【水砂 Ending】

【水砂 Ending】

 退院は、マサラの言葉通り二ヶ月後だった。
 馬でクドルスが迎えに来て、送りつけられた宿舎で祝いの宴が設けられた。
 もちろん中心はミズサだ。
「うまそうだな」
 上擦った声が頭上から落ちてきた。含まされたペニスも張り詰めていて、今にも暴発しそうなほどにひくついている。それに丁寧に舌を這わせ、垂れる涎を啜りながら愛撫するように太股に指先を這わせる。
 早く欲しかった。
 二ヶ月の禁欲生活はリジンでなら当然のことだったけれど、ラカンに来てからはあり得ないことで。
 ダマスの逞しい陰茎に触れる度に下腹部の奥が熱くなり、太股がすりよってしまう。未だ下肢の衣服は着けたままだ。上着もはだけただけで、覗く乳首を背後のカランが弄っている。
 それも脊髄を通って、脳と下腹部の両方に痺れるような快感をもたらせた。できれば肌を合わせたい。直接弄って欲しい。重苦しく張り詰めるペニスを取り出して、解放して、思いっきり扱き上げたい。
 モジモジと悶えていると、くくっと周りの酒を飲み交わしている他の隊員達から笑い声が上がった。
「副隊長〜、ミズサの奴、早く突っ込んで欲しくて待ちくたびれてますよぉ」
「ああ、腹を空かした赤ん坊みてえに吸い付いてやがる。もう、欲しくて欲しくてっ、たまんねえんだろうよっ」
 じわりと口内に滲む先走りの液に、ミズサ自身も触れてもいないのに勃起して、その先端も濡れてくる。
 衣服を濡らしそれを盛り上げた勃起は、さらにミズサ自身の欲情を誘う。
「ああ……」
 堪えられない。
「おいおい、腰を振って、何誘ってんだよ?」
 それで誘えるなら、もっと誘う。
 いやらしく、皆を誘って、早く突っ込んで欲しい。
 禁欲生活のせいか、それともその前のクスリの後遺症の苦しみを経験したせいか。
 貰えると判っているものに我慢ができない。
 もとより、快感に身を委ねた方が身体が楽だと知っているから、欲しければ誘う技量は身についてしまっていたけれど。その時以上に身体が勝手に動く。
 何より、早くペニスを解放したい。
「鬱陶しい、服を脱がせてやれっ。裸でいるほうが、らしい、だろう?」
 顔を顰めているダマスも限界が近い。
 前よりイヤらしい動きを惜しげもなく見せるミズサに、彼や周りのみんなの欲情も盛り上がっている。
 クドルスの手が衣服に触れるのを、自ら手伝って肌を晒す。
 入院中に日焼けした肌は色を失い、傷も綺麗に治っていた。
 マサラが名医だというのは確かなことで、彼の手にかかれば腐りかけていたペニスも、ちゃんとある。
 ただ。
「おっ!」
「なんだ、これ……」
「う、わ」
 全ての衣服を取り払った瞬間、周りの視線がいっせいにミズサの股間に吸い付けられた。
 一言、二言、思わず驚愕を口にして、そのまま固まってしまう。
 けれど、外れない視線に、ミズサは羞恥のあまり全身を紅潮させ、瞼を固く閉じてそれを晒したままじっと堪えた。
 見せたくはなかった。
 けれど、見せる必要があった。
 これも含めて、これからのミズサなのだ。だったら、最初に見て貰って、そして。
「……レイメイ様がマサラ様に治療を頼んだとき、一つだけマサラ様が出した条件がこれだそうです」
 クスリに冒された内臓、傷ついたアナル、腐り落ちかけたペニス。
 それら全てを治療するために、特にペニスはその形状を取り戻すために必要な再生医療を行うために。
「す、げぇ……」
 最初に発したのは誰だったのか。
「でも、これって、ミズサには関係ねんじゃねぇ? だって、突っ込む訳じゃねえし」
 指さされたそれは、ミズサの治療されたペニスだった。
 特に痛んだ海綿体を治療した後に、マサラが施した整形。その整形をマサラが自由にすることが、治療の条件だった。
「こいつは……クドルスより立派だな」
