【お義父さまのための婿の心得】

【お義父さまのための婿の心得】



4)二年と半年の冬の暗き遊びの日

 ラスの身体は薔薇の香りがする。
 自分自身は気付かないが、舅がそういうのだ。
 自室で床の上であおむけになって、妻を抱くための準備をしていただている時に最初に教えられた。
 だがその時は、その舅が乱暴に陰茎の枷を外したことによる痛みで気が削がれそのままになってしまった。
 ラスの男根には貞操帯が嵌められている。もうずいぶん前から、妻への射精ができなかったあの夜からラスは射精を禁じる淫具が取りつけられている。淫具は男根全てを覆う硬い革でできており、刃物は通さないほどに丈夫だ。ところどころに金属が埋めこまれているせいで重く、男根の根元で支えているせいで、いつもその存在を重苦しく意識させられる代物だ。
 それもこれも、ラスが許可なく勝手に達くだからという。
 外すことができるのは舅が許したときのみ。
 妻との夜の営みは舅が計画し、その日には外される。
 だが、その時にただ外すだけではないのだ。触れられる下半身の淫紋は特に快感が強い。特に会陰の淫紋は、中の快楽の泉を直接刺激されているほどに、とんでもないほどに快楽に狂わされる。そのまま射精してしまうほどだというのに、それを何度も繰り返させるのだ。
 終われば息も絶え絶えになったラスと、床につくられた精液だまり、そして尻に入れられた淫具。
 すでに空になった陰嚢は軽く、反対に身体はとてつもなく重い。
 ラスはいつもふらふらしながら寝室に向かうはめになっていた。
 そんな身体で妻を満足させることも難しく、射精できたとしてもその液は薄く少量。
 そのせいもあって、いまだ妊娠の兆候は見られていなかった。そうなれば種馬の役目も果たせない淫乱と、さらに激しく嬲られる。
 ラスの身体は常に舅のためのものであった。
 毎夜のように舅を受け入れ、時には昼も慰めた。人並み外れた舅の男根を、今やほぐすこともなくいつでも受け入れられるほどになっている。
 乳首は女のように大きく赤黒く変色し、淡い色合いだった男根は陰液焼けをして黒っぽく、先端は淫らに口を開いていた。肌に散らばる淫紋さらに敏感に、肌は欲情したように淫らな匂いを出していた。
 妻が気付かないのは、最近は行為自体が少ない上に、舅が持つ隠蔽の力のせいだという。ラスは、結婚するまで舅がそれほどまでにこまやかな魔法を使うとは知らなかったが、妻は生っ白い傷一つない身体しか見えていない。
 しかも女として満足させてくれないラスとの関係は前よりも冷たいものとなっていて、館にいても直接顔を会わせることがめっきり減っていた。
 皇太子妃の親友として、そして優秀な政務官として、王城で泊まり込んでいる日々が増えているのもあるが、もともと性に淡泊な妻が、あまり乗り気でないのも感じていた。
 だがラスにとっては死活問題だ
 政略結婚の目的は公爵家の跡取りたる子を成すこと。それは契約にも入っており、成せなければ離婚も明示されてるのだ。
 舅との関係から逃れるためには離婚をすべきなのだが、それでも離婚させられたラスに後はない。どちらが原因であろうと、放逐されてしまう婿という立場弱く、実家に戻ってもすでに長兄が後を継いでいる実家では、針のむしろでしかないのは容易に想像できた。
 実際最近の兄からの手紙では、ラスを責め、家には居場所などないのだという威し文句すら入ってい始末だ。戻ってくるつもりでいるなら容赦はしないという言葉の裏を、ラスは自分の死であるとすら想像していた。
 かと言って、戻らなければ飢えて死ぬであろうことも確実だ。
 今の文官の仕事も、公爵家の婿だからこその身分であり、離婚の時点で働き口もなくなってしまう。
 公爵家から見放され、実家の侯爵家から放逐されれば、身分は平民より悪い。そういう出身だと、面倒ごとはごめんだとばかりに雇い入れるところは少ないだろう。
 食い詰めた貴族の三男以降が進む騎士団や軍部は、鍛えてもいないひ弱なラスなど論外で、たとえ入ることができたとしても、各所に淫紋が浮かぶこの身体で男たちの集団生活は難しい。女には見えず男には見えるという舅の術は、恐ろしくラスを縛るものだった。
