【鬼孕(おにはらみ)】

【鬼孕(おにはらみ)】


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 股が限界まで両側に広げられ、下腹がぼこりと膨れあがる。腸壁の向こうにいるペニスが、腹の肉すら押し上げているのだ。
 稲葉は、その巨大なペニスを貴樹の奥深くまで一気に押し込んだ。その衝撃に、貴樹は全身を硬直させ、白目を剥いて泡を吹いた。
「がはっ、はっ」
 唾を噴き出しながら、吐き出すことしかできない呼吸を繰り返す。
 だが、貴樹のアナルはシワが無くなり限界まで薄くなってはいたけれど、裂けてはいなかった。
 軽く抜き差しされても、ぼこぼこと膨れあがった肉棒にまとわりつき、肉色をさらけ出しているだけだ。
「壊れなどせぬわ。何しろ人の年で七年もの間我をしゃぶり続けてきた穴故にのぉ」
 稲葉の言葉は耳に入っていなかった。
 開ききった口の中に、傀儡のペニスが差し込まれても、閉じることすらしなかった。
「お、おや、かた、様ぁ、動きませぬぅ……」
 貴樹の頬が膨れあがるほどに口の中を突き上げながら、傀儡の男が訴えた。
「おお、良すぎて気をやったか。なんと淫猥なヤツよ」
「ああ、ほんとぅだぁ……。精を漏らしてますぅ」
 股間を覗き込んだ男が、長い舌を出して溢れた精液をぺろりと舐め取った。
「あぁ、甘い?、もっとぉ」
 うっとりと呟き、古ぼけた畳の毛羽が口に入るのも構わずに、溢れた精液に吸い付いている。
「あ、ずるぃっ、俺もっ」
「ふむ、挿れただけで達くとはもったいないのお。溜めに溜めて噴き出せた時ほど、旨くなるからの。止めておこう」
 稲葉の鋭い爪が伸びた指が、貴樹のペニスに触れた。
 とたんに、びくりと身体が震えて、貴樹の瞼がうっすらと開く。
 夢──だと思いたかったのに。
 反射的に閉じようとした口の中に何かがあった。
「おぉ、イい」
「んがっ」
 舌に広がる生臭い味に激しい吐き気が込み上げる。
「閉じろよぉっ、頬張れっ」
 男が髪の毛を掴んで揺さぶる。
 だが、醜悪な男のペニスが口の中にある限り、そんなことができるはずもなかった。
 なのに。
「口を閉じろ」
 じわりと言葉が脳に染みこんできた。
「舌で、唇で、淫らな音を立てて味わえ。我の傀儡の精を一滴残らず吸い出せ」
 その言葉に身体が勝手に動いた。
 ダメだ──と理性が叫ぶのに、抗い難い欲求に身体が止まらない。
 限界まで開いて、口の端から飲み込めない涎をだらだらと垂らしていた口が、閉じていった。
 舌が生臭く歪なペニスに絡みつく。
 不快な感触に、胃が激しく収縮していた。
 なのに。
「ぉおおっ」
 男が髪の毛を鷲づかみにして、ぐいぐいと押し込んでくる。その動きに合わせて、舌と唇がペニスを扱き、口内全てでペニスを愛撫していた。
「んが、あっ、あん……でぇ……」 
 自分の意思ではうまく動かない口で必死になって喋る。
 なんで、こんな事に。
 がんがんと喉の奥まで突き上げられて苦しいのに、唇や舌は離さないとばかりに吸い付いているのだ。
「そちが意識ある状態で我の肉棒を受け入れた時点で、そちはすでに我のもの。故に、我の言葉は絶対なのだ」
「ひ、ひぐぁ」
 稲葉も動き出した。巨大な肉棒が寸前まで抜け出しては、一気に押し込められる。
 内臓が身体から抜き出され、また押し込められる苦痛。なのに、それを上回る快感が、貴樹を襲う。
 ごりっと体内で音がする。
 ごりっ、ごりっ、とある一点を擦られるたびに、目も眩む快感に襲われ、全身が大きく跳ねた。
 快楽の泉に太い棒を突っ込んで、無茶苦茶に掻き回されている。
 しかも、泉は次から次へと新しい快感を注ぎ込まれて、溢れた淫靡な水が全身を駆けめぐっていくのだ。
 視界に映るのは、もじゃもじゃの陰毛。
 口の中に広がる苦い味。
 忌避すべきものがそこにある、というのに。
 何が起こっているのか?
 これはいったい何なのだ?
 薄汚い空き家の中で、全裸で拘束されて。
 人とは思えないペニスを持った男にアナルを征服され、口は自分の意思とは無関係にこ汚い男のペニスに吸い付いている。
 その光景が頭に浮かんで、ぞわりと肌がざわめいた。
 熱い、熱い、熱い。
 全身の血が沸騰しそうなほどに熱い。
 身体が、何かを欲している。
 あと少し、あと少しで貰える何かを。
「おいひぃ……、もっとぉ」
 高く掲げた腰の下で、間延びした言葉を喋る男が自らの腰を振りたくりながら舌を動かしていた。
 彼が受けているのは、稲葉に揺すられるたびに貴樹のペニスから垂れ落ちる粘液だ。
「お、おやかたぁさまぁ……舐めたぁい、おゆるしをぉ」
 目の前で震える鈴口を見つめて、泣きそうな顔で懇願している。
「精は出ぬ。だが、たっぷりと舐めよ」
「お、おお、おありがとぅ、ござぁまぁすぅ」
「ひ、むおぉぉぉ」
 重力に引っ張られてだらりと垂れ下がっていたペニスに熱い粘膜が触れた。と思った直後、陰茎までもすっぽりと熱く滑った場所に覆われた。
「ぐぅっ、あむぅぅぅぅっ」
 目の前が白く眩んだ。
 叫びたいのに、口を塞がれて叫べない。
 きゅうっと吸い付かれ、ごりごりと裏筋を擦られて、その度に、電流のような快感が背筋を走り、脳で小爆発を繰り返した。それでなくても掻き回されていた快楽の泉が、一気に膨れあがる。
 口を塞がれていなければ、叫び声を上げていただろう。
 腰が固定されていなければ、激しく振りたくっていただろう。
 だが。
 膨れあがって爆発してしまおうとしたその寸前で、泉は動きを止めている。
 波立ち荒れ狂っている湖面からは考えられない状況。
 もう後は、爆発して堪った泉の液体を吐き出すだけだというのに。
 がくがくと不自由ながら腰を振り、必死になって射精しようとする貴樹だったが、そのあと少しが一向に訪れなかった。 陰嚢の中で出ない精液が滾っていて、貴樹を狂わせていくだけだ。
「あ、ふぁんでぇ……、あぁぁ」
 口の中のペニスに吸い付き、僅かでもよい子だと知らしめて。
 狂おしい快感からの解放を涙目で背後の稲葉に訴える。
 原因は稲葉だから、と、本能が貴樹に稲葉に媚びを売らせた。
 その堕ちた姿に、稲葉は満足そうだ。
「言ったろう。そちは我のもの。よって、そちの旨い精は、我が喰らいたい時にのみ出させる。それまでしっかりと蓄え熟成させるが良い」
「え……、な……!」
 言葉が遅れて理解できた。呆然と稲葉を見つめる貴樹に、頭のすぐ上から言葉が振ってきた。
「おおっ、イいっ、出すよぉ、飲めよぉ」
 口の中のペニスが膨れあがる。
「あぁぁ」
 欲しい。
 達けない苦しみに晒されながら、けれど、なぜかそれが激しく欲しくなった。
「喰らえ」
 言葉が重ねられる。
 頭の片隅で、何かが拒絶しようとしていたけれど、欲求が全てを凌駕する。
「お、おおぉっ、おおっ」
 唇をきつく閉じて、舌で鈴口に絡みついて──腹式呼吸で一気に空気を吸い込んだ。
 

