5)三年は瞬く間に過ぎて、昏き落日を迎える
その日、公爵家の執務室では重苦しい空気で満ちていた。
向かい合い座るラスと舅の間にある机には、ラスを離縁させるための書類が置かれている。
俯いたまま、自身に関する書類へ視線を向けないラスは、公爵家の婿とは思えぬほど質素な衣服に身を包んでいた。
硬直した頬は青ざめ、色が失った唇はシワがないほどに引き絞られている。
そんなラスに冷酷な視線を向けて、舅はその内容を読み上げていく。
今日、この日をもってラと公爵家の娘との婚姻関係は解消され、即座に館から退去するとあった。
まとめてしまえばそれだけだ。
だがその意味が示すところは多岐にわたる。
「仕事場の評判も良くないために、契約延長はない」
わかりきったことだとラスは黙ったまま頷く。日々舅の相手をしていたラスは職場を休むことも多く、出ても集中力を欠いていたりと、とても仕事ができる状況ではなかったのだ。
また離縁の当時者となる妻はこの場にはいなかった。
「また、侯爵家はおまえとの縁を切るとのことだ」
冷たく述べられた事実は、さらにラスを落ち込ませるものだ。
侯爵家にしてみれば、公爵の不興を買ったラスを受け入れるデメリットのほうが大きいと判断したのは、ラスとて理解できる。ごくつぶしの末弟を養う義理はないと、あの兄であればそう判断するだろう。
わかってはいても、それでも実家から切り捨てられたことはたまらなく胸の奥が痛くつらい。
それにここに至った妻との関係もだ。
ラス自身、妻とはここ一カ月ほど会っていない。ここに至るまでに妻との関係は冷め切っており、縁を続けるための行為すら三カ月前から成されていなかった。
それでも、子ができなかった原因はラスなのだ。
その全てを、まるで日常の話でもするように舅が進め、最後はラスがサインして終わった。
公爵家で手に入れた物は数日の着替え以外は持ち出せなかった。実家から着の身着のままで婿入りしたラスは、わずかな荷物と補償金のみ持ち出しを許されたが、その生活費は貴族であれば一週間と持たない。平民の宿であれば、一カ月は保つかもしれないが、働く術がなければすぐに費えてしまうだろう。
ラスは先の見えない恐怖におびえながら公爵邸の裏門から出て行った。
家族でもなく客でもないラスは正門の使用は許されず、裏門を出るラスを見送る者もいない。
本当は、もしかしたら舅がどうにかしてくれるのではないかという期待がなかったとは言わない。あれだけラスを自分のモノとして扱った舅ならば、ラスを手放さないと言ってくれるのではないかと。
今日という日を迎えるまで、ラスはわずかな期待を抱いていたのだ。
だが期待はあえなく砕け散り、ラスはただ一人街を歩く。
馬車は当然だとばかりに用意されなかった。徒歩で進むが、いつも馬車を使うからか、自分が今どこにいるかもよくわからない。
しかも手続きが遅かったせいか、辺りはもう薄暗く近くの邸宅の灯りが窓から漏れていた。
その明るさは裕福な証であり、つき先ほどまでラスがいた世界だった。
だが今はもう、幸先のないラスにとって眩しすぎるだけのものだ。悲しく、眩しく、羨望の灯りが降り注ぐ中、ラスは歩く。
歩いても歩いても、大きな邸宅が並ぶ通り。
国内有数の貴族である公爵の邸宅は王城に近く、貴族街としては中央部にあった。ここから平民街にある宿を探すにしても、歩きでは相当かかる。
こんな時間に貴族街を走る辻馬車は少なく、暗くなる光景にラスの不安は増していった。
次第に足が速くなる。
未来を嘆くより先にまずは今宵の宿を取らなければ、そのためには早く貴族街を抜けなければならなかった。ラスはこの時点でそのことにようやく気が付いた。
足が暗くなるほどに早くなる。
だが運動不足気味のラスにとって、平民街までの道のりはあまりにも遠い。