 だからこそ、ラスは舅の無茶振りにも、今の待遇も甘んじて受けるしかなかった。


 そんな日々も続き、今日もまた妻との行為が予定されていると、ラスは舅へとお願いをしに来ていた。
 今日は舅が忙しいということで、執務室でだ。
 忙しいなら今日はしなくてもとは思ったが、舅に決められた日程は決して覆せない。
 だが機嫌が悪い舅の前で、ラスは重い気持ちをふたにして、促されるままに机の上で足を開いた。
 目の前にはかっちりと着込んだ舅。自分の周りには執務に使う文房具があり、目の前には執事が入ってくるかもしれない扉がある。
 その扉は全開だった。閉めようとしたら信じられないことに舅に制止されてしまったのだ。
 誰も来ないとは言うが、それでも執事と指定された召使い、そして妻は来ることもある。
 妻は、長い入浴時間ではあるが、万が一のことはあるのだ。
 そう思って窺っても、これ以上舅の冷たい視線は浴びたくなかった。あの視線の時の懇願は、いつだって悪い方向に行ってしまうからだ。
 ラスは黙って開脚して、貞操帯に包まれた陰茎を晒した。
 冬とは言え、一日中暖かい執務室にいたせいで衣服から取り出された陰部は蒸れた匂いがこもっていた。そんな匂いが、扉から入り込む風によってラスまで届き、よけいにいたたまれなくなる。
「どうした?」
 だがそんな戸惑いも舅をいら立たせるばかりだ。
「あ、き、今日は、妻との夜の営みが……ありますので、この私のお気に入りの卑猥な淫具を、外したく……お願い申し上げます」
「ふん、この忙しい時にそのような下らぬ願い事など、なぜ儂が聞かねばならん」
 呆れたように嘆息され、ラスは泣きそうに顔を歪めた。
 だがこれを外してもらわなくては、妻との行為はできない。できなかったら舅は怒り、さらなる罰が与えられるだけ。
 今の不機嫌を取るか、その後の激しい罰を取るか、ラスが選べるのは前者だけだった。
「私、私のふしだらな身体が悪い、のです。後ほどいかようにもお義父さまの言いつけを護ります故に、どうか……外して、くださいませ……。わ、淫らで愚かな私は、外したくないのですが……お義父さまに外していただければ堪えられます、ので……どうか外してくださいませ」
 ラスは必死だった。紡ぐ言葉がさらなる躾を生むかもしれない。それはわかっていても、思いつくままに言葉を出す。
「どうか、どうか淫乱な私に、種馬の勤めを果たさせてくださいませ」
「ふん、仕方ない。そのような淫乱を婿に迎えたのは我が家故に、当主たる儂が相手をせねるばな。それでなくても淫らな匂いを振りまき、男をその色香で捕らえて館の風紀を乱す淫乱など、とっとと放逐したいところよ」
「い、いえ、そんな色香など振りまいては」
 あまりの言葉に、ラスはとっさに反論していた。
 だがその言葉を聞いた途端、舅は眉間のシワを深くする。
 怒りを買ったと気が付いた時にはもう遅かった。
「振りまいておらぬというか、これほど強く淫靡な匂いを出しているというのかっ」
 顔を突き出し、ラスの首元で嗅ぐ仕草をした舅の強い言葉は怒りに満ちていてた。
「いえ、ただそんなことは。私は、匂わなくて」
「うるさい、そんなに匂わないというのなら、試してみるとしよう」
 その言葉と共に、ラスは机から引きずり下ろされた。
「服を着ろ、出掛けるぞ」
「え、あっ、はいっ」
 すでに怒りをかっている身として、ラスは自身の反論を封じ込めた。急いで脱いだばかりの服を着始めたが、シャツとズボンだけで部屋から引きずりだされる。
 呼び出された執事へ妻への伝言と、そして外套の準備を頼んだ舅は、そのまま玄関前に付けられた黒塗の馬車へとラスを押し込めた。
 転がるラスは、外気の冷たさに震えたが、出入り口には舅がいて戻ることなどできない。
 舅の言葉には絶対服従の執事は、すぐに言いつけられた物を持ってきた。
 慌てて外套に包まっている間に、馬車が出発し、小さな窓越しに見えた館がどんどんと小さくなっていく。
 その姿に、一体何が起きるかと不安が身をよぎり、ぶるりと震えた。
 考えてみれば舅と仕事以外で出掛けたことなどない。
 領地すらまだ足を踏んでいない婿は、本当に種馬扱いなのだと日々感じているほどだった。


 舅の言葉を信じなかった罰は、ひどいものだった。
