【Sweet, bitter and too bitter night】(3)

【Sweet, bitter and too bitter night】(3)

 時計を見ればちょうど良い時間で、そろそろかと耳を澄ませば近くに車が停まるような音が聞こえる。タイミングの良いその音に、大紀は手はず通り進んでいるのだと確信して、ニヤリと口角を上げた。
 車は仲間が運転してきたもので、その車に毛布にくるんだだけの啓治を後部座席に転がして、出発する。
「ほい、これ」
 運転手から手渡された紙には住所が書かれていて、ついで写真も数十枚とメモリカードが渡された。メモリカードは、二つばかりセットしていたビデオカメラの内の一つのものだ。それを車の中にあったノートパソコンに差し込んで、ダビングを始める。
「ずいぶんと上玉だったようだな。ダイキだけにさせるのはもったいなかったって、ゼンキチの奴がぼやいていたぜ」
「はは、感謝するぜ、俺にくれたこと。マジで上玉だよ、穴の具合も淫乱ぶりもな。最高級グレードのメス犬に任命できるぜ」
 男に犯されることだけでランクづけするならば確実にそう言えると、イヤらしくペニスを頬張る啓治のどアップの写真を眺めながら、満足げに頷いた。
 最初に口を犯したときのもので、あの後しばらく──アナルに突っ込むくらいまではまだ隣室に仲間が控えていたのだ。その仕掛けていたカメラからデータを取り出し、まずは最初の画像データを印刷するためにだけ。
 レイプするには脅しのネタが必須で、それは獲物を解放する前に見せつけるのがよい。データでも良いが、印画紙に焼いた写真というのも割と効果が高かったりする。パラパラと見える範囲にたくさんの自分の卑猥な写真が転がれば、一枚ずつ見せるよりは衝撃は大きい。そのため、手が空いている者がこうやって準備をするのだ。
 口に銜えている写真だけでない。背後の尻に密着した男の陰毛も見える下腹部に、啓治の紅潮した顔が並んでいるようなものまで、少なくとも誰にも見せたくない変態呼ばわりされそうな写真ばかりだ。
 多少加工も入っているっぽい写真もあって、和姦に見えなくもない写真まである。その技は、仲間まであるゼンキチの得意分野だ。
 どうやらみんな、ダイキがノリノリになっているのが判ったのか、ずいぶんと手間暇かけて協力してくれているようだ。
「まあ、俺が一通り遊んだら、みんなにもお礼がてら遊んで貰える機会はつくるよ」
 その言葉にいつも車や機材を提供してくれるトオルがヒッヒッとイヤらしく笑い、ちらりと背後の啓治を見やった。
「ま、どうなることか思ったけど、調べといて良かったってとこかな」
 ずいぶんと気に入られたものだと感心し、それだけの上玉と遊べることに期待に胸が膨らんでいる。
「ん、サンキュ。思った通り一人暮らしか。ここって、良いとこ?」
 渡された住所は、啓治が暮らすマンションの部屋番号だ。身分証明書代わりにしていたのか運転免許証があって、場所はすぐに割り出せた。
「セキュリティは甘くて、部屋の前まではストレートで行ける。だが部屋は広そうだし、傍に公園もあって緑もある。しかも、部屋の作りはしっかりしているから、防音も完璧」
「そりゃ、最高だ」
 遊ぶには好都合と口笛が狭い車内に響き、男達の下卑た笑いは途絶えることなく続く。
「しかもさ」
 不意に、大紀がその笑みを深くした。
「あの写真、例の映像に出てた奴に間違いねえ。スウィートって呼ばれてた奴」
「ん、ああ、そうだな。完璧犬扱いされていたアレだろ」
 闇に流れている映像のそれは啓治が手にしていた写真の人物が写っていて、なかなかハードなプレイがマニアな人気を誇っている代物だ。