急いでは緩む足は次第に引きずるようになり、その顔には深い疲労が浮かび上がる。
心細さも相まって、不安は倍増していた。
それでも止まることはできなくて、ラスは必死になって暗い道を小走りで進んだ。
ぜいぜいと喘ぎながら、あと少しで平民街に入るだろう場所で、ラスの耳が喧噪を捉える。
それは結構近く、そして次第に近づいてきていて。
「誰かっ!」
険しい声と共に暗闇に慣れた視界がまばゆいほどの白さで満ちた。
喧噪は一気に激しく、視界を失ったラスは訳もわからず立ちすくみ、誰何の意味もその後に起きたことも、何もかも理解できないことがらだった。
どうして自分は地面に押し倒されたのか、後ろ手に拘束されているのか、引きずられているのか。
怒濤の出来事に翻弄されて何もできないままに、ラスの未来が決まっていく。
状況を理解した時には、鉄格子の中だった。
我に返って叫び、身の潔白を訴えるも、身元保証人がいない者は貴族街への立ち入りを禁止されている。つまり今のラスは確かに犯罪者でしかなかったと言われて、絶句するしかなかった。
自分は侯爵家の息子だったと言っても、侯爵家はその存在を否定する。
公爵家にいたと言えば、公爵家にそのような者はいないと言われた。
それは、ラスにとって最悪の現実であった。
この国で犯罪を犯した者のうち、ある範囲の犯罪者は奴隷に落とされる。軽微犯罪ではなく、また重大事件に関係しないものだ。
そして犯罪奴隷は全て国の管轄となり、奴隷紋を刻まれる。
奴隷の行き先はさまざまだ。屈強な男は鉱山などの過酷な労働現場へ、戦力が認められるものには国境の砦で、見目の良いものは娼館へと送られる。
ラスは、通常であれば軽微犯罪であったはずだ。だがその寸前に起きた暴行事件の関係を疑われてしまい、それを覆すだけの証拠がなかったラスは、奴隷対象になってしまったのだ。
どんなに否定しても、地位も金もない、平民街に住所もないラスの言葉は無視された。
誰からも見捨てられたラスは犯罪奴隷となり、その行き先は娼館であった。
娼館奴隷は最低六カ月の労働が義務づけられている。
そうしないと、早々に客に身請けされてしまって犯罪奴隷の扱いを受けなくなってしまうということがあるからだ。
ラスは目立つ頬に奴隷紋を刻まれた後、娼館で首輪を嵌められ、部屋につながれた。まともな衣服も与えられずに、即座に客を取らされる。
許しはなかった。
懇願は聞き入れられなかった。
犯罪奴隷の男娼の扱いは過酷だ。客への禁忌は殺さないこと。そして身体を故意に傷を付けないことが言われている。
奴隷が客を取るのは絶対の務めだ。そのために死なないように、動けなくならないように、毎日規定数の客が取れるだけの状態を維持するために。
奴隷で遊ぶ客自身も求められ、娼館もそれだけは注意した。
健康的な食事と待遇は、奴隷の寿命を延ばす。延ばすのは、刑期の間使い続けるためにだ。
ラスは十年の刑期を言い渡された。そこから逃れるのには、莫大な保証金を国へ支払う必要があり、一文無しのラスにはできることではなかった。
ただこの保証金は、奴隷という身分からは逃れられない。国預かりである所有権をその者に移すためだけのものだ。それでも金さえあれば、過酷な男娼暮らしからは解放される。
だがラスには誰も手を差し伸べる者はいかなった。
そんなラスの身体は三年間の調教と、刻まれた淫紋により、わずかな刺激で絶頂に至ってしまうという、ほかの奴隷にはない特性があった。
面白いように達きまくるラスは、客にしてみれば反応が良すぎて面白い。
すぐに人気が高い男娼となった。
だがひっきりなしに訪れる客は、ラスを人としては扱わない。
日に何人も、性欲をはらす対象とされて、多くの客の相手をし続けている間に、ラスの精神は次第に壊れていく。
