【目覚め】(3)

【目覚め】(3)

 シイコはできの良い奴隷だ。
 淫乱で三坂には絶対服従で。性欲に煽られていなければ、性根の真面目な部分も残っていて、熱心に薬局の仕事も地下の仕事も手伝ってくれる。
「テンチョ、さっき電話がありました?、メモ、そこです」
「シイ、サンキュー、ああ、この件か」
 薬局内で呼び名はシイだ。さすがに一般客の前ではシイコと呼べないからだが、時々シイコと呼んでしまう。まあ、耳が遠い客も多いし、シイ公と聞こえなくもないから、変に思われたことは無い。
 そのシイコが今度は、奥の調剤室の方に顔を向けた。
「テンチョ戻ってきたから、俺、あっちの店行きますね」
「お?、頼む」
 須崎も奥を覗けば、三坂がいくつもの薬袋の中身を点検しているところだった。中の待合用の数席分のイスには、客が一杯だったから、その薬だ。年齢層からして、一週間分の薬を取りに来た客と見えて、スナック菓子の袋並にぱんぱんに詰められている。
 奥の事務所に戻るシイコに手を振って、代わりにレジに入って、ほっと一息吐いた。本音を言えば、今まで二人だけっていうのは結構大変なときもあったのだ。
 平日は、一週間分の薬をもらいに年配の客がたくさんやってくる。須崎と三坂は、なぜか年配の客達に評判が良くて、わざわざこの小さな薬局に来てくれるのだが、彼らは一度座り込むと長い。その話に巻き込まれると、もう逃げられない。
 そういう時は三坂は調剤で忙しいから、どうしても地下の方は閉めなくてはならなくて、不便だったのだ。
 けれど、たとえ高校が休みの日や終わってからであっても、シイコが来るようになってからは、こうやって薬局の方も地下の店の方も店番をしてくれるようになった。
 しかもバイト代もいらないお手伝いとのことで、非常に助かる。もっとも、シイコの目的は三坂とのセックスだから、それが褒美だと言われれば、何だってやるだろう。
 地下の店では、シイコ主演の「初めて」から「野外プレイ」、「カーセックス」、「玩具三昧」、「縛り」エトセトラと一通りのDVDが揃っている。だから、来る客はみんなシイコがどんなに淫らでイヤらしい淫乱なのかをよく知っている。
 そんな客相手に媚びを売り、どの玩具が一番良かったか、自ら宣伝までしてくれるから、こんな重宝な奴隷はいない。
 そんなシイコを三坂はたいそう気に入っていて、一通り遊んだから複数プレイ編に取りかかるかと思ったら、なかなかその様子はなかった。
 三坂曰く、
「シイコが嫌がるんですわ、俺じゃねぇとダメって」
 その辺りも、今までの奴隷と違う。
 セックスは好きだし、見られるのも好きだが、その相手は三坂でないと良くないのだと、割とそういうことははっきりと言う。
 客に迫られたときだって。
「俺、三坂さんじゃないと萌えないんで……、ごめんなさい。でも俺なんかを犯してみたいって言ってくれて嬉しいです。これ、サービスしますね」
 正直に理由を言っては頭を下げて、店の品を勝手にサービスしてやんわりと断っていた。
 それも三坂特性の薬をだ。
「とおっても気持ちいいんですよ。きっと、相手の人もお客さんの虜になること間違いなし」
 まあ、その薬が無くなったら、買ってくれるようになったし、三坂もなんだか嬉しそうにしているから、まあ良いか、と思うことにした。いっそのこと、サービス用にいくつかの薬の少量パックをストックしとくとのもちょうど良いかも知れない、と三坂に言えば、あの面倒くさがりが悦んで作っているのだから、あれはそうとうシイコが気に入っている。
 さらにシイコは、パソコンの機械や操作にも詳しく、ビデオ編集もできる。
 最近では、店で売るためのDVD編集は、シイコの役目になってきていた。自分やテルが映っているたくさんの録画映像のどういうシーンで客が萌えるか、どんなタイトルをつければ手にとって貰えるか、宣伝用のPOPまで自分で考えて作っているのだ。おかげで、前より売り上げが上がっているのも事実だ。
 そんな感じで、三坂とシイコの関係は、非常に良い。店としても、シイコを手放す気にはなれない。
 そして、テルもまた、なかなかに良い奴隷として逸材だった。もっとも、それは体という面に関してだ。ただ、残念がら精神の方は完全に落ちているとは言い難い。
 もともと長丁場は覚悟していたから良いのだけど。快楽だけで堕ちるようなそんな軟弱な奴は面白みがないからだ。まあ、シイコは快楽には弱いが、あの精神は軟弱とは言い難い。
 そのシイコの父親らしく、テルもまたけっこう精神は強い。
 ビデオも写真も撮って脅してるから、言うことは聞く。週に一度は呼び寄せて、尻を振らせて強請らせているし、たっぷりと犯してやったりもしている。
 ただ、どうしても嫌がっているのがありありと判るし、快感に溺れることも無い。いつも泣きながら、快楽に悶える体を持て余している。
 それは、それで面白いのだけど。
 毎日のように犯せばもっと早く堕ちるのかも知れないが、忙しい仕事を持っているテルは、なかなか思うように呼び寄せられなかった。
 けれど、そろそろ次のステップとして野外プレイとかもしてみたいな、と考えているところで。
 そうやって一ヶ月が経ったとき、いきなり爆弾発言を発したのは、シイコだった。