 最悪と言ってもいいだろう。
 その時の光景は、その後いつまでもラスの記憶に重く残り、悪夢に見ることさえあるほどだったのだ。
 その罰が行われたのは、下町近くの大きな館だった。
 どこの貴族とはわからぬようになった馬車は、館の裏門から滑り込む。
 一見整った佇まいのように見える館だが、降りたラスが振り返れば、門の外は雑然としており、屈強な門番が睨みを利かしていた。それは外から護りなのだろうに、ラスの目には中から逃がさないもののようにも見えた。
 そんな館の中を舅は勝手知ったる場所のように悠然と進む。
 出迎えた当主らしき男は、丁寧な態度の中にも舅と親しい関係に見えた。細身ではあるが、細いつり上がった目が狡猾さを醸し出し、まるで値踏みするかのようにラスを見る様子に思わず身震いしてしまう。
 光沢のあるシルクの黒のスーツを来た男は、夕楽館の館主だと名乗り、ラスを迎えられて光栄だと頭を下げる。だがそこで垣間見えた慇懃無礼さは隠しようもない。館主も隠すつもりはないのだろう、不躾な視線がラスを窺っている。
 そんな館主と舅の会話の中で、ラスは夕楽館の表の顔は高級娼館だと知った。その表の名は、縁のなかったラスですら知っているほどのこの王都随一の店。貴族ですら一見さんはお断りだと言われているほどの店だ。
 ならば、ここは裏だと言った館主の言葉の意味どういうことだろうか。
 表とは違う名前の館の奥は、位置的には館の東の端。
 そこにあった裏口とはまた違う玄関は、派手でケバケバしく、露悪的のように見えた。
 調度品も、高級そうでその実はそれほど高いものでもない。まるで貴族の一室をケバケバしく真似たような場所で、今までとの違和感がひどかった。
 そこにいる従業員も、荒んだ目つきと舅に負けぬほどの体躯、ごつごつとした手には拳だこすらあった。
 醸し出す荒々しさに、ラスの足はその場に縫い付けられたように硬直する。
 裏口で感じた得体のしれなさは、荒事には向かないラスには受け入れられない。
 そんなラスのラスに溜息をこぼした舅は、その腕を強く引っ張り、近くの部屋を見せていく。
 それらはいずれもひどく退廃的で、享楽的で、そして暴力的だった。
 ラスが物語の中でしか知らない場末の酒場のように、薄汚れた壁、壊れた調度、カウンターの向こうには並ぶさまざまな酒とグラス。椅子は樽でできた部屋で、奥の壁にあったのは舞台。流れる音楽は自鳴琴にしてはやけにけたたましい、笑い声のような音を鳴らす。
 その隣の部屋は、牢獄だった。石の壁は冷たく、椅子は粗末な木の椅子で、舞台と椅子は檻で遮られている。
「ここ、ここは一体何なのですか」
 問いかけるも返答はなく、そして別の部屋へ連れて行かれた。
 酒場の部屋に似ていたが、今まで舞台のあった壁際がまるでどこかの崖のように岩肌だった。
 篝火を摸した照明が赤く辺りを照らし、左右の壁は男女や異形のモノが交じり合う淫猥な壁画。今まであった椅子はなく、床に直接すりきれた赤いじゅうたんが敷かれている。ただそのじゅうたんは染みが多い。
「な、何をっ、お義父さまっ!」
 いきなり館主と舅の手によって、ラスは衣服を全て剥ぎ取られた。
「淫乱にふさわしい罰を与えよう」
 舅の暗い笑みはラスにとって恐怖でしかない。逆らう気力すら一瞬で奪い、力なく垂れた手は、存外に力強い館主のよって一段高い場所でつながれる。
 剥き出しとなった股間にある貞操帯は外された。
 臭い、濡れていると、こんなモノを付けて発情していたのかとからかわれ、羞恥に赤くはなっても、恐怖は消えない。
 されるがままに尻は崖を摸した壁の穴に埋めこむように固定され、上体は反らされ、足は大きく開かされて固定された。腕は、後ろの壁に埋めこまれて中で固定される。不自然な姿勢は、椅子に軽く腰掛けて、身体を前に倒したような姿勢だ。
 くくられた位置は壁の中ほどで高く、グロテスクな形の大小さまざまな彫像が辺りに飾られる。
 まるで悪魔崇拝の儀式のような有様に、ラスは肌を晒しながらがくがくと震えた。
「お、お義父さま、これは一体っ……」
 問うても、嘲笑のような笑みが二人から向けられるだけ。
「いいねえ、お義父さまか、こういう子が言うと結構下半身に来るものだねえ、みんな悦ぶね」
