【お義父さまのための婿の心得】

【お義父さまのための婿の心得】



3)二年目の明るい初夏の太陽の下


 それは結婚して二年目のことだった。
 皇太子妃が生んだ王子はすくすくと育ち、政務官として活躍する妻は皇太子妃の相手と王城での仕事、最近では舅から領地の監督も指示されて、館にいる時間は少なかった。
 その中でも定期的に関係は持っているが、元より仕事で忙しくすることに興味が向いている妻とはただそれだけの関係で、情事の回数もかなり少ない。
 実家である侯爵家からいまだ子供ができないことを𠮟責される手紙が何回も届き、実兄との関係はさらに気まずいものになっていた。もともと仲は良くなく、せめて種馬として子を成し、公爵家と縁続きを濃くしろと、そのためだけに送り込まれたのがラスだ。
 自分の進退もあるが故に、ラスとしてもなんとかしたいのだが、いかんせんラスの全ては舅の管轄下だった。
 今日もラスは、薔薇の花が咲き誇る庭の一角で、降り注ぐ太陽の光を滲む視界の中で見上げているばかり。
 意識は虚ろで、口から零れるのは熱い吐息と嬌声だけだ。
 片隅に置かれた机の上に倒された身体は、太い肉で貫かれ、泡立つ白濁がしたたり落ちて、焦げ茶に湿った地面に染みを作っている。
 自身を犯すのは舅で、その手は乳首から伸びる紐を引っ張っていた。 
 両手は近くの木に括り付けられ、足は高い枝に渡された紐で持ち上げられている。
「淫乱は、おとなしく馬を走らせることもできないのか」
「ご、めんなさ、い……っ、ひぐっぁ、ああっ、ふぁぁ」
 体内に淫具を入れて馬に跨がされたのはほんの少し前。
 乗馬が拙いと指摘され、舅自らが教えようとした矢先のことだった。
 いきなり走り出した馬を、乗せられて固定されたラスは操ることなどできず、無様に悲鳴を上げて、縋り付くことしかできなかった。
 前に倒れて馬の首に縋り、浮いた尻が上下して激しく鞍へと叩きつけられる。
 そのせいで、中にある淫具が、体内を抉り、妙なる快感に意識が飛びかけるほど。かろうじて落馬しなかったのは、落馬防止の固定具のせいで、ラスを軽く支えるだけの体格の大きな馬は、乗り手が変な恰好でしがみついても、意にも介さず馬場を一周した。
 ただその間、叫び続けていた馬上の主にうるさいとばかりに不機嫌になっていたけれど。 舅はこの顛末に呆れはて、嘆息を深くこぼした。
 そして、あまりにもふがいないとばかりに、舅が同情してこの庭まで連れてきたのだ。
 広大な公爵家の屋敷において、馬場から庭まで並足だと三十分はかかる。
 背後に舅を乗せた馬は、その後ゆっくりと庭を一周し、その間ずっと舅の手は敏感なラスの肌を弄っていた。
 蒼い空の下で、淫らな吐息をこぼすラスの乗馬は結局一時間近く費やされた。
 乗馬したときにはきっちりと着込まれた乗馬服はボタンを外され、覗く肌が陽光の下に晒される。
 赤く上気したラスは、馬上から引きずり下ろされて、欲情して力の入らぬ身体は庭園の中の四阿の卓上に押し倒された。
「馬も満足に乗れぬ淫乱には躾が必要だろう」
 そういって四肢を固定されて、体内からずるずると長い張り型を引きずりだされた。その刺激だけで絶頂を味わうラスが痙攣する。
 抜き出された張り型は地面へと放り出され、空いた空間へねじり込まれる肉杭に、ラスは歓喜の声を上げた。
 硬いだけの張り型よりも、微妙な柔らかさと硬い芯を持つ肉の塊は、何よりもラスを呆気なく昂ぶらせた。長年の調教により舅のモノに慣らされた身体は、条件反射のように絶頂を迎えるだけだ。勃起した男根は腹の上で跳ね、粘液を辺りに振りまいた。
「ひぃっ!」
 辺りに響くほどに乾いた音が鳴り、尻たぶが変形するほどに舅の腰が押しつけられる。