それからずっと、半年も経った頃には、ラスの思考ももう鈍く、どんな客であっても、どんな行為であってもへらへらと笑い、自ら股を開いて受け入れるようになっていた。
今日もまた案内された客に自ら尻を差し出し犯される。
「ご……しゅじんさま……」
蕩けた声は甘く、男を誘う。
見上げる先にいる逞しい壮年の男は、ラスの今日のご主人さま。
触れただけで絶頂に達する淫らな男娼として、いい慰み者として人気のラスは、毎日何人ものご主人さまに犯され、絶頂に狂い、気絶して目覚めれば次のご主人さまを受け入れる。
今日の客は娼館では初めて見る男だった。
ラスの体格よりも一回りは大きく、筋肉質の身体はどこもかしこも盛り上がっている。
壮年の男は気品はあるが、その眼光は鋭く、力は強い。
貴族だとなんとなく思ったラスは平伏して彼を迎えた。お忍びで来る貴族は、そう宣言するわけでもないのに、礼儀正しくなければぶたれて激しく扱われることもある。
今日の客は、その太い腕でラスの身体をたやすく抱え上げ、椅子に押しつけた。座面に膝をつき、腰を上げさせたその直後、慣らすどころか指で弄ることすらせずに、男はひどく太い男根で一気に貫いた。
「ひぎぃぃっ」
珍しくラスが苦しげに呻く。
それほどまでに太い男根だった。圧迫感が強く、しかも長い。信じられないほどまでおくて深く、根元から先端まで太いモノで体内が広げられる。
大抵の太さは受け入れてきたが、これほど太いモノは経験がない。
いや……。
不意にラスは背後の男を見つめた。
いつからか、犯される相手の顔が全部同じに見えていたラスは、久しぶりに意識して自身を犯す男を見つめた。
初めての客だと思ったが、何かが琴線に触れる。
「あ……だ、れ……」
問いかけに返事はない。
それどころか再び強く突き上げられ、問いかけは悲鳴に代り、崩れた身体を支えようとばかりに背もたれにしがみつく。閉じたまなじりから涙がこぼれ落ち、古びて汚れた座面に落ちた。
羽織っていた染みだらけ布は引き裂かれながら剝がされて、床でとぐろを巻いた。
「ひぃっ、ぎっ、あっ、ああっ、だ、誰……ああぁっ深ぁぁいっっ」
苦しくて、けれどもいいところを的確に抉るその動きに、ラスは記憶がくすぐられた。もう忘れてしまったと思った過去が、突き上げられるたびに甦ってくるような感覚だった。
「あんっ、んんっ、やあっっ、こわっ、そんなあっ、ふあっ、ああっ」
乱れた吐息の合間に嬌声が漏れる。
たまらない快感だった。
今までの客の行為でも十分快感を得ていたと思ったのに、こんな快感は一人としてなかった。
今までのでは足りなかったのだと、これこそが求めていたものだと、随喜の涙がこぼれ落ち、笑みを浮かべながら尻を突き出してさらに深くと求めて振りたくった。
そんなラスに興が乗ったのか、男が動きを止めた。
笑みを浮かべ、物足りないと蠢くラスを見下ろしている。
思わず後ろを振り返り、はしたなく誘おうとしたラスの視線が、男のモノと絡み合った。 男は口角に皮肉げな笑みを浮かべ、そして音もなく唇だけで言葉を紡ぐ。
「い、ん、ら、ん」
その途端、ラスの霞がかかったような頭の中に過去の記憶が甦った。
昔の記憶と今の男が重なった。
見開いた視界の中、脳裏に浮かぶのは封じた過去の日々。
ああまさか。
驚きに目を瞠る先で、確かに見覚えのある男だと脳が理解する。
「……お、……と……さま?」
零れた言葉は無意識で、だがすぐに自分がなんと言ったのか気が付いた。そしてその意味も。
壊れた頭が回路を修復したように、点と点がつながり、瞬く間に意識が明瞭になっていく。
日々流されるままだったラスの蕩けた瞳の焦点があい、確かな知性が宿る。
その瞳がまじまじと見つめる先で、ラスを犯す男はあの頃と同じように侮蔑の視線を向けている。