「匂いもいいだろう」
「ええ、ええ、あの薔薇の陰液でしょう、しっかり身に染みついているようねえ。あれってね、同時に精液もいれなきゃ馴染まないのにい、一体どれぐらい精液を浴びたのかねえ」
「これは淫乱だからな。いつでも欲しがって面倒なほどだ」
「なるほどお、淫乱な子ねえ、だから今日はお仕置きなのね」
「ああ、自分がどれだけ色香を振りまく淫乱か、じっくりと報せようと思ってな」
 まさか……。
 具体的な何かはわからない。
 だがラスに訪れる何かは決して良いことではないことはわかった。
「お、お許しを……お義父さま、ああ、お願いします、淫乱な私を、どうか許して、返してください……っ」
 繰り返した必死の懇願は、いつものように無視される。
「ここはねえ、悪魔の神殿に捧げられたいけにえが堕ちていく様を主題にした部屋でねえ、いつもは清き乙女に演じさせるのだけどお、今日は特別ねえ。でも娘でなくても需要は結構あるのお、貴族の真っ白なおぼっちゃんが主演ってそこらに案内したら、観客がもういっぱいぃ、楽しみにしてねえ」
 悪魔崇拝は王家にとって叛逆にも等しい。だが悪魔崇拝を揶揄し貶める行為は王家にとって歓迎すべきことであり、罪はならない。よく演劇として扱われるほどだ。
 クツクツと喉の奥で嗤い手を振り去っていく館主と舅に、ラスは絞り出すような懇願の声を上げた。
 だが無情にもその姿は扉の向こうに消えて、ラスができることといったら、誰も来ないでくれと神に祈るだけだ。いまだかつて、どんなに願っても叶えてもらえなかった神に、ただ祈る。
 だが、それもつかの間だった。
 観音開きの扉が全開になり、押し出されるように客が入ってくる。
 ああ、ああ……。
 彼らはみんな、捕らえられたラスを見て好奇の色を隠さない。
 動けぬ身体で身じろぎ、少しでも厭らしく見つめる肌を隠そうとする。だが、そんな動きすら男たちは悦び、これから始まる遊戯に期待を込めて見つめてくる。
 楽しげに、そして皮肉げに、口元が歪む彼らが恐ろしく、ラスは頭を振った。だからと言って彼らが去るはずもなく、よけいにはやしたてて揶揄するばかりだ。
 萎びて縮こまった男根を可愛らしいと揶揄されても、小さなおっぱいのくせにデカい乳首だと嗤われても、それでもラスには見るなと小さく呟くやくことしかできない。
 いけにえが堕ちていく様とは、一体何をさせられるのか。
 まさか本気でいけにえにいるわけではないだろう。曲がりなりにもラスは公爵家の婿だ。
 全裸で、淫紋の浮かんだ身体を、男たちが指さし嗤いながら見ている。
 どうやら、淫紋については淫乱な身体のラスが望んで付けてもらったからだという説明がされているらしかった。
 場で交わされる言葉から耳を塞ぎたいのに、ラスの腕は固定されて何もできない。
 目を閉じればよけいに音を敏感に感じ取ってしまう。
 だがそれでもただ晒されているだけの間はまだ良かった。
「ひぐっ」
 いきなり尻をつかまれて、はざまに太くて熱いモノが押し当てられた。
 悲鳴を飲み込んで硬直した身体に、それはなんなく中へと入っていく。その熱、ふとさ、硬さ、全てがラスにその存在が何かを教えてくる。
「だ、めっ、いやあ、お義父さまぁぁ、だめぇぇっ、ひっぃ、奥、そんなっぁ」
 ラスの様子に何が起きたか想像してるのか、男たちの目がぎらつき、お義父さまと呼ぶたびに、嗤い声と揶揄が響く。
 ラスの丁寧な物言いが、よけいにからかう種になっているようで、どこかの貴族の淫乱なぼっちゃんが火遊びしているぜと、うわさされる。
 貴族という事実があるが故に、その言葉はラスはみんなが自分の正体を知っているような感覚に陥っていた。
 そんな間にもラスの身体を知り尽くした舅の手により、衆人環視の中でラスは犯された。
 貞操帯を外された男根は、久しぶりの解放に悦び、すぐに射精する。
 噴き出した精液は、最前列の男の顔にかかり、男は美味そうに舌で舐めた。その様子に自身が舐められた感覚がして、ラスの身体にぞくりと快感が這い上がった。
「あ、だめっ……ひぃぃ、ふあぁぁぁっ」
 そんなラスを敏感に感じたのか、舅の動きが激しくなる。
 与えられる快感と刺激に嬌声を上げ、頭を振りたくるラスに、男たちの視線はくぎ付けだった。