 奥の奥まで入り込んだ硬い肉は、みっちりとラスの中を埋め尽くし、丹念に育てられ上げられコブは激しい快感を全身へと広げていく。
「いいっ、イイ、ああっ、イクぅ、イクイクっ!!」
 一突きで絶頂を味わうラスは、甲高く叫び、蕩けた表情で目の前の舅を見つめる。
 最近のラスは、快楽の中で簡単にその理性を飛ばしてしまう、そのほうが楽なのだと、身体が覚えてしまったからだ。
 だがそれを許す舅ではなかった。
 パアーンッと乾いた音が鳴る。
 頬に走る痛みに、ラスは強制的に理性を甦らされ、冷たく見下ろす舅の視線に身震いした。
 舅ははしたなく理性を飛ばすことを許しはしない。
「あれほど気をやるなと命じているのだが、淫乱はそんな簡単なこともできぬか」
「あ、あっ……申し訳……ありませ……ん」
「言葉だけの謝罪など聞き飽きておる」
 謝罪すらさせてもらえぬほどの舅の怒りが伝わってくる。
 発しかけた言葉も出せず、ラスの肌は急速に熱を失わせた。
「儂が甘いと馬鹿にしているのだろうが、そうはいかぬ。今日はこれを使って淫乱を躾けようか」
 そう言って舅が取り出したものは革に包まれた四角い塊だった。舅の大きな手のひらからはみ出すほどの物体が何なのか、ラスにはわからなかったが。
「これはバターだ」
 革が剝がされ、出てきたのは淡黄色の塊。剥き出しの塊がラスの肌を触れてなぞり、融けたバターが跡をつくる。
「我が愛すべき番犬どもはそろそろおやつをやる時間なのでな」
 その言葉の意味を、ラスは正確に理解した。
 凶悪な番犬がこのバターを目にした途端、目の色を変えてむさぼるさまを何度見たことか。白い牙を剥き出し、かみつき、舐めすする様を。
「ゆるしっ、お許しを、お義父さま、どうか、ほかのことならしますから、それだけはっ!」
「淫乱が口答えできると思っているのか」
 動く手は満遍なくバターを肌に広げていく。
 甘く濃厚な油分の塊は肌の上でたやすく融けていった。
「いや、いやぁぁっ」
 拒絶し泣き叫ぶラスの身体に、淫紋がある場所は特に念入りに、舅はラスを犯しながら、刺激を与えながらも塗っていく。
「ひぐっ、い、あぅっ、……ああ、お許しをぉぉっ、あぁっ」
 そそり立つ陰茎にもたっぷり塗られ、自身の体温と太陽の光によって融けて伝い落ちた。
 全身からバターの芳香が立ち上り、庭園の薔薇の香りと入り交じったラスは、バター塗れのまま舅に置かされ続ける。
 いずれ来る恐怖に泣きながら、それでも身体は舅が与える快感に熱を帯び、ますますバターは融けてしたたり落ちていく。
 舅が満足すれば、ラスは後孔へと再び張り型を埋められた。白濁が泡立つ液も全て押し込められ、隙間なく埋め尽くす。外れないように腰ベルトで固定されて、ラスはそのまま放置された。
 陽光下で干されている魚や肉のように、この季節にしては強い太陽がじりじりと肌を焼く。まるでそれが罰でもあるように一瞬感じたラスだったが、すぐに耳に聞こえた音に、そうではなかったと、舅の言葉は正しかったと歯の根を震わせ、恐怖の音が奏でられる。
 それは聞き慣れた鳴き声と、四つ足が芝生を削る音だ。
 遠く聞こえたはずのそれは、瞬く間に近く、全て舅にとすり寄ったようだ。
 動物が好きな舅は彼らを可愛がり、彼らもまた舅をこの館の支配主だと理解していることは知っていた。翻ってラスはと言えば、どこか彼らに舐められ、下に見られているし、何よりラスは彼らが苦手であった。
「ワフッ」
「いい子だね。よく来てくれた」
 庭に放たれ、番犬として日々を送る大型犬は、全部で四匹。
 広大な敷地を考えると少ないようであるが、犬とは呼んでいても、彼らは犬と犬系の魔獣との交配種であり、繁殖能力はあってもその戦闘力も足の速さも段違いの代物だった。