 ダマスの口調が少し悔しげだったのは、やはり男としてのプライドからだ。
「このぶくぶく膨らんでるのは……その、いわゆる真珠とか、そういうのが入っているからか?」
 つんと突かれて、それだけで全身を駆け巡る疼きに、びくびくと痙攣する。
「や……ふっ……」
「うわっ、何々? そんなに感じるの?」
「まっ、握ったら────っ!!」
 大きな手のひらで包み込まれて、途端に全身が激しく痙攣した。
 ピンと背筋が伸びて、口のすぐ側にあったダマスのペニスが頬を打つ。
 鈴口から噴き出した液体が、ビチャビチャと床を打ったけれど、尿ではない。
「え……達った? しかも、触っただげで……これって潮吹き、ですか?」
 女が達く時のような。
 噴き出した液体が尿でないことに気が付いたカランが、彼には珍しく呆然と呟いた。
「お、い……ミズサ、これは?」
 ダマスの問いに、息も絶え絶えに答える。
「これは……勃起するととても敏感になって……とても達きやすくなると……。勃起すると、皮の下にある玉が海綿体を刺激するって……。それに……あのっ、く……性奴専用の張り型が……」
 説明された時は、まさか、と思ったけれど。
「張り型……そういや、あれ、どこ行った?」
 その存在を誰もが忘れていたけれど、確かにミズサがここにいる以上、あれはこの近くになくてはならないものだ。性奴が張り型から必要以上に離れると、性奴に激しい快感が湧き起こるようになっている。
 それが、この場に無いということは。
「一定以上の圧力が玉にかかると……それと同じ効果がっ……はっ。うっ……」
 カランが試すように握ったから、迸る快感に絶句して、うずくまって堪える。
 繰り返されると体力がもたない。
 入院中に試されたとき前立腺を直接刺激されたくらいの激しい快感に襲われて、何度目かには失神してしまったほどだ。
「私には……っ、あれより、この方が──っ、良いだろうって……」
 戦闘時にあんなものを持ち歩く訳にもいかず、けれど、離すわけにもいかず。
 うっかり落としてしまったら、その場から離れられない戦闘要員など役に立たないどころか邪魔になるだけだから。
「勃起、しなければっ、握られても、大丈夫、ってと言われたっ。だから、戦闘中でも、大丈夫って、けど……」
 不安げな視線で、その歪に膨らんだペニスを見やる。歪なだけでなく、太く大きい。ダマスが羨むサイズのそれを晒して、それに集まる視線にすらぞくぞくとした疼きが駆け巡る。
「見られただけで勃起するほどに淫乱なお前には……、良い贈り物だな」
 ニヤリ──と嗤うダマスの目がぎらぎらと欲望に滾り始める。
「それに、これでお前は他の輩には、男として突っ込めねぇ。そうだろ?」
 伸びてきたダマスの手が、そう言いながらぎゅっと握りしめた。
「ひっぁあぁぁ──っ」
「握られただけでこんな簡単に絶頂を迎えるって事は……しかも女みてぇに潮吹きしかしねぇってことはよ。つまりは、挿入しただけで腰砕けになるほどの絶頂を迎えるってことだ。ってことは相手を満足させることなんてできねえ」
「ああ、確かに」
 握られ続けて硬直し続けるミズサは、ダマスの腕に縋り付いてひくひくと全身を痙攣させていた。
 善すぎて、堪らない。
 妙なる快感は射精とは違う。それに。
「ひっ、あっ……」
 アナルに挿入されるのとも違う。
 とても善いけど……足りない。
「あっ、お、おねが……っ、ほし……」
 アナルがひくひくとひくついて、中から腸液が滲み出てきていた。自ら潤滑剤を染み出して誘う場所を皆に向けて、腰を振る。
 淫らな性奴隷に与えられたペニスは、姓奴の張り型よりもっと淫らで卑猥な欲情を、ミズサに与えた。
「おねが、い、しまっすっ、挿れて、くださ……い」
「すっげ、やーらしっ」
「たまんねぇ……」
 酒のカップをどんと机に置いて、皆の包囲がじわりと縮まる。