「淫乱が儂のことを忘れるとは、これは躾け直しか」
「お……あっ、まっ、ひぐうっ!」
いきなり戻った理性にラス自身が翻弄されている状態で、全てが理解できないままに、男が――舅が抽挿を開始してしまったのだ。
「ふとっ……、ああ、待ってっ、はっぁぁぁ」
こんな太い男根を持つ男の存在をなぜ忘れていたのか。
中をゴリゴリと擦られ、信じられないほどの奥を抉られる。
激しい快感に襲われて、瞬く間に絶頂に襲われた。弾ける意識に理性が薄れていく。弾ける快感は全身に広がり、指先まで痺れたように感じていく。
「やあっ……ああっ、あっ」
零れる吐息は熱く、朦朧とする意識でただ目の前の背もたれにしがみつく。
ラスの身体を彩る淫紋は変わらずそこにあって、その効果を熟知している男によって、ラスはさらに高められ、激しく責められた。
舅は容赦なくラスを責め立てた。
「い、ああっ、深ぃっひぃぃっ、ああっ、待ってっ、あひぃぃっ」
いきなり椅子から引きずり下ろされ、床に打ち付けた身体が痛む。だが床に伏せたまま尻をつかまれまた貫かれる。
「ぎいいっ」
片足をひねり上げられて、無理やりねじ込まれて、股間の痛みに悲鳴が迸る。
舅の行為は全てが乱暴だった。
首輪の鎖を引っ張られ、喉が締まる。部屋に転がる淫具が息苦しさに開いた口内に突っ込まれた。
目の前がチカチカと光る。
ただ快楽に陥るだけを許さない行為は、ラスは理性を繫ぎとめた。目の前に迫る男の強い視線に射すくめられ、逃げることもできないまま、今ここにいるのが舅だと意識させられ、その間も犯される。
腕をつかまれるだけで、痛みが走った。同時に込み上げる快感に嬌声を上げる。
今ラスを犯しているのは、紛れもなく舅だった。
ラスは奴隷のままで前公爵により買われた。決められた保証金さえ払えば、所属が国から金を払った者へと、奴隷の所有権は移動できる。
すでに舅ではない男は、ラスを継承権のない養子とした。
もっとも奴隷であることは変わらず、奴隷紋も消されていない。
奴隷のままの養子は前代未聞であるが、対外的に知らしめるものでないが故に、前公爵にとっては大した意味をもたない。
養父となった男に、ラスは隠居した彼が住まう領地の片隅へと連れて行かれた。
あるのは小さな町だけだ。
近くの丘にある領主館は公爵の私兵団詰め所と隣接している。領主館と詰め所は、可能なモノは共有していた。
館の管理は数人しかおらず、力仕事や庭仕事などは私兵団から選ばれた者が担当していた。食事も私兵団の調理担当が作るものだ。
私兵団は館の中にも入り込む。
その意味を、ラスは身体で覚えさせられた。
体内深く淫具を埋めこまれたたまお仕着せを着せられたラスは、ここでは主人の従僕扱いだ。だが頬の奴隷紋はそのままだから、彼が奴隷であることは誰もが知っている。
時折、私兵団に人気のないところに連れ込まれ、口を使われた。
常に貞操帯を嵌められているラスの尻は使えないが、寛容な館の主人は奴隷の口を使うことは許可していたからだ。
この館では、ラスは私兵団の欲を鎮める役目を追加されていた。
そんな日々の中、今日のラスは、御機嫌伺いで侯爵家から贈呈された品々を確認していた。 目録と品物を一つずつ確認していく。
「こ、ちらは……薔薇の香りの媚薬で……ございます。東の国の秘薬で……処女を淫乱し、自ら股を広げるようになるとのことでございます」
手に取った瓶をラスは覚えていた。
あの最初の時、薔薇の芳香の中で使われたあの薬だった。
「毎日使えれば、肌が薔薇の芳香を放ち……っ、男を、誘う……匂いを常に出します」
なんということか、この悪魔の薬を公爵に渡したのは、ラスの実家だった。
それは……全てが最初から仕組まれていたということだった。
「そう、確認なさい」
呆然と目録と瓶を持ったラスに非常な命令が下される。