 オス犬と言われているたいそう体格の良い男二人に飼われているメス犬は全てをその二匹に管理されているもので、最新版は脱走の罰としてお仕置きをされているシーンが満載だ。
 鞭で打たれて背中を真っ赤に染めたのは序の口だった。その後は、逆さづりをされてバイブを突っ込まれて。どう見てもバイブはMAXだし、容赦なく前立腺責めをされていたから、何度も何度も噴き出したあげくに全て自分に降りかかるようにされていた。たらたらと身体を流れる白濁が、腹から胸、顔に流れて口の中に入っていく。
 それも意識を失う寸前に解放されたのだが、今度は極太の張り型付きの三角木馬に乗せられて、たいそう広い庭のガタガタの煉瓦の小道を隅々まで散歩させられていた。
 何から何まで、とうていまともな行為とは思えないほどの虐待ぶりは、大紀のような性癖の持ち主をたいそう興奮させるものばかりだ。
『今度逃げ出したら……まっ、スウィートがいなくなっても兄弟犬がいるっていうから、そいつを貰うようにしようぜ。最初っから、逃げ出したいって思えないほど可愛がって、俺たちのチンポ無しではいられなくしてやるよ』
『モノホンのメスもいるって聞いたぜ。そっちでもいいなあ』
『俺は、弟ってのが好みかも。顔立ちは似ているけど、こいつより頭良さそうっ』
『ははっ、確かに。でもよぉ、こいつもチンポ無しでいられないほどに躾けたはずなのに、マジ、よく逃げるよなあ……』
『ああ、こいつは俺たちのチンポくらいじゃ物足りなくなってんのさ。だから今度は逃げられないように、淫乱なメス犬らしい姿にしようと……でもその前に……』
 その映像のラストシーンは、本物の大型犬に犯され続けるものだ。短いカットシーンの連続だったけれど、一昼夜以上明るさの変化がある中で、最低三種類の犬種が見て取れた。
 腹をぽっこりと膨らむほどに犬の精液を注がれて、垂れ流しているところに次の犬に貫かれて。
 疲労痕倍で解放されたときには、狂っているのではと思えるような凄惨な有様だった。
 しかも、その映像の中でオス犬たちが話しかける言葉の意味は、少なくともスウィートには判っていたようで、嫌がりながらも言われるがままに尻を振って自ら犬を受け容れていた。
 大紀達にも、その理由が今ならよく判る。
 あの映像は、スウィートを取り戻そうとする輩に諦めさせるための脅しのメッセージになっていたのだ。
 そして、順繰りにめくられていくエンドロールは複数の静止画像がスライドショーのようになっていた。
 四つん這いになったスウィートの正面からの画像はその顔の細部まではっきり判るもの。
 背後から撮っているものは、尾てい骨辺りの皮膚に埋め込まれたリングから尻尾がぶら下がっている様子がよく判った。それがオス犬達が言っていた、犬らしく、の言葉の意味だったのだ。しかも、イヤらしいメス犬らしく、尻の根元はフサフサとした毛で覆われているが、その太い尻尾は途中から毛が無くて代わりにでっぷりと太ったイボだらけの亀頭を模している。尻尾と言うよりは、尾てい骨から陰毛付きの長いペニスが生えている感じだ。
 その次は、その尻尾が深々とアナルに押し込められている様子のアップ。
 最後は、その尻尾でどう見ても嬉々として自慰をしているところだった。
 そのスウィートの映像は、時折降って沸いたように闇のネット上に流れ、消えていく。
 今や数種類になったそれらの映像を、大紀はこのトオルのおかげで、その大半を抑えていた。
「でもまあ、結局こいつも俺たちの犬だから、何がどうなるか判らないねぇ」
「ははっ、違いねぇ」
 駐車場に車を入れ、意識のない啓治を抱え上げる。力のある大紀は、大の大人である啓治を軽々と抱え上げ、その後ろをトオルが両手一杯に紙袋を抱えて付いていった。
