【樹香の音楽祭】

【樹香の音楽祭】

 自室から連れ出された樹香はソファに座らされ、足を抱え上げるように命令された。
 逆らうことなど許されない。
 言われるままに、鎖を外された足を上げ、手で太ももを支えれば、足の間に立ったキスカからは何もかも丸見えだ。
 大きなリングを穿たれて項垂れたペニスも、犯され続けて黒ずんだアナルも。
 ピアスをされた乳首は、鎖とベルの重みに伸びて垂れ下がり、醜く歪んでいる。
 今更だとは思う。
 何人もの男や獣たちに犯された姿を、たくさんの人々に見られ続けているのだから。
 だが、それでも羞恥は消えない。
 白い肌は、その羞恥を隠さない。あっという間に、肌を朱に染めていく。
 ましてここ数日特に何もされていないから、羞恥心は酷い。
 それに、この特に憎むべき相手であるキスカに見られるのが、樹香はとても嫌だった。
 許して欲しい、と懇願するしかない相手。
 だが、自分をこんな目に遭わせているのも彼なのだ。
 王子として人にかしずかれて過ごしてきた樹香を、姓奴として扱うキスカ。
 何一つ逆らうことを許さない彼が、憎い。けれど、同時に彼に褒めてもらえると、とても安堵する。
 ──褒めてさえもらえれば、酷いことはされないから。
「ああ、それで良い。ちゃんとできたな」
 褒められて微笑みそうになって。
 慌てて口元を引き締めて、嬉しくなった理由を安堵感からだと考える。
 キスカは、憎むべき相手──自分と兄弟達を酷い目に遭わせる敵国の王族なのだから。
 きつく眉根を寄せて、胸元で動くキスカの手を睨み付ける。そんな樹香の視線を無視して、キスカの手は樹香の乳首から垂れる鎖を手に取った。
 先にあるベルが、外されていく。
 キスカは樹香の痛みに頓着しない。
 鎖を引っ張られ、揺り動かされて乳首に何度も疼痛が走る。そのたびに息を堪えて悲鳴を押し殺した。
 でないと、甘い呻き声が零れそうで。
 昔より二回りは大きくなった乳首は、ほんのわずかな刺激で立ち上がり、痺れるような快感を引き起こす。 ペニス並みの性器となった乳首を刺激されると、甘酸っぱい感覚に口の中が唾液でいっぱいになるほどだ。
 そんな時に口を開ければ、厭らしい涎となって顎を伝い落ちてしまう。
 それをいつも揶揄されるから必死になって声を殺し、奥歯を噛み締めたが。
「いっ」
 眉根を寄せて痛み以上の快感に堪える樹香の前髪を、キスカはむんずと掴んだ。無理に引っ張られ、痛みに悲鳴が零れる。
 かろうじて零れなかった唾液の代わりに、生理的な涙が目の縁に堪った。
 その目元に、キスカは手の中にあった丸い球状の物を見せつけた。
 銀色の玉──ではない。
 手のひらで転がされると、リン、と澄んだ音を立てる。
「今日からはこれを付ける。お前のために特別に作らせた、鈴と呼ばれる物だ。美しい音色だろう?」
「す、ず?」
 聞いたことのない響きだ。
 手のひらで転がるだけでそんな澄んだ音を立てる代物を初めて見た。
 こんな時に聞かなければ、素直にきれいな音だと思っただろう。
 風南に似合いそうだ。
 男にしては可憐という言葉が似合った弟を思い出し、けれど同時に彼が受けた責め苦をも思い出して顔が歪んだ。
 風南……。
 他の兄弟達には会わないが、風南はたまに見かける。
 居住区が近いこともあるが、彼の主であるマサラ王子がずいぶんと気に入って王族専用のリビングにも連れてくるからだ。その部屋は、樹香が嬲られるために改造された中庭を全て見渡すことができるテラスを持っていた。そして、庭からも部屋はよく見えて。
 ──風南……。
 女性的な外観とは裏腹に、芯の強い子だったのに……。
 愛すべき弟の変わり果てた姿を思い出し、深い憂いに囚われる、が。
 人のことを憂いている場合ではなかった。
「しっかり見ていろ」
「ひあっ、い、痛ぁ」
 油断しているところを、思いっきり鎖を引っ張られ、堪らずに悲鳴が零れた。
 同時に背筋にぞくぞくと走る快感に、ひくりとペニスが震え、ぶら下がるベルがカランと乾いた音を立てた。
「まだ鳴らすな」
「ひっ、は、はいっ」
 軽くペニスを叩かれて、慌てて太ももにかけた手に力を込める。
 不揃いのリズムを奏でると、キスカの機嫌を損ねてしまう。そうなれば、いったいどんな罰をうけることになるのか……。
「そうだ、もっと腰を手前にずらせ。足を広げて尻が天井に向くようにしろ」
 言われるままに身体を折り曲げキスカの作業を見つめる樹香の股間で、今度はさっき鳴ったベルも取り外された。
 代わりに、乳首の鎖の先についた鈴よりも、さらに一回りは大きくした鈴が取り付けられる。
