【明けぬ夜】5   (【宴の夜】続編)

【明けぬ夜】5 (【宴の夜】続編)

「あっぁぁっ、あつっ、もぉっ、くるし……助けぇ、ひぁぁ、ゆるひてぇ」
「誰に言っているんだい?」
 体の中を駆け抜ける快楽と苦痛の混じり合った嵐に、ただ翻弄されるだけだ。その苦しさに泣いて許しを請う言葉は、意識している物ではない。それでもそれは許されないことで、そんな言葉を言ったことに気がついて、続けて己を恥じる言葉を繰り返す。
「もうし……ありませっ、……ああっ、わ……しが、ああっ、感じてばかりぃぃっ、ああっ、淫乱だからっ欲しくて……欲しいのにっ」
「そうだね、淫乱だ。お前は、尻で感じる淫乱だ。だから欲しくて仕方がない」
 耳元で囁かれる言葉に、こくこくと頷く。
「わた……しは、淫乱ですっ、ああっ、欲しい、もっと、もっとくださいっ」
 辛いのに、強請る言葉が勝手に出て。
「良かろう。もっともっとやろう」
「あひゐぃぃぃぃっ!!」
 足を肩に担ぎ上げられて、より深く、よりいっそう激しく突き上げられて、掠れた声での嬌声が迸る。
 最初の仕置きで、もう射精するものなど無くなっているというのに、久能木のペニスは何度も何度も吐き出す快感を感じている。けれど、それは弱い。
 尿管を迸る精液の刺激が無いのだから当然だけど、その物足りなさに嘆き悲しみ、まだ足りないと体が欲してやまないのだ。
 空達きを繰り返した体ももう限界だ。担ぎ上げられた足には感覚など無くて、昨夜と朝の陵辱も合わせてアナルは腫れており、激しい抽挿に痛みを覚えている。けれど、それらを前立腺をむちゃくちゃに突き上げられる衝撃には勝てない。もっともそれも快感だけを感じている訳ではない。
 辛くて、苦しくて、快感よりも痛みが強い現状だというのに、なのに、心は「もっと」と強請る。
「ああ、ご、主人様っ、ああぁ、肉棒を、ご主人様の熱くて硬い肉棒を」
 アナルが壊れてもなお、強請るしかないのだと、心が屈服した今では体の苦痛は無視されていた。
「お、ぱい……ああ、この乳首を、虐めて……くださ……あぁぁっ、もっと大きく、もっと淫乱な形に……ぃぃっ」
 佐々木の好きな乳首が、佐々木が望むべき形になるまで。久能木自身の手が引っ張り、つぶし、色が変わるほどにもみくちゃにしていた。
「そろそろ、この乳首にピアスをしてあげようか? ペニスにもね。最低ランクの奴隷にふさわしい、イヤらしい形のピアスで飾り立ててあげるよ」
 問いかけという名の、けれどそれは決定事項で、佐々木がニヤリと口角を上げた。
「は、い……どうか、ご主人様の望むがままに」
「もう医者には行けない体になるね。でも心配することはない。隣の屋敷に来る医者は、私も懇意にしているから、何かあっても見て貰えるよ。良かったね」
「はい、……はい、ありがとうございますっ」
 優しい佐々木の言葉に、涙ぐんで礼を言う。
「そうそう、隣の本家には、たくましいペニスを持った犬もたくさんいる。いつか、そいつらにも犯して貰えるように頼んでみよう」
「あ……イヌ……?」
「そうだ、犬だ。すごいよ犬は。繋がったまま腹が膨れるほどにたっぷりと放出する。しかも簡単には抜けないほどの瘤をつくってね。人の動きとは違う動きで、お前を翻弄してくれよう」
「あひっ、ひぃ」
「犬に犯されるお前は、きっと堪らなく卑猥な生き物と化して、私を楽しませてくれるだろうねえ。ああ、楽しみだ」
 突き上げながら近いうちにセッティングすると言われて、理解するより先に頷いた。
 もとより、久能木に拒否権など無い。
「ありがと……ございまっ……、ご主人様」
「本家の性処理玩具に憧れていたんだ。あんな玩具が欲しいと常々思っていたんだが、なかなか好みの子にあえなくて。仕方なく選んだらどうも気にくわなくて、結局売り飛ばす羽目になったし。まあ、来週には買い戻す手はずをして、あの二人の専属にしてやろう。そうすれば、文句は言わないだろうしな」
 聞き取れない言葉に含まれる剣呑な意味よりも、続いた言葉だけはしっかりと耳に入った。
「すばらしい玩具になるならば、一生私のモノにしてあげるよ。もっともその前に、徹底的に性奴隷として躾けてあげよう」
 そのとたん、久能木のまなじりから流れた涙の意味は、久能木自身にも判らないものだった。