 口の中に広がる苦い精が、勝手に喉の奥に流れ落ちていく。
 激しく突き上げられるアナルにも大量の精が注ぎ込まれていた。だが、注ぎ込んでいる最中も、稲葉は止まらない。
 ぐっちゅ、ぐっちゅと掻き混ぜるように動かして、時に激しく突き上げる。
 そのたびにペニスからだらだらと透明な粘液だけが溢れ出て、傀儡の男達が舐め取っていた。
 アナルから溢れて流れた泡立った白濁も、瞳から溢れた透明な涙も、すぐに別の男が舐め取った。
 稲葉も旨そうに貴樹の全身を舐め回し、貴樹の体液という体液全てを口に運んでいる。
 その代わりのように、己の精を全て貴樹の体内に注ぎ込もうとしているようだ。
 貴樹の瞳から光が消えていた。
 揺すられ、快楽に翻弄され、けれど、吐き出せない熱に犯されて。
 紐が解かれても、逃げることを忘れていた。
 ただ、達きたい──と利けない口を蠢かす。
「どうだ、我が与えるエサは。これよりしばらくそちはこのエサで暮らすのだ」
 稲葉の──否、今や人とは言えぬ体躯を露わにした男が、愉しそうに宣告した。
「我の子を孕み、産み落とせ」
 稲葉の声に、傀儡達が歓喜の声を上げる。
「おお、お館様の次代の誕生よぉ、そのための糧になりましょうよぉ」
「全てを注ぎ込み、次代の血肉となりましょう」
 そう歓声をあげる二人の肌から、人の皮が剥がれ落ちていった。