【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー6(完)

【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー6(完)


 僅かな逡巡の後、シュリオはおずおずと前へと身体を倒していく。そのせいで、ずるずると褐色の肌より淡い色合いの尻の狭間から、嶺炎の太い魔羅がぬらぬらとした液体にまみれた状態で現れてくる。
 限界近い太さのものに、薄い皮膚はめくれ上がり、肉色をさらしていた。だがその動きは遅い。
「あ、あっ、ぐっ……」
 ほんの一センチ進むたびに声を上げ、止まる。上半身は寝台に伏せていくが、尻を高く上げられないのだ。
「早くしろ」
「おや、もう逆らう気かな」
 嶺炎の再度の命令に被さるようにユーリアが言う。
「ひっ、す、すぐにっ!」
 慌てたシュリオが、反動のように動いた。勢いよく腰を上げたせいで、嶺炎のそれが一気に抜け落ち、抜けた勢いでぷるんと跳ねた巨大な魔羅が上下に大きく跳ねる。
「いぁぁぁっ!」
 抜けた拍子に叫び声を上げたシュリオが勢いのままにつんのめって腰だけを高く上げたままひくひくと痙攣していた。
「おい、誰が抜いていいと言った」
 その言葉にも反応できていない。その様に、カストが呆れたように呟いた。
「気をやってしまったようですね」
「気を? なぜ?」
「あまりに善すぎて女のように絶頂を迎えたのでございます」
「俺は何もしていないが」
「抜ける感触だけで絶頂に到るほどの快楽を得たのではないかと。まさに淫乱と呼んでふさわしい。その浅ましさと卑屈さはメスブタとでも呼称しましょうか」
「は?」
 またけったいなことを言い始めたとユーリアへと視線を走らせれば、意外にも彼はしごく真面目な表情だった。
「〝西の国〟では盲目的に主人に付き従い、発情期のように盛ったモノをメスイヌなどと言ったりしますが、これはそれよりももっと質が悪いモノ、メスイヌに劣るということで、メスブタとでも言えばいいかと」
「メスブタ……確かに。人をメスと呼ぶその呼び方は以前に警邏より上がってきた書類で、山賊に捕まって性処理道具として畜生のように飼われた青年がメスイヌと呼ばれていたと記載されていました。日がな一日山賊の相手をしていた彼は、精神的に壊れていたために通常の生活を送るのは難しかったそうです」
「メスイヌ、メスブタ……。そのように言われると発情して脇目も振らずに性交している獣が頭の中に浮かんできたな。しかしメスイヌのほうが呼びやすいと思うのだが……」
「メスイヌはもっといい子ですよ、これは程度の悪い、売女が落ちたものですからね」
 辛辣な物言いて言い捨てたユーリアはともかく、呼び名を変えるのはいい案だとは思う。
 皆の視線がいっせいにシュリオに集中した。
 絶頂に気をやったシュリオは余韻に浸るかのようにシーツに頬をつけ、その瞳は焦点が合っていなかった。だらしなく開いた口の端からは涎が流れ落ちてシーツに染みを作っている。尻だけを高く掲げた身体はひくひくと痙攣し、尻の狭間では開ききっていた肉の穴がゆっくりと閉じていくところだった。
 その淫靡な姿は、記憶にある神子と言われていたシュリオとは似ても似つかない。
 そうであれば、と、嶺炎は頷いた。
「〝北の国〟では人として許される行為をしたものは名前を取り上げ、呼称で呼ばれる者もいる。これも好きに呼んでいいだろうな」
 少なくともシュリオが犯した罪は、〝北の国〟ではもっとも重い罪だと言えるだろう。よりによって人の天敵である魔王を解放したのだから。
 そう決めた途端に、腹の奥がうずうずと疼き、得も言われぬ昂揚感を味わった。その時多少なりともあったシュリオに対する憐憫が奥底へと沈んでいったような感覚があった。
 媚薬に酔っているのか、それとも何か自身の中で変わったのか。
「ということで。さてこのメスブタはいつまで寝ているつもりなのか」
 ユーリオが残っていた飾りを手に取り、嶺炎の太い腕がシュリオを抱き起こした。傍らではカストが薬液につけられた針を捧げ持つ。
 ユーリアの手によって今度は左の乳首に針が貫通すれば、再び響いた絶叫は長く響いた。 強制的に引き戻された現実に、泣きじゃくっていた身体は呆気なく嶺炎の魔羅の上に落とされる。
「やだぁっ、ひゃぁ、あ、ぐぅっ、ううっ」
 大きな手によって頭が寝具の押しつけられた。貫かれたままの腰は高い位置にあって下げることもできず、鎖によって引っ張られた足は大きく割り開かれる。嶺炎も膝立ちになって、思う存分に抽挿を繰り返した。
 濡れた音と嬌声が混ざり合い、淫靡な匂いが辺りに充満していく。
 華奢な身体は筋肉が張る逞しい身体を持つ嶺炎からしてみたら子どもも同然で、片手でくるりとひっくり返すことも楽なら、対面座位で抱えた身体を揺らすこともたやすい。
 最初はひどくきつかった肉穴も、今や熱く柔軟に嶺炎の魔羅を受け入れている。
 動く度に泡立つ液体が接合部から流れ落ちた。その液からも人の欲を煽る匂いが溢れ、三人支配していく。
 三人の連携は非常にうまくいき、ユーリアが采配をし、カストが魔具を選び、嶺炎が実行する。その中心にいるのはメスブタと蔑まれることになったシュリオで、逆らうことなど何一つ許されなかった。
 しかもその身体は、確かにユーリアが淫乱だと蔑むほどに、苦しみの中でも絶頂を繰り返しているのだ。
 戒められた枷は外れないし、出せる量も少ないというのに、だが確かに誰が見てもシュリオは達していた。
「ひあっ、ひゃんっ、だめぇ、あひぃ――っ!」
 肺から空気を引き絞るように、掠れた声音が長く響く。
「まだだっ、まだっ」
 絶頂のたびに喰い締めるように締まりが強くなる身体に、嶺炎もまた熱中していた。
 最初はなるべく我慢しようとしてたが、今ではイキたいと思えば我慢などしない。それでも尽きることがないように、射精衝動は身の内から込み上げ、萎えることもない。
「すごいな、使えば使うほどに良くなる、これが名器と呼ぶものか」
 漏れ聞いたあけすけな噂話の中にあった言葉。口さがない者が言うには、相手に妙なる快感を与えるモノだいうが、シュリオのこれこそがそうだろう。
 底なしの体力を持つ嶺炎の限界は遠く、その嶺炎がいくらでも欲しいと思える身体。だが対するシュリオの体力は限界が早かった。
「メスブタはそろそろ限界でしょうか」
 首を傾げるユーリアに、「滋養強壮薬もありますが」とカストが反応したけれど。
「不要だ。俺の力でどこまでシュ――いや、このメスブタを相手にできるかやってみたい」
 薬を使うのはその限界を知ってからだ。
 その言葉に二人が頷いたのを機に、嶺炎は再び行為に没頭し出した。