「俺、テルに突っ込んでみたい……、いいかな、テンチョ?」
 珍しく須崎に向かって可愛くお強請りしたかと思えば、この内容で。新製品のPOPを飾っていた手が、驚愕のあまりぴたりと止まる。
 隣にいた三坂も同様で、口をあんぐりと開けた間抜け面の熊となっていた。
「俺さ、童貞なんだよね。せっかくだからチンポ使ってみたいし。三坂さんやテンチョなんか、すっげえ気持ちよさそうにしているから、どんなんなんかなあ?って気になってんだ」
 それを聞けば、快感大好きの淫乱シイコらしい発言ではある。
 だが。
「テルにか?」
 三坂の言葉にシイコが大きく頷いた。
「だって、テンチョに突っ込まれているテルってば、すっげえカワイし。あの泣き顔って、もっともっと泣かしてみてぇっていっつも思ってたんだよね」
 そういえば、シイコが編集したテルのDVDは泣いている顔のドアップが多かった。
「テルは……お前の親父だろ?」
 近親相姦なんて言葉が頭に浮かぶ。いや、別に相手が誰であろうと突っ込みたいときには突っ込むだろうし、それは良いんだけど。そんな楽しいシチュがあったら、進んで設定するだろうけれど。
 それを、まさか、息子の方から言われるとは思っていなかった、というか。
 須崎は、自分はまだ常識人だったのか……と、お強請りポーズ全開のシイコを見つめてぼんやりと思う。
「そうなんだけどさぁ、なんかテルって、犯したいって思うんだよな。あの白い尻をパンパン叩いたら、気持ちいいだろうなって思うし、尻で達きたくなくてガンガン突っ込まれて必死で我慢しているところとか、なんかめっちゃ萌える。なあ、良いだろ? 一回でいいからさぁ」
 ああ、そうか。
 三坂と顔を見合わせて。三坂が苦笑を浮かべてしたり顔で頷く。須崎もまた、今気がついたと頷き返して。
 あのDVDのできの良さは、シイコもまたこちら側の人間だったからだ。
 犯したい人間がどんなシーンを好むかよく知っているからこそ、良いできだったのだ。まだ若いシイコの中に眠る嗜虐性が、三坂によって開花させられて。その目の前には、須崎に嬲られているテルがいて。
 テルには無い嗜虐性が、シイコの強さだったというわけだ。
 それにシイコは早い段階から三坂達と同じように父親をテルと呼び捨てていた。その時から、シイコにとってテルは性欲の対象だったのだろう。そして、そんなシイコは、もう単なる奴隷ではない。だからこそ、三坂も気に入ってしまった要因の一つなんだと、今気がついた。
「いいぜ」
 ニヤリと笑って須崎は一言で了承した。
「ほんとっ!」
「ただし、最初の設定は手伝うぜ。息子に犯される父親の図ってのは、しっかりと撮っておかなきゃな。サイコーのシチュで撮らなきゃ損だ」
「うんうん、その辺りは任せますっ」
「それと、あの強情なテルが自分で尻を振りたくって、強請るようにさせたら、一回と言わずもっと使わせてやるぜ」
 その須崎の言葉に、シイコの瞳が爛々と輝き出す。それは、三坂が獲物を見つけたときの様子と同一で、間違いなく、シイコはこちら側の人間だと知らしめる物だ。
「良いすか? あれは、店長の奴隷っすよ?」
 三坂が不思議そうに問うのに、嗤い返す。
「俺も使うぜ、当然。ただ、なかなか会う機会が無くて躾ができなくて困ってたんだ。その点、シイコなら夜はテルと一緒だからな。たまには倉庫以外でやってるシーンを入れるのもできそうだ」
 犯すのも好きだが、見るのも好きだ。
 須崎の言葉にピンと来たのか、三坂も口角を上げて頷いた。
「となると、いろいろ機材を整えなきゃなんないですね。シイコ、こんどアキバに出向いて、買いだしだ」
「はいっ」
 仲の良い主人と奴隷はとても楽しそうに嗤いあっていて、須崎も息子に犯されて泣きわめくテルの姿を想像するだけで、下半身にムラムラと熱が堪ってくるのを感じていた。



