神の器 -利水- おまけ

神の器 -利水- おまけ

 刺青は、最初は背に、ついで胸から腹に入れた。
 まだまだあちらこちらに入れる予定だが、この二カ所は、王の所有物である証が前からでも後ろからでも判るために必要だったのだ。
 もともと、この国の守護を司る龍は紋章にも入っているのだが、今の王もまた龍御帝と呼ばれている。それ故に、刺青はすべて龍をモチーフにしたものが入れられていた。
 これから、少しずつ。
 決して消えない証を入れられて、利水は嘆き続けている。
だが、その背にムチを入れられ、腹に精液をかけられて。
 そのたびに、利水は美しくなる。
 最初は、どこから見ても朴訥とした田舎の男であったけれど、日焼けした肌が元の色を戻せば、北国の人間特有のきめ細かな肌は美しいものであった。
 また、中にいるリスイの力故に、実年齢とは違う、青年に成り立てのような若々しさを取り戻し、顔立ちまでもがすらりとした端正さを見せてきたのだ。
 そして。
「う、く、んっ」
 舐めろと言われて、汚濁を舐めていくその姿に、王の股間が力を増していく。
 その姿は、前よりさらに男の欲情をそそり、すでに何度も味わった輩どもも初めて犯すような興奮を見せてくれる。
 実際、王自身も、前より利水で遊ぶ機会が増えている。
 利水で遊ぶと、リスイに力を取られるので非常に疲れるのだけど。
 けれど、それ以上の愉しさがあるのだ。
 それに、リスイは約束を違えない。この国は、ますます発展し、先だっては念願の南方の民族と同盟を結ぶことが出来た。
「利水様、今日は余が相手をいたそう」
 足を踏み出せば、ジャリっと、サンダルの下で砂が音を立てる。
 座り込んだ利水がその言葉に、怯えたように震えた。だが、その瞳に浮かんだ、紛れもない欲情の炎は隠しきれていなかった。
 ガシャガシャと音を立てる、いくつもの鎖の音。
 逃げるようなそぶりは、大きくない。
 それよりも、如実に勃起し始めた陰茎に、王の口角があがる。
 毎日なぶられ続けてきた身体は、ひどく敏感で、どん欲だ。
 特に、他の誰よりも王に犯される時の乱れっぷりは見事なほどだ。
 美しく淫らな踊りを思い起こすだけで、王の際限のない性欲を煽り、駆り立てる。
「今宵は、痛みと快感、どちらが良いかな?」
 向けた視線の先を、利水もたどった。
 古ぼけた二つの棚にあるいくつもの淫具の効果は、利水の方がよく知っているだろう。
「……か、快感……を、……おねがい……します」
 陰茎を銜えて精液をすするのが大好きな淫らな口が、震えながら言葉を紡ぐ。
 怯える視線が送る棚には、痛みを与えるムチやろうそく、拘束衣があって。願うようにちらちら視線を送るもう一つは、媚薬や張り型などが並んでいた。
「そう……快感ね。では、まずはムチを」
 だが、王が手を伸ばしたのは、その痛みを与えるための道具の棚の方だった。
 期待を裏切る言葉に、利水が震える。
「や……」
 小さく首を振る利水が、その背を庇うように身体の向きを変えた。
 その背の二匹の龍は、まだ傷だらけだと知っている。
「利水様は、先日むち打ちだけで射精したと連絡を受けている。今日は余がふるってしんぜよう」
 手の中で一打ちすれば、鋭い音が響く。
 背後の壁に繋いだ鎖のせいで動けない利水は、呆然とその王の動きを見ていたけれど。
 岩で作られたこの部屋は、冷たい。
 その部屋にいる利水は、その上気した肌からゆらりとした湯気が立たせていた。
33-1.jpg 原寸大