望にいつまでも溺れていた。
意識が薄れて、元に戻って。
気がついたら、地面に転がっていた。
持ち上げた手に付いた白濁は乾いていて、地面で転がり回りながら自慰に明け暮れたのが判ってしまうほどに服や肌の惨状は酷かった。
さらに、濡れた場所には土や枯れ葉がついていて、いくら擦っても染みは残ってしまう。
何も知らない人ならば、泥の上でこけたのかと思ってもらえる、かも知れない。
ごまかせるかも知れない。
着替えなど望むべくもないココは、途中にあった沢の水で落とせるだけの汚れは落としたけれど、それでも脳裏にこびりついたどす黒い感情までは消しきれない。
休む暇などないのだと、ただその思いだけを糧に、とぼとぼと山道を下りていく。
車が通るとはいえ、それでも轍がよけいに道を悪くしている。
足場の悪い山道で石につまずき、よろよろと歩き続けるココの表情は、悲痛に歪み、時折流れる涙を擦るように腕で顔を覆っていた。
射精をしたとたん、いや、それより前、ブジーを取り出そうとした辺りから記憶が飛んでいた。
気がついたら、地面に転がり、俯せで尻だけを高く掲げて、プラグどころか指まで入れて自慰に浸っていた姿勢で転がっていたのだ。
地面や岩、雑草にべったりとついた精液の量は非常に多く、それはここ最近見たことの無いほどの量だったけれど。
身体の奥底にあるわだかまりはまだ消えていなくて、甘く重苦しく疼いていて、正気に戻ったココを苦しめる。
男が言ったとおり、この身体はひどく淫乱で、あれだけ出しても決して満足などしていなくて。
それに、快感を味わうと——特に射精を伴う快感は、理性すら消失させるのだと、改めて認識した事実に打ちのめされていた。
お金が無いというだけなら、それでもなんとかなると思っていたけれど。
何より、ココはあの男から逃げ出したかったのに。
けれど、この身体はココの希望を打ち砕く。急がなければならない今ですら、邪魔をする。
それでも、もう出てきた以上、戻ることも諦めることもできない。
「この身体がどんなモノであったとしても……もう、進むしか無いんだ……」
出て行くと決めたときから、ココに残された道はそれしか無いのだから。そう結論づけて、ココは遅くなっていた足を速めた。
出て行けば良いと、男自身が言ったのだから、追っ手など来るはずも無かったけれど。
ココが出ることを選んでも男は笑って見送っていたから、問題などあるはずもなかったけれど。
それでも、一刻も早くココではなく、ディードに戻りたくて。
その思いで、ココは、荒い石がゴロゴロと転がる車一台分の山道を必死で下っていった。
出て行ってから2時間ほど歩いた頃だろうか、ようやくアスファルトに舗装された道路へと辿り着き、道標となる表示も見つかって。
そこまでくれば、一番近い街まで歩いても3時間ほどだし、ヒッチハイクもできるだろう、とほっと息を吐いたとき。
「あ、っ!!」
いきなり何かが背中にボヨンとぶつかり、ふらついていたこともあって、そのまま前方に倒れて強かに身体を地面に打ち付ける。
「ひっ、い、痛っ……な、何?」
痛みに顔を歪めながら、何がぶつかったのかと背後を見やって。
「ひっ!!」
目前に迫る筒状の物に息を飲んだ。
「お、やあぁ? 山から下りてきたサルかと思えば、人の姿をしているぞ、こいつは?」
その筒の向こうから、野太い声が響いてきて。
たどった視線の先に、太陽を背にした、横にも縦にも大きな男がいたのだ。
筒は、その男が持っているもので、引き金もあることから銃のように見えたけれど、何せ砲身が太い。
単純な銃とかに見えなくて、さらに、危害を加えるような気配も男からしない。
「あんな山から下りてくるなんてサルだろ、サル」
どうやらもう一人いるようで、男の影から声が響く。
「でも、服着てるぜ。こぎたねぇけど」
「服着たサルだろ、どうせ」
男が後ろを振り向き、その拍子に影に隠れていた光景がようやく目に入った。
そこは、木々の影に隠れてはいたために気付いていなかったのだが、道から奥へと入った空き地のようなところで。