 そのせいか階級意識も、犬以上に強い。強いものには服従するが、弱いものは自分たちの下として、決して従わないのだ。
 そしてラスはその弱い者だった。
「さあ、今日はちょっとした余興をしようと思ってね」
 舅の言葉は限りなく優しい。
 それは番犬たちが舅に認められている証拠であり、今のラスは舅から塵芥のように扱われているということにもつながった。いや、今はではなく最初からだ。
 最初から舅はラスをこの公爵家の一員として認めてはいないのだ。
 最近になってラスはそう考えるようになっていた。
 何しろ他人の舅の評判はすこぶるつきでよいのだ。慈善家でもあり、才あるものであればどんな貧しい環境にいようとも認め援助する。そうやって認められたものは確かに優れた資質を持つ者で、そんな人たちは城にも騎士団にも、また市井にもいるという。
 そんな中で舅の自分への対応を見れば、自分か認められていないのだと、そんなことは容易に想像できた。
 じりじりと照らされる中で、融けたバターがポタポタとしたたり落ちる。へそや会陰にたまった液体が、たらりと肌をたどる刺激に身震いし、味わう疼きに奥歯を噛み締める。
 こんなことにすら感じる自身が情けなく、そしてこの先の暗い未来に絶望が押し寄せる。
 結婚してからもう二年が経ち、夫婦の営みはさらに回数を減らしている。
 女は妊娠しやすい時期があるのというのは通説で、回数が少なければそれだけその時期に当たらないのは確かだろう。
 それに、王城で実は第三王子辺りと恋仲なのだといううわさも流れているのをラスは先日聞き知った。そのうわさがあり得ないと言えぬほど、妻は最近美しくなっている。そしてその視線がラスを捉えることが少なくなっていることも。
 もし三年間子供を作れなかったら、種馬としても使えぬ婿は離婚となる。
 ラスにとって公爵家の立場とはその程度のものなのだ。
 そんな情けなさにラスはまなじりから涙を流した。
 何しろそれだけではなくて、離婚後の待遇への不安も募ってくる。すでに諦めが先に来ていて、今のラスにはそれを覆す気概もなかった。
 そんな諦観の中にいても、耳に届いた舅の「いっておいで」と言う言葉に身体は跳ねた。
 視界を巡れば、こちらに勢いよく迫ってくる番犬たち。
 短い尻尾を突き上げ、尖った三角の耳を凜々しく蠢かし、鋭い牙が長く伸びる。漆黒の毛で覆われ、鋭い爪が大地を抉っていた。愛玩犬ではない。狩猟犬と魔獣を掛け合わせた番犬は、かなり魔獣寄りの体躯を持ち、そしてどう猛だ。
 わずかな距離は彼らにとって数歩でしか過ぎず、ラスが悲鳴を上げるより早く辿り着く。
 冷たい鼻先がラスに触れる。その冷たさだけでなく、身の内から涌きあがる恐怖は強く、全身の肌が総毛立った。
「うっ、あっ……」
 吐息と共に零れた声は言葉にならず、少しでも離れたいと身を縮こませるが、番犬の太い足がラスの身体にのし掛かった。
「ひ、いぃぃぃ――」
 零れる悲鳴は掠れており、彼らは意にも介さない。
 圧倒的弱者と圧倒的強者の間にあるのは、ただ原始的な本能だけだ。
 冷たさの次に訪れたのは熱く濡れた感触と肌を震わす吐息の圧。忙しないそれは興奮を現し、好物を舐めとる動きに怖気立つ。肉食の獣の舌は、ただの犬よりもざらつきが大きく、肌が削られるような痛みすら感じた。
「い、い……やっあああ」
 食べないでくれ、と願うラスに、次の番犬がのし掛かる。そしてまた別の番犬が。
 四匹は楽しげにラスの身体の至るところを舐めていく。
 乳製品の芳香は強く、顔にも塗られていた。そこに番犬の舌が触れる。ざらりと舐めとる舌が唇に触れる。
「はっぃっ……」