 さらにその鈴の根元のリングに別の鎖が通され、乳首の鎖をも絡めて結ばれた。
 全部で三個の鈴。
 しかも、苦しい姿勢に少しでも身体を伸ばすと、ペニスと乳首のピアスが穴を引き延ばす。
 いい加減慣れたとはいえ、それでも引っ張られると痛い。
「うっ、あっ……」
 手に力を込め太ももを支えると、ますます広がった股間の間で、キスカの指が三つの鈴が次々に弾いていく。
 軽やかに鳴った鈴は、意外にもいつまでも振動して引っ張られて敏感になった三つの穴を刺激した。
「や、な、何……」
「この鈴は、中にもう一つ鈴が入っている。それにとても振動しやすい金属が配合されているらしくてな。よく響くだろう」
 ベルも響いたが、それとはまた違う。
 小さいのに、もどかしい疼きがいつまでも続く。その上、苦しい姿勢が乳首とペニスを意識させ、視覚的にもわずかな振動を捕まえてしまうのだ。
「あ、あっんくっ……」
 気になり出すと、何もかも気になる。
 振動も、鳴る音も、そしてもう慣れていたはずの身体を穿つピアスの軸にすら、気になってしようがない。
「お前は楽器だ」
 ひとしきり指先でそれぞれの鈴を鳴らしたキスカが、身体を離し愉しそうに言い放った。
 その背に見えるのは、キスカ愛用のカメラに集音マイク。
「私が良いというまで踊れ。鳴らせ。素晴らしい音楽を奏でて見せろ。こうやって──腰だけを揺らして」
「あ、い、あっひぃぃ──」
 腰を無理に揺らされ、乳首やペニスが揺れる。鎖が振れ、鈴が鳴り響く。
 敏感な性器が反応し、項垂れていたペニスがあっという間に直立した。
「ジュカ作詞・作曲・振り付けの舞踊組曲第一弾だ。あのカメラの向こうには、観客がたくさんいるぞ」
 耳元に吹き込まれた言葉に、肌に突き刺さるような視線を幾つも感じてしまう。
「さあ、始めろ」
 放たれた言葉に、腰を振った。
 人の目が、耳が、見えないのに本当にいるかのように感じてしまう。
 たらりと鈴口から粘液が流れ落ちる。
 ぞわぞわとゆろく感じる快感が、肌を上気させ、しっとりと汗ばませて。
「あ、っ──いやぁ──あぁ……」
 感じ始めた身体が、勝手に動き出す。
 鎖に引っ張られたペニスが腹で跳ね返り、また鎖に引っ張られて。
 鈴の音色が激しくなったり緩くなったりしながら、樹香を追い上げる。
「んひっ、あっ──んあ……あはぁ……」
 けれど、物足りない。
 ここ数日射精をしていないペニスはすぐに限界を訴え始めた。なのに、最後のきっかけがこないのだ。
 もうすっかりアナルの刺激が無いと達けない身体なのだと自覚させられて、樹香は絶望的な表情で自らのペニスを見つめた。
 その間も、腰の動きは止まらなかった。
「や、やぁ──達き、達きたぁ……、あぁっ、はあ、もうっ──やぁ」
 リンリンリンと涼やかな音色に、艶めかしい嬌声が混じる。
 鈴口から溢れた淫液が、だらだらといきり立ったペニスを汚していく。
 何もされていないアナルが、ひくひくと震えて待ち望んでいるのに、キスカはただ見ているだけで動こうとしない。
 もう何分放置されているのだろうか?
 それとも何時間も経っているのだろうか?
 すでに時間の感覚は無く、身体の中で出口を求めて駆けめぐる衝動だけが全てだった。
 朦朧とする意識が、譫言のように言葉が出るのが聞こえる。
「あ、お、お願い──お願い……しまぁ──あぁ、達かせてぇ……」
 重たくなった陰嚢が、ぶらぶらと尻の上で揺れていた。
 ペニスからはぽたぽたと淫液が溢れ落ち、ピアスが刺さった場所は真っ赤に腫れ上がっていた。
 それでも腰は止まらないし、鈴は美しい音色を奏で続ける。
 全身を発情で真っ赤に染め、ジュカの淫液が垂れてぬらぬらと光るアナルが、さっきからずっとぱくぱくと口を開いて誘っているというのに。
「達きた……い……、おねが……、私を、犯して……。尻に、ちんぽ──くだ……、あっ、誰かぁ…」
 誰でも良いから。
「あ……、誰か……、んあっ……挿れて、ちんぽ……ぉ」
 いっそのこと、ペニスでなくても良い。
 何か熱くて太い棒で、差し貫いて欲しい。
 突いてくれれば、それだけで達ける……。
 わだかまる熱を吐き出してしまえる……。
「何でも、何でもイいからぁ──ふと、いの……、熱くて、太いの──挿れて……」
 正気を失った樹香の懇願は、どんどん激しさを増していく。
 その樹香の指が、さっきから少しずつ滑っていた。
 激しい快感に襲われながらも、無意識のうちに足を支えていた指が、だ。
 滑って落ちそうになる所で、赤いミミズ腫れを残しながらかろうじて止まる。
 だが、それも限界だった。