「もらったものが正しいものか、おまえが確認しなさい」
「……は……い、お義父さま」
この薬がどんな効果をもたらすか、ラスは知っていた。
全ての始まり、全ての原因。
いまだ薔薇の香りを放つラスは、原始的な本能が強い私兵団の集まりの中では欲情の対象だ。襲われなてもおかしくない劣情のこもった視線でいつも嬲られているのだから。
だがラスに拒絶は許されていない。
たとえ養子となって、主人を義父と呼んでも、それでもラスは奴隷であり、主人の命令は絶対だった。
震える手で瓶のふたに触れる。少し力を込めるだけで、ふたは音を立てて開いた。
途端にむせ返るような薔薇の匂いが立ち上る。
「全部飲みなさい」
肌に塗っただけでも十分な効果を出す薬の瓶を、ラスは促されるままに口を付けた。顔を上げ流れ込んできた薬液は甘く、するりと喉の奥へと流れていく。
こくんと喉が動く。
同時に涙がこぼれ落ちる。
流れ落ちた胃の腑が熱く震えた。
膝が崩れ、床に手を突く。
はあはあと熱い吐息をこぼすラスに、主人は次なる命令を下した。
「次を。ああ、ピアスか。これはおまえの乳首に似合うだろう。来なさい」
「……は、い、お義父さま」
「他にもいろいろ届いているが、どうやらこれらは全ておまえのためだ、後で使用した所感を添えてお礼の手紙を書きなさい」
「か、しこまりました」
机だけでなく、床にも広がる贈り物。太い巻紙の目録はかなりの量を教えてくる。
縁を切ったと言ったはずの兄は、今またラスを身内として扱う。
「おいで」
義父の手に鋭い針が準備されていた。
震える手でシャツのボタンを外し、肩からシャツを落とす。敏感になった肌はその擦れる感触に、目も眩む快感をラスに与えた。
危うく崩れかけた膝に力を込めて、ゆっくりと足を進める。
針が伸びるのは、ラスの脹れあがって熟した大きな乳首。
見ていられなくて目を反らしかけたが、「見ろ」と冷たく言われて、視線を戻す。
「ひんっ!」
摘ままれただけで、全身が痙攣した。とっさに尻たぶに力が入り、中の太い張り型をまざまざと感じる。
噛み締めた歯がぎしりと鳴った。
だがそれも一瞬だ。
「ぎ、ぎぃぃあああっっ!!」
閉じた口は大きく開いた。
鋭い痛みは全身へと広がり、開いた口からひっきりなしに悲鳴が漏れる。
一際敏感にされた乳首は、痛みに弱い。
しかも針を刺しただけでなく、そこにピアスの太い軸がギリギリとねじ込まれた。
膝が落ちた。崩れ落ちかけた身体は義父の手により支えられとどまったが、乳首は引っ張られたままだ。
「あっ、あっ……」
じわりと股間が濡れた。
腰が揺れて止まらない。
「淫乱が」
蔑む声が遠く聞こえる。
「射精の許可は出しておらんが」
言われて初めて自分が射精したことに気が付いた。
「来い」
痛みのさなか、一体何が起きたのか。ラスは義父に引っ張られて掃出し窓から露台へと引きずりだされた。その下では私兵団が訓練をしているのが見える。
柵に押しつけられたラスは上半身が丸見えだ。
すぐに彼らも気が付いて、ラスたちを見上げてくる。
「ひ、いっ……」
背後から義父に抱き込まれて、耳元で囁かれる。
「おまえの淫らな姿を知らしめろ」
乳首を針で貫かれて射精した姿を。
言葉におびえたラスが視線を動かせば、まだ無事な乳首へと向かう針があった。
「い、いやあっ、許して、許してください、お義父さまあっ」
「淫乱なおまえが悪いのだ」
「いっ、ひぎぃぃぃーっ!」
か細い拒絶は悲鳴となった。
私兵団の欲に染まった瞳が露台で淫らに踊るラスを捉えていた。
腰から下の柵越に見えるのは、新たに濡れるその姿。
「淫乱な姿を晒して彼らの訓練を妨害した罰だ。これから一週間、全裸ですごせ」
冷たい言葉を上の空で聞きながら、ラスは露台に崩れ落ちた。
【了】