 それどころかおびえて歯の根も合わぬラスの口内にすらその舌は入り込んだ。獣臭い唾液が流れ込み、それと共にラスの悲鳴は胃の腑まで飲み込まれていく。
 新たに沸いた涙が、こめかみを伝う。
 がくがくと震える手が宙をかいた。
「ひぎっ」
 いきなり男根に熱いものが絡みついた。一際たっぷりと塗られた場所へと番犬が舌を伸ばしたのだ。ほとんどが垂れていたがそれでも張ったエラや皮の隙間に入り込んだバターを番犬は楽しげに舐めとっていく。敏感な鬼頭をやすりのような舌で舐められて、痛みと同時に強い快感にも襲われた。
 ラスの身体が跳ねるのが邪魔なのか、番犬がのし掛かってきた。その舌がたっぷりとたまったへそへと差し込まれ、音を立てて舐めとられる。
「や、やめっ、ああっ、やあっ」
 脇も腕も、膝も足の裏までも。
 くすぐったさと得も言われぬ疼きがラスを襲っていた。
 厭なのに、身体は敏感に快感を広い、萎えていたはずの男根が勃起を果たす。
「ひ、ぎいぃぃっ」
 いきなり鋭い痛みが男根に走り、ラスの身体が跳ねた。
 信じられない思いで痛みの場所へと視線をやれば、ラスの男根に食らいつく番犬の姿が目に入った。
「や、やぁぁっ、やめっ、やめてくれぇぇっ」
 鋭い牙が幹へと食い込み、今にも食いちぎろうとする姿に、ラスの絶叫が迸る。
 腕を捉えた縄が引っ張られ、近くの木がさわさわと揺れた。はらはらと落ちる葉は静かに芝生へと舞い落ちる。
 悲鳴はひっきりなしに漏れるが番犬はまったく無視しており、それどころかからかうように噛んでは外すを繰り返した。
 瞬く間に縮こまる男根は、今度は爪の出た足で転がされる。
 いざとなれば侵入者の首を掻ききるほどに鋭い爪が引っかき傷をつくっていく。
 番犬は遊んでいるだけだった。だがラスにしてみれば常にあるのは食われる恐怖ばかりだ。
 舅によって高められた身体は鎮まりきり、激しい恐怖に泣き喚く。
 そんな時、不意に腹へとのし掛かる別の番犬がいた。
 のし上がり、股間へと自分の雄の象徴を打ち付ける番犬。
 ガツガツと熱く濡れた肉がラスの塞がれた後孔に押しつけられていた。
 グルルルと頭上でする鳴き声と顔に落ちてくる涎からは恐怖を身体の奥から響く振動は強い疼きと快感をもたらしてくる。
 相反する感覚にラスの意識かすでに朦朧とし、抗うこともなくなってきた。
「あ、あひっぃぃ……いっ、ぎっぃぃいい!」
 入らないといら立つ番犬の動きは激しく、涎がボタボタと激しく落ちてくる。別の番犬が太腿を甘噛みしながらその身体を股間へと割り込ませた。二匹が互いに腰を押しつけてくる。
 自身の周りに獣の臭いが充満し、そこに辺りの薔薇の芳香が交じる。
 番犬たちの遊戯は、明るかった空が茜色に染まり、そして暗く闇の世界となるまで続いた。
 口笛が吹かれ、番犬たちが去っていく。
 残されたラスは全身に数多の甘噛みの跡と引っかき傷だらけではあったが生きていた。よく躾けられた番犬はそれ以上の傷をラスには負わせなかったのだ。
 だが、長時間の恐怖と快感が交じった行為に、ラスは茫然自失の身体で夜空を見上げるばかりだ。意識があるのかどうか、言葉一つ発せずにただ薄く開いた口の端から涎を垂らし、口だけでひいひいと笑っているのだ。
 腹にたまった精液は多く、だがその大半が乾いてこびりついていた。
 その塊が剝がれるような動き一つしない。
 身じろぎ一つせずにこぼす笑い声。
 ラスはそんな笑顔の道化者の仮面を被ったような表情で、勝手に意識を失うまで放置されていたのだが。
 笑い声が途絶える同時に、舅がラスを叩き起こした。頬を叩かれ、理性が戻る。
 闇夜を背後にした舅が、ラスへと命ずる。
「さあ淫乱の夜の仕事だ」
 冷たい水で洗われた身体は寝台で、その日舅が満足するまで使われた。