「恐れ入りますが、わたくしは少々体力に限界が」
 カストがそう言ってきたのはいつのことだったか。
「すっかり快楽に溺れている様子、しばらくは嶺炎殿下にお任せします」
 ユーリアが退室を請う言葉を発したのは、まだ外は暗かったはず。
 それらに「おう」と答えたことは覚えている。
 だがそれ以外嶺炎は、何度果てても満足することはなく、抜けて温もりを失うことを恐れ、微かに聞こえる嬌声に聞き惚れた。
 それは外とが白々と開け始めるまで続き、ただひたすらシュリオの身体を貪り続けた。
 シュリオが意識を失ったとき、ふと思い当たって口移しでそれを飲ませたら効果はてきめんで、目覚めたシュリオの顔色は戻り、抗う力も強くなる。
 ならばと再び彼を押さえつけ、その妙なる肉の中を丹念に暴いていく。
「も、も……だめぇ、あぁ、だめ、ひぃぎぃぃっ」
 鼓膜を震わせる甘い声は嶺炎の尽きぬ性欲をあおり、求めてきているようで。
 二人だけの部屋で淫臭を辺りにたなびかせながらいつまでもむつみ合う。
 チャリチャリと続く音はシュリオの乳首を穿った二匹の朱雀。汗にまみれ、粘液が付着し、しっかりと塞がった穴を押し開きながら羽ばたく朱雀にかじり、嶺炎は強く引っ張った。
「ひ、ぎっ――っ!」
 悲鳴と共に締まる感覚が堪らない。
 なるほど、道具とはこう使えばいいのか、窄まりが緩めばこうすればまた締めつけてくるのか。
 まことユーリアの行為は正しいと、彼のやり方を真似ていく。
 今までなんともったないことをしていたのか、これならもっと互いに愉しめるだろう。
 またあの〝北の国〟の砦に戻ることがあれば、嶺炎の相手をする者達をもっと善くしてやれるだろう。
 そんなことを頭の片隅で思いながら、嶺炎はシュリオの身体をいつまでもむさぼり続けていた。

【第一章 〝北の国〟 完】