 舌なめずりし、涎をすすり、自身のモノを慰めている男たち。
 しばらくすれば、次の余興だと現れた男の手により、乳首がくくり出され、陰茎が引っ張られ、紐が付けられる。
 くじ引きの結果、乳首とつながる紐を持った二人の観客は、伸びるギリギリまで引っ張っては緩めて遊び、陰茎に結ばれた紐は天井の梁を通ってから渡されて、上下に激しく揺さぶられた。
 悲鳴と嬌声と淫らに歪んだ顔と、歪な乳首と遊ばれる男根と、その全てが男の欲を誘う。
 男たちが手のひらに出した精液は集められ、喘ぐラスの全身に塗りたくられた。
 次のくじ引きで買った男は、ラスとの口づけを許された。
 男のやに臭く酒精に満ちた舌がラスの口内を喉深くまで犯していく。
 えづくラスに噛まれたと訴えられたら口枷が嵌められて、おわびとばかりにハシゴが設けられた。
 よじ登った男が突き出すモノは遮ることなくラスの口の中へ、深く深く入り込む。白い歯が覗く喉の奥まで犯すのは、男の汚れたモノだ。それはラスにとって舅以外初めての他者からの口虐であった。
 喉の奥で吐き出された白濁は、生臭く胃の腑へと落ちていく。嫌悪感に泣き喚けば、うるさいと怒鳴られ、もっと奉仕しろと次の客が選ばれる。
 その間も、男たちはさまざまな言葉でラスを評価し、揶揄した。
 その日、口を犯したのは三人で、クジに外れた男たちが再演を声高に叫ぶ。
 その中でも特にラスが堪えたのは匂いに関する言葉だった。淫乱だと蔑む言葉よりも、そそる匂いだと言われたほうがラスを絶望へと追いやっていく。
 舅の言葉はまさしく正しかったのだと、余類のはラスだとみなが責め立てているように聞こえた。


 その見せ物は三時間続いた。
 最後に枷から外されて床へと落とされた身体は時折痙攣するばかりだ。口角からは白濁が流れ落ち、赤く腫れ上がった尻たぶのはざまから、泡立つ精液が溢れ出していた。
 尻たぶは締りが悪いと何度も舅に叩かれたからだ。
 いけにえに捧げられた乙女は今や淫乱な娼婦と化し、このあとは娼館で生涯色に狂い続けるのだという言葉と共に催し物は終演した。
 現れた館主がラスの髪をつかみ顔を上げさせ、今日の主演に拍手を誘い、満場の拍手が場を満たす。
 頭皮の痛みがラスの意識を戻し、うるさく響く音に涙が流れる。
 最後は、犯され続けて赤くなった尻のはざまを晒すように固定され、客を見送らされた。
 そこに見えるのは黒くて大きな張り型の底だ。
 客は赤い尻を張り型ごと一発ずつ平手打ちし、そのたびにラスが上げる悲鳴を悦び去っていった。
 ラスにとって悪夢でしかないできごと。
 それでも観客が帰ってしまえばもう終わりなのだと、意識が薄い中でもラスはほっと安堵したのだったが。


 だがその見せ物は、それで終わりではなかった。
 なんと午前午後の二回ずつの三日間、計六回も行われのだ。
 その三日間、犯されていない時間も見せ物になり、ラスは玄関の広間でこびりついた精液で全身をくまなく汚した姿で晒された。ただ晒されただけの時もあれば、淫具で喘がされたときもある。
 観客は触れることは許されず、紐を引っ張ったり、先に綿毛のついた棒で嬲ったり。時にはあの薔薇の香りの薬液を顔を浴びせるといったこともしていった。
「まあぁ、なぁんにもできない子もぉ、何か一つぐらいぃ取り柄があるからねえ。あんたは、そうやって男に嬲られるのが取り柄なんだぁ」
 晒されていたラスの元を訪れた館主はそう笑う。
 それがあの館での最後の記憶だ。
 意識が朦朧とし前後不覚となったラスは、全てが終わった後、一週間は寝込んだ。
「もう二度と逆らいません、否定しません、許して、許して……」
 休まされた間も、悪夢を見続けて魘されたラスは、目覚めてから平伏して言ったその言葉の通り、さらに従順になる。
 どんな仕打ちも従順に従い、自ら股を拓いて、舅を迎え入れた。
 薔薇の香りを振りまき、指摘されたら悦んで肯定した。
 その目がたとえ死んだように暗くとも、表情だけは笑って受け入れる。
 元より逆らう気力などとうに費えていたが、それでも舅の言葉は絶対であり、どんな理不尽な命令でも悦んで引き受けなければならないのだと、もうその身に染みつみきってしまった。