 佐々木の中での性処理玩具という存在は、持ち主の性欲を最大限に高めて解消させることができるモノだ。奴隷はしょせん人で、その尊厳だけが剥ぎ取られた生きたダッチワイフでしかない。
 けれど、玩具は人でないモノだから、気に入れば長く使えると考えていた。
「私の専用の玩具になるならば、どんな男に嬲られても、私に一番感じることが最低条件だからね。だから、いろんな男や、淫具や犬を銜え込んでなお、私だけを求めてくるのか試してみるよ。そのために、室崎達の相手はそれぞれ週に一度だけ昼だけにしよう。いろいろなところでいろいろな相手に犯してもらう必要があるからね。それとアナルは解禁だ。あの性欲の強い連中が週に一度しか遊べないとなったらどんなふうに扱うか見物だね」
 俯せに伏せて、力尽きて動かない久能木の尻を抱え上げて、ゆるゆるになったアナルを突き上げる。
「はぁぁぁっ、イ、イクっ、また……ぁぁぁっ!!」
 焦点の合っていない瞳が大きく見開かれて、一瞬硬直した体が一気に弛緩して崩れ落ちる。
 恐怖に縛られた心につけいる優しさは、久能木にはたいそう効いたようだ。
 週末の時はまだ半分も経っていないのに、こんなに従順になり果てた。けれど、これは未だ性奴隷だ。淫乱で従順だが、それだけでは性処理玩具とは言わない。
「夜も、昼も……快楽付けの毎日で、いつすばらしい玩具になるか楽しみだ。その前に壊れてしまうのも一興だね。まあ、無事玩具になってくれれば、会社でも扱うようにしてあげるよ」
 奴隷を日がな一日可愛がる趣味はないけれど。
「ひっ、あぁぁ、もっとぉ……ご主人……さまぁ……あぁぁ」
 玩具で遊ぶのは、仕事に支障がなければ行いたい限りだ。
 昔からいろいろな玩具が好きで、特に人型のロボットのような玩具は大好きだった。どんなふうに扱われて、壊されても、それに殉じるしかない。自分のモノであれば、どのように改造しても良かったし、遊んでも良かった。
 それでも、それで性欲処理をしようなんて思わなかったけれど。
 ある日、本家の高藤の玩具を一目見せてもらったときから、それに捕らわれた。あれが欲しかった。あんな玩具が欲しかった。
 それは、物欲と独占欲、そして強い性欲と、嗜虐性とを全て解消できる存在だったのだ。
 持ち主曰く、あれはペット以下の存在だと言うけれど。手がかかるやっかいな玩具だというけれど、それは彼がまだ完全な玩具では無いからだろう。だが、それもあと少しだ。
 たまに見せてもらうその姿は、どんどん玩具にふさわしいモノになっていて、持ち主も遊ぶのがたいそう楽しみのようだった。
 あんな性欲処理玩具にしてやりたい。
 ようやく見つけた青年と、それをまずは性奴隷化するための手伝いをさせる手駒とがワンセットで見つかった時の悦びは今でも覚えている。
 堕としてみれば、想像以上に淫乱で奴隷気質を持っていて、今度は小躍りしそうなくらいだったのだ。
 その久能木がとうとう自ら性奴隷であることを宣言した。
 その祝いにとたっぷり犯してやれば、それまでの躾のせいもあって、早々に音を上げてしまっていた。
 ずるりとペニスを引き抜けば、肉壁が絡みついてめくり上がってくる。いつものならそんな刺激にすら喘いで勃起するというのに、今はぴくりともしない。その久能木は虚ろに口を開けて涎を垂らして失神していた。
 今日はもう無理だろう。
 昼間に遊ばせなかったらもう少し楽しめたかも知れないが。それでも、遊ばれて疲れ果てていたからこそ、飴と鞭がたいそう効いて、今日ようやくほんとうの性奴隷となることができたのだ。
 今までのような反抗心は、それでもまだ芽生えるかも知れない。今日の出来事を、真っ向から否定するかも知れない。
 それでも、繰り返せばその性奴隷として植え付けられた躾は、ことあるごとに目覚めて、久能木を貶めるだろう。
 それは、一からの躾よりはたいそう簡単にだ。
「まだまだ時間はたっぷりある。いずれ、お前が望むように家の中だけで遊んでやるが、それまではたっぷりと外で遊んでいろいろな知識を得ておいで」
 主人を楽しませるには、奴隷としての勉強も大切なのだから。
 室崎と香我美と瀬能くらいを御し得ないで、佐々木専属の玩具にはなり得ないのだから。
「まずは、男を籠絡させる方法を覚えることだな」
 玩具とは常に遊ぶ相手を悦ばせる存在だ。自分の快楽だけを求めるのではなく、相手の快楽を最大限に高めるために存在する。
 それができて初めて久能木は玩具になれるだろう。
 それは、淫乱で敏感すぎる久能木には大変だろうけれど、それができないのならば、佐々木が久能木を持ち続ける理由などどこにも無いわけで。
 久能木がどれだけ足掻いて近づくか、その課程もまた楽しいものだと、佐々木はしばらくぶりの満足感とともに仄かな愉悦に浸っていた。
 
【了】