 これから当分は、この啓治の部屋が大紀の部屋で、プレイルームで、犬小屋だ。
 知的な仕事をする男が好きな大紀だから、仕事には通常通り行かせるつもりだけれど、それ以外では性欲処理専用の犬扱いしかするつもりはない。
「そういや、こいつに兄貴の事話すつもりなのか?」
 鍵を開けながらの問いかけに、大紀は「もちろん」と頷いた。
「下手な探し方で向こうに見つかっちまったら、飛んで火にいる何とやら……だろ? どうせ、相当ヤバイに決まっているし。だったら、最初に教えてやるよ。兄貴を捜して連れ出そうとしたら、兄貴がどんな酷い目に遭うか、自分らがどんな目に遭うか、あの映像をそのまんま見せたらよく判るだろうよ」
 見えない相手に向けられた明確な脅しが鮮明なその映像は、身内だからこそよく判るだろう。
 せっかく気に入りの獲物を見つけたというのに、奪われたくないのは当然だ。


 だから。
「……兄さん……こんな……っ」
 自分の写真やビデオを見せたときも相当なショックを受けていたけれど、それよりもさらに激しい衝撃を受けているのが丸わかりの啓治を、ラグの上に押し倒す。
 10時間近く眠っていた啓治を起こさなかったのは、大紀の方もいろいろと準備があったせいだけど、ある程度回復していないと犯す楽しみも半減するからだった。
 その間にトオルにパソコンの映像がテレビに出るように繋いでもらったおかげで、大画面のキレイな映像で例の動画が楽しめる。
 犬扱いすることを宣言された啓治は最初は断固拒否して抗おうとしたけれど、大紀が見せた数々の映像と写真に結局は屈服してしまった。
 そんな啓治に手取り足取り身体の内部の洗い方まで教えてやった後、約束だった兄の行方について教えたのだ。
 今どこにいるのか、大紀は知らない。けれど、あの動画の意味は、啓治こそよく判ったのだろう。
 何かを聞くこともしない。
 ただ、兄と同じように飼われることになったその飼い主の欲望をその身に受けるだけだ。何もかも諦めたように、大紀の腕を捕らえた指の力はひどく弱い。
 そのキレイになった身体を舐め回しながら、大紀はズコズコと激しく突き上げ、まだ熱を持って絡みつく肉壁を堪能していた。
「お前が下手なことをしたら、今度は妹があんな目に遭うぜ。母親だってぽっくり逝っちまうかもしれねぇし」
「いっ、あっ……そ、な……言う、なっ」
 涙をポロポロと流す啓治は怖ろしい未来を想像しているのか蒼白ではあったけれど、身体は教え込まれた快楽に熱を帯びていく。
 理性と感情、恐怖と快楽。
 相反するモノに押し流されつつも、先のように理性を飛ばすことなど無い。それは、脅迫に負けて諦めようとする思いと、身内を捨てられない思いとが、どこかでブレーキをかけているからだ。
 だが、喘ぎ、身悶える啓治は、だんだんと大紀のペニスが与える快楽に溺れようとしていた。
 トロンと蕩けた瞳の中で、虚ろに映像を見つめて。
 悲哀に涙を流しながら、けれどどこか甘く啜り泣く。
 そんな啓治を、よく似た喘ぎ方をする、と揶揄しながら犯して、自分こそが逃げられないのだと何度も何度も繰り返した。
 ひたすらリピートする大音量の音声付き映像は、もう何回目か判らない。
 二人分の喘ぎ声が木霊する部屋は、あっという間に淫臭漂う淫らな部屋にとなっていく。
 汚れ一つ無かったラグには点々と染みができて、もう落ちやしないだろう。
 もう二度と前のような清潔さなど保てない部屋をさらに汚しながら、まだまだ時間はたっぷりあるというのに。
 大紀はたいそう愉しげに、時間を惜しむように啓治を犯し続けていた。

【了】