「あ、あぁぁ──っ!」
 つるりと指先が滑った。
 三つの鈴が、繋いでいる鎖が、甲高い音を鳴らした。
「ひ、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
 激しい痛みが樹香を襲っていた。
 足を下ろしたせいでペニスが下がって、鎖に繋がったリングが三カ所の肉を限界まで引っ張ったのだ。
 乳首がわずかに裂けて、たらりと流れていく赤い血が、肌に映える。
「あ、ぁぁぁぁ、あ──っ」
 痛くて、堪らない。
 ようやく定着したピアスの穴がまた大きく広がっていた。
 すでに感覚の麻痺した足が動かなくて、上半身を丸めて何とか鎖を緩める。
 ぜいぜいと大きく肩を揺らして呼吸を整えている間中、リンリンとひっきりなしに鈴が鳴った。
 涙と涎が、開けっ放しの口からだらだらと流れる。
「ひぃ──、いい──ぃ」
 全身ががくがくと震えて、口が言葉を紡がない。
 何か叫びたいのに、何も言えなくて、ただ喘ぐ。
 と。
「うるさいな」
「ひっ!」
 いきなり髪を引っ張り上げられた。
 上げられた顔のすぐそばに、キスカの笑みがあった。
「あ、あっ」
「そのくらい我慢しろ。それよりほら、客だ」
 ぼたぼたと涙を溢れさせた瞳が、右の壁へと向けられた。
 そこには、今まで誰もいなかったはずなのに。
「過去お前の映像を買っている客の中から10名を選んだ。礼を尽くして、失礼の無いようにな」
「あ……ぁ」
 キスカの言葉を指す意味が、言われなくても判ってしまう。
 客達だという男達から視線が外せなかった。
 ずいぶんと体格の良い健康的な男達。
 彼らがおのおの持っているモノは、樹香を苛むモノばかりだ。
 逃げたかった。
 けれど、足が動かない。
 手が、縋るように離れるキスカを追う。
「あ、た、たすけ……て……」
 腕のように太い張り型が迫ってくる。
 鎖が、じゃらじゃらと音を立てている。
 赤い炎が揺れるろうそく。
 ガラスの器にたっぷりと入った香油は、激しいかゆみを引き起こす。
「い、いやっ……だぁ、あ、き、キスカ、さま……キスカ様ぁ」
 がくっとソファから転げ落ちた。
 うまく動かない四肢で這う樹香の身体に、何本もの手が伸びる。
「お前の好物ばかり用意させた。太いモノを挿れて欲しかったんだろう? 今日は久しぶりに制限無しにしてやる。たっぷりと達きまくれ」
 朗らかなキスカの命令に、樹香の声の無い悲鳴が被さった。
『淫 乱性奴隷ジュカの卑猥な踊りで大切な目や耳を汚されてしまった皆様に、厚くお詫びを申し上げます。つきましては、全員──は、無理ですので、先の抽選から 漏れた方々からさらに抽選で10名の方に、このビデオ予約完売記念パーティにご招待致したいと考えております。この再抽選にご希望の方は、必要事項をお書 き添えの上、締め切りまでにこちらまでご連絡をお願い致します』
 最後のテロップまで編集し終えたキスカは、疲れた身体を深く椅子にもたれさせ、満足げな吐息を漏らした。
 傍らのモニターに視線を向けると、ベッドの中の樹香はぴくりとも動かずに寝入っていた。
 半日の間休む間もなく10人の客に弄ばれ続けた樹香は、終わった時にはすでに完全に意識がなかった。
 全身をありとあらゆる体液で汚した樹香の乳首やペニスは真っ赤に腫れ上がり出血していたし、アナルはぱくりと口を開けて、だらだらと多量の白濁を零していた。
 医者に診せた結果、数日休ませれば良いということだったから、当分はゆっくりと休ませるつもりだった。
 二週間後に予定している招待客のために、また元気になってもらわなけければ。
「ふふ、きっと愉しいパーティになるだろうね、ジュカ。そろそろ新しく植えた樹木もちょうど良い太さになったようだし、お前が欲しがっていたいろんな太いものも各種そろえておこうかな。どうやらもっと太いものでもよさそうだし」
 太い腕を受け入れてよがり狂っていた姿を思い出して、キスカの口元に笑みが深くなった。
 可愛いペットだ、本当に。
 ここまでいろんな遊びを思いつくペットは今までにいなかった。
 気がつけば、どんな事をして遊ぼうかと考えているので、ついつい本業が疎かになりそうになる。
 もっとも、良い気分転換になるのも事実で。
 パチッと手元の再生ボタンを押すと、可愛く強請る姿が再生される。
『た、頼むからっあ、あぁ──挿れて、くれない──と達けないっ! チンポ、挿れてくださっ……奥まで、熱い──、太いぃ──何でも良いから、突っ込んでぇ』
 満足げに目を閉じたキスカの室内には、ジュカの切ない懇願と鈴の音が繰り返しいつまでも響いていた。

【了】