 淫猥な空気が部屋一杯に充ち満ちて、男の欲情が煽られる。
「チンポだけで満足できねぇって? ははっ、たいしたメスだ」
 嘲る声に煽られる。
 ミズサに与えられた全ての経験は、ミズサの身体をさらにイヤらしく作り上げていった。
 今はもう、敏感な身体をいくら自分で慰めても満足しない。男として自慰をしても、女のように絶頂を迎えて、物足りなさに悶えるだけだ。だから、男に突っ込んでもらって虐めて貰うしか、満足などできない。
 もうミズサの身体は王子だった頃には戻らない。
 けれど、それでも良い。
「どうか……どうか……」
「ほら、退院祝いだっ、今日は俺たちから搾り取れるだけ喰らい尽くさせてやる」
「あぎっ、ぁぁぁぁんんっ……」
 禁欲のあげくに慎ましやかに閉じたアナルに、逞しい剛直が一気に突き刺さる。
 その裂けそうな痛みに上げた悲鳴は、一瞬後には甘く啜り泣くものに変わっていった。
 作戦の前の日以来の逞しいそれに、ミズサの身体は歓喜していた。アナルを犯されるだけならたくさん経験したけれど、本当に気持ち良いと感じるのは、ここで味わったペニスだけだ。
「くださ……もっと……、たくさん」
「ああ、たっぷりしてやるよ、淫乱ミズサの尻穴から溢れるくらい注いでやる」
「ひっ、あ……」
 皆が土足で歩き回る床板に押しつけられて、頬の下で細かい砂がじゃりじゃりと音を立てていた。
 顔を上げれば別のペニスが触れてきて、思わずそれに舌を伸ばす。
 伸びてきた指先がぷくりと膨らんだ乳首を弄り、別の手が敏感なペニスの先を突いた。ペニスは玉が入った軸はたいそう敏感に改造されたけれど、亀頭から先は前と同じだ。そのせいで、どこかもどかしげな快感ばかりに襲われる。
「いやあ──っ、ぐっ」
 開いた口に突き刺さる逞しいペニスが、まるで御馳走をもらったように美味しくて。
 嬉しそうに喉を鳴らして、それを味わった。
「嬉しそうだな?」
 問われて頷く。
 とても、嬉しい。
 何よりも、またここに戻ってこられたことに。
 明日から始まる訓練で、またこの身体を鍛えて貰えることに。
 強くなれば、誰かを助けてあげられる。
 その新しい目標は、死を願っていたときよりも、ミズサの心を軽くした。何より、皆が受け容れてくれるここから放り出されないためにも、強くなる必要があった。
「うぐ──っ、うっ……うううっ、はっ、あっ」
 全身を埋め尽くす熱に朦朧としながら喘ぐ。腹の中をごりごりと擦られると、目の奥で何度も火花が爆ぜた。
 伸ばした手が誰かに触れて、指先を口に含まれる。「ああ」と喘ぎ、その頭を抱き寄せて胸に擦りつければ、固い髭に触れて、それがまた快感になって。
 日はまだ高く、宴は始まったばかりだ。
 宴のための大量の酒と食料は、まだあまり消費されていないけれど、全員ミズサの淫猥な空気に当てられて酩酊状態にも等しい。
「ミズサ、ミズサ」
 囁かれる睦言のような囁きに、ミズサは笑みで返した。
 そこにいるのは全身で男を誘う淫靡な娼婦。誰もが色欲に溺れて、その言葉に従ってしまう美しき淫魔。
「どうか……いっぱい……くださ……」
 その願いを叶えることに、男達は否めるはずがなかった。



 リジンの元王子のミズサは、レイメイの持ち物である。
 だが、そのレイメイはミズサを自らの配下の部隊に預けて自由にさせていた。
 それは、リジン滅亡から三年経ち、カルキス王が発した解放令においても、その例外規定により維持された。
 それから10年後、彼らがその功績を持って多量の金銭と共に引退したとき、ダマスはレイメイの許可を得て、ミズサとその他の仲間達と共にレイメイの領地の一つに引っ越した。
 以後、彼らの消息は王都では知られていない。
 けれど。
 その領地を守る自警団が詰める館では、毎夜啜り泣くような甘い声が漏れ聞こえるようになったという噂も流れている。

【完】