巨大なトレーラー付きトラックがその威風堂々とした姿を、違和感ありまくりの姿をさらしていた。
奥まっていたとは言え、それに気付かなかったのは、もう周りを見る余裕がなかったからにほかならない。
だがよく手入れされていた新しいトラックにあわせて、巨体の身なりは悪くはない。単なるドライバーと違う雰囲気が彼には合って。
ココですら知っているブランド品だと、カジュアルな中にも金をかけているのが見て取れた。
「あ、あの……」
「おっ、喋った?」
わざとらしく驚愕する振りをした巨体の男が肩をすくめると、その背中をどつくように叩いたもう一人の男がようやく顔を出す。
巨体があまりにも大きすぎるせいかやけに細身に見えたが、その半袖から覗いた腕は驚くほどに太い。
「あん? 何、これ、サル?」
「ち、違いますっ」
やたらサルにこだわる男に、ココは慌てて首を振って否定した。
「俺、コ……ディード、ディード・ウェンって言います。その……山の中に……車で行ったら、その、エンスト……して……それでやっと降りてきて」
もしヒッチハイクでもできたら説明しようと思った内容だ。
とにかく街まで行って、教会かどこかの救済センターで当座の食料と生活の当てを探して。
少しでも人並みの生活ができる努力をするために、どうしても街まで行く必要があったのだ。そして、お金を貯めてはできるだけ、あの男の支配下から離れていく。
少しでも、それがわずか数十メートルだとしても……できるだけ遠く。
つけられた名前も忘れてしまうつもりで、元の名前を使った。
「へえ、あんな何にもねぇ山ん中にねぇ?」
ケラケラと馬鹿にしたように嗤われても、気にならない。
「それ、で、街まで戻りたい、ので……良かったら……」
本来なら、こんなところであった初対面の男達など、警戒しなければならないところだったけれど。
すでに慣れぬ山道を歩き続けたせいで、足がかなり痛んでいた。
それに、今日は天気が良く、アスファルトの照り返しは目に眩しく、こうしていても汗が噴き出して、体内から水分が失われつつあった。
そのせいで内にこもった熱がさらにココ——改めディードから気力を奪っていて、逃げたいばかりに闇雲に歩いていた身体がすでに限界を訴えていた。
「あぁ、街、ねぇ」
ディードの願いに、とたんに男が困ったように顔をしかめた。
その表情が、その巨体に似合わず、本当に困惑しているもので、つい見つめてしまう。
「それが、俺たちこの奥にある倉庫で準備しなきゃならねえことがあってなぁ、今日はこっから離れられねぇんだよ」
ボリボリと頭を掻きながら、もう一方の手で持っていた太い筒でトラックがあるさらに奥を指し示す。
「そうなんだよ。荷物を運んで終わりって訳じゃあねえし、日が暮れるまでになんとかしなきゃなんねぇのに、こいつがそれで遊ぶばっかだから、ぜんぜん進まねぇんだ」
細身の男がぶつぶつと文句を言いながら、巨体が持つそれを指さす。
「あ、あの……それは……銃、ですか?」
「あ、あ、いや。これは、これでもオモチャなんだよなあ。ほら、見てみ」
そう言って、男は腰にぶら下げていた袋からこぶし大の玉を取り出した。それはよく見れば、黒色のゴムボールで。
「これを先端から入れて、引いてセット、狙って、ボン」
言葉の通り狙ってトリガーを引くと、先端からゴムボールが飛び出して、車の近くの木にあたりボヨヨーンと跳ね返った。
「というオモチャ。おもしれぇだろ」
と言われても。
さっき背中に当たったのはこれだったのか、と、今更ながらに意外に強い衝撃だったのと、転けた時の痛みを思い出し、ひくつく頬で巨体を見返す。
「狙いをつけるのが難しくってな。ベテランの狙撃手ほど、こういうので遊ぶと下手なんだぜ」
そんなココに気付かずに、巨体はニヤリと笑うと、トラックの方に戻る男に向かって、またボヨンと撃って。
「いてっ、てめぇぇっ、遊んでねぇで、さっさと手伝いやがれ」
見事に後頭部に当たったそれに怒り心頭で怒鳴り返す細身の姿に、巨体はディードに、「なっ」と明るく笑ってウィンクを返した。
続く