 親子二人暮らしのアパートの部屋は2階で、1階は大家が物入れに使っているらしく人は住んでいなかった。ぼろくて狭いそのアパートは人気がないらしく、住民も古い者ばかり。室内は微妙な狭さではあったが、角部屋であり、隣は分厚い壁を持つビルが隙間無く建っていたりと、なかなかの場所だった。
 それは、陵辱するのにもってこいという場所のことだが。
「テルの寝室が外側ってのもおつなもんだ」
 狭い6畳もないダイニングキッチンが共通の場所で、6畳間がテル側、4畳半がシイコの部屋となっていた。高校になったときに寝室を分けたというその間取りをシイコに聞き出した三坂は、たくさんの機材を持ち込んでさっさくセッティングだ。
 土曜も仕事のテルはいない。
 三坂の指示でてきぱきとカメラやら配線しているシイコは、今日が念願の童貞さよなら記念日だとひどく浮き浮きとしている。
 寝室のベッド周囲には死角がないように天井、机の上、棚の上など、いくつものカメラがついていて、その配線はシイコの部屋に設置したパソコンにつながりデータは常にそこに転送される。そこで最低限の処理をした映像は、回線を通じて店のサーバーに送られるという寸法だ。
 生データは、後から時間をかけて送るが、多少データ処理して容量を低下させたデータは、即座に見ることだってできる。
 さらに、玄関先や台所にもセットしてから、三坂が須崎に電話をした。
 須崎は店でのサーバー側での確認作業のため居残っていたのだが、最初のカメラの設定が済んで以来、ずっと映像を出しているから、シイコの家で何をどんなうにしているかは、判っていた。
 最近の監視カメラはたいそう映像が良くて、細かいところまでばっちりだ。もちろんそれ相応の金はかかったが、テルの痴態を余すことなく捕らえるのだと思えば、安い投資だった。
『お?、どうです?』
 三坂の声も綺麗に入る。ただし、しょうしょう時間差があるのは致し方がないということで諦める。
 エロ声が多少遅れても、それほど違和感はないだろう。何より、カラー画像がばっちり撮れていればOKなのだ。ただし、一方通行なので、こちらかの返事は携帯越しだ。
「OK、OK、ばっちり。最近また性能良くなってね?」
『技術は日々進歩してんですって、俺達のためにね』
 あはは、と明るいシイコの声も聞こえてくる。せっかくだからと、WEBサイトからも確認してみれば、こちらもOK。さすがに画質はかなり落としているけれど、見られないことはない。今回は試しだが、良ければこのままお客達に公開するのも手だろう。天井の角に設置した部屋を見渡すカメラは、WEB上から操作できるタイプで、客が自由に操作できる。もっとも、早い者勝ちの誰か一人が操作することになるのだけど。
 設定が終わったら、シイコ一人を残して三坂は帰ってくる。
 画面内にはシイコ一人。
『なんか退屈』
 画面の中でシイコが笑いかけてくる。
 すっかり吹っ切れているいるシイコは最近よく笑う。ストレスで押さえ込まれていた本来の性格なのだろう。欲望に忠実になって、その本来の性格が出てきたのだろうけれど、そんなシイコを見るにつれ、テルが戸惑っていたのを思い出す。
 そんなテルも、まさかシイコが自分の尻を狙っているとは思ってもいないだろう。
「テルはいつ頃帰ってくる?」
 携帯をかけて問いかければ、う?んと首を捻る様子まではっきりと見えた。
『土曜は早いよ。それに、テンチョから命令されてるんだから、そんな遅くなることはないと思うし』
「ああ、そうだった」
 今日は、このイベントのために早く家に帰れと言ってある。もっとも、何のために、とは言ってないけれど。
「テルが逆らったら、俺の名を出せよ」
『判ってま?す』
 にこりと笑うその姿はけっこう可愛いけれど、その中身は真っ黒黒助のド悪魔だ。
 最近は、シイコが店に入り浸るのも、何も口出ししてこないらしい。というより会話自体も減っているといけれど、それは、淫乱になった息子をどう扱って良いのか判らない、と言うことよりも、自分のことで精一杯だからだ。
 須崎のように優しい主人はそういない。仕事熱心なテルのために平日は無茶はしないし、傷や痕がつくようなまねは、”まだ”していない。
 けれど、テルにはそんな主人の要求ですらいっぱいいっぱいだ。
 もう少し素直になってくれれば、扱いやすいんだが。
 いい加減自分の淫乱さを認めてしまえば、シイコのように楽になれるのに。
「テルは、四つん這いで犯されんのが一番感じるぜ」
『うんうん』
 テルはシイコに堕ちることは間違いないだろう。
 息子に犯されるなんて、すでに息子の行動に翻弄されている親としては、受け入れがたいことに違いない。
「なあ、シイコ」
『なに?』
「快感を与えている間、テルって呼び続けろよ。テルという名を聞いただけで、体が疼くようにしてやるんだ」
『あっ、判った。俺もさあ、三崎さんにシイコって呼ばれるだけで、ケツマンコがヒクヒクするんだ』
「そうだ、それに俺はいずれあいつでフィストしてぇんだ。だから、それは俺がするぞ」
『え?、すげぇっ!! 俺もやりたいっ』
「そういうと思ったから、念押ししてんだ。いいな、他のことについても、俺が一番だからな。守らねぇと、三坂に捨てさすぞ」
『はいっ、テンチョ』
 不平が一気に消えたのは笑えて吹き出せば、画面の中のシイコがピースサインをして返してきた。
「ま、俺がやったら、お前にも回してやるからさ、さっさとテルを淫乱にしてくれよ」
『了解っ』
 それから須崎からのシイコへのレクチャーは、三坂が帰ってくるまで